花嫁に忍び寄る影
まだほんのりホラーが続いています。
クリスマスムードをぶっ壊しております。
次話くらいからはクリスマス気分を出す予定です。
「っひぃ…ぃ…」
もがいて、のっぺらぼうから逃げようしたが下半身に力が入らない?!もしかしてこれって腰が抜けている状態なんじゃないか?人生で初めての腰が抜ける状態が、こんな状況なんていやああぁぁ…。
「落ち着け麻里香、俺がいる」
私の手を温かい大きな手が包み込む。そうだった…海斗先輩が私を抱き抱えてくれていたんだ。
絶対的な安心感が私の気持ちを鎮めてくれた。
「よく見ろ、この傀儡…完全体ではないな」
怖いし気味が悪いけれど、のっぺらぼうを仰ぎ見た。海斗先輩の言う通りだった。
傀儡魔法の本来の使い方は、戦闘時に術者の分身を作り、手数を増やし戦力増強すること。または自身が入り込めない所に傀儡を侵入させる(猛毒の充満している場所、得体のしれない呪術が張っている場所)などで、術者本人の姿を模して作るのが傀儡魔法の一般的な使用方法だ。
「か…辛うじて女性かな?ぐらいしか判別がつきませんね…」
そう、人間の体は成してはいるが顔は言わずと知れた、のっぺらぼう…体は女性で裸体ではあるが、女性の細部の作り?までは再現できていない。肌色のまさにマネキンのようだ。
「直感型の術者で、ここまで傀儡人形を作れただけでも大したものだな」
「で、殿下ぁ感心している場合じゃありませんよ…このまま攻撃してくるのでは?」
「いや…見てみろ、溶け始めている」
えっ?と思って傀儡人形を見てみると…足元からドロドロと傀儡の体が崩れ落ちている。
『…!…!』
「っぎゃ?!」
顔がドロリと溶けて、首がもげて落ちた!まるで早く起こし過ぎた◯神兵…。彩香と夏鈴と演じて遊んだ、姫姉様ゴッコを思い出した。
ラン、ララララララン…。心の中で歌っている間に傀儡人形は完全に崩れ落ちてしまった。
トイレの中は静まり返っている。床のタイルに座り込んでいるお尻が冷えてブルったことで我に返った。
「き…消えましたね」
「ああ…恐らく維持するほど魔力がなかったのだろう。あ、そうだ…結局どうだったんだ?」
海斗先輩が私を支えながら立たせてくれた。
結局?どう?
「真史さんに聞いたのか?持田 瑞希の出勤状況だ」
「あっ!はい、やはり体調が優れないという理由でずっと欠勤しているようです」
「やっぱりか…傀儡魔法なんて高位魔法を連続して使用しているのだしな…当然か」
高位魔法…術の鍛錬無しに無意識下で使用しているとしたら、体にも体内魔力の疲弊にも影響が大きいはずだ。まてよ…。
「殿下…もし『魔力切れ』が起こったら…この世界では術者はどうなるのでしょうか?」
「魔力切れ…そうか、そういうことも起こりうるのか」
魔力切れ…文字通り魔力が無くなる状態のことを言う。一度に大量の魔力を使ったり、病などで体力が落ちている時に同時に起こる、魔力を持っている者なら誰でも一度はかかったことがあるほどの病気だ。
「あちらの世界では魔力切れになる前に、自分でも分かるし…ましてや周りの術者などがすぐに気が付くから…魔力を他者から貰ったり、病で臥せっている時は危険回避の為に魔力値の上がる食べ物を補給することが一般的だ。普通は不治の病ではないが…」
「こちらの世界では潜在的に治療術師の能力をお持ちの方もいますが…。足りない魔力を補うといった概念が無いと思います。この場合は魔力切れと共に…体力低下や身体疾患が併発するのではないでしょうか…」
私と海斗先輩は見詰め合ったまま愕然としていた。
魔力切れの危険性があると分かった所で、私も先輩も治療術の素養は無い。治療術は早い話が才能が無ければ使えない。どんなに修行しても鍛錬しても使えない人は一生使えないのだ。
「治療…治療さえ出来れば…治療術が…ん?ああっ…そうだっ!」
私は深夜のトイレで絶叫してしまった。
翌日、海斗先輩と一緒に癒しの魔術師のケーキ職人のおじさんがいる洋菓子店にお邪魔していた。相変わらず、店内には癒しの術の魔力が溢れている。
「ここに来ると体の内側から疲れが取れるな」
「ね?ですから、こちらのお菓子を持田 瑞希さんに差し入れて…面会出来れば傀儡魔法を止めさせる手立てが見つかるかもしれませんしね」
女子が好きそうなプリンやゼリー…それと日持ちのする籐籠に入った焼き菓子の詰め合わせを買って持田 瑞希の家に向かった。
ところが、自分達の身分も明かし学生証も見せて、お見舞いだと要件を伝えても持田 瑞希との面会は叶わず、門前払いを食らってしまったのだ。
「ガードが堅いな」
「栃澤家の威光が効かないなんてっ…」
折角買ったお菓子が無駄になる…そうだ!
