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仲良しアピール

10/11、11/5誤字脱字修正しております


海斗先輩が楽しみにしていた北海道旅行は取りやめになった。


何故なら、亮暢と亮暢の嫁が、今度は二人で警察に乗り込んで娘が兄夫婦に誘拐されたと騒いだ為だ。


何言っているのだろう…警察の方も事情を知っているし、誘拐も何もすでに警察と児童相談所に連絡している。お互いに別の相手と不倫しているくせにこんな時だけ仲良しアピール?出来る気が知れない。


それにあろうことか奥さんのご実家に警察が事の次第を連絡して、お孫さんを預かってくれますか?と連絡したところ


「そちらで対処してくれませんか」


と言われたとか…。どう対処するんだ、これ。どうやら奥さんのご実家でも娘の部屋はゴミ屋敷だったらしく、嫁に行った後に娘の部屋をこっそり片付けるとたまに帰って来て、部屋が片付けられていて逆ギレ…などを頻繁におこしていたらしい。


後日、ご実家のお母様からばあちゃまに連絡があり


「娘には手を焼いていた。正直もう付き合いたくないのです」


と向こうのお母さんの悲痛な過去話を聞かされたらしい。流石のばあちゃまも、強くは出られず夏鈴ちゃんはこちらに任せて下さい、とだけ言って話を切り上げたらしい。


そしてそのはた迷惑な夫婦のせいで、栃澤 海斗先輩は旅行に行けなかった恨みをどこかにぶつけたいのか、真史お父さんに


「父君はお仕事に専念して下さい、警察とおばあ様達と連携して俺が全て撃退します。お任せ下さい。」


とキリリとして宣言し(中身は変態ストーカーだけど)真史お父さんを感涙させていた。


「頼んだっ…いつもすまんね、栃澤君!」


おっさんと元国王陛下の熱い抱擁…この絵面、誰得何だろうか?〇女子も喜ばんだろう?


いや?イケオジと高校生男子もの、としてイケるのだろうか?


という訳で、とうとう真史家と亮暢家の全面戦争に突入した。


真史サイドには某国立大卒の東條弁護士と海斗先輩もいる。色んな意味で明らかにこちら側の圧勝…なんだが、メンヘラ夫婦のすることは予測不能だった。


夫婦揃って大暴れの3日後、仕事に行っていた真史お父さんからメッセージが、由佳ママに届いた。


『俺の会社に亮暢の同級生の旦那が勤めてるんだが、昨日こう聞かれたんだ。「うちの家内とか複数人の元同級生に連絡してきて、娘が兄に誘拐された、娘が可愛いから浚われたんだ!とか一方的に聞かされたらしいんですけど、娘さんってちょいちょいお弁当を持って来てるあの可愛い子ですか?」って…。意味不明だな。夏鈴ちゃんと麻里香の情報が入り乱れて錯綜している』


「げげっ亮暢のやつ、元同級生にまで連絡してそんなこと言ってるのか…」


由佳ママに届いたメッセージを見せてもらった。由佳ママは結構怒っていた。自分を攻撃するのは困ったわ~で流しているけれど、子供達が攻撃されるのは許せないらしい。


「夏鈴ちゃんや麻里香がなんで誘拐されてきた子なのよっ!失礼しちゃうわ」


「だったら、夏鈴も麻里香も真史さんと仲が良いということアピールしてきたらいい。ちょうどいいじゃないか?麻里香が真史さんに差し入れを持って行けばいい、夏鈴も連れて」


遊びに来ていた海斗先輩が悠真とテレビゲームをしながら、顔はこちらに向けずに画面に集中したままそう言った。


「そうね、そうしたらいいわ!早速…」


由佳ママは真史お父さんに連絡を入れている。どうやらOKが出て、おはぎを作って持って行くことになった。


「夏鈴ちゃん~」


と由佳ママが呼ぶと彩香とお絵かきしていた夏鈴ちゃんが、は~い。と返事をしてこちらに駆けて来た。


「なぁに由佳ママ」


おばちゃん…と由佳ママを呼ばせるには何となく抵抗があり、私が心の中でコッソリと呼んでいる呼び方を教えると、夏鈴ちゃんは素直に聞き入れてくれた。


由佳ママ、と夏鈴ちゃんに呼ばれた方のママも結構嬉しそうだった。


さて由佳ママが夏鈴ちゃんにお出かけの説明をしている間に、おはぎを作らねば…私は自転車で近所のスーパーに小豆を買いに出かけた。


外は炎天下だった。恐らく気温は35℃くらいだろう。私はまだ魔法があるから自身に防御障壁を張って、障壁の中の体感温度を23℃に保って快適だ。そう炎天下の中でも私だけは快適だ。


