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100話 森の民

翌朝からも順調に進むタルト一行。

もう一泊した次の日、森の民が住むと言われる大森林に辿り着く。


「聖女様、この先は森の民の自治区に入りますので、いつ出会ってもおかしくありません。

また、魔物も棲んでいると聞きますのでご注意ください」

「最近、魔物の出現が多いですよねー」

「そうですね…、アルマールでの大決戦以降は増えておりますね。

おそらく、あの時のはぐれモノや戦争による生態系の変化があったのかもしれません」

「激しい戦いでしたもんねー。

あんな騒ぎがあったら逃げたくなりますよ。

…おや、木の陰に誰かいます」


タルトが言うのと同時に数人の人影が現れた。

弓を構え狙いを定めており、歓迎ムードとは程遠く感じた。

先頭にいる若い青年が声高く問い掛ける。


「お前らは何者だ?

この先は我らの土地ぞ、無用の者は立ち去るがいい!」

「ここは私にお任せを…。

私はオスワルド子爵である!

新たにこの土地を治めることとなったので挨拶に来た。

ここの長へ繋いでもらおうか!」

「ほう…統治者が代わったのは連絡が来た。

良かろう、付いてくるがいい!」


森の民は弓を収め、道を通してくれた。

完全には警戒は解かれていないようであったが、こちらが女、子供が多いこともあり緩い感じがする。

青年に付いていくと木々の高い位置に沢山の家があり、梯子が地面まで伸びているのが見えてきた。


「わあああー、秘密基地みたいで格好良い!」

「聖女様、おそらく魔物から避難するために高い位置に作ったのでしょう。

いざとなれば梯子を外し登れなくするのだと思います」

「さすが領主になるだけはあるな。

一目でその意味を理解するとは。

ところで、その聖女様とは何だ?」

「いやあー、大した意味じゃないですよー。

あだ名みたいなものです」


今回は聖女ということは女神信仰している森の民に、警戒されかねないので言わない事にしたのだった。

やがて一際大きい家の下に辿り着いた。

青年が先に入り、暫くしてから中に入るように促された。

中は外から見るより広くなっており、壁とドアもついていることから部屋が複数分かれているようである。

玄関を入った場所は一番大きく客間に当たるのだろう。

客を迎える為の椅子と机が準備されている。

入って右側の椅子には既に一人の老人が座っており、タルト達を左側の椅子に座るように手招きしていた。


「これはよくぞお越しくださいました、領主殿。

ワシはこの村の長であるヨストと申します」

「私が領主となったオスワルドだ。

この度は就任の挨拶とここの生活の様子を見に来た。

ここは特別自治区と聞いたので相互理解は良き未来に役立つだろう」

「それは良きお考えかと。

いくらでも滞在して見ていってください。

ワシらの生活など面白いか分かりかねるが、理解頂くのは善きことです」

「予備知識が少ないので無礼があれば許して貰いたい。

また、見れば分かるが獣人もいるが恐れる必要はない」

「実はここにも獣人がおります。

古の女神様は全ての生物を平等に愛しておられた。

ワシらはその教えに従っておりますので、獣人でも気にするものはおりません」

「それはかたじけない。

我が領地も最近は多様な人種が住むようになったのだ。

獣人に鬼、悪魔も平和に暮らしている」

「それは面白いですな。

遂に女神様の教えが広まる日がくるとは。

まあ、その話は後程詳しく教えてくだされ。

まず、お部屋にご案内します」


また青年の後について木々の間に掛けられた通路を渡る。

木で出来た吊り橋のように歩くと少し揺れる。

中々の高さであるので高所が苦手なものはこの村に住めないだろう。

いくつかの木を渡った所にあるドアが二つある家に案内された。


「ここを使ってくれ。

男女で一つずつで足りないものがあれば言ってくれ。

夜は長の家で歓迎するから夕暮れに来てくれれば良い。

村の中はどこを見ても構わないが、この村より先の森林には踏み入れないでくれ。

神域であり、神獣が棲んでいる」

「神獣?」

「かつての女神様が可愛がっていた獣だという。

俺も見たことはないが、襲われたら命はないぞ」

「承知した、奥には行かないようにしよう」


そうして青年は去っていったので、部屋に荷物を置いて村の様子を見に行くことにした。


「女神様って優しい人だったんだろうなー。

昔は差別なく仲良く暮らせてたんなら、今でもそうなれるはずなんだけどなー」

「はははっ、聖女様は本当に女神様の生まれ変わりのようですね。

いつの日か叶う日が来ますよ」

「オスワルド殿の言う通りです。

