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暑さをも凌ぐ…

11/5人名修正しております


馬鹿は忘れた頃にやってくる…そんな(ことわざ)はないけれど…


本当に忘れた頃に、馬鹿はやって来た。


八月に入り、来週の花火大会に一緒に行かないか?と普通の高校生らしい定番デートに海斗先輩から誘われたある日の午後、翔真と2人で下の弟妹達4人全員を、ビニールプールに入れて遊ばせていた時だった。


突然、私の障壁に入ってこようとする者がいた。通常…宅配業者さんやご近所の方などは当たり前だが玄関から来る。玄関だけは日中、障壁を張っていない。


玄関からではない、庭の垣根の向こうから入ろうとしている。


私はカウチを出して日陰でスマホを見ている、翔真の横に素早く移動した。


「翔真…声に出さないでね。今、垣根の向こうに誰か居る」


「っ!」


翔真は一瞬腰を浮かしかけて再び座り直して、スマホを見ながら小声で私に話しかけてきた。


「もしかして亮暢?」


「多分、嫁も一緒だと思う。私、玄関から回り込んで確認してくるよ」


「それ、危なくないか?」


「こんな所で何をするっていうのよ?まだお昼だし、ご近所さんの目があるじゃない。兎に角行ってくるから、チビ達見ててね」


一度玄関から外に出ようと庭から家の中に入った。するとポケットに入れていた携帯電話がメッセージを受信する。これは…やはり海斗先輩からだった。


『篠崎家に侵入者あり。気付いているか?』


げげっ何で分かるんだろう?ストーカーの特殊魔法でも使っているのだろうか?


『今、確認に向かっています』


とメッセージを打ち込んでから、消音魔法を使って走って玄関から表へ飛び出して、庭が見える垣根の方へ歩み出た。


やっぱり…亮暢と優樹菜のメンヘラ夫婦が並んで立っていた。その時に気が付いた。亮暢の魔質は相変わらずお腹が真っ黒なのだが…胸の上、首の辺りまで黒くなってないか、あれ?


そんな亮暢の横で優樹菜は垣根を掴もうとしているが、障壁に押されて戻されている。何度も試みた後に首を捻って、亮暢を見上げている。


「やっぱ入れないよ…ナニコレ?特殊な塀なの?」


と優樹菜が聞いた時に、うちの庭から子供達の甲高い笑い声が響いた。和真が水鉄砲で、女子2人に水をかけたのだろう。夏鈴ちゃんと彩香の楽しそうな声が聞こえる。


「かーくん、やだぁ~仕返し~!」


「きゃはは!っかーっ!あー!」


「冷たーい!きゃあ!」


亮暢と優樹菜はその笑い声を聞いて、体をビクッと強張らせた。


「っち…楽しそうにしやがって…」


「ムカつく…」


亮暢と優樹菜の発言に耳を疑った。急いで玄関口に戻ると居間を通り、縁側に出てこっちを向いて顔を強張らせている翔真に人差し指を立てて、黙らせると翔真を手招きして一緒に庭に出た。


さり気なく翔真と私の周りに消音魔法を使いながら2人で垣根の前に立った。


「ゆっくり、垣根のこの辺りに…そうそう、さりげなく立っててね。この向こうに亮暢と嫁がいるよ。」


私はここぞとばかりに『直感型』術師の本領を発揮した。亮暢と優樹菜の声が私達に聞こえるようにスピーカー魔法…を心の中で思い描き…術式を組み上げて発動した。


息を詰めて翔真が垣根の向こう側に耳を澄ませている。


「庭にプール出して水浴びしてんのかよ…優雅なもんだな」


「!」


上手く術が発動したようだ。私と翔真の真横で喋っているかの如く、亮暢の声が聞こえた。


「ホントよね…こっちは暑い中わざわざ来てやっているっているのに…」


何だと?いつあんた達を呼んだんだ?どう考えても勝手に来ているくせに…。翔真も聞き耳を立てながら怖いという表情ではなく、どちらかと言うと吹き出しそうな顔をしていた。


