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嫁、転生しました

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8/12週間ランキングに入っておりました!びっくりです。ありがとうございます!

8/17、12/29誤字修正しました。ご報告ありがとうございます



私、篠崎麻里香(しのざきまりか)と申します。只今15才…6月に16才になります。母子家庭で弟が二人います。


こんな私ですが前世の記憶がある。ここではない世界の住人だった。


赤子の時には随分と戸惑った。言葉が通じない、自分が誰だか明確に分かる。そして…自分の体は乳児になっている。


衝撃的過ぎた…。最初は泣いてばかりだった。これは赤子のむずがるアレとは別ですので、あしからず…。


流石に月日が経ち自身の置かれた境遇も分かってきた。嘆いてばかりもいられなかった。要は一度死んで生まれ変わったと言う事だった。


前世の身分も家族も何もかも、誰も彼も周りにはいない。新しくこの私を産んでくれたママ、そしてパパと新しい人生を歩んで行く…。そのことに納得したのだった。


決意も新たにした4才の時に弟が出来た。これは可愛い。名前を翔真しょうまと名付けられた。そして私が10才、翔真6才の時に更に弟が出来た。悠真ゆうまです。これまた可愛い。


前世で子育てを満足に出来なかった私は張り切った。弟達をしっかり育て上げなければと良い姉を目指して頑張った。


ところが


悠真が生まれて早々にパパが会社の若い女性と不貞…つまり不倫をしていることが発覚した。あろうことかパパはママに向かってこう言った。


「優樹菜は何も悪くない、俺が悪いんだ」


優樹菜とは浮気相手の名前のようだ。どういうことだ?その浮気相手はパパが既婚者だと知っていて付き合っていたのではないのか?もし騙して付き合っていたのなら悪いのはパパだ。そうじゃなかったら…知っていて付き合っていたなら…その優樹菜も悪いことになるのでないか?


悪くない訳ないだろう?不貞行為だぞ?


ママはショック過ぎて何も言い返せない状態だった。私…その時に子供のフリはやめた。身バレしても構わないとさえ思った。情けない大人を見て腸が煮えくり返った。


まさか、若干10才の私が深夜に起きていて尚且つ、夫婦の修羅場に聞き耳を立てているなんてママもアイツも想像していなかったのだろう。


リビングの扉を開けて足早にママの横の椅子に座ると、対面に座ったアイツの魔質を診た。


相変わらず濁ってて良くない魔質だ。若干お腹の周りが黒い気もする。でも治療なんてしてやらない。私、普通の小学校4年生だから治療なんて出来ないフリをしている。


子供の時からパパ…元パパはどうも好きになれなかった。血の繋がりがあっても相容れない人が居る…それは分かっていた。元パパとはそういう相性だったのだろう。


「いしゃりょーは毎月支払うこと。このマンションのめいぎはアンタだけど、私達の住居が決まるまで住まわせること。翔真と悠真にはこんご一切かかわらないこと。そして…アンタにこんご何があってもわたしたちは関知しないから」


そう私が言い切ると元パパは顔を真っ赤にして私を指差した。


「お、おまっ…こ、子供のくせに…。おいっ由佳!どういう育て方をしているんだ!」


「そ、それ…は」


何か言いそうになったママを私はやんわりと制した。口ではコイツには勝てない。私に任せておけ。


「アンタは大人のくせにみっともないね。ハッキリ言えばいい。自分には好きな女が出来た。りこんするから出て行けって…そのユキナとかいう人にも言えばいい。オマエのほうが好きだからおくさんと子供を捨ててきた。さあいっしょに生きてくれ…て。そして二人でてきとーに幸せなフリでもして生きて行けばいい」


元パパは私に向かって、テーブルの上に置いていた香辛料の入れ物を投げつけようとした。


呆れた…暴力?ホント…最低な大人だ。私は振り上げた香辛料に火魔法を当てた。私にしか見えない魔力の塊が香辛料の入れ物に直撃した。


「ぅわ…っ!熱ぃ…何だ!?」


元パパは火魔法で熱くなった香辛料の入れ物を取り落した。落ちた時に蓋が外れて粒胡椒が床に飛び散った。


元パパはその場に居辛くなったのだろう…。何も言わずに立ち上がると足音を立てて出て行った。私は雑巾を取って来ると、床に散らばった粒胡椒を片付けた。


ママはまだ茫然としているようだ。私は掃除をしながらママに語り掛けた。


「ママ…私は負けないよ。あんな奴より幸せになってやるよ」


ママは虚ろな目で私を見た。私は床を綺麗にしてから、手早くママに緑茶を入れてあげた。


「ママ…私まだ子供だし働いてかけいを支えることはできないけど、しょーまとゆうまのお世話はまかせておいて。お料理も実はけっこうできるんだよ?れんしゅうしてたんだ。いつかはママのお手伝いできるようにって…。ママ私、一緒にがんばるよ?負けないで…」