俺とミミも受け入れてもらい、こんな充実した日々を過ごせるのはタルト様のお陰です」

「ミミもこんなにたのしいのは、はじめてなのです」

「私も実際に身近に獣人やハーフの方と接してみて、過去の考えがとても恥ずかしいです。

こんなに可愛いミミちゃんを忌み嫌っていたなんて…」

「アリスさん、きにしないでほしいのです。

これからはもっとなかよくなりたいのです」

「うん…そうだね、これからも宜しくね!」


歩きながら話していると、さっきまでと異なり村人が多く見える。

見知らぬ一行が来たために警戒していたのだろう。

それが解除され日常の生活が戻ったようだ。

獣人の姿もちらほら見えて誰もティートやミミの事を気にしてる様子はなかった。

すると村の子供達が興味津々で近づいて来た。

人間、獣人、ハーフと勢揃いだ。


「おねえちゃんたち、そとからきたの?」

「こいつ、しっぽがでかいぞ。

なんのじゅうじんだ?」

「おねえさん、かみがきれい!」


質問が矢継ぎ早に飛んでくる。

子供たちの質問に答えたり、一緒に遊ぶ。

タルトが膝をついて小さい子と話していると、後ろから飛び蹴りする男の子。


「ふべっ!?」

「こいつ、よわそうだぞ!」


地面に顔から突っ込むタルト。

ゆっくりと起き上がり、蹴りを入れた男の子を追いかけ始める。


「待てぇーー、こらぁーーーー!!」

「へへーんだ、ここまでおいでー!」


思わず笑みが溢れるアリス。


「タルト様は素敵な方ですね。

あんなに子供と同じ目線で接する事ができるなんて」

「あれはほんとにおこっておいかけてるだけなのです…」


普段を知ってる呆れ顔のミミ。

タルトの追いかけっこが続く中、突然、口笛が村中に響き渡る。


「魔物が接近中だ!直ぐに避難を!」


一斉に避難し始める村人。

子供達を誘導しようとした時、タルト達の近くの木々より無数のゴブリンが現れた。


「オスワルドさん、ティート君、子供達を!

アリスさん、ミミちゃんも後ろに下がって!」


子供を守るように陣形を作る。

それを狙うようにゴブリンが取り囲んだ。


風を纏う弓矢(ウィンド・アロー)


どこからともなく弓の雨が降り注ぎ、ゴブリンを貫いていく。

木上より村人が弓を放っているようだ。

だが、普通の矢ではなく風魔法で威力を強化している。


『マスター、ここの村人に宿る精霊の力がは普通の人より強いように感じます。

その為、魔力の制御に長けていて弓の威力が高いようです』

(生まれつき持ってる属性だよね?)

『そうです、全ての人から何れかの精霊を感じていました。

天使や悪魔も同じなのですが、人間はその力が微弱でした。

宿す精霊の力が強いと魔法に長けているのかもしれません』


あっという間に数を減らしていくゴブリンであったが、奥にいるゴブリンロードが配下に何かを指示する。

ゴブリンにつれられて大きな牛鬼が現れた。

牛鬼に対して一斉射撃を試みるが、その硬い筋肉を貫く事が出来ない。

そうして子供達、向けて突進の構えを取る。


「不味いぞ、子供達が狙われてる!

おい、そこの者達、何とか逃げてくれ!」


村人がタルト達に叫ぶ。

牛鬼の突進はその強靭な肉体から繰り出される突進力と鋭い角の一撃で、通常回避する以外に逃れる術はない。

だが、その速度に子供が逃げ切れるわけはない。

遂に牛鬼がその恐ろしい角を子供達向けて突進を始める。


「ヌオオオオオオオオオォォォ!!!」

「駄目だ間に合わない!

とにかく射って足止めをするんだ!」


村人は無駄だと分かっていても、少しでも突進を弱めようと弓を放ち続ける。

迫る牛鬼と子供達の間にタルトが立ちふさがる。


「そりゃあああ!」


その細腕で何倍もある牛鬼の突進を軽々と受け止めた。

そのまま角を掴んだままグルグルとぶんまわし上空へと投げる。


「シューーーーーーット!!」


ステッキを出現させ一瞬で魔力を集束し、上空に解き放つ。

薄暗い森林を照らす一筋の光が牛鬼に直撃し空の彼方へ消えていく。


「続いてぇーーー、魔力連弾(マジックショット)!!」


無数の魔力弾が残されたゴブリンを一掃する。


「ふぅ、ミッション完了。

大丈夫?怪我してない?」


タルトが子供達の方へ振り返る。

ポカンとした表情で眺めていた子供達。


「お、おねえちゃん…けって…ごめんなさい…」

「おお!素直に謝るのは良いことだよ。

それなら許してあげよう。

ほら、みんなでお菓子でも食べよう」


タルトに群がる子供達。

牛鬼を突進を素手で止めて倒した噂は村中に一気に広まっていった。


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