思いっきり笑っていいんだよ?消音魔法使っているしさ~。


「ねえ、もういいじゃない?夏鈴も楽しそうにしてるしさ~」


優樹菜がそう亮暢に言うと、亮暢は舌打ちした。


「お前はムカつかないのか?こっちは貧乏でさ…」


「それは…あんたの稼ぎが少ないからでしょう?」


「お前…っ?!」


「本当の事じゃない!」


「俺はあいつらに慰謝料を…」


「何言ってんのよ?この間、離婚の時に来ていた弁護士が言ってたじゃない!慰謝料がここ数年滞っておりますが?って!あんたさ慰謝料っ慰謝料ってお金が無い時の言い訳みたいに言ってるけどっ一体何に使ってる訳?!」


ひえっ…うちの家の前で痴話げんか始めちゃったよ…。翔真がとんでもなく気まずい顔をしているね。そりゃまだ12才だもんね、大人のこんな喧嘩なんてどう対処していいか分からん気持ちは察するよ…。


「ねーちゃん…これ、どうしよう?」


「う~んご近所迷惑だけど、自分のとこの喧嘩じゃない…って言えばそうだしね」


因みに今、由佳ママは…ばあちゃまとじいちゃまと大人三人で遠方の激安スーパーに買い物に行っている。家族が増えた分、激安…特売…値引きというパワーワードに反応してしまうのは許して欲しい。


さて…いい加減、家の前でぎゃあぎゃあ騒いでいられると、目敏いご近所のおばさまに目撃されて


「ちょっと篠崎さんの所で痴話げんかがあったみたいよ~(誤報)」


という噂話をされて、亮暢が真史お父さんに似ていることもあり、あらぬ誤解を生んで、ご近所に広まるのは避けたいところだが…本当どうしようか?


すると…垣根の向こうで騒ぎだした亮暢と優樹菜の声に夏鈴ちゃんが気付いたようで


「パパ…ママ…?」


と垣根の向こうに呼びかけてしまった。翔真と私がヤバイ…と焦った時は遅かった。夏鈴ちゃんがプールを飛び出すと垣根の方に駆け出してしまい、悠真が


「夏鈴っ!走っちゃダメ!」


と咄嗟に鋭い声を上げてくれて、夏鈴ちゃんが驚いて止まってくれたことで、翔真が夏鈴ちゃんを抱き抱えて表に飛び出すことを防げた。


うちのクールボーイは機転が利くね。


「悠真偉いぞ」


と、悠真の頭を撫でると、照れているのか耳を赤くしていた。


「夏鈴?夏鈴いるんでしょう?ホラおいで!」


垣根の向こうから夏鈴ちゃんを呼ぶ優樹菜の声が聞こえる。夏鈴ちゃんは翔真の腕の中で、翔真を見上げたり、私を見たり、垣根の向こう側を見たり、キョロキョロしながら困った顔をしていた。


こんな小さい子に全てを理解しろなんて無理なんだよね。私は消音魔法を解いて、息を吸い込んだ。


「こんにちは、麻里香です。近々児相の方と一緒に面談があるはずです。その時に夏鈴ちゃんを連れて行きますから、今日の所は帰って頂けませんか?」


「なっ…」


「麻里香…お前っ」


亮暢と優樹菜が声を上げたが、翔真がそれに被せる様に口を開いた。


「夏鈴が困ってる。親なら子供を困らせるな」


直球だ…。亮暢と優樹菜は言葉を詰まらせている。さあ…このまま帰ってくれるのか…。


すると車のクラクションが聞こえ、ばあちゃま達の魔質が近づいて来る。由佳ママとジジババが帰って来たんだ。私は玄関から外へと駆け出した。何故だか翔真も子供達も皆が駆けてついて来る。


ちょうど私が表に走り出た時、車の中からばあちゃまと由佳ママが駆けて出て来た時だった。


由佳ママと優樹菜と言えば元嫁と今嫁の熱いバトルがここに開催される!


…茶化している場合じゃないな、うん。しかし先手を打ってきたのは、篠崎 操(祖母)だった!


「あんた達ぃぃ!こんなとこで何してんのっ!はぁ…ふうぅ…あんた達ねぇ…こんなとこでウロウロしている暇があるなら、あの汚い家を片付けてきなさいっ!あんな汚い所に夏鈴ちゃんを住ませられますかっ!」


ば、ば、ばばあちゃま…!その言葉は、優樹菜には結構な地雷かも?!


