続、鏡よ~鏡よ~鏡さん~
更新の間が空きまして申し訳ありません。
変態の手帳の中身は自主規制とさせて頂いております。
真冬のホラーが続きます。苦手な方はご注意下さいませ。
翌朝のワイドショーでショッピングモールで女性が襲われた、犯人は若い女!という情報を各放送局が伝えていた。
ニュースは気になるけれど、もう学校に行く時間だから…と、テレビを消した。
「夏鈴~悠真~。幼稚園行くよ!準備しよう」
悠真の準備はママがしてくれているので私は夏鈴に厚手のカーディガンを羽織らせた。
「もう少ししたらダウンを着ないとね」
「まだ寒くないよ?」
「本当?夏鈴は元気だな~」
幼稚園に行く悠真、夏鈴は私と…由佳ママは和真を連れて保育園に行く彩香と…玄関先で二手に別れる。
「マリカ」
「う~ん?」
幼稚園に向かう途中で隣を歩く悠真が私を見上げてきた。
「さっきテレビでやってたトイレの幽霊…この間マリカが海お兄ちゃんと行ってたトコだよね?」
幽霊…確かにワイドショーでは面白可笑しく取り上げられていたけれど…。
そう、女性に怪我を負わせて逃げた女は逃げる姿が防犯カメラに映っていないということが分かり(それはそうだ、持田 瑞希はすでに一時間以上前にエスカレーターで階下に移動して恐らくモールを出ているはずだ)『恐怖‼トイレの幽霊』なんてテロップを入れてテレビのワイドショーでは盛んに叫んでいた。
「マリカはトイレに入った?何か見た?」
一瞬、鏡に映った例の持田 瑞希を思い出して体がブルッたが
「イイエナニモ~」
と悠真に笑い返しておいた。
「ふーん」
うちのクールボーイ悠真くん…来年小学一年生は鋭い目で私を見上げていた。
「悠君、怖いからゆーれーなんて言わないでよ」
と、言いながら夏鈴が私の手を握り締めてきた。
「ソーダソーダ!ユーレーナンテイナイイナイ!」
「ふーーーーん」
クールボーイは益々胡乱な目で見上げてくる。
幼稚園児2人を園に送り届けてから私も学校に向かった。学校でも昨日の事件の事は噂になっていた。
「テレビ見た?モザイクかかってたけど、あのショッピングモールって水着買いに皆で行った所だよね?」
萌ちゃん鋭い。テレビではモール全体にモザイクをかけて某モールと称していたけれど、正解です。
「そうみたいだね~」
と私は曖昧に返事をしておいた。事件の当日に海斗先輩と一緒だったなんて言ったら悪目立ちしてしまう。
…と思っていたのに
…あの変態が
「いや~あの事件の日は愛しの嫁と例のショッピングモールでランチをしていてな~。…とか、生徒会室で馬鹿が騒いでいたけど、本当か嫁ちゃん?」
放課後…帰ろうとしている私の所へラオウこと、旭谷先輩が結構真剣な魔質を発しながらズオオオゥ…と効果音付きでやって来た。こんな時に限って私の周りには誰もいない。
おおぃぃ~?!こっちは騒がれないように隠していたっていうのに、殿下はベラベラ喋って何してるんだ!
