大事になってます
今更ですが、あくまでフィクションなので実在する人物、団体とは一切関係がございません。
取り締まりされる組織の業務もふんわりとした知識で書いております、あしからず^^
ブクマありがとうございますー!夏休み中の学校行事が分からないー(笑)
「お怪我は?」
海斗先輩がばあちゃまに声をかけるとばあちゃまは頭を摩りながら
「年寄りは頭が固く出来てるのよ!」
と言ってニッコリと微笑んでいた。そして急いで私と夏鈴ちゃんの傍に来ると
「2人共、怪我はない?」
と私と夏鈴ちゃんの手を何度も摩ってくれた。ばあちゃまの優しい魔力が体に流れ込んでくる。
「取り敢えず、亮暢にメッセージを入れておこう」
ばあちゃまがそう言ったので皆が頷いた。鈴木さんのご主人と鈴木ママが、悠真と一緒に玄関口まで来てくれていた。翔真が顔を強張らせている悠真を抱っこしている。
「え~と夏鈴ちゃんが家に独りだ…。嫁は癇癪を起して出て行った。戻って来るのを何時間も待っていられないので、今晩は夏鈴ちゃんを家に預かる。よし、送信」
「おばあ様方は俺の車でご自宅まで送ります」
海斗先輩はばあちゃまにそう言ってから、鈴木さんご夫妻に向けて頭を下げた。
「栃澤と申します。篠崎さんご家族の件でご心配とご配慮ありがとうございました。改めてお礼にお伺い致します」
鈴木ご夫妻は大変恐縮されていたけれど、鈴木ママが去り際に私に小声で囁いて帰られた。
「篠崎さんの奥さんね…粘着質なタイプよ?気を付けてね」
うぉぉ…それは亮暢と嫁でどちらも粘着&粘着ですか~。これは厄介なことかも?
私は海斗先輩に目配せをした。海斗先輩も気が付いて小さく頷いた。私と海斗先輩は少しばかり優樹菜さんの帰りを待ってみるということにして、帰りは海斗先輩と帰るから~とばあちゃまの許可を貰い、亮暢のアパートに残った。
「あれは…魔に憑かれているようだが、麻里香は分かったか?」
皆がいなくなった後、海斗先輩にすぐに聞かれた。
「はい…お腹の中が黒かったです…。亮暢といい、2人もあんな魔質の異常といってよい状態の人間を見たのは初めてです」
海斗先輩はそうだな…と呟いた後暫く考え込んでいた。
「そうだな、こちらの世界には外科的治療を施す医師は存在するが…魔力に関する治療を施せる治療術師は存在しない。つまり、亮暢も嫁の旧姓、多部 優樹菜も魔力を腐らせる病…病名は何だったか?アレを患っているのだろう。あちらの世界では稀な病だな。大抵は黒くなる前に魔術の巡りが悪いから…と術師に治療をお願いするしな」
そうだ、あの病…たしかこちらの世界でいうところの『精神病』に分類される病。
「確か…腐黒病…だったかと思います。こちらでは確かに術師はおりませんから、あの魔力の絡んだ病は気付かれず放置されているのでしょうね」
「確かに外を歩いていると、亮暢ほどではないが、腹が黒くなっている人間を見ることがあるな。本当に初期の段階なら浄化でも払えるかもしれんが、根本的な治療とはまた別だしな。それよりも問題なのが…腐黒病の行きつく先…病が進行した場合はどうなるか…嫁は知っているか?」
海斗先輩に聞かれて首を捻る。流石に魔術医の資格は無いし…そこまで詳しくはない。
「知らんか…いや、俺も知らんのだよな…はぁ~こんなことなら薬草学と植物栽培方法の本ばかり読んでないで医術書でも読んでおくんだったなぁ~」
なんでまた、そんな地味目な本を読んでいるの?
「ん?だって嫁のティアーナ化粧品の仕事に関することに必要な知識しか俺は蓄えておらんし」
言い切った!言い切ったよ!
