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104話 ポーロック

各村の代表も決まり議会はゆっくりと進み始める。

まだ、学者やオスワルドらに教わりながらではあるが、着実に前進している実感はあった。

基本的には議会での多数決で決まるが、決定に問題があったり揉める場合は、オスワルドが報告し最終決定をタルトが行っていた。

こうして日々の雑務から解放されたタルトはシトリー、ノルンと共にエグバートの店に立ち寄る。

店内に入ると手伝いをしているリーシャが困った顔をしていた。


「どうしたの、リーシャちゃん?」

「へんなおきゃくさんがいて、みんなこわがってるのです…」


リーシャが指差す方向を見ると色黒のちょいワルオヤジ風の男が、店の女の子をなめ回すようにジロジロ見ている。

この世界では違和感がある現代のような服装をしており、腰には剣がぶら下がっていた。


「よぉーし、私がガツンと言ってくるよ。

すいませーん、ちょっと良いですかー?」


タルトは腰に手を当てて少し怒ったような顔で声をかけた。


「あまり女の子をジロジロ見ないでください。

恐がってるじゃないですか!」

「いやあぁー、噂通り可愛い娘がいっぱいいるねえ。

あと少し成長したら綺麗になるはずの原石だねえ。

おや、お嬢さんはもしかして噂の聖女様かい?」

「そうですけど、何か用ですか?」


一瞬だった。

いつの間にか男は席におらず、タルトの背後に立っていた。

その右手で思い切りタルトのお尻を揉んでいる。


「聖女様も可愛いんだけど、もうちょっと成長が必要だねえ…。

あと2、3年てところかな?」

「きゃああああぁぁぁ!!」


次の瞬間、ステッキを振り下ろしていた。

手加減を忘れ、しまったと思ったが既に手遅れである。

当たる瞬間、目をつぶってしまったが不思議な衝撃に恐る恐る目を開けた。

なんと思い切り振り下ろしたステッキは、箸で止められていたのだ。


「そんなに怒るなよぉ。

ケツを触っても何も減らねえだろ?」


ただならぬ事態にシトリーとノルンが間に入った。


「貴様、何者だ?

タルト殿の一撃をあっさりと受け止めるとは?」

「タルト様の可愛いお尻を触って只で済むと思いマシテ?

覚悟される事デスワネ」

「こりゃあ、美人さんが二人もいるねえ。

ちょっとこっち来てお酌してくれねえか?」

「何処までもふざけた男デスワネ」


二人同時に仕掛ける。

ノルンは右手から目に見えぬ速さで抜刀し男の左腕を狙う。

シトリーは左手から変幻自在の炎の鞭にて男の右腕を狙う。

タルトが止める間もなく攻撃が始まったが、男は焦る素振りも見せず全て軽くいなしていった。


「おいおい、こっちは戦う気なんか更々ねえよー。

ちょっと一緒に飲もうと思っただけだぜ」

「貴様っ!まだ言うか!」

「その口、永遠に黙らせてあげマスワ!」

「二人ともストーーーーーップ!!」


呆気に取られていたタルトが二人を制止する。


「そんなに暴れたら店が壊れちゃうよーー!」

「ですが、タルト様!

奴は…ナッ!消えてマスワ!」


気付くと男の姿は既になかった。


「何者なのだ…?

我らの攻撃をこうも易々と防ぐとは…」

「終わった…?タルトちゃん?」


恐る恐るモニカが顔を出す。


「ごめんなさい、モニカさん…」

「まあ、壊れたのは机ひとつみたいだし。

それにいつの間にか勘定も置かれてるのよね」

「いつの間に!?

本当に何だったんでしょう…」


スッキリしないまま店の復旧と食事を終えて、神殿に戻る。

書斎には琉が待っており、一通の手紙を持っていた。

有名になってからタルト宛の手紙は多く、いつもはシトリーや琉が目を通してから渡す習慣となっている。


「私宛に手紙?

内容は何ですか?」

「それが…意味不明な文章で僕には理解出来ず…」

「どれどれ…何これ?

意味不明な数字が沢山…あと、ディアラとアルワルっていうのは読める。

誰がこんなのを送って来たんですか。

…ポーロックって誰ですか?」

『マスター、ポーロックはこの前出版した本に出てくる人物です』


学校で使う教科書のため、製紙と活版印刷の技術を提供したのだ。

その勢いで子供向けの童話と大人向けの小説を執筆したのである。

もちろん、ウルが元ネタの提供と異世界アレンジを加えたものだが。


「そんな人物いたっけ?」


言われた通り文字におこしただけなので記憶にあまり残っていなかった。


『全くマスターは…。

ポーロックは敵の仲間でありながら、情報提供をしてくれる人物です』

「ああー、ホームズだね!

確か…手紙の数字は本の単語を指してたんだよね。

でも、どの本か分からないね…」

『原作ではもう一通で来るのが届かず、推理で当てたのです。

我々も推理してみましょう。

この世界には印刷技術がなかったので、本の種類は少ないです。

そして、マスターも持ってることが条件になってきます』

「まあ、そうだよね。

持ってない本言われてもねー」

『そして、ヒントはポーロックという名前かもしれません』

「と、いうと?」

『これはマスターの著書でありポーロックが登場する本は一冊しかありません』

「なるほど!!

では、早速調べてみよう!

どれどれ…これと…これ…これも…出来た!」


タルトは出来た文章をシトリーとノルン、琉にも見せる。


ディアラ の アルワル の 依頼 罠 注意


「アルワルって何処でしょう?

ディアラにそんな地名があるんですかね?」


ギクッ


「それに依頼とは何だ?

タルト殿のところに来る各国からの依頼か?」


ギクッ


「その依頼に罠を仕掛けたって事デスワネ。

あの国は消されたいノネ」


ギクッ


「さっきからギクギクと琉さんから聞こえるんですけど…」

「サア、素直に話せば怪我しまセンワ」

「あのっ、シトリー様っ!

もう爪が少し刺さっていますってっ!

話します!話しますから落ち着いてくださいよっ!!」


琉を取り囲む三人。

逃げ場もなく諦めた様子で話し始めた。


「その…数日前、手紙を処理していた中にディアラから魔物の討伐依頼が来ていました。

確か、その村の名前がアルワルだったと思うんです…」

「その手紙は何処にあるんですか?」

「それが…その…姉上達が…持っていってしまいまして…」

「達、と言いましたワネ?

他に誰がいまシタノ?」

「えっと…リリス様と…カルン様です…」


三人の脳裏に嫌な予感しかしなかった。

よりにもよって問題児の三人が、敵対心剥き出しのディアラに赴き、罠と言われている依頼を受けたのだから当然だろう。


「琉さん、どうして止めなかったんですか?」

「無理ですよぉ…僕に姉上を止めるなんて…。

それに依頼を受けたことは誰にも言うなと…」


丁度、その時、緊急の伝令が届いた。


ディアラ国にて桜華様ら三名が兵士に暴行を加えた容疑で王都に連行された。

急ぎ応援願い度。


伝令の紙がヒラヒラと地面に落ちた。

そこには真っ白に燃え尽きたタルトがいたのだった。

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