「このお菓子、父の会社に差し入れてもいいでしょうか?」
海斗先輩は笑顔で頷いてくれた。海斗先輩は外堀から情報収集しよう…と言い出したので一石二鳥だ。久々突撃会社訪問だ。
真史お父さんにメッセージを送ると、なんと外回りで夜まで戻らないとのことだったので、部署のどなたかに渡せるように話をつけた。
海斗先輩と2人、会社のビルの一階のフロアで来客用のソファに座って待っていると…おおっ!下島さんと名取さんのカップルがニコニコしながらこちらに向かって来る。
丁度良い、情報提供者の登場じゃありませんか?
「突然押しかけてすみません」
海斗先輩がキラキラした笑顔で下島さんと名取さんに微笑みかけた。相変わらずお2人の魔質はお互いを包みこんで綺麗な薄ピンク色の発色だ。
海斗先輩に目配せされたので、持参したお菓子を名取さんに手渡しつつ…
持田 瑞希と文化祭で会った事、学園の先輩だという事で話が弾んだこと、最近体調を崩して会社を休んでいる事を父から聞いた事、見舞いにお伺いしたら門前払いを食らった事を…やんわりと話してみた。若干脚色したが概ね間違ってはいない…はずだ。
名取さんは話を聞きながら徐々に沈んだ表情になった。下島さんも同じような表情をしている。
もしかしてただ休んでいる訳ではない特殊な事情をお2人は知っているのでは…?という直感が働いた。
「文化祭でお会いした時はお元気そうだったんですけどね~」
チラッ…。
「インフルエンザとかではないのですよね~?」
チラチラッ…。
名取さんが深い溜め息をついた。
「実はね…麻里香ちゃん達とモールで会ったでしょう?その2日前にね、下島さんと給湯室で日曜日に出かけるの楽しみだね…みたいな話をしていたの、ね?」
名取さんは下島さんを見上げた。下島さんは大きく頷いた。
「うん、どうやらその話を持田さんが聞いていたみたいで、部署のフロアに戻った時に、皆の前で名取さんを連れて出かけるなら自分とも出かけろ…みたいなことを言われたんだ」
「えぇ…?!」
ひょえ…厚かましい。下島さんは物凄く眉間に皺を寄せている。
「俺としては気の無い女性とプライベートまで出かけて気を持たせることはしたくないし、この際だしハッキリと断っておこうと思ったんだけど…。それがハッキリ言い過ぎたのかな…月曜日から会社休んじゃうし…。部署の皆は男前だった!問題ない!って慰めてくれるけど、あれからずっと休まれるなんて気まずいよ」
はぁ…と下島さんは溜め息をついた。魔力がショボンと沈んでいる。
違うんだよ~日曜日に恐らく…って言うか確定だけど、下島さん&名取さんのカップルを尾行して、ラブラブな2人に嫉妬して高位魔法を使ってしまって…おまけに事件まで起こしちゃって、ただただっ臥せっているんだよっ!
…とはとても言えないので私は、
下島さんは男前だ!間違っていない!よっベストカップル!
…と下島さんと名取さんを激励してから会社を後にした。
「只の嫉妬からの呪術の行使か…あちらの世界じゃ重犯罪で服役刑ものだぞ?」
「そうですね…こちらじゃ魔法の影響で怪我を受けても立証する手立てがありませんしね」
海斗先輩と持田 瑞希の事を話しながら暫くオフィス街を歩いてから、喉が渇いたと言う先輩の要望で駅前のカフェに入った。
お互いに注文し終えて、私は苺のショートケーキ、海斗先輩はモンブランが運ばれて来た時に、何やら海斗先輩が妙に真剣な顔をして私に顔を近づけてきたので、私は緊張した。
どうしたの?何かありました?まさか事件?