ラオウが怖い顔で私を見ながら魔圧(威圧?)をあげてくる。
「は…はぁぃ。その通りです」
旭谷先輩ははぁ~と溜め息をついた。
「全く…あいつは事件を呼ぶ男だな。嫁ちゃんは大丈夫だったんだな?」
大丈夫と聞かれて…また鏡の中の持田 瑞希を思い出してブルッときたら…さすがラオウ、目を眇めると
「ちょっと生徒会室に来い」
と言われてしまった。
必死で逃げようとしたら、ラオウに首根っこを掴まれて…プラーンとぶら下げられた状態で生徒会室に連れて行かれた。こんな時に限って栃澤 海斗と愉快な仲間たちが生徒会室に勢ぞろいだ。
「あれ~嫁?何をしているんだ?」
「どうにもこうにも、旭谷先輩に捕まってます…。それはそうとっ!どうしてよそでベラベラと余計なことを話すのですかっ!」
吞気にも、よおっ!と手を挙げて挨拶してきた元旦那にイラッとくる。
「そう言ってやるなよ嫁ちゃん~。海斗のやりたい事が一個叶ったんだからさ。え~と何だっけ…『嫁と死ぬ時までに行きたい所100選』だったか?」
「違う違う~『嫁と死ぬまでにやりたい事100選』だよ。ね、海斗?」
と邑岡先輩が海斗先輩に聞くと、海斗先輩は何やら黒革の手帳を通学鞄の中から出してきた。
「そうだ!『嫁とショッピングモールで買い物をする』もクリア出来た。まだ沢山あるが…次は『嫁とカラオケでデュエットする』かな?こ…こらっ?!麻里香!」
私はダッシュで海斗先輩に近づくと黒革の手帳を取り上げた。
手帳の表紙には「嫁と死ぬまでにやりたい事100選」とあり、急いで中を確認する。
嫁と海外旅行に行く…〇印がつけられている。嫁と誕生日にデートする…これにも〇印がついている。ふと…ページの下の方に赤い文字が見えたのでそこを見た。
嫁と〇〇〇に泊まる。嫁と○○○で〇〇〇〇する。嫁に俺の○○○○を〇〇てもらう。嫁を○○○するまで〇〇〇〇する。etc…etc…。
「おぃぃいいい!思わず、自主規制したわっ!何だこのエロい単語の羅列はぁぁ?!このど変態めっ!」
私は黒革の手帳でど変態の頭をこれでもかっ!と言うぐらいに殴りつけてやった。
「痛っ!何だよ?!いずれは嫁になるんだし、それぐらい普通…っ」
「ドアホがっ!特にコレとコレは普通のカップルでもしないと思われることだよっ!」
と口に出すのもはばかられる卑猥な行為と思われる一文を指差して海斗先輩を睨みつける。
「嫁ちゃんは真面目だな~。俺らぐらいの年の男の頭の中って9割はそんな単語の妄想で詰まってるぜ?」
「嘘ぉ?!」
手帳を覗き込んでニヤニヤするラオウの発言に度肝を抜かれる。
そんな…待って?もしかして翔真も常々こんなことをニヤニヤしながら考えているの?ああ、違うっ!うちの翔真に限ってそんなことはないわ…このスペシャルど変態の頭の中がおかしいだけよっ!
そんな訳で愉快な仲間たちを前に魔力云々は省いて、例のトイレの鏡に女の人が映っていたが私の横には誰もいなかったこと。そのまま私は逃げ出して、その後に事件が起こったこと…を話した。
海斗先輩に目線で問いかけると大きく頷いてくれたので、こういう感じの方向でなら話して大丈夫なようだ。
「幽霊か…」
「!」
私が体を震わせると、同じく藤河先輩がガタンと椅子を鳴らしている。そして旭谷先輩を睨んでいる。
「祥吾、そんなものはいない」
「でも嫁ちゃんは見てるし?だったら白昼夢か?」
藤河先輩の顔色が悪い。もしかしてお化けとか苦手なのかな…。私は、はいぃ!と手を挙げた。
「何だ、嫁?」
そう言って海斗先輩が私を見たので、ちょっと目配せしてから旭谷先輩を見た。
「白昼夢というのかは分かりませんが、絶対見た!とも言い切れません…」
フニャフニャと語尾を誤魔化して答えたが、ラオウの威圧が凄い…なんだろう秘孔でも突いてくるのかな?
「取り敢えず、得体の知れない女がうろついていたということだよな?」
「はい…」
得体は知れていますがね。恐らく呪術系の何かが持田 瑞希の周りで発動している…と見て間違いないと思う。
「ニュースを見た限りではその女らしき人物が女性を鏡に叩きつけて怪我を負わせた…と言ってたな」
旭谷先輩は海斗先輩をチラ見して海斗先輩が頷いているのを確認してから再び私を見た。
「そこのショッピングモールはうちの生徒もよく行く場所だよね?特に女生徒は1人でトイレの中に入らないように…と注意喚起をしておかなきゃね」
あ、何だ。生徒会の役員目線でこの事件を気にしていたのか。旭谷先輩は流石ラオウだな。
実はよく分かってないけど、橋本先生が『ラオウはな、名もいらぬ光もいらぬこのラオウが望むものは拳の勝利!と言った真の孤高の王者なんだぁぁ!』とか叫んでいたけど、まさにソレだね。カッコイイね。
その日の夜
海斗先輩からメッセージが届いた。
『明日から試験だが、休み明けに例の鏡を確認しに行かないか?それと、さり気なく真史さんに持田瑞希の様子を尋ねておいてみてくれ』
持田 瑞希の様子?
