クリスマスプレゼント
クリスマスっぽい話にはなれませんでした
宜しくお願いします。
海斗先輩と悲鳴の聞こえた部屋へ飛び込んだ。
その部屋は部屋全体に沢山の花嫁衣裳が飾っている。その丁度真ん中辺りの試着室の扉の周りにスタッフと花音ちゃんが立っているのが見えた。
私達もそこへ近づいた。女性スタッフが扉の外から中に向かって声かけをしている。
「お客様っ?!どうされましたか?」
「いやああああっ!」
「!」
試着室の中からまた女性の絶叫が聞こえる。海斗先輩は女性スタッフを掻き分けて扉の前に立つと、重力魔法を使って手で扉を破壊した。
海斗先輩は扉の破裂音と共に中に入った…が海斗先輩に続けて入った私も…そして後ろから見ていた女性スタッフも皆、固まってしまった。試着室の床には花嫁衣裳が落ちている。だが中身、その衣装を着ていたはずの女性の姿が試着室になかったのだ。
「きゃああああ!」
「ぎぇえええっ!」
生憎と私は可愛い悲鳴は上げれなかった。ここにいるスタッフは全員先ほどの女性の悲鳴はしっかり聞いている。海斗先輩は花嫁衣裳を手に取って見ている。
「今、この試着室をどの方が使っていたのかは分かりますか?」
「っ…はい!調べます」
海斗先輩の問いかけに、スタッフのお姉さんは急いで部屋の隅にある事務机に向かった。花音ちゃんも一緒に行った。
私は海斗先輩に近づいた。一緒に花嫁衣裳を覗き込む。
「ドレスから魔力を感じる。分かるか?」
「はい…これ先ほどの傀儡魔法と同じですね」
「ああ…スタッフの方には悪いが消えたのは人形だ…悲鳴も持田 瑞希の傀儡があげたようだな。しかし何故花嫁衣裳を着ていたんだ?」
「それは…」
何となくだが理由は分かる。ここには幸せいっぱいのカップルばかりがいる。持田 瑞希は言い方は悪いが『生霊』のような執着心で下島さんと名取さんを追いかけているのだろう…魔力を使って。
そしてこの結婚式場まで付いて来た。女子ならば花嫁衣裳を一度は着てみたい。傀儡を操りながら持田 瑞希は花嫁衣裳を着てみたのではないか?
そして…鏡を見て現実を知った。自分はそこには居ない。幸せな花嫁はいない…。
「女性ならば一度は花嫁衣裳を着てみたいと思います。持田 瑞希の傀儡もその誘惑にかられたのだと思います」
私がそう説明すると海斗先輩は不思議そうにしながらも頷いてくれた。
「おかしいですね、本日はこのお部屋の予約は17時のお客様が最終になっています」
「じゃあ…不審者だな」
と、海斗先輩がバッサリと言い切った。
「不審者…」
花音ちゃんが繰り返した。海斗先輩は大きく頷いた。
「確かに悲鳴は聞こえたが状況的に逃げた…と見たほうがいいだろう。勝手に侵入して来て試着していた者がいたのだろう。気持ちが悪いのであればこの試着室を暫く閉鎖すればいい」
と海斗先輩があくまで不審者だと押し切ると、スタッフの皆さんも「そうよね…」「消えるなんてありえないもの…」と不審者説に賛同し始めた。
人間って無意識に目で見ていても認めたくないものを見ないように、見ないように信じ込もうとするものらしい。
私達はクリスマスパーティーの後片付けを終えて帰路に着いた。因みに海斗先輩は試着室の扉を壊したので弁償するつもりのようだ。花音ちゃんに修理代の請求書をくれよ~と念押ししていた。花音ちゃんは恐縮して困っていた。
「麻里香…」
「はい」
移動中のおべんつさぁんの車中で海斗先輩は静かに話しかけてきた。
「このまま放置しておくのはマズイよな」
「はい…」
「よくない手段ではあるが、持田 瑞希の家の彼女の部屋に直接忍び込むのはどうだろうか?俺は…持田 瑞希は魔力を使い過ぎて体力も気力も消耗しているのではないかと思うんだ」
私も海斗先輩の意見に賛成だ。
「はい、私もそうだと思います」
取り敢えず明日の23日と24日は調査を一時お休みにすることにした。心配は心配ではあるがこちらだってクリスマスを楽しみたい。
23日の夜、今日は平日なので、昼から夕食に向けてパーティーの仕込みに取り掛かる。
ローストビーフの下ごしらえをして、オーブンレンジに入れていると携帯電話がメッセージを知らせた。
真史お父さんだ、何だろう?