「まあ、冗談は兎も角、医術的な専門知識は無いのが現状だ…どうしたものかな」
そりゃ冗談だよね。私の記憶しているナキート殿下は非常に勤勉だ。専門的…とは言ってはいたが専門外のことまで幅広くご存じで造詣が深い。単純に治療術の素養がご自身になかった為に詳しくない…程度のことだろう。
私がこの家は黒い悪魔が出て来そうでイヤだ!とごねたので一旦、アパートの外に出て、亮暢か亮暢嫁の帰りを待つことにした。
「そうだ、先輩」
「ん?」
「当初の目的であった、亮暢の不倫疑惑は確定のようです。私達がモールで目撃した女性と多部 優樹菜さんは別人でした」
海斗先輩は大きく溜め息をついた後、星空を見上げた。
「嫁の父親だからあまり悪くは言いたくはないが、不貞行為を止められないのは病の一種なのかな…」
「気を使わないで下さい、私も病気だと思っていますから」
その後、暫く外で待っていたが亮暢も優樹菜さんも帰って来なかった。私と海斗先輩は転移魔法でそれぞれの家に帰った。
「ただいま~」
私が帰ると真史お父さんと由佳ママが慌てて玄関先に出て来た。
「おかえり、どうだった?亮暢帰って来たか?」
私が横に首を振ると、真史お父さんは明らかにがっかりしたような顔をした。
「俺からも夏鈴ちゃんを預かっているからって、ばあちゃんの携帯使って連絡は入れてあるんだ。俺の方のメッセージは拒否されてるからな」
お父さん…それも切ないなぁ…。すると由佳ママの後ろから彩香と夏鈴ちゃん2人が手を繋いで歩いてきた。
「うわっ…並んでると益々似てるね」
私がそう言うと彩香と夏鈴ちゃんは互いに見詰め合い笑いあっている。
「誰がどう見ても従姉妹だし…まあそういう意味でも妹だね」
由佳ママが苦笑している。うん、夏鈴ちゃんがうちの家族に混じってても違和感ゼロだね。
「で、ばあちゃまは?」
「今日は泊まるって。じいちゃまもいるわよ」
と由佳ママと居間に入って行くと、ソファに座ってばあちゃまはビールを飲んでいた。
「おかえり、麻里香。どうだったの?」
「ダメだね、待ってたけど誰も帰って来なかった…ん?」
私と話している最中にばあちゃまの携帯電話が鳴った。しかし画面の表示を見てばあちゃまは首を傾げている。
「誰だろ?知らない番号だね?もしもーし、篠崎ですぅ~。へ?はい…そうですけど…?え?今なんておっしゃいました?」
電話に出たばあちゃまはガバッとソファから立ち上がった。
「ちょ…ちょっとお待ち下さい!何故そうなるんです?私はその子の祖母ですよ?はあぁ?、どういうことですか?じゃあ何ですか?こんな夜遅くまで、6才になるかならないかの子供をご飯もあげず…あんな汚い部屋に置いておけというのですか?え?ええ…そうですよ!私が訪ねた時は一人でお留守番してましたよ。何ですって?ええ…構いませんよ?どうぞどうぞ、住所言いましょうか?〇〇区…」
な、なんだどうした?
真史お父さんの顔つきが変わった。
「母さん、誰?」
ばあちゃまは何度も真史お父さんに大きく頷いて見せた。
「…12-10です。はい、あの息子の…え~と夏鈴ちゃんから見て伯父にあたります息子と今、お電話代わりますね。お兄ちゃん…えらいことよ?あの亮暢の嫁さん、今、警察に駆け込んで私らが不法侵入したって騒いでるらしいのよ。この電話、警察の方からよ」
「ええっ!」
「何だって!」
篠崎家の叫び声が居間に響く。真史お父さんは、ばあちゃまから携帯電話を受け取ると…警察?の人と話し出した。
「ばあちゃまっ?どうしてばあちゃまの電話番号をあの人…お嫁さんが知っているの?」
私がばあちゃまにそう聞くとばあちゃまは、あちゃ~と額を手で叩いていた。
「亮暢に困ったことがあったらいつでも電話してきなさい…て番号は教えているのよ。もしかしてそこからかも。でもあの嫁が知っているのは謎だけどね」
「おばーちゃん…」
夏鈴ちゃんが心配そうにばあちゃまの隣まで歩いてきた。ばあちゃまは夏鈴ちゃんを抱き上げると膝に乗せた。
「夏鈴ちゃんは何も心配することないよ~。真史伯父さんがちゃんとお話してくれているからね」
真史お父さんはこちらをチラッと見てから頷いた。
「こちらとしましては、未就学児を保護した経緯はお伝えした通りです。何でしたら今からでも私共も立ち会いまして、弟の自宅の惨状を見て頂いても構いませんよ?祖母や娘達が見たところ、ゴミ屋敷同然だったと申しております。不衛生且つ、子供が長時間放置されている現状を看過できずに、私共の保護下に連れてきた次第です」
真史お父さん冷静だ…。カッコイイ…。
そして真史お父さんは弁護士の東條さんに連絡して、ばあちゃまと夏鈴ちゃんを連れて亮暢のアパートに行くことになった。勿論私も一緒だ。移動中に海斗先輩に連絡を入れた。
『俺も隠れて見張る。気を抜くな』
隠れるの好きだな…堂々と見張ってくれててもいいんだけどさ…。
ところがところがだ
真史お父さんの車で夜道を急いでいると、警察からまた連絡があった。電話に出たばあちゃまはまた、絶叫していた。
「ええ?逃げたぁ?」
真史お父さんは車を路肩に寄せて、電話を代わった。
「ええ、はい。それで…はい。分かりました…そちらには向います、はい」
どうしたの?ええ?逃げたって…まさか?