ママはブワッと涙を浮かべると麻里香~ぁと叫びながら私にしがみ付いて来た。いいよいいよ、今はいっぱい泣きな。泣いた後に一緒に立ち上がりましょう…。あんな男にママは勿体ないよ。私、見た目は小学校4年生だけど中身はアラサーな元子持ちのママだからさ!一緒に子育て手伝うよ。


その日からママは昼はお弁当屋さん、夜は清掃業者のパートを掛け持ちで働き出した。私は学校に行きながら翔真と悠真を母に代わって面倒をみてきた。


私の母方の祖父母はすでに亡くなっていない。こんな時に生きていて欲しかった…と思ったけど…。


父方の祖父母は平謝りだった。でも最初は謝ってたけど、段々激怒の方向に意向してきた。それもそのはず、元パパは居留守を使って自分の親ですら連絡を寄越して来ないらしいのだ。


「何度電話しても出ないのよっ…おまけにメッセージ送ったら…えっとホラなんだっけ?」


「ブロック」


「そうそうそのブロックとかいうのをしてきたのよねっ!ブロックするのはバレーボールだけだってのさ!」


ばあちゃまの息子を罵倒する声が新しく住み始めたアパートに響いております。じいちゃまは一回り体が小さくなったみたいだ。


「麻里ちゃん、このブドウゼリー美味しいわね。レシピ教えて〜」


「いいよ〜」


ばあちゃまは落ち着いたのか、私の作ったゼリーを食べ出した。


「だけどお家の中綺麗にしてるじゃない!朝から夜までパートに出てるんでしょう?由佳さん頑張ってるわね」


本当は私が家の中を片付けているけどね。でももう、嫁じゃないけどこういうのはママの手柄にしておいたほうがいいわね。嫁と姑の円滑な付き合いには必要なことよね。


ピコーンとばあちゃまのスマホが通知音を出した。


「あら、メッセージね。真史(まさふみ)だわ」


真史とは元パパのお兄さんだ。


某国立大出身の商社にお勤めのカッコいい伯父さんだ。何故だか独身なのだが、決して性格に難ありでもありません。


「真史が出張先の台湾でお土産買ってきたんだって、翔ちゃんも悠ちゃんも芒果プリンだって、食べる?」


弟達二人で寝室で遊んでいますが、「食べる~!」と元気に返事が返ってくる。


「仕事終わりに持って来る…ですって」


「あ、マサ君に晩御飯こっちで食べて帰る?って聞いて?」


「あらま、はいはい…えっと麻里ちゃんが晩御飯…一緒…。よし、送ったよ。あら、返事早い。食べるだって~」


すると、玄関の鍵がガチャと開いて、ただいま〜と由佳ママが帰って来た。由佳ママは玄関口に置かれた靴で来客に気づいたのだろう、ダイニングに入って来ると頭を下げた。


「お義母さん、お義父さん!いつもスミマセン」


「いいのよ、いいのよ〜どうせ暇なジジババなのよ!ね?お父さん!」


由佳ママは珍しいことに別れた元パパの両親と仲がいいのだ。離婚する前はというと、不思議な事に一定の距離を開けて付かず離れずの嫁姑の仲だったと記憶している。ところが離婚が逆に由佳ママとばあちゃまの距離を詰めるきっかけになったのだと思う。


原因は簡単、元パパがクズだったからです。


ばあちゃまは離婚、と聞くとすぐにすっ飛んできた。そして、決して怒ったりせずに理由を話してみなさい…と仰った。そして由佳ママから話を聞き終わるとこう言った。


「私は中立の立場だからね、亮暢(あきのぶ)にも聞いてみて判断するわ。あいつを呼び出そう。今日がダメなら明日…ちゃんと向き合って話を聞くよ。その時は由佳さんも同席してね。落ち着いてアイツの話を聞いてみよう」