『持田 瑞希さん入院しているそうだよ。一昨日急に倒れてしまったらしい』
何だって?!慌てて返信をする。
『倒れた?』
『救急で運ばれた…と専務が言っていた。暫くは仕事復帰は出来ないようだよ』
真史お父さんの返信を受けて私は海斗先輩にも連絡した。
直接電話が鳴る。どうしたんだろう?
『実はな、持田瑞希の追跡をしていたんだ。その搬送された病院に忍び込んでいる。どうやら腹部の開腹手術をしたようだな。婦人科系の病のようだ。取り敢えず命に別状はなさそうだ』
「手術…そうですか。あ、魔力のほうはどうですか?」
『俺が見た限りは魔力切れ寸前といった感じだった。入院中は持田 瑞希は魔術を発動するのは難しいだろう』
魔力切れ…。じゃあ暫くは傀儡魔法も使えないということだろうか…。
海斗先輩との通話を切って思案していると玄関からインターホンのチャイムが聞こえた。
あ、ばあちゃま達だ。
「ばあちゃま、じいちゃま、いらっしゃい!」
私より先に彩香と夏鈴が玄関に出てしまい、鍵を開けて祖父母を招き入れている。
「皆~元気?メリクリィ!」
ばあちゃま元気だね。よっ!とじいちゃまに手を挙げて挨拶すると、じいちゃまは少し微笑んで手を挙げてくれた。
「あれ、由佳さんは?」
「今日はパートに出てる。昼過ぎには帰って来るよ」
ばあちゃまはコートを脱いでじいちゃまの分のコートと一緒にハンガーにかけてクローゼットの中に仕舞った。私は熱い日本茶をばあちゃま達、2人分を入れてテーブルの上に置いた。じいちゃまはすぐに飲んでいる。
「麻里ちゃん今日のパーティーはお料理どうするの?」
ばあちゃまはそう言いながらリビングに来ると、あ~さむさむぅ~と言いつつ椅子に腰かけてズズッ…とお茶を一口飲んだ。
「今、ローストビーフを焼いてる。チキンは駅前の某チキン専門店の骨付きチキンを予約しているから夕方取りに行くよ。ケーキは少し遠方だから今から行ってくるよ」
「わし…寿司が食べたいんだけど…」
と、じいちゃまが突然、クリスマスガン無視発言をするとばあちゃまが
「あらやだ!私もお寿司がいいわ〜。特上握り頼もうか?」
と、じいちゃまの意見に賛同した。そして早速、出前を注文している。気が早い…。
クリスマスに寿司ぃ?…でもまあいいか。元々我が家はクリスチャンでもないし…私も元を質せば異宗教?の異世界人だし…和洋折衷、何でも来いっだ。
「はい、はい~宜しくお願いします。あ、そうだ麻里ちゃん~ここのお隣の楠さん家、年末なのに改装工事でもするのかな?」
「え、何で?」
「さっき通りに大きなトラックが停まってて、工事の人がいたのよ。知ってる?」
確かお隣の楠さんはご高齢のおばあちゃんが1人暮らしをしているはずだ。大きな庭の大きな平屋建ての古いお家だったな~。
「後でママに聞いてみようかな?」
「そうだね!さあ夏鈴ちゃんも彩ちゃんもバアバと遊ぶかい?」
「いえーい!」
オババも女子のチビ達も元気だな~。私は留守を祖父母に任せて、駅前まで自転車を走らせた。本当に魔法は便利だよ。北風に晒されることなく快適に風を切って駅前に辿り着いた。
すると携帯電話がメッセージを受け取る。海斗先輩だ。何々?
『麻里香25日の…例の手筈、問題ないだろうな?』
「はいはいっと」
『はい、両親にも伝えていますし大丈夫です』
『了解』
まあ、何か含みのある連絡のように見えるが…実は24日の深夜から25日のクリスマス当日、海斗先輩は子供達にサプライズを用意しているそうだ。はっきり言っちゃうとサンタコスをして枕元にプレゼントを置きたい!…らしい。
元旦那は可愛いね。これも、死ぬまでにやりたいことの一つだろうか?
しかしそれを聞いた真史お父さんが自分も混ぜろ!と言い出して急遽、おっさんサンタと高校生サンタが夜中に篠崎家の家内でゴソゴソすることになった。
さて、
駅前の駐輪場に自転車を停めてから、人気の無いゴミ置き場の裏側に隠れるとそこで転移魔法を発動した。
まずはクリスマスケーキの確保だ。
癒しの魔術師の洋菓子店で予約していたクリスマスケーキを受け取り…また転移して、駅前の某チキン専門店でこれまた予約のチキンを購入して、帰路につく。軽快に自転車を走らせて、家に辿り着く一歩手前で自転車を停めた。
お隣の楠さんのお家。本当だ…工務店の人?みたいなおじさん達が何かを測ったり、庭先で打ち合わせしているみたい。
私は自転車を降りて車庫に入った。自転車を車庫に置いて玄関先に向かうと、隣に来ていた工務店のおじさんと若いお兄さんが「あの…」と声をかけてきた。
「こちらのお宅の方ですか?」
「はい、そうです」
すると若いお兄さんが手に持っていた紙袋から、某有名洋菓子店の包み紙の菓子折りを取り出した。
「隣の楠さんの解体工事と新築工事の施工業者の…こういうものです」
と今度はおじさんが名刺を差し出した。名刺を見る。おや、某有名工務店ではないか。新築工事とな?