案の定、優樹菜はワナワナと震えると急に大きな声で叫んだ。


「あーーーっ!なんだよっ!分かってるよっ!」


優樹菜が叫んだと同時に、翔真の腕の中で夏鈴ちゃんが身を震わせているのが視界に入った。もしかして日頃から癇癪をおこしてこうやって叫び声を上げていたのではないか?夏鈴ちゃんに…その怒りの矛先を向けていたのではないか?


ゼイゼイ言いながら、ばあちゃまが走って来てジロリと亮暢を睨むと亮暢は、ゆっくりと私と翔真の方を見た。夏鈴ちゃんは翔真にきつく抱きついている。


「先日、弁護士を通してお伝えしたはずです。個人的な接触はしないで下さい。児童相談所の職員の方と立ち合いの元、夏鈴ちゃんの生活状況の確認をする予定です。本日は御帰り下さい」


由佳ママが落ち着いてそう答えると、優樹菜は前かがみになると頭を大きく揺すった。


「何だよっあたしが何したって言うんだよ…ちゃんとやってるよ!あんたらに偉そうに言われなくてもやってるよ!なんでわたしばっかり言うんだよっ!こいつだって何もしてないだろっ!」


コイツ…と言って亮暢を指差した優樹菜。ああ、ここに痴話げんか第二ラウンドが開催されました。


指差された亮暢は負けじと優樹菜を指差した。


「お前が家を汚しているのが原因だろうが!ずっと言ってるよな!片付けろって!俺が片付けたら、触るなって怒るくせに全然片付けないだろ?普段家で何してるんだよ?!」


「はああぁ?私だって夏鈴の世話で毎日忙しいんだよっ!夏鈴が汚すから片付けても片付けても汚れが広がるんだよっ!」


思わず翔真と目を合わせて首を傾げてしまう。


夏鈴ちゃんが汚す?そうだろうか?


確かにうちに来た最初の頃は、片付け方自体を知らなかったようで、彩香におもちゃの片づけ方を習い、おやつを食べた後の食器の片づけ方…などを教えてあげるとすぐに片づけの習慣を身に着けて、今では掃除すらも手伝ってくれるのに?


亮暢のターン‼大声のカードを召喚!


「お前が夏鈴に躾を教えりゃいいだろうが?!」


優樹菜のターン!切り札を召喚!


「あんただって何もしないで…私が知らないとでも思ってるんだろ?女だろっ?!女の所だね?」


あ……これどうするんだ?ものすごい修羅場を子供達とジジババ見守る中、開催しちゃってるよぉ。


すると由佳ママがダッシュでこちらに走って来ると翔真にガバッと抱きつきながら


「子供達が見ているんです!よそでやって下さい!」


と、叫んだ。すると翔真の腕の中でうぇ~ん…と夏鈴ちゃんが泣きだして由佳ママが夏鈴ちゃんを翔真から預かると抱き抱えた。夏鈴ちゃんは由佳ママにすがりついた。


「怖かったね~。もう大丈夫だからね」


夏鈴ちゃんの泣き声に彩香と和真と手を繋いでいた悠真が、夏鈴ちゃんを抱えた由佳ママに足早に近づいて行った。


「夏鈴泣くな、俺達がいる」


「カリン~大丈夫だよ」


「カー!イーコイーコ」


あれ?ちょっと良く見れば子供達は裸足で水着じゃないか。道路の小石で足の裏を怪我しちゃうよ!