凄いな…と思いました。親ってうちの子に限って!とかうちの子は騙されたんです!とか言って嫁の味方なんてしない生き物だと思ってた。由佳ママは大号泣だった。


その場でばあちゃまは元パパに電話をかけた。3回繰り返してかけていた。それからメッセージも何度も何度も送っていた。


「何なの?出ないわね…。メッセージも読んでるくせに返事こないわね。これ既読がついてるから、今は携帯電話を触ってるってことなのよね?」


ばあちゃまは若干イライラしておりました。由佳ママは真っ青になりながら、そうですね…と返事をしていた。


その日は元パパからは連絡は一切無かった。そして三日後、マサ君からママに連絡が入り憤怒の表情をしたマサ君とばあちゃまとじいちゃま3人が再び押しかけて来たのだ。


「本当に亮暢がすまないことをした。詫びても詫びても足りないくらいだ」


マサ君は怒り顔のままだった。どうやら3日待っても元パパから誰の携帯にも連絡は来ず、家の電話も無し、おまけに皆がそれぞれに送っているメッセージに昨日から一切既読がつかなくなったということだった。


「何パターンか相手に連絡を取れるコマンドがあるんだが…全部試したが、あいつ俺ら家族全員をブロックしやがった可能性が高い」


「ブロック…って何?お兄ちゃん…」


ばあちゃまはマサ君の事をこう呼んでいる。マサ君は苦虫を噛み潰したような顔でご両親とママと私を見た。


「電話とメッセージを全部受信しないようにする機能を使ったってこと。あいつは馬鹿かっ!子供じゃあるまいし『離婚するもん!』で勝手に由佳さんがしてくれるとでも思っているのか!離婚に関する書類の作成、それに財産のこともある!そうだ、離婚訴訟…由佳さんっこうなったらあいつからもそのサユリかユカリか言う女からも慰謝料ふんだくってやればいいんだ!俺の友達に弁護士がいる、そいつに頼もう!」


マサ君が興奮して言ったことにより、本来なら息子側につくであろう実の両親が「お兄ちゃんの言う事は絶対。」という態度になり現在に至る…という訳なのだ。


でね、この時に元パパの会社にこの悪行をバラしちゃえばいいんじゃない?と思ってマサ君に言ったんだけど、流石マサ君。


「そんなことしたらさ、あいつが会社辞めちゃうかもよ?頑張って働いて慰謝料振り込んで貰わなきゃ困るもんな」


マサ君、腹黒さんだね!


そしてつい最近もばあちゃまはこう言っていた。


「私だってね、人の親よ?由佳さんには悪いけど、亮暢が助けて、俺は悪くない…って言ったら例え息子が100%悪くても助けてあげたい、力になってあげたいって思ってるのよ?それなのにね…あんな拒絶の仕方されたら…ね。親ってなんだろうかね…」


嫁と子供達3人を痛めつけたくせに、実のご両親とお兄様まで傷つけるなんて…本当にクズだ。


そしてマサ君の友達の少しチャラい弁護士のお兄さんは優秀だったらしく、相手側の女性から少しだが慰謝料と、元パパからも月々の慰謝料を払わせることに成功していた。流石某国立大出身…私もそこの大学目指します!


そんなこんなで私達はなんとか子供3人母子家庭生活がスタートしたのだった。


☆☆☆   ☆☆☆   ☆☆☆


ピンポーン。


煮込みハンバーグを作っていると玄関のインターホンが鳴った。見なくても魔質で分かる。マサ君…真史伯父さんだ。鍋の火力を弱火にして玄関ドアを開けた。


「マサ君、いらっしゃい」


マサ君は玄関前で渋い顔をして立っていた。


「麻里ちゃん、いつも言っているだろ?変なおじさんが立っていたら危ないだろ、確かめもしないで玄関ドアを開けちゃダメだ!」


「それってマサ君のこと?」


「おい!?」


私とマサ君の話し声で翔真と悠真が走って来た。


「まーくんいらっしゃい!」


「らしゃい!」


「おーホラお土産だぞ!」


マサ君はそう言って戦隊ヒーローのグッズ?よく分からない剣みたいなのと、他のも出してきて弟達と3人でキャッキャッはしゃいでいる。


マサ君が結婚しないのは、伯父さんというある意味、無責任に甘やかすことが出来、そして親っぽい気持ちを味わえるベストポジションに満足してしまっているからかもしれない…と最近思う。


悠真を抱っこしているマサ君を見ていると思い出す人がいる。


ナキート=モッテガタード。私の前世の結婚相手で王太子殿下だった人…。


彼も私が妊娠している時に、今のマサ君みたいな目尻を下げて愛おしそうな表情をして私のお腹を撫でていた。


父親の顔…。そう、ナキート殿下はお腹の子供に愛情を持って接してくれていた。少なくとも私には無い愛情で…。私は愛されてなかったしね~。何て言っても本人から、愛は無いとか言われてたし。


あらやだ、目から塩水が零れたわ…。お、煮込みハンバーグそろそろかな?