「楠さんのおばあちゃんの家、解体するんですか?」
すると菓子折りを差し出していたお兄さんが笑顔になった。
「あ、祖母をご存じですか?僕、孫の疋田と申します。祖母なんですが半年前から施設に入ってるんです」
「え?知らなかった」
どうりで最近お見掛けしないと思ってた…。そうか結構なお年だったもんね。孫の疋田さんのお兄さんはニッコリ微笑みながら
「今入っている施設を祖母の終の棲家にすることにしたのでこの土地を売りに出したんだけど、すぐに買い手がついてね。新しく新築のお家を建てることになったんです」
と、言って頭を下げながら菓子折りを差し出した。もちろん遠慮なく頂く。
「暫く工事で煩くなるかと思いますがご了承下さい。何かありましたこちらの連絡先までお願い致します。また後程新築にお住まいの方もご挨拶にお伺いすると思いますので」
と、工務店のおじさんも某有名和菓子店の菓子折りを差し出した。オホホ…頂きましょう頂きましょう~。
私は疋田のお兄さんと少し世間話をしてから家の中に入った。そして玄関先から悠真を呼んだ。
「ゆーま、ちょっと取りに来て~」
と声をかけるとムスッとした顔でクールボーイ悠真が口を尖らせながらやって来た。
「今いいとこだった!マリカが声かけるからコースアウトしちゃった!」
おやおや、翔真と〇〇オカート…略してマリカで遊んでいたのかな?
「おおっそれはすまんね~。はい、これバアバのとこに持って行って」
と菓子折りを二段重ねにして渡した。
「これお菓子?」
「そうだよ~」
靴を脱いでキッチンに向かう。ケーキの箱を冷蔵庫に詰めているとばあちゃまがキッチンを覗き込んできた。
「あの菓子折り何だい?熨斗紙に〇〇工務店と疋田とか書いているけど?」
「あ、隣のね~楠さん家を解体して新築のお家建てるんだって…まずは解体するからご挨拶に来たみたいだよ」
ばあちゃまは目を丸くした。
「あら~こんな年の瀬に解体工事するの?何だか急いでるのかな?」
「ん~?売りに出したらすぐ売れたってお孫さんは言ってたけど?」
「へぇ~あそこ大きいお家だったよね?新築だと三軒分ぐらいありそうじゃない?」
とか、ばあちゃまと話しながらコールスローサラダを作る準備をする。
そうこうしている間に由佳ママが帰って来て、お隣の楠さんの解体工事の事を伝えた。
「へぇ~新築のお家ね。どんな方が越してくるのかしら~」
由佳ママは嬉しそうだけど、私はちょっぴり心配だよ。よくテレビでも話題になっているご近所トラブルとかの危険性はないかな…。まあ万が一騒音おばさんとが越してきたって怖くはないけどね!騒音対策はこっちで勝手に出来るし、どんな爆音でもどんとこい!華麗に消して差し上げるわ!オホホ
さて特上握り寿司の出前も届き、真史お父さんもご帰宅したので篠崎家のクリスマスパーティーが開催された。皆でチキンを食べてお寿司を食べてお肉を頂き盛り上がった。
ふと
亮暢はどうしているんだろう…と考えた。新しい彼女と2人で楽しくイブイブの日を過ごしているだろうか。ただ…少し、ほんの少しだけでもいいから、夏鈴や翔真や悠真のことを思い出してあげて欲しい。
子供達は元気に過ごしているかな?…と幸せを祈り…捧げて欲しい。
あいつに求めるのには贅沢な願いかな?