「あんた達、そんな恰好で…ほら戻ろう」


私が目配せすると翔真が和真を抱き上げて、彩香の手を引き家の方へ連れて行ってくれた。


「ママ、家に入ろう」


由佳ママは夏鈴ちゃんを抱えたまま頷いて歩き出した。


「悠真、ありがとう」


悠真は小さく頷くと由佳ママに寄り添いながら歩き出した。


さて


子供達はいなくなった…。やっと息も整ったのか、ばあちゃまが大きく頷くと、じいちゃまと二人で一歩、亮暢と優樹菜に近づいた。


「子供の前でみっともないよ」


じいちゃまがそう言うと亮暢が、目を剥いた。


「みっともない?誰のせいでこんな惨めな生活になっていると思ってるんだよ!全部由佳と兄貴のせいだろう?!」


驚くね…本当に、いつから真実を捻じ曲げて記憶しているんだろうか。自分が浮気して私達家族を捨てたくせに。


ばあちゃまが私の心を代弁してくれたように大きく溜め息をついた。


「お前、自分がそこの子と浮気したせいで、由佳さんや麻里ちゃん達を捨てたことを忘れたのかい?」


亮暢は口をパクパク動かして、ばあちゃまを見、そして私を見て…そしてものすごい黒い魔質を口から吐き出した。


アレに触れたら…呪いにかかるかもしれない。ヤンデレ病…?怖い。


「麻里香がっ…麻里香本人が兄貴の子供だって言ってたぞっ?!由佳が兄貴と浮気してたんじゃないか!」


「人の話をちゃんと聞け!あんたの子供だけど、真史お父さんの本当の子供の方が良かったって言ったんだ!」


子供としてこれだけは親には言うまい…と決めていた言葉が喉の奥からこみ上げてくる。


「あんたの子供じゃなければ良かったよっ!生まれて来なければ良かったよっ!」


自分で自分を傷つけてしまう言葉だ。分かってて言ってしまった。当然亮暢の事も傷つけてしまうかも…と言わないように、言ってしまわないように気を付けていた。


亮暢は顔をクシャッと歪め後、急に走って逃げ出した。優樹菜も慌てて亮暢の後を追いかけて逃げた。


私は泣きながら亮暢の背中を見詰めた。逃げないでよ…親なら逃げないで欲しかった。


ばあちゃまが私を抱き締めてくれた。


「パパを傷つけた…」


「何言ってんの麻里ちゃんの方がもっといっぱい傷つけられてるよ…」


「でも言っちゃいけない言葉だった…」


ばあちゃまは泣いている私の目元をハンカチで拭いてくれながら何度も首を横に振った。


「あの子は…実の娘に言われないような大人にならなきゃいけなかったんだよ。言われるような振る舞いをしていたあの子が悪い。子供ってね、大切にされていたら自然と親を尊敬するし、敬うんだよ。こればあちゃまの実体験ね。ばあちゃまの両親はとても優しくて尊敬出来る大人だったんだ。なのに…亮暢はどうしちゃったんだろうかね…真史と隔てなく育てたはずなんだけどね…」


「母さん…」


じいちゃまがばあちゃまの背中を撫でている。2人共自分を責めている。亮暢を責めているんじゃない。自分達の育て方が悪かったと自分達を責めている…。


ばあちゃま達に言ってしまいたい。


亮暢の魔質がおかしいんだよ。もしかしたら生まれた時からお腹が黒かったかもしれないんだよ…って。


「私、今は幸せだよ…。うん、ばあちゃまもじいちゃまも…大丈夫だよ」


私は泣きながら何とか言葉にした。その後ひとしきり泣いてから、私達は家に戻った。


夏鈴ちゃんと彩香は疲れて眠ってしまっていた。翔真はプールを片付けてくれていて、悠真は由佳ママの横にまだついていてくれた。


「あ、麻里香…どうなった?」


「逃げたよ」


私の代わりにばあちゃまが答えた。逃げた…と聞いた由佳ママは、そうなの…と小さく呟いて下を向いていた。由佳ママも自分を責めているように見える。


もしかしたら


亮暢の周りには優しすぎる人しかいなかったのかもしれない。


夕方近くに海斗先輩からメッセージが入り、家の外に出ると夕日をバックに背負った海斗先輩がまた電柱の影に隠れていた。


「また不審者丸出しの立ち方止めて下さい!それでなくても今日はご近所さんの目が気になって仕方ないっているのに…」


「あれからどうなったんだ?」


海斗先輩に聞かれてボソボソと話すと海斗先輩は、私の頭を優しく撫でてくれた。


「人生の先輩として言うとだな…。酷い言い様だが、親に向いていない人間もいる。麻里香達はたまたまそんな人間の子供として生まれてしまったのだ。だが、麻里香には俺がいる。真史さんもいる。片親だが由佳さんの子供として生まれることが出来た。皮肉な運命だが僥倖な運命でもあるな。」


そして次の週の花火大会当日


由佳ママに浴衣を着つけてもらい海斗先輩と花火大会…のあれ?会場に行かないの?