私と同じく…この炎天下の中、汗だくで子供さんを連れて買い物に来ている主婦の方々が沢山いた。


スーパーに入り、小豆の他に晩御飯用の食材をスーパーのカゴに入れていく。カゴの重さも魔法で軽く出来るので体感の重さはほぼ感じない。私は重さを感じずに買い物が出来る。私だけは…。


私の後ろで泣き出した赤ちゃんを抱えながら、必死の形相で買い物カートを押しているお母さんの姿が目に入る。赤ちゃんのお尻にさり気なく手をかざしながら、オムツを浄化してあげた。


赤ちゃんが泣き止んだ。お母さんがホッとしたような顔をして買い物を続けている。夏は暑いうえに、子供に泣かれてお母さん方は余計に疲れますよね…心中お察しします。


自転車の前カゴと後ろのカゴは買った食品でパンパンだが、電動自転車&私の重力無効化魔法で重さゼロで自転車で軽やかに帰路につく。同じく子供達を自転車に乗せてフラフラしながら帰られているお母さん方を追い越して行く。


追い越しながらお母さん方の自転車の後ろから風魔法で涼風を当ててあげた。少しでも涼しくなりますように。


「ただいま~」


よっこいせ…と食品を下ろしてキッチンに向かうと、居間で悠真と彩香と夏鈴ちゃんとゲラゲラ笑っている元旦那、今彼の男の馬鹿笑いしている姿が目に入った。


軽く殺意が湧いた。外は炎天下だぞ?


世の奥様方の旦那に対する鬼のような所業は…こういう日頃からの積み重ねが爆発して起こるのだと、痛感した。


「麻里香、お疲れ様」


由佳ママが冷えた麦茶を入れて出してくれた。由佳ママは取り込んだ洗濯物を畳みながら、悠真に手渡している。


「晩御飯は冷やし中華にするからね、今から炊飯ジャー使うから~。」


「あ、もち米炊くの?」


「うん」


炊飯をしている間に買って来た小豆、つぶあんの甘さを調節する。さて…冷やし中華の材料を切っておこうか…。


おはぎを形成して、作り終わるとお重箱に詰めた。


「おねーちゃん、もうお出かけ出来るよ!」


え?と思って声のしたほうを振り向くと、夏鈴ちゃんと悠真と彩香…その後ろに、どどんと海斗先輩が立っている。あれ?皆もしかしてついて来るの?


