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107話 勝利条件

翌日はシトリーとティアナも駆けつけ、ディアラとの戦争に対策を練る事となった。


「状況は理解しまシタワ。

全くアナタ達は反省しませんワネ。

それよりもディアラはどんな条件を出しマシテ?」


ゼノンが届いたばかりの手紙を取り出す。

ディアラ国王の紋章の蝋で封がされており、まだ誰も内容を知らないのだ。

丁寧に封を開けてゼノンが読み上げる。


「日時は一週間後の昼…場所は両国の間にある大草原のようですね。

審判役としてドゥムノニア国王が来られるそうです。

そして、ルールは王の捕縛が条件です」

「王の捕縛?」

「そうです。

両国の軍勢が死力を尽くして相手の王を捕まえるのが勝利条件です。

兵士の生死は問いませんから犠牲が多く出るのが普通です。

それでも殲滅戦よりマシですけど。

ん?…これは!?」

「どうしたんですか、ゼノンさん?」

「こちらの戦力は王と…聖女様だけです。

そしてディアラの戦力は約五万だそうです…」

「雑魚などいくらいてもタルトの敵じゃねえだろ。

五万くらいハンデにしては少ねえぜ」

「確かに聖女様が本気を出されれば勝てるのでしょう…。

ですが、性格を完全に把握されており、それを計算の上でこのルールにしたのだと思われます。

良いですか、聖女様が無関係の兵士を傷付けると思われますか?

お優しい聖女様が手加減をして五万もの兵士の一人でもバーニシア王に辿り着いたら敗けなのです…」


その場にいる全員が分かっていたことである。

いくら手加減しても人間相手に魔法など使えないと簡単に想像できるのだ。


「これは今からでもルール変更を申し込みましょう。

我が国の兵士も少しは出れれば勝率も上がります。

おそらく認めないとは思いますがとにかくこのままでは…」

「いえ、大丈夫です。

私一人で相手します。

だって、参加した兵士の方が下手したら死んじゃう…」

「聖女様、バーニシアの兵は聖女様の為に命を捧げることなど躊躇う者はおりません。

むしろ戦士として名誉ある死に方でございます」

「そんなのヤダヤダァー!!

私の為に死んでも全然嬉しくないよぉ…」


こうなったらテコでも動かないのは知ってるので代案を見付けるしか無さそうな雰囲気であった。

一人、タルトだけは辛そうな表情から何か思い付いたように思案し始めた。


「良し!決めました!

やはり私、一人で行きます!」

「それではあまりに不利では…?」

「私を信じてください!

必ず勝って見せます!!」


信じてと言われて聖女を疑うわけにもいかず、困った表情をするゼノン。

シトリーは初志貫徹、優雅な振る舞いで笑みを浮かべたままである。


「ワタクシは最初からタルト様の勝利を信じておりマスワ。

いくら策を用意しようと無駄な事デスノ。

タルト様が信じろと仰るなら他に言葉はいりマセンワ」

「シトリーさん…ありがとうございます」

「分かりました、信じるしかありませんね。

他にどんな卑怯な策を用意するか出来るだけ調査させます」

「ゼノンさんもありがとうございます。

では、私は一人でちょっと魔法の練習をしてきますね。

必ず勝ってみせますから!

あっ、ちなみにティアナさん、あとで相談したいことがあります」

「むっ、ワタシで良ければ何でも相談に乗るぞ」


こうしてタルトは街から離れた場所で秘密特訓を行った。

跡地には所々、高温でガラス化した砂が残されていたという。


この一件は瞬く間に噂が広がっていった。

七国内で戦争が起こるのが数十年振りであり、しかも噂の聖女が一人で大軍を相手にするというのだ。

人々は勝敗予想を盛んに行い、賭けの対象にもなっている。

聖女様の圧勝と言う者もいれば、ルールによって負けると言う者、流石に五万もの軍団には勝てないと言う者と様々である。

賭け率は僅差であるが僅かにタルトの敗北が多かった。

まだまだタルトの事は噂程度で大袈裟に伝わっていると思う者も多いのだ。


「この愚かなモノ達には教育が必要みたいデスワネ」


賭け率を聞いたシトリーがタルトの敗北予想をした人々に激昂して飛び出そうとするのを必死に止めた一幕もあった。


国境付近までの移動もあり、一週間という日はあっという間に過ぎていく。

戦闘エリアは決まっており、世紀の対決を見ようと野次馬も沢山集まって来ている。


「何かお祭りみたいですね…」


現地入りしたタルトの第一声であった。

ルールに則った限定された戦争は兵士には生死を賭けたものだが、民への被害は無いことから人々は娯楽のように思っているのだ。


開戦前夜のバーニシア側の夜営地。

ゼノンが必死にかき集めた情報を確認していた。

時間がないが精査した情報を伝えようと自分の天幕を出て、軍議を行う一際大きい天幕へ向かった。

タルト達も集まっており、明日の最終確認をしている。


「すいません、遅くなりました。

これまでに集まった情報を報告致します」

「ゼノンさん、お疲れ様です!

今、地形や位置関係を確認してたんです」

「ここはほぼ平地で隠れるようなものは何もありませんからね。

相手の進行速度もとても速いことでしょう。

それよりも重要なお知らせが!

五万の軍勢のうち、約一万ほど奴隷だった獣人が含まれております」

「獣人ですか?

どうしてディアラに協力するんでしょう?」

「それが協力しているのではなく、家族を人質にとられているようなのです。

しかも、この情報をわざと流して聖女様が攻撃しずらくする策かと…」

「そんな…ひどい…」

「今から家族を救い出せば良いのではないか?」

「ノルン様の言う通り、救い出せれば獣人達は従うことはないでしょう。

ですが、戦争前に相手の陣地に攻撃を仕掛けるのはルール違反です…」

「人質をとって無理矢理戦わせるのは卑怯ではないのか?

それはルールの範疇なのか?」

「古来より奴隷を戦場に出すのは良くある事です。

特にルール違反にはなりません」


天幕には重苦しい空気が流れていた。


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