「麻里香、『あ~ん』をしてくれ」
海斗先輩はおもむろに携帯電話を取り出した。そして私にレンズを向けた。
「ケーキをフォークで刺して俺に向かって『あ~ん』をしている麻里香のベストショットを撮りたい、早くしてくれ」
…おいっ脅かすな!何かあったんじゃないかと緊張したじゃないかっ!
「おいっ早くしろ」
「……」
「ほら、『あ~ん』だっ!」
「……」
何をそんなに真剣になる必要があるのだろうか…。ものすごく粘るので根負けして、モンブランを『あ~ん』してあげた。
カシャ…カシャ…。
恥ずかしい…私、何してるんだろう?つい真顔になってしまう。
「麻里香、顔が怖いぞっ笑え」
うるせー元々こんな顔だっほっとけっ!
そして数日が過ぎて、明日が終業式でいよいよ冬休み…という日の夜
仕事から帰って来た真史お父さんが妙にニヨニヨしている。
「ただいま。由佳、麻里香~まだ本決まりじゃないらしいんだけど、来年な~下島君と名取さんが結婚するんだって~それで仲人頼まれちゃったんだ」
「ええっ!おおぅ!やったね!」
何がやった…のかは分からないが、めでたいよっ!下島さんと名取さんも結婚かぁ~。
「お2人お似合いだもんね」
「な?俺もそう思う。由佳もその心積もりはしておいてくれ」
「は、はい。やだ~麻里香。エステとか行ったほうがいいのかな?」
「磨いとけっ磨いとけっ!」
と、由佳ママまでもがニヨニヨしている。おめでたい話題で篠崎家のテンションも一気にあがる。上がったついでに今日はカラッと揚がった各種フライの夕食にしてみた。一品づつ串に刺しているから、二度漬け禁止のソースの入れ物を準備して置いてみると、ちびっ子達がソースにつけて大いに盛り上がって騒いで楽しい夕食になった。
そうだ、忘れないうちに…と海斗先輩にメッセージを送る。
『下島さんと名取さんが来年、ご結婚されるそうです。父が仲人を頼まれたそうです』
海斗先輩からすぐに返事が来た。
『それは僥倖だな。そんな時に水を差すようだが、あれから持田 瑞希はどうしているんだ?』
あ…そうだ。浮かれてばかりもいられない。
「おとーさん、こんな時に何だけど、持田さんの御加減どうなの?」
すると真史お父さんは魔質をちょっぴり濁らせた。
「あ~麻里香も、もしかして何か聞いてるか?どうやらな下島君に粉をかけていて、こっぴどく振られたらしく、それが恥ずかしくてずる休みしてるらしい」
真史お父さんの表現の仕方が昭和っぽいな~と思いながら…結局、会社ではズル休みという認識で通っているらしい。
「もうさ、いい大人なんだから学生の延長みたいな態度は困るよ。俺、専務に聞いてみたんだよ。このままじゃ持田さんも余計に出社しにくくなるばかりだから、思い切って別部署に移動させてみてはどうですか?って…。でもさ伯父と姪だから~なんだか甘いことを考えているみたいなんだよね。俺ちょっと心配だよ。下島君と名取さんのおめでたいことに水を差すような事態にならなきゃいいけど」
なるほど…その伯父さんに当たる専務がきな臭い動きをしていると…。そのまま海斗先輩にメッセージを送る。
『権力者のジジイとは兎に角、余計な口を出しがちだ、もしかして下島さんと名取さんの結婚に影を落とす策略でもしてこないかな…。考え過ぎかな?』
『陰謀系のドラマの見過ぎです!でも用心するに越したことはないですね』
さて次の日はシュアリリス学園の終業式だ。
いよいよ成績通知表が帰って来る。フフフ、なんとか上位をキープ出来た。
「麻里ちゃん~明日のパーティー予定通りで大丈夫?」
花音ちゃんが、はい…とプリントを手渡してくれた。プリントには『シュアリリス学園クリスマスパーティーの開催要項』と書いてある。