「カリンが行くなら私も行く!」


まさに双子コーデのようなお揃いっぽいワンピースを着た女子2人は二卵性双生児のように見える。


「皆行きたいって言うんだから、いいじゃないか!」


この暑いのに、皆大丈夫かな…。と、思っていたら栃澤さん家のおべんつさぁんのお陰で、快適な陸路の旅をお楽しみ頂けました。


「ありがとうございます、海斗先輩」


「ん…この暑いのに子供達を歩かせる訳にいかないしな。それに電車だと亮暢や嫁に待ち伏せされそうで、出来れば避けたい。」


なるほどね、このくっそ暑い中メンヘラ夫婦が外にいるとは思えないが…馬鹿は暑さをも凌駕しているかもしれないしね、油断は禁物だ。


そうして、真史お父さんの会社の前に着いた。あれ?今日もまたビルの入口の前に真史WITH部下&同僚みたいな軍団が立っている。


「~〇〇ツだ!」


「あ、麻里香ちゃんだわ!」


と私の名前を呼びかけられて、よく見るとあの和菓子の好きな部下の下島さん(男性)と2人は両想いかな?の、名取さん(女性)がニコニコと笑顔で手を振っている。


「パパ~!」


彩香が車から飛び出して行ったので、つられるようにして夏鈴ちゃんも飛び出して行く。


「マサパパ!」


真史お父さんは駆けて来る女子2人を満面の笑顔で迎えて抱き上げた。


「車で来たのか?海斗君にお礼は言ったのか?」


「あ、カイちゃん~ありがと!」


「ありがとう、おにーちゃん」


真史お父さんに抱っこされた2人の女児を見て、会社の方々は首を捻っている。


「あれ?篠崎部長のお子さん、まだ女の子いましたっけ?」


「双子だったの~?!」


「いやいや、この子は預かっているの。弟のとこの子。夏鈴、お兄さん達にご挨拶して。」


「篠崎 夏鈴です、5歳です。」


「これまた可愛いじゃない!篠崎三姉妹だね」


「ああ!今度は男の子がいるわ!可愛い!」


「いくつ?麻里香ちゃんのすぐ下?」


「ううん、上にお兄ちゃんがいます」


「や~っ可愛い!…っは?!」


車から降りて来た、クールボーイ悠真に女子社員が群がった。しかしその後から海斗先輩が降りて来ると、女子社員の目つきが変わった。魔質も変わった。


「麻里香、差し入れ」


海斗先輩が促したので、私は思わず下島さんに、差し入れです!と言っておはぎの入ったトートバックを差し出した。


「あ、おはぎ?やった!」


と下島さんがパッと魔力を輝かせたのに対して、少し後ろにいる名取さんはちょっと魔力を陰らせた。ん?どうしたんだろうか?気になって名取さんのお顔を見たら、ニコッと微笑んではくれるけど元気がない気がする。


私はチラリと真史お父さんWITH会社の同僚達を見た。彩香と夏鈴ちゃんは今は悠真の所に行っている。


「じゃあ、うちのが電話で弟さんが騒いでたって言ってたけど、言いがかりなんですね」


「そうなんだよ~俺の母親と向こうのお母さんと相談して、うちで暫く預かることにしたんだ。うちなら遊び相手もいっぱいいるしね」


「平田さんに先ほど聞いたんだけど、弟さん、誘拐とか騒いでたんだって?」


「まさかまさか~実は身内の事だからあまり言いたくないけど、ネグレクトの兆候があると、児相やご近所の方に相談を受けたんですよ」


「ええっ!!それは大変だ~」


とか真史お父さんは華麗な話術で、例の亮暢の同級生の旦那と思しき男性を含む数人とヒソヒソと話している。まあ、真史お父さんはわざとこんな所で話しているんでしょうけど。


皆が居る所で釈明?とかしておかないと被害者ぶった亮暢の良いように噂が広がる恐れがある。夏鈴ちゃんを含む私達が、皆で仲良しアピールしておけば少なくとも会社の同僚の間では噂は否定されるだろう。


そしてもう一か所、言わなくてもいいのにわざとこんな所で高笑いをする男がいる。


「篠崎部長のお嬢さんの彼氏なんだ~」


「へぇ…」


という私の彼氏ということが分かって、明らかにテンションの下がったお姉様達とは違い、カカカ…と笑いながら殊更に大声で


「そうなんです!麻里香と熱愛中の彼氏なんです!」


と綺麗どころのお姉様に囲まれて、その中心で愛を叫ぶ馬鹿の背中に私は膝キックを入れた。


「こんなオフィス街の中心で何を叫んでいるんですかっ!非常識ですよ!」


「俺がどこで愛を叫ぼうが俺の自由だ!」


お姉様達は海斗先輩にドン引きしていた。物理的にも一㍍は後ろに下がった…気がする。


私は背負っていたリュックサックの中から癒しの術師の洋菓子店の焼き菓子詰め合わせを取り出して、お姉様達の一番先頭にいた、名取さん(女性)に焼き菓子を手渡した。


「お騒がせしております」


名取さんはギフトラッピングされた籠を受け取りながら、私にガッツポーズをして見せた。


「大変ね…頑張って!」


別のお姉様もガッツポーズをして頷いている。


「彼氏…イケメンなのに残念な子ね…」


はい、その通りでございます。


そう言ってお姉様達と談笑している間も名取さん(女性)の魔力が落ち込んでいる。いつも綺麗な魔質なのに…。


「あの名取さん、今日具合悪いんですか?」


「え?」


あ、いきなり聞いて変だと思われたかな…えっと…。


「今日はちょっとお元気無いみたいで…」


「あ…」


と、名取さんを含む女子社員が思い当たったのか、チラチラと和菓子大好き下島さん(男性)の方を見ている。


「下島さん…てね、今、母方の姓を名乗っているけど元々はアパレルメーカーの御曹司なんだって!でね、今年入社して来た女子社員がそこそこのお嬢様で、下島さんの正体を知ってて…下島さんの迷惑を顧みずに追い掛け回しているのよ。で、下島さんと仲の良い名取ちゃんにその新人のお嬢が嫌味を言ってくるのよ、ホントやだね~」