「ご飯出来たよ~」


「は~い!」


そんな私ももうすぐ小学校卒業です。気の早いマサ君は私の進路に関して色々心配してくれて


「高校は私学にするか?こことか制服可愛いぞ?」


とやたらと制服を推してくる。おいっおっさん…さては制服フェチなのか?私の中のマサ君の好感度がダダ下がりだ。


今日は由佳ママは夜間清掃のパートに出勤しています。そんな時を狙ってマサ君がやって来た。


理由は薄々分かっている。マサ君はいそいそと紙袋の中から学校案内のパンフを出してきた。実はマサ君が私学を薦めた時に由佳ママが


「授業料がかかるでしょう…?それはちょっと…」


とかなりの難色を示したのだ。私もいくらマサ君が推してきても、由佳ママの負担にはなりたくない。


「ここはな、特待生制度があって…今の麻里ちゃんの成績なら大丈夫だと…」


「ねえ、マサ君…。もうママと再婚したら?」


「…っ!」


私がそう言うとマサ君はカチン…と固まった。私は息を吸い込むと一気に捲し立てた。


「あのね、何を遠慮しているのか分からないけど、私にとっても翔真や悠真にとっても、もうマサ君はお父さん同然なの。それにね、私も弟か妹が増えても全然いいよ?寧ろ早く結婚して子作りしないとママだって高齢出産のリスクが上がっちゃうのよ?それに、さっきも言い掛けていたけど私、元々奨学金が出て家計に負担のかからない、尚且つアルバイト可の学校を受験しようと思っていたから、マサ君のお金には頼らないように頑張るから…だから…」


マサ君はすでに目に涙がせりあがっている。あらやだ…もらい泣きしそうだわ。


「ママの事好きなら…マサ君も本当のパパになるのを躊躇わないで?そしてお金も愛情も生まれてくる子にかけてあげて?翔真と悠真は心配しないで、いつもどおりに接してあげて。私が二人を愛情持って育てるから…。だから二人は必ず幸せになって…」


マサ君は号泣した。私ももらい泣きしてしまった。


「まーくんどした?」


「あの…えっと、ネエネ?今のまーくんがパパになってくれるってこと?だったら俺嬉しい!」


マサ君は側に近づいて来た翔真と悠真を抱き締めた。


「翔真も悠真も…麻里香も皆っ皆…俺の大事な子供だ!新しく生まれてくる子だって皆俺の子だ!だから皆纏めて幸せになろう!絶対になろう!」


と言う訳で、真史伯父さんもとい、真史お父さんと由佳ママは再婚しました。


月日は流れ


私は5人姉弟の長女になりました。翔真、悠真の下に、彩香(あやか)和真(かずま)が生まれました。これまた可愛い。ぶっちゃけ種違いの兄弟だけれど、私達姉弟は皆がそっくりだった。笑えることに女子は真史お父さんにそっくりで、男子は由佳ママにそっくりだった。遺伝って面白いね。


15才になった今だって真史お父さんと歩いてると


「お父さんにそっくりね~」


と声をかけられたりする。そう言う時はこそばゆくて嬉しいけど…ありがとうございます!と答えている。真史お父さんはその度に目頭を押さえている。


「年を取ると涙脆くなるんだ!」


とか言ってたけどそういうことにしておきましょ。


「ねえね抱っこ!」


今日は彩香と二人でお買い物だ。実はお昼前にお父さんに『お弁当忘れてたから持って行くよ』と連絡しておいたのだ。突撃会社訪問だ!


彩香を抱っこしながら…ちょっと腕がしびれてくると、魔術で彩香の体重を軽くして…楽々移動をしながら最寄り駅まで着いた。


「ねえね、パパのとこ行くの?」


「行くよ~楽しみだね。電車に乗るよ」


きゃあ!と彩香が楽しそうな声を上げた。彩香の魔力がフワフワと体から放出される。グルリと私達の周りを歩く人達を診ると…皆が大小さまざまな魔力を発している。


しかしこの世界には魔術師がいない。魔力の使い方を知らないのだ。私はこの世界の豊富にある魔力を自在に操れる。魔法を使っていても元居た世界と違和感が無い。


つまりこちらの世界の人々は根本的に魔術を使うコツを知らないのだ。私は知っている…。この違いだけでこちらの世界でも魔法が使えるので非常に楽ではある。


彩香を抱っこしたまま自動改札を抜け、お父さんのお勤め先の超巨大なビルを目指して歩いて行く。


「おおきいビルいっぱいだね~」


「だね~。彩香歩く?」


「ありゅく!」


その時、首の後ろが総毛だった。


魔術の気配!