『どう考えても持田 瑞希が術をかけたのだろう、直感型の術の発動だ。となると推測されるのは幻術、風術、もしくは実体を伴える傀儡の術…これは有機物を魔力で生成するからとんでもなく魔力を消費する』
そうか…直感型の魔力を使ってもし傀儡魔法つまりは、自分の意思通りに動く人形を作っていたとしたら…持田 瑞希さんは魔力を行使しすぎて体調を崩している可能性が高い。
「会社に出勤しているかどうか…を確認するのですね?」
『そういうことだ。頼んだ。試験頑張れよ。愛してる』
「またぁぁ~!…と、いけない」
私は慌てて自分の背後を顧みた。室内灯を落とした部屋の二段ベッドには夏鈴と彩香が眠っている。起こしてしまうところだった。私は携帯電話をしまうと、スタンドの明かりを子供達に向けないように角度を調整してから、ノートを広げた。
取り敢えず明日からの試験に集中しよう。
そして試験が終わり
夜…皆が寝静まった夜10時過ぎ、私の家の前で海斗先輩の到着を待った。
夜のトイレか…。幽霊なんていないさ!とは思っているものの暗がりの恐怖はまた別物だ。
「寒い…」
寒さ対策で自分の周りに温かい膜を張る。魔法の名称は知らない。勝手にほっこりプロテクターと呼んでやろう。
「待たせたな」
ギュン…と目の前に魔力の歪みが起こり、海斗先輩が現れた。只のダウンジャケットにジーンズ姿なんだけどモデルみたいに格好いいですね。
その無駄に格好いい元王子殿下は、私がほっこりプロテクターを発動しているのを見て、驚いていた。
「凄いな、温熱を循環させる魔法かっ!しかも防御障壁を三重構造にして空気の層を作って…」
何か難しいことをブツブツ言ってるよ。これだから思考型の魔術師はイヤなんだよ。すぐに魔術構築を調べたり、術式展開がうんたらかんたらと長い薀蓄を話し出して、困るんだよね。
要は温かければいいんだよ!小難しい理屈はいらねぇんだよ!
「何ですか?面倒臭いですね、はいっ」
ブツブツ言っている元旦那にもほっこりプロテクターをかけてあげた。
「んなっ?!他者にもかけられるのか!凄いぞ、麻里香!」
夜中にほっこりプロテクター如きで騒ぐ元旦那。煩いね、消音魔法もかけておく。
「流石、我が嫁は最高だな」
「私は嫁ではありません。それと言っておきますが夜中にショッピングモールに侵入するのは危険ですよ?防犯カメラが作動しているはずです。少年Aの犯罪者になるつもりですか?」
すると海斗先輩はニヤーーッと笑って私を見下ろした。な、何ですか?
「我が嫁は魔力値は高いのに、案外馬鹿だな~」
おぃぃぃい?!今、馬鹿と言ったか?ど変態馬鹿から馬鹿と言われましたよ?一応元王太子妃であんたの嫁なはずで、現在の彼女なはずの私に向かって馬鹿って言いましたよ?!
「姿を隠せる魔法があるだろう?あれは電子機器の目も誤魔化せる。ほら、携帯のカメラで俺を撮って見ろ」
と、言って海斗先輩は姿隠しの魔法を使った。半信半疑ながら携帯のレンズを海斗先輩に向けた。
「っえ?!海斗先輩が映ってない!」
携帯の画面にはそこに居るはずの海斗先輩がいない?!慌てて顔を上げて見たが確かにニコニコ笑いながら海斗先輩は家の玄関前に立っている。
「だろ~?やっぱりな。魔法で電子機器の目や耳は誤魔化せそうだな。それに家の防犯カメラでも映るかどうか確認してきたからな、無論大丈夫だった」
「そうですか…」
魔法で防犯カメラにも映らない透明人間になれるのか…これは悪用されるのではないのかな?
「泥棒し放題ですね」
「この魔法は直感型の術師には無理だろう。それに俺は金には困ってない。投資も上手く運用出来ている」
ん?
今、普通の高校生にはあまり馴染みのない単語が聞こえましたよ?
「投資…」
「そうだ、中等部の頃から始めた、株の投資は順調だ。生前贈与で不動産もいくつか持っている。全て順調だ」
「…そうですか」
金持ちなのは分かっていたけど、親が持っているだけで海斗先輩自身は庇護下にいる…と思い込んでいた。
高校生で投資家の不動産持ち…。そりゃ海外旅行やプレゼントも豪華にくれる訳だ、自分の稼ぎだもんな。
「だからいつでも安心して嫁に来い!」
「それとこれとは話が別です。さあ、行きますよ」
私は拗ねて文句ばかりを言う海斗先輩の背中を押しながら転移魔法を使った。
取り敢えず、いきなりモール内に転移はやめておいた。
暫く外観を確認してから姿隠しの魔法や消音魔法のかかり具合お互いに再確認してから店内に転移した。
うっかりしていた。本当にうっかりしていた。
ショッピングモールってね、大勢の人が常にいて、電気もついて明るくて活気があるじゃないですか?