私を迎えに来てくれた海斗先輩と私を乗せておべんつさぁんは会場には行かず、オフィス街を抜けて行く。


「ここだ、うちのビル」


と海斗先輩が紹介してくれたビル…どどーんと20階建て?くらいの高さの前でおべんつさぁんは停車しました。


ビクビクしながら進む私とは違い、海斗先輩は堂々と何かを警備員のおじさんに見せて、ゲートを通って行く。そして私と共に、エレベーターに乗った。


「ここ…TZoneのビルですか?」


「ああ。このビルの屋上から見る花火は格別だな…で、麻里香」


「はい」


「浴衣可愛いな、似合っている」


この臆面もなく褒める事の出来る王様気質!見習いたいわ~。


そして20階で降りると、そこから先は階段で屋上に上がるらしい。屋上に上がる階段のロックキー解錠してから屋上に出た。


「うわっ!星綺麗!」


と思わず星空を見て叫んでから気が付いた。屋上に先客が居る。誰だろう?と思っていたら…。海斗先輩が先客に声をかけた。


「あれ?お父さん、お母さん、お2人も花火ですか?」


……ん?


おとうさん…おか………海斗先輩のご両親だっ!


ひえええっ?!と、焦っておろおろしているとその先客、海斗先輩のご両親、TZoneの会長と会長夫人が物凄い勢いでこちらに走って来た。


「ちょっとーーー?!その子っ麻里香ちゃんじゃないのぉぉ?!」


「篠崎 麻里香ちゃんだねーーーっ?!」


「きゃああっ!」


海斗先輩のご両親らしく背の高いお2人に囲まれた!何だか分からないけれど、万事休す!


当たり前だがご両親共美形だ。海斗先輩はお父さんに似ているね。何を言われるか…緊張で背中に汗をかいていた。すると…


「可愛い!」


「へっ?」


「ちょっとー可愛いわ!写真で見るより可愛いわっそれに何よっ可愛さ倍増の浴衣着ているじゃない~」


海斗ママに至近距離から見詰められる。


「初めまして、栃澤 蓮司です。おじさんとアドレス交換してくれるかな?」


「へっ?」


海斗パパに手を握られて強引に海斗パパの方を向かされた。


「ちょっとパパずるいわよぅ…初めまして栃澤 沙織と申します。あーんっ小さくて可愛い!勿論私ともアドレス交換してくれるわよね?そうだ、今度一緒にお食事に行きましょうよ!」


「ママずるいぞ!勿論、私とも行くよね?ショッピングに行こう!」


ナニコレナニコレ?怖くなって海斗先輩を見たけれど、海斗先輩は座って見る為か、椅子を準備されていてこちらを全く見ていない?!誰かーーー助けてくれーー!


おっさんとおばさん(失礼)に無理やりメッセージアドレスの交換させられてしまい、小さい頃は海斗から麻里香ちゃんの写真を見せてもらっていただの、海斗から将来この子と結婚したいだの、という話を散々聞かされた。


「もういい加減にしろよ~」


と海斗先輩が面倒くさそうに声をかけても海斗ママ&パパはガン無視だ。


「高校生になった麻里香ちゃんに会いたいって言ってたんだけど~海斗のガードが固くて~それに私達も仕事が忙しいし、ね?パパ」


「そうそう、まあこの間旅行に行った時の写真は見せてもらったけどね、いや~大きくなったね。実はね、海斗が将来の嫁だ!とか言って盗撮写真を見せて来た時に、盗撮はいけないと注意はしたんだよ?でも、あまりに熱心だからね、ママ?」


「そうそう、それに海斗は写真撮るの上手いのよね~麻里香ちゃんの子供の時の浴衣の写真も可愛かったわ!」


何だって?!そんな写真まで持っているのか?地元の夏祭りまでストーカーに来ていたのか…。


ちょっと待てよ…段々分かってきたよ。前世でナキート殿下もちょーっとはストーカー気質があったかもしれないけれど、現世でこのご両親のDNAの影響を受けて、変態&ストーカーに完全に目覚めて花開いてしまったんじゃないかな、これ?


「ああっ!麻里香ちゃん、花火よ!たまや~~~!」


「かぎや~~~!綺麗だろ?うちのビルの屋上から見る花火は格別だろう?」


「アリガトウゴザイマス…」


圧がすごいなぁ…はっきり言って海斗先輩の圧のほうがマシだな、これ。


海斗先輩がこっちを見て苦笑している。


「俺の両親、暑苦しいだろう?」


海斗先輩の口の動きはそう言っていた。


あなたも十分暑苦しいですよ~と思いながら栃澤ファミリーに囲まれて夏の花火を見上げていたのだった。


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