ちょっと泣けてきてトイレに籠って泣いたのは家族には内緒だ。
さて24日になりましたよ。
朝は7時起きました。何故かって言うと朝の6時からずっと海斗先輩からうざメッセージが入ってきているからだ。
『おはよー麻里香。いよいよクリスマスデートだな!』
『麻里香は今日どんな服装だ?ドレスは準備してある、心配するなよ』
『今日はフランス料理は朝から食べるなよ?』
「うるせーーっ!朝からいい加減にしろッ!クリスマスプレゼントはドレスだと分かってしまうだろっ!おまけに今日のクリスマスディナーのネタバレはやめろ!おフランス料理でドレスコードがある高級店だとバレバレじゃないかぁぁ!」
しまった…朝6時過ぎから大声を出してしまった。良かった夏鈴も彩香も眠っている。
ふうぅ…本当にあの馬鹿はどうしたもんだか。お勉強が出来ても天然馬鹿なのには変わりはないのだね…。
『高級な金品も高級な贈り物も高校生の身分には過ぎたるものです』
返事を送ってもしばらく返信は無い。たっぷり15分くらいしてから返事があった。
『来年は今一度熟考する。今年はそれでいかせてくれ』
『賜りました。では予定通り10時に表通りでお待ちしております。』
ふんっ!くれるなら米一俵のほうがいいもんね。我ながら16才にして夢が無いな…。
さて、朝は某チキンの残りの唐揚げを身だけ解して取り、サラダに混ぜてササミサラダもどきを作った。
ローストビーフの残りをロールパンに挟んでハムロールを作り、ミネストローネを作る。
7時過ぎに由佳ママが起きてきた。
「おはよう、良い匂いね」
「おはよう~お父さんは?」
「起きてるよ。おはよう麻里香」
由佳ママの後ろから真史お父さんが起きてきた。
「おはよ~お父さん年末いつまで仕事なの?」
「28日までだが、正月は交代勤務だな~」
あ、そうだった。真史お父さんは海外事業部長だから、三が日だから~とかお正月だから~とかで休みになる訳ではない。その代わり交代で長期休暇があるらしい。
「まあ、せめておせち料理食べて正月気分を味わうかな~」
とか言った真史お父さんの言葉で驚愕した。しまったーーー!
「ママッ?!どうしよう!うっかりしてておせち料理の予約するの忘れてたよ!」
すると由佳ママはキョトンとした後、ニッコリと微笑んだ。
「あら?麻里香知らないの?栃澤君からの私へのクリスマスプレゼント」
「へっ?いきなり何?」
じゃーーん、と言って由佳ママは固定電話が置いてある電話台の引き出しから何か紙を取り出した。複写になっているB5の紙だ…よく読むと…んん?
「注文控え?…〇〇〇の豪華おせち五段重?!じゅ…10万円?!」
「何だって?!」
真史お父さんも知らなかったみたいで、私と一緒に叫んで注文控えを見詰めている。
「いつも由佳さんにはお世話になっているから僕からのクリスマスプレゼントですっ♥だって!」
「豪華だな…」
「そうだね…きっとキャビアとかウニとか伊勢エビとかがぎゅうぎゅうに詰められてるんだよ」
真史お父さんとボソボソと小声で話し合う。
「後で会うんだろう?栃澤君にはよくよくお礼を言っておいてくれ」
「りょーかい」
元旦那は抜かりないな~。
そしてチビ達を起こして昨日は泊まっていたばあちゃまとじいちゃまを囲んで朝食を頂いた。
私も朝10時になったので、着替えて表通りに向かった。
元旦那から盛大なネタバレを朝から受けていたので本日の予定は恐らく…
ランチ→どこかロマンチックな所へ→ドレスのプレゼント→ディナーはフランス料理のフルコース
というデートプランの詳細の8割方は予想が付く。
10時少し前におべんつさぁんがやって来た。
「麻里香!メリークリスマス!」
海斗先輩は、おべんつさぁんから降り立った早々に叫んだ。
…きっとさ、これ言いたかったんだと思うんだよね。もしかしたら『死ぬまでに~』の黒革の手帳の中に『嫁にメリクリと叫ぶ』とかの一文があるのかもしれない。
胡乱な目で元旦那を見詰めていると、元旦那は口を尖らせた。
「麻里香もメリークリスマス!って言えよ~」
「こんな所でメリークリスマスなんて叫びあっているバカップルになりたくありませんっ!」
そしてその後、文句を言う元旦那と共に某大きなクリスマスツリーを見学し、可愛らしい洋食屋さんでクリスマスランチを頂き(チキンライスが雪だるま型になってた!)、案の定お高いブティックでドレス、靴、鞄など一式をプレゼントされ、夜はネタバレのフランス料理のフルコース料理を頂いた。
フランス料理はとても美味しゅうございました。ジビエ最高!
「麻里香…俺は幸せ者だな。願ったことが全部叶っている。お前にも会えた。恋人になれた。最高だな…」
私はちょっと海斗先輩を睨んだ。
「そんな台詞良くない展開が起こる前のフラグみたいじゃないですか~止めて下さいよ」
ガチャン…!
私の言葉に重なるようにグラスのようなものが割れる音がした。
「あんたっ?!その女誰よっ!」
私達の座るテーブルから離れた所から女性の叫ぶ声が店内に響いた。
良くない展開…が来てしまったのかな…これ?私はソッ…と海斗先輩を見上げた。
「ほら~麻里香が余計なことを言うから~」
と海斗先輩は大げさに溜め息をついて見せた。
おいぃ?私のせいか?せいなのか?