なんと花音ちゃんのご実家の結婚式場のミニガーデンを開放してくれてシュアリリス学園クリスマスパーティーが開催されるのだ。声がけして参加してくれる人を募ったらすごい人数になったので、萌ちゃんと菜々と海斗先輩達とで審議した結果だ。
「や~楽しみだな。食事はカッキーのホテルの料理長さんでしょ?堪らんね!」
菜々が舌なめずりをしている。
そう、ミリタリーオタクの柿沼さんのご実家は老舗某有名ホテルなのだ。そこのグランシェフが腕を奮ってくれるとか…凄すぎる。
「しかし凄いね。この準備…旦那が随分前から計画していたんだって?カッキーも驚いてたよ」
そう…海斗先輩は今年に入った辺りから着々とこのクリスマスパーティーの準備をしていたそうだ。何でも『嫁と死ぬまでにやりたい事100選』のやりたい事に、嫁と友人達とでクリスマスパーティーを開催するというのを選んでいるらしい…という訳で、旭谷先輩達をも巻き込んで張り切って準備していた。
「可愛いね~健気だね、麻里香の旦那」
「度を過ぎたストーカーだけど、そこに目を瞑れば良い旦那さんだよね」
菜々と萌ちゃんに冷やかされるけど、まあストーカー成分さえ薄まればものすごい愛妻家なのは間違いない。
もう嫁に行くのは決定事項なのかな~結婚の障害になりそうなことは、私に気づかれないように海斗先輩が排除して行っているような気がする。あくまでも気がするだけなんだけど…。
さて次の日は、シュアリリス学園のクリスマスパーティーだ。そしてイブイブの23日は家族でホームパーティーだ。そして24日のクリスマスイブは海斗先輩にすでに2人きりでのクリスマスパーティーにしよう、と言われて予定を組まれている。
元旦那から愛されているんだけど、現役高校生には重いなぁ~。これ、私が元王太子妃だから粛々と受け入れているけど、普通の16才なら逃げ出すかもよ?
と、言う訳でクリスマスパーティーの当日
海斗先輩から送られた重い愛の籠ったピンク色のパーティードレスに着替えて、家を出ると広い通りに出て海斗先輩の到着を待つ。
執念が凄すぎて嬉しい反面…怖いよね。
暫く待つとおべんつさぁんがスイーッと通りを走って来た。来た来た…。
「待たせたな、麻里香。ドレス姿も可愛いな!流石俺の嫁、似合っている」
おべんつさぁんから降り立った海斗先輩を見て、度肝を抜かれた。
ふあああ…なんじゃそれ~~!ブ…ブラックタイのタキシード着用されてるじゃないかあああ!
「先輩っ格好いい!」
つい、心のままに出合い頭に海斗先輩を褒めた。つい…うっかりね。私がそう言った途端、それはそれは嬉しそうな顔をされてから、珍しく顔を真っ赤にされている元旦那。
「びっくりした…うん。こう…こう面と向かって麻里香に褒められると…はっ恥ずかしいな」
そんな照れるなんて思いもしなかったよ。見てるこっちのほうが恥ずかしくなる。
海斗先輩と2人して真っ赤になったまま、おべんつさぁんに乗り込んだ。甲本さんが嬉しそうな顔で微笑まれているのをバックミラー越しに見て、また照れてしまう。
海斗先輩は照れながらも、車内でゆっくりと私の手を握ってきた。チラッと海斗先輩の方を見ると、熱っぽい目で私を見ている。
ああ、甘酸っぱいな~。
パーティー会場の結婚式場に着いた。おおっ…駐車場には外車ばかりですよ…流石、シュアリリス学園。
「お待ちしておりました、栃澤様」
ふわ~っ!案内のスタッフさんも本物?の式場スタッフさんがお手伝いしてくれているの?パンツスーツ姿の綺麗なお姉様に先導されて式場内の廊下を歩く。
あっ一般のお客様も式場の見学に来ているみたいね。ん…んん?あれは…!