バッ…と後ろを見た。オフィス街だからか皆、忙しそうに移動している。誰もこちらを向いていない。


右左と確認して、魔力の残滓を追う。診えた…。追尾魔法を使う…久々だが上手く行くだろうか。…発動した!


「ねえね?」


「ちょっと待ってね」


逃げる魔法使いの残滓を追いかけて…追尾していくと…バチン!…と魔力の気配が途切れた。


「…っは!」


体から冷や汗が吹き出す。途切れた?まさか…今のは攪乱魔法だ…追尾されないように魔法を使われた。


「魔術師がいる?」


まさか…だってここ異世界よ?魔法の無い世界なのよ?私以外に……いえ、絶対はないわ。


もしかしたら同じ世界の誰かがこちらに生まれ落ちていても不思議はないもの。


「ねえね~まだぁ?」


「ん?あ、行こっか!」


彩香と手を繋いで歩いて行く。油断は出来ない。友好的な異世界人なら良いけれど、もし悪辣な人だったなら?気を付けよう。


『会社の前に着いたよー』


お父さんは出張から帰って来たばかりで書類仕事が溜まっているから内勤業務だと聞いていた。そう言う時は私が必ずお弁当を作ってあげているのだ。


やがて真史お父さんがビルのエントランスに現れた。いや~格好良いね!イケオジなんだよ、私のお父さん!あれ?お父さんの後ろに10人ぐらいの集団?がついてくる。アレ何だ?


「あ~パパァ!」


彩香が私の手を振りほどいて自動ドアから出て来たお父さんに飛びついた。


「彩香!なんだお前もついてきたのか?」


お父さんはニヨニヨした顔で彩香を抱き上げている。


「わ~!この子達ですか?自慢の娘さん達?可愛いー!」


「ひゃあ顔ちっさい!てか篠崎さんにめっちゃ似てる!うける!」


「いくつ?中学生?最近の子は手足長いね!」


アッと言う間にお兄さんお姉さんに囲まれる。ふむふむ、話の感じから部下と同僚の方々と見た。


「篠崎麻里香と申します。父がいつもお世話になっております」


斜め45度の挨拶をしてから、JCスマイルを振りまいてみた。


「可愛い!」


皆様のお声が揃いました。ありがとうございます。


「そういや麻里香、学校は?」


「昨日から夏休みだよ、はいお弁当。それと残業してる時にお腹空いたらいけないと思って、おはぎも作ってきたから食べてね」


私がお父さんにトートバックを渡すと、周りのお兄さんお姉さんは歓喜の声を上げた。


「手作りのお弁当!?ええ?もしかして麻里香ちゃんが作ったの?」


「ちょっとー今おはぎって言った!?食べたーい!」


「和菓子好きなんだよっ羨ましいっ!」


今食べたーいと言ったお姉さんと和菓子好きと言ったお兄さんの魔質を診てみると、すごく相性が良い。しかもお互いの魔力が二人を包んで綺麗な光を纏っている。


これは二人はお付き合いしているかもしくは両想いなんだね?嬉しくてニヨニヨしてしまう。


「今度、おはぎ作って持ってきますのでお兄ちゃんとお姉ちゃんも召し上がって下さいね」


小首を傾げて微笑んでみせたら二人は同じような体勢で悶絶?していた。


「やばいっ!可愛いっこれはいかんわ!」


「俺、妹萌えのスイッチ入ったよ!お兄ちゃん…最高!」


仲が良いと同じような反応になるんだね。大人達に散々ベタ褒めされた後、私達は会社を後にした。


魔術師か…考えたらきりがないけど用心しなきゃな…。


「ねえね、おうち帰る?」


「あ、お洋服見に行こうか?彩香の夏用の可愛いのあるといいね!」


「ひゃああ、うん!」


「ギャアアァ…」


彩香と二人、会社から駅に向かって歩いている時に烏の鳴き声がした。何故だかびっくりして烏の姿を探してしまった。


都会の真ん中で烏なんて別に珍しくないけれど…。その鳴き声が妙に耳に残って、いつまでも気になってしまったのだった。




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