【 久しぶりの夏休み 】
真昼の炎天下、周りの木から雑音ともとれる蝉の声が五月蠅い。 そんな中、今日から夏休みとなった。
午前中の終業式の学校では多くの宿題渡され、来年の今頃には自分の進路をしっかりと決めておかないといけないと担任の先生に何度も耳にタコができる程言われた。
おかげで折角の夏休みだというのに初日から考えたくない事が沢山出てきた。
そういう時、俺はいつも本を読む。
ジャンルは様々だ。 ラノベ・漫画・推理・ホラー・恋愛、目に入って何となく気に入った本を購入して一日本を読み続ける。 それが俺のストレス解消の一つだ。
「・・・そういえば今日は漫画の新刊がでるんだっけ。」
家に帰ってからの予定を決めた俺はすぐさま頭の中で自分の興味を持ったタイトルの発売日が今日の物を思い出す。
俺の一日の楽しみはネットでいつ新刊の発売日かを確認する事だ。 前日の夜には次の日の本の新刊を確認して眠りにつくのが習慣となってしまっているので道端でスマホを触ることなく頭の中で思い出す事が出来る。
自分の特技と誰かに言えるとしたらこれぐらいのものだろう。
いつも学校から行きつけの本屋に行く道を歩いているとピロンッとスマホにメッセージが入った。 今気が付いたがスマホがマナーモードになっていなかった。 終業式の時ではなくて本当に良かったと安堵した。
「それにしても一体だれだ?」
自慢ではないが俺の連絡帳の中に登録されている人数はたったの6人だ。 家族3人。 そしてあの喧しいクラスメイトが1人。 そしてその他2人だ。
自分の事とは言え連絡帳に二桁もいないのは少し寂しい感じもする。
そんな事を考えながらメッセージを広げると送り主は家族三人のうちの1人、妹からだった。
『お兄学校終わった? 終わったよね? 悪いんだけど帰りに【タカシン】で売ってる限定アイス買ってきて!』
「・・・ハァ?!」
人が通る道の真ん中でつい大声を出してしまい視線を集めてしまった。 俺はとりあえず小さく頭を下げながらその場から離れすぐ近くにあった公園の木影に陽ざしから避難した。
「ふざけるなよあいつ! ここからタカシンまで結構距離あるぞ?!」
タカシンとは俺が通う高校から歩いて三十分ほどかかる場所にある大型ショッピングモールだ。 俺が生まれた頃に創立され、それからずっと人気のデパートらしい。
建物は外から見るとまるで大きなビルのようではあるが、中に入ると映画館・その他飲食店、服屋に雑貨店など色々なお店が並んでいる。
そんな中、最近人気が出て来たアイス専門店がタカシンでオープンしたらしい。 そういえば昨日の夜に母と妹がそんな話をしていたのを思い出した。
「どうすんだよ~。 一旦家に帰るにしてもちょっと距離あるし、かと言って電車で行こうにもそこも若干距離がるし・・・ん?」
無視して帰ってやろうかと考えていると次は母からメッセージが届いた。
『早く行け。』
「あっ・・・はい。」
メッセージだというのに何処か力強い言葉が俺の脳裏に届いた。
ここからタカシンまで歩いて30分。 しかも学校から途中まで帰路についていた為、その分を考えると約45分程だ。 そう考えるとこの炎天下の中徒歩で買い物を頼んできたあの母娘は鬼ではないかと思ってしまう。
渋々と蒸し暑い炎天下の暑さの中、いつもタカシンに向かう時に通る道から俺は偶々見つけた細い路地に視線が映った。
その細い路地は真っ直ぐと木影で覆われてまるで木影の洞窟のように続いていた。 そこに一歩近づくと気持ちの良い風が流れてくる。 暑さで流れ出た汗が丁度いい具合に冷たくなり気持ちがよかった。
「いつもと違う道を通るのもいいな。 うん。 今日はこっちから行ってみよう。」
高校生になっても夏休みにはいってテンションが上がっていたのか俺はまるで小学生の頃を感覚を思い出していた。
その頃の俺は結構わんぱくな子供だったと思う。 友達二人と言ったことのない道を通り、それを冒険だと言って様々な道を通った。 ただ知らない道を通るだけなのにそれが何処か楽しくて友達と胸を高鳴らせて夏休みを過ごしていた。
その道を通っていると不思議とさっきまで五月蠅くてしょうがなかった蝉の声が段々と心地がよく聞こえて来た。 息を吸うと夏の涼しい匂いを感じる。 何となく道中に立ち止まり上を見ると木影の間から漏れる太陽の光が輝き何だかとても懐かしい感覚を思い出しながた空に手を伸ばす。
(そういえば・・昔にも同じような事があったような・・)
頭の中で昔の映像がなんとなく思い浮かぶ。 2人の子供が楽しそうに前を歩いている。 俺はその二人の後ろについていき、木影の洞窟を出るとそこには―――
「・・・あっ。」
考えながら歩いていたせいか気が付けば俺は木影の洞窟のゴール地点に出ていた。
そしてその目の間にはつい先ほど思い出していたある建物が建ってある。
その建物の名前は【古本屋】。 その名前の通り古い本を扱っている古い木造建築の建物が昔の記憶のままで残っていた。
チリーンッ―――と古本屋から風鈴の音がする。 その音を聞くとただなんとなく、俺の中でものすごく久しぶりにちゃんと夏休みだと感じ取れた気がした。