名取さん本人はショボンとしたまま黙っていたけど、横にいる背の高いお姉さんが代わりに語ってくれた。同じく周りにいる眼鏡のお姉さんも大きく頷き、もう1人のメイク濃いめのお姉さんもネイルの爪をキラッと輝かせながら


「どう見ても下島と名取はお似合いじゃないか…厚かましい女だよ」


と、睨みと一緒に下島さんの横に居る若い女の子をネイルでコーティングしたつけ爪を投げそうな勢いで指差していた。


なるほどあれがお嬢様か…。ああ嫌だ、この子も赤リップじゃないか。おまけにお腹の魔質がちょっぴり黒いな。


これぞ、まさに腹黒だね。


ところがだ、彩香と夏鈴ちゃんの2人とロビーで何か話しては笑いあっている海斗先輩の所に、その新入社員のお嬢がスッと近づいて行くのが見えた。


「あれっ…ちょっとっ」


眼鏡のお姉様もその動きに気が付いたみたいで、鋭い声を上げるとその場に居た女子社員が全員、海斗先輩とお嬢様の方を見た。お嬢様は何かを話しかけて携帯電話を出してきている。


「ねえアレ、連絡先聞こうとしているんじゃない?」


「私だって聞きたいぐらいだよ!」


「何だあれ…」


お姉さん達がざわつきながら、見守っていると海斗先輩の大きな声がこちらまで聞こえてきた。


「俺に連絡先を聞いてどうするんですか?もしかして俺に彼女の前で浮気の疑いを抱かせるつもりですか?」


会社前の広場に居た真史お父さんWITH同僚の方々や下島さん…私とお姉さん方全員が動きを止めて、海斗先輩とお嬢を見詰めている。お嬢様は慌てて


「あ、…えっとそう言うつもりじゃなく軽い感じで…。あなたのお友達をちょっと紹介してもらえたら…とか」


と言っている。連絡先を聞くのに軽いも重いもあるんだろうか?ちょっと紹介って何だ?


海斗先輩は魔質をぎらつかせている。


「俺の友達にだって選ぶ権利はある。もうお仕事に戻られては?その様子じゃ仕事を溜め込んでいるだろうしね」


思わず海斗先輩に拍手しそうになった。横のお姉様達は、小声でヨシッ…とかよく言った!とか言って小さくガッツポーズをしている。


そして横に立つ名取さんをチラ見したら、アレ?いつの間にか下島さんが名取さんの横に来ていて、私が渡した焼き菓子の籠の中を2人で覗き込んで嬉しそうに笑っている。


そんな下島さんはキリッとした顔のイケメンさんだ。下島さんは私の視線に気が付くと小声で


「麻里香ちゃん、おはぎもありがと!」


と白い歯を見せて笑った。爽やか~。


お嬢様はクルッと踵を貸すと顔を真っ赤にしたまま、周りをキョロキョロ見てからやっとこちらに目線を向けた。そして、下島さんと名取さんがお菓子の袋を持って和やかにしている姿を見て目を吊り上げた。


お嬢様がこちらに駆けて来ようとしたその時


「よし、そろそろ皆戻ろうか、麻里香達も気を付けて帰るんだぞ。栃澤君、帰りも宜しく頼むね」


と真史お父さんが絶妙のタイミングで割って入ってくれた。


お父さん流石!思わずサムズアップをしてしまった。すると悠真と海斗先輩もサムズアップをしている。


お嬢様は名取さんを睨んだり、下島さんをウルウルした瞳で見つめたり、はたまた仕事に戻って行く皆さまを見送っている海斗先輩をじっとりした目で見詰めたり…と最後まで広場に居て、非常に鬱陶しかった。


「よ~し、帰りは皆でかき氷食べて帰ろうか!」


「わーい!」


「やったぁ!」


と、子供達とキャッキャッ騒いでいる海斗先輩は、もうお嬢様のことなんてまるで気にしていないようだった。


私はおべんつさぁんに乗り込む前にビルの方を見てみた。


お嬢様の姿はビルの中に消えていないけれど、気になって魔質を探ってしまった。


あの子もお腹が黒かった…。


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