人気の無い夜の非常灯くらいしかついていないショッピングモールってなんでこんなに怖いの?
「…っひぃ!…ま、マネキンか、なんで首が無いんだよ!あっても怖いけど!」
つい、文句を言う声を張り上げる。張り上げたところで消音魔法を使っているし、お構いなしに大声を出す。つまりは怖さを紛らわせる為だ。
「ただのマネキンだろ?ほら…」
海斗先輩の差し出してくれた手を急いで掴む。この際恋人繋ぎでもなんでもこいっ!
ジーーッと何かの機械の動作音しかしないフロアを静々と海斗先輩と2人で歩いて行く。物陰から何かが飛び出してくるんじゃないかと気になるが…時々明かりの点いている店舗もある。ショウウィンドウの外から覗いて見ると、店内の内装の工事をしている作業服のお兄さん達が数名いる。
「全くの無人じゃないんですね」
「当たり前だろ?客の居る時間は工事や設備の点検などは出来ない。全て夜間作業になる。ショッピングモールは実質24時間稼働しているって訳だ。後、数時間してみろ。レストランの仕込みで料理人が出勤してくるぞ」
「そうか…早朝からもう出勤しているんだ」
「皆勤勉だな、いや働くのはそういう理由でもないな。生活の為、家族の為…。何だかな~モッテガタードに居る頃より国民の生活ってこうだったのかな?とか実はこうすれば便利だったんじゃないのかな~とか、この世界に来て気付かされることばかりなんだ。自分では目端の利く国王気取りだったがその実、全然国民の事が見えていなかったのではないか…と痛感させられる」
「確かに魔法が使えない分、この世界はそれに頼らないで便利に快適に過ごせるように工夫がなされていますよね」
海斗先輩は嬉しそうに私を見た。
「こうやって麻里香と2人でこの世界の見聞を深められるのは僥倖だな」
この人って根っからの国王陛下なのだな~。てか、それに付き合っている私も国王妃気質だ、と言われればそうかもだけど。
「着いたぞ」
止まっているエスカレーターを自力で上がって、問題のフロアのトイレの前に着いた。
「魔物理防御を張れ」
「御意」
海斗先輩と私に魔物理防御障壁を張る。ゆっくりと女子トイレの方へ向かう。勿論トイレの電気は消えている。トイレ内に着いて、海斗先輩は光魔法を使った。
「電気を使えばメーターが上がって使用が感づかれるからな。この奥の方だな?」
「はい、パウダールームがあって…」
「パウダー…ああ、化粧を直す所か」
ゆっくりと海斗先輩とパウダールームに近づく。そして例の女優ライトのついた鏡の前に2人で立った。
「良かった…今は鏡には私達しか映っていませんね」
「しかし麻里香の言っていた通りだな、なんて禍々しい鏡だ」
海斗先輩は鏡に近づいて行った。その時…。
鏡の中に…持田 瑞希が居た!
「かっ…」
「落ち着け」
鏡の中の持田 瑞希はちょうど私と海斗先輩の間位の位置に立っている。しかも鏡越しに私を見ている。
「せ、先輩ぃ…あの私、目が合ってますぅぅ…」
「何か魔術の波動は感じるか?」
魔術の波動…。自分の体の周りを見る。足元から僅かだが何か術の気配を感じる。
「あ、あの足元のタイルから…」
と言いかけた時に足元のタイルがぐわっと持ち上がって何かに足首を掴まれている?!
「きゃああっ?!」
「麻里香っ!」
体がグルッと回って回転した気がしたがフワリとした柔らかい感触に抱き締められた。
私は海斗先輩の腕の中にいるようだ。どうやら間一髪、投げつけられなかったようだ。
「どうやら、鏡にぶつけられて負傷した女性はこのタイルの下から出て来たこの傀儡に投げつけられたようだな」
傀儡?!慌てて後ろを振り向くと自分が立っていたタイルの所に髪の長い…。
のっぺらぼうが立っていた!
「ぎゃああああ!」
私の悲鳴は消音魔法によって綺麗にかき消された…。
クリスマス時期にホラー…空気読めてなくてすみません^^;