「あの嫁さん…警察官を引き連れて亮暢のアパートまで行ったのに急に逃げたんだってさ。一応、警官が後を追いかけたんだけど見失ったって…。ふぅ…取り敢えず行こうか」
真史お父さんの溜め息にものすごい怒りの魔力が乗せられている…おまけに疲れてそうだ。運転代わってあげたいけど、免許持ってないしごめんね。
『亮暢アパート前にて、嫁脱走。警察見失う』
と海斗先輩に送るとすぐに返事が帰って来た。
『大丈夫だ、俺が一足先にアパートに着いた時に警察との悶着は確認済みだ。多部 優樹菜を尾行中。』
「海斗先輩…海斗刑事だ!」
「どうしたの?」
ばあちゃまに声をかけられて、後部座席に座っているばあちゃまに顔を向けた。
「すごいよ、先に海斗先輩がアパートの前に着いた時にちょうど嫁が逃げたところだったんだって!今ね、海斗先輩があのお嫁さんを尾行してるんだって!」
「おおっ!すごいぞ、栃澤君!」
「まああ!」
お父さんとばあちゃまの歓声が車内でおこります。
そして真史お父さんの運転する車もやっと亮暢のアパートに着きました。真史お父さん運転おつかれ…。
うわ…。複数の警察官が表の駐車場にいる。あ、アパートの廊下には鈴木ママがいる。
「鈴木さん!」
と声をかけると鈴木ママが駆け寄って来た。真史お父さんとばあちゃまは警察官の方へ小走りに駆けて行った。
「麻里香ちゃん、こっちは大変だったのよ~さっきね、あの奥さん玄関先で泣き叫んで暴れて…どこかへ行ったみたいよ?ねえ、警察来てるけど何かあったの?」
私は簡単に状況を説明した。鈴木ママが証言してくれると助かるからだ。
鈴木ママはすぐに警察官に、自分も現場を見たと名乗りを上げてくれて、警察官立ち会いの元、亮暢の部屋に入った。
しかし部屋に入った途端、ガサガサ…。と、私の心を凍らせるヤツの、黒い悪魔の動く音がした…気がした。
「キャアア!ゴ…っ!」
鈴木ママが私より先に叫んだので、幸か不幸か悲鳴は上げずに済んだが、恐怖で寿命が一か月は縮んだ気がする。あくまで気がするだけだ。
「こりゃ酷いですな~」
「まさかこれほどとは、麻里香これで片付けたんだろう?」
真史お父さんに聞かれてばあちゃまと顔見合わせた。
「ソファの周りとシンクは掃除したけど…」
「実は住人の方から異臭がするとか、そのさっきの虫とかが湧いてきて困るって…苦情が」
と鈴木ママが警察官に説明している。なるほど、前から酷かったんだね。
「夏鈴ちゃんのことも心配してたんですよ…最近はずっと一人で家にいるみたいだし…」
鈴木ママが熱弁を振るってくれているので、私達は聞き役だ。ん?携帯電話に…先輩からのメッセージだ。
『多部 優樹菜は都心の近くのアパートに入って行った。入った部屋の中を確認した。どうやら多部 優樹菜もよそに男がいるようだ。ダブル不倫だな』
言葉が出ないとはこういう状態を言うのだろうか…。メッセージを読む為に部屋の外に出ていて良かった。メッセージの返事を打つ手が震える。
夏鈴ちゃんを置いていき…自分は男の所へ行った…。親なら何故夏鈴ちゃんを迎えに来ないのだ?何故警察で騒いだくせに逃げるのか…。
「部屋の中を我々が見ようとしたら暴れられましてね…もしかするとこの部屋の中を見られたくなかったのかな~」
と、吞気に説明している警察官の声が聞こえる。そうかもね…あの多部 優樹菜も自分でゴミ屋敷だと自覚症状はある訳だからこそ、私達に見られておまけに掃除もされていたから、主婦?のプライドが刺激されて激高したわけだ。
しかしな~こっちも不倫。あっちも不倫かあ…。
警察官の方々と真史お父さんの話し合いは済んだようだ。
「事件性は無いし、今のところは様子見だ。よし、夏鈴ちゃんは今日から伯父さん家にお泊りだ」
真史お父さんがそう言って夏鈴ちゃんの頭を撫でると夏鈴ちゃんはパアッと笑顔になって私とばあちゃまの顔を見上げた。