「下島さんと名取さんだっ!」
「何だと?」
私が叫ぶと海斗先輩も廊下の窓から室内を覗き込んだ。花嫁衣裳のフィッティングルームのような所で2人がいる。あ…下島さんが気が付いた。そして名取さんと2人でこちらに歩み寄ってきた。
「あれ~麻里香ちゃんと栃澤君どうしてここに?」
「もしかして、高校生で結婚準備ぃ?!」
「おおっそうで…」
「いやいやっ!違います!うちのシュアリリス学園のクリスマスパーティーの会場に、ここのミニガーデン借りているんです!」
「クリスマスパーティー?!すごいっ!」
綺麗に下島さんと名取さんの声が重なった。名取さんは頬を染めている。
「それで2人とも正装なのね~。麻里香ちゃんドレス可愛いわね」
「栃澤君のフォーマル衣装も格好いいな~。あ、すみませ~ん、彼みたいなデザインのタキシードないです?」
とか、下島さんは式場のスタッフさんにちゃっかり聞いている。
「そうだ~そこのガーデンはうちの学園で貸し切っているから下島さん達も良ければ立食パーティーに来て下さいよ~。」
「ええっ?いいの~?」
と名取さんはチラチラッと海斗先輩の顔色を窺っている。海斗先輩はニッコリと微笑んだ。
「勿論是非お越し下さい。学生ばかりで騒がしいかと思いますが、料理も〇〇ホテルのグランシェフのものです。是非ご賞味下さい」
「〇〇ホテル?!…行きます」
下島さんが即答した。知っているよ、下島さん。あそこスイーツビュッフェが有名だもんね。甘いもの好きの下島さんには堪らない誘惑だよね。
ニヤニヤしながら下島さんを見ると、ニヤリと笑い返された。
そしてスキップしそうな勢いの下島さんと名取さんとご一緒にパーティー会場の庭に向かって移動をした。
「そう言えば…ご結婚おめでとうございまーす」
と私がニヤニヤしながら声をかけると下島さんと名取さんはほぼ同時に
「まだ来年だよ~!」
と真っ赤になって答えてくれた。いや~ピンク色の魔力が弾けまくってますねぇ~。
その時
足元がグニャ…と柔らかくなった気がして、慌てて廊下の大理石の床を見た。当たり前だが異変は無い。
何だろうな…気のせいか。視線を何となく中庭に向けてソレを見て戦慄が走った。
持田 瑞希が中庭でこちらを見ながら立っていたのだ。下島さんと名取さんは2人で話しながら廊下を歩いて行く。持田 瑞希の視線は何故か私に固定されたままだ。
私の異変に海斗先輩が気が付いた。
「どうした?」
「中庭に持田 瑞希が居ますっ…」
海斗先輩は慌てず騒がず…足早に中庭に出て行った。私もすぐに後を追う。
あれ…さっきまで居たのに…いない。
海斗先輩は中庭に屈み込んで何かを見ている。
「麻里香…ここで魔力の波動を感じる。もしかすると麻里香の見た者は傀儡魔法かもしれない」
え?だって…傀儡って〇神兵みたいだったよね?さっきのは持田 瑞希だってはっきり分かるぐらい輪郭がしっかりしていた…え?もしかして…。
「傀儡の精度が上がってるのかもしれないな」
嫌な予感は感じつつ…クリスマスパーティーの開催時刻になった。続々と集まって来るシュアリリス学園の生徒達。下島さんと名取さんも皆に紹介して、祝!結婚のお祝いパーティーになって皆で日が落ちるまで騒いだ。
「お料理も美味しかったですね、幸せですね。」
午後6時になりパーティーがお開きになった後、メリークリスマス!よいお年を~とをセットにして叫びながら帰って行くクラスメイトや先輩達を見送りながら海斗先輩と2人、ほっこりと幸せな気分になる。
「こういう距離感でモッテガタード国民と接していれば良かったのかな…」
「殿下、たらればは言い出したら切りがありませんよ」
「そうだな…。ん?どうしたんだろう?」
女性スタッフ数名が何やら慌てている。花音ちゃんがそのスタッフに声をかけた。
「どうしたの?」
「あ、あの衣装の試着室の扉が鍵が壊れてしまったのか開かなくなってしまって…」
「お客様が試着中なの?」
花音ちゃんが女性スタッフと室内へと入って行った。気のせいかな…。嫌な予感がするんだけど…。
「麻里香…見に行ってみるか?」
私は力強く頷いて海斗先輩と足早に駆け出した。日も落ちて結婚式の打ち合わせのお客様の姿はまばらだ。
女性スタッフと花音ちゃんの後を追いながら海斗先輩と廊下を歩いていると、角からユラリと女性が歩いて出て来た。
「持田 瑞希?!」
海斗先輩と私は立ち止まり、持田 瑞希を見詰めた。持田 瑞希の魔力の質を確認する。違う…!
「傀儡…ああっ?!」
ほぼ、持田 瑞希な傀儡はまたグシャリ…と崩れ落ちて…消えていた。
「傀儡魔法の精度は上がっているけれど、魔力の持続力は落ちているのか…」
「きゃあああ!」
女性の悲鳴が聞こえたので、私と海斗先輩は声のした方へ一気に駆け出した。