この子に罪は無い…。この子だって少なくとも優樹菜さんに望まれて生まれてきたはずなんだ。
取り敢えず両親共、連絡がつかないので夏鈴ちゃんを預かることになった。弁護士の東條先生が間に入ってくれて、児童相談所に相談したり、警察官の方との話に同席してくれることになったらしい。
家に帰って夏鈴ちゃんを寝かしつけてから、翔真を交えて大人の篠崎家の家族会議がスタートした。
ばあちゃまが亮暢の嫁が、亮暢がショッピングモールで連れて歩いていた女性とは別人だったと、嫁が家をゴミ屋敷にしていたと、帰宅してきた嫁がもの投げてきて大暴れしてきたことを立ち上がって熱弁していた。
私と翔真は時々会話に合いの手を入れるだけの簡単な仕事だ。
断じて茶化すような家族会議の内容ではないけれど…。
じいちゃまと由佳ママは話を聞き終えると本当に頭を抱えていた。
「亮暢のヤツは何をしてるんだ…」
「夏鈴ちゃんが可哀そうよ…」
「まだ亮暢から連絡は来ないんだよね?」
真史お父さんが、ばあちゃまに聞くとばあちゃまは何度も頷いている。これアレだな、またブロック?再びかもしれないね。
次の日も亮暢も嫁からも連絡は無い。
海斗先輩がアイスクリームをお土産に、次の日の昼過ぎに我が家に遊びに来てくれた。
「連絡はあったか?」
「ないですね…」
海斗先輩と庭に出た。ちびっ子達はお土産のアイスクリームをキャッキャッ騒ぎながら食べている。夏鈴ちゃんも彩香も笑顔だ。
妹の彩香にしてみれば突然現れた従姉妹…しかも自分と一つ違いの女の子の存在にものすごく嬉しそうだ。女の子の遊びに悠真は勿論、付き合ってくれず…和真ではまだまだ赤ちゃんで相手としては面白くない。
夏鈴ちゃんも同世代のしかも好みが似ている従姉妹の出現に、これまた楽しそうだ。暇があれば女子二人でイチャイチャ?している。うんうん、2人共が遊び相手を得られたことに満足そうだ。
「尾行して…亮暢の奥さんは、その…別の人の所に泊まったのでしょうか?」
「そうだな一応、追尾魔法の系統の魔法をしかけてきた。亮暢の嫁が動いたら分かるものだ。今の所、動きなしだ」
はぁ…これで不倫確定か…。
「麻里香悔しいがな、この世界では俺達はまだ未成年だ。大人の色恋の揉め事に普通の子供は参加出来ない。まず不倫だなんだと…理解に苦しむものだしな。まあ俺はジジイだからよく分かっているつもりだが…」
「嫌だ…経験がおありなんですか?」
海斗先輩に疑惑の目を向ける。もしかして私が死んでいない時に人妻に手を出したりしていたんじゃないのかしら?
「な…なっなんだその目は?!俺は嫁一筋だぞぅ!あくまで知人友人の話だ!あいつらはそんな色恋も自慢話のように語るだろうがっ!」
「はいはいソウデスネ…」
その後私に疑われた事を根に持って、ネチネチ嫌味を言っていた海斗先輩は昼食の夏の定番、冷やし素麺を食べてご満悦で帰って言った。
去り際に
「8月に入ったら、別荘に行かないか?あ、海外じゃないぞ?」
と言って帰って行ったけど…あれ?よく考えればまさか変態と二人っきりで旅行なの?
気分的には、はあ…そうですか~だけど、今の現状16才の高校生で彼氏と泊りがけの旅行なんて倫理的にマズくない?
慌てて先輩にメッセージを送った。
『彼氏と泊りがけの旅行は年齢的にマズいです』
すぐに返信が返ってきた。
『あれ?二人っきりがいいの?それでもいいけど、そうなったら麻里香を頂いちゃうよ?』
頂いちゃうよ?いただいちゃう…!このエロ変態!
「まだ早い!」
あれ?まだ…?っていうことはいつかは…?
『皆一緒だ。夏鈴の歓迎会も兼ねて、皆で北海道だ!』
わああ!北海道?それはいいかも!
また先輩からメッセージが届く。
『夏の北海道は星空も綺麗らしいぞ。お前と見る夜空が今から楽しみだな』
うわっ…出た!さすが元王子様は言うことがかっこいいね。
家の中から子供達の笑い声が聞こえる。夏鈴ちゃんも旅行楽しんでくれるといいな…。




