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ファイヤーボール


「麻里香さんが困っていたので聞き出して、簡単に事情の説明は受けています。失礼を承知で元ご主人、篠崎 亮暢氏の素行調査もしております。それを踏まえて誠に勝手ながら翔真君にはうちの護衛をつけてます」


びっくり、只々びっくりしていた。


これ誰?一眼レフで私をつけ狙う変態じゃなかったっけ?


「ご、護衛?」


真史お父さんが衝撃から立ち直ったのか、震える声で海斗先輩に聞いている。海斗先輩は一度頷いて、翔真の顔を優しい目で見た。


「学校からの下校時間とサッカークラブの行き帰り…不審者が近づいて来ないように見守っています。亮暢氏は翔真と悠真に近づいて…恐らく自分を父親だと認識させたいと思うのです。」


私達はリビングに戻ると、海斗先輩が持ち出してきた『篠崎 亮暢氏に関する調査報告書』を皆で覗き込んで読み進めた。


「ねえね、この漢字何て書いてあるの?」


何故だか悠真が真剣に調査報告書を一緒に覗き込んでいる。


「吹聴…嘘をついて大げさに言っているっていう意味よ」


「ふぅん…」


「このように素行調査をしていて分かった事は何かあれば前妻と子供達を話題にあげているということです。前のご家族と何かしらの接点を持ちたい…と亮暢氏は考えていると思われます。俺が麻里香さんから話を聞いて、調査員に聞いた話を総合すると、由佳さんには自分を追いかけてくれる悪い前妻の役を演じて欲しいのだということが分かりました」


「私が悪い前妻の役?」


由佳ママがそう聞くと海斗先輩は私をチラッと見てからママに頷いていた。


そうか…。何となく私達の、亮暢から見た私達のこうあって欲しい立ち位置が分かってきた。私は手を挙げた。


「分かったよ!亮暢が悲劇のヒロインになる為に悪役が必要なんだね?それが私達で、私達の知らない所で勝手に悪者扱いされている。つまり亮暢が可哀そう~になる為のネタ要員にされている訳ね」


真史お父さんが、そうか!と声を上げた。


「こっちが亮暢の思った方に動いてくれなくちゃ困るから、翔真に探りを入れてきたのか」


「でもね、お父さん。多分亮暢が想像していたのとは違っているからアイツ困っていると思うのよ。つまり最初の予定では、ママはシングルマザーで生活は困窮するはずだった、そして慰謝料は滞っているので、亮暢に怒鳴り込む。亮暢はのらりくらりそれをかわす。そして傍目から見たらママが亮暢にストーカーまがいのことをしているように見せかけて、それを周りに言う。俺、まだ前の嫁に執着されちゃってさ、怖いわ~とかね」


「本当だわ。確かにそれなら怖いわね」


由佳ママは吞気におっしゃってますが…あなたのことをあの悲劇野郎はそう言う風に周りに話していたのよ?


「そうか、それであの慰謝料の額なんだな?亮暢としては慰謝料が振り込まれていないと言って…由佳に自分を構って欲しかったわけだ。ところが由佳はそれどころじゃない…初めの二年間なんてパートと家の事で忙しかったもんな」


由佳ママは何度も頷いて、悠真や翔真を見詰めている。


「最初は必死だったもの、麻里香が助けてくれて本当に有難かったわ。家の事、全部してくれていたのよ?帰ったらご飯も全部作ってくれていて、お洗濯もお掃除も全部してくれてたのよ」


真史お父さんと海斗先輩の驚きの顔が私を見詰める。私は得意げに顔を上げた。


「私が二年間、翔真と悠真を育てたのよ!」


「また言ってら」


「その言葉好きだね」


翔真と悠真から同時にツッコまれる。


「そうか、更に亮暢の誤算は麻里香の存在か…。由佳を追い詰めて悪役にしようとしたのに、麻里香の頑張りのおかげで由佳達は母子家庭生活が順調にスタートしてしまったわけだ」


「それにね、もっと誤算があったと思うよ?」


真史お父さんが私に何?という顔を向けてきた。私はリビングのソファから立ち上がると仁王立ちになった。


「真史お父さんとばあちゃまとじいちゃまの事よ。亮暢の予定では自分の味方になって、亮暢可哀そうだったね、頑張ったね、と慰めてくれる予定だったばあちゃまがママの味方についちゃったことよ。私が思うに、ばあちゃまのことを亮暢が見くびっていたと思うのよ」


「見くびる、って何?ねえね」


「えっと、亮暢がバアバの事を、これは出来ないんじゃないかな?とかあんなのはバアバには難しいかな…と最初から出来ない!と思って見ていることよ」


悠真に説明するのが難しいな、これ。


「分かったわ、麻里香!お義母さんが離婚の時に私と亮暢さんの間に入って動いてくると予想していなかったってことね?」


「そうよ、ママの言うとおりね。恐らくばあちゃまなら、ママの話を聞かないで自分の味方になってくれる…と思っていた。でも違った、しかも真史お父さんもママの味方をしてしまった。亮暢は自分を苛める悪役をママにするつもりが、誤算だったと思うのよね。でも基本が悲劇のヒロイン体質だからママが裏で皆を操っているんだー!とか、思い込んでそうね」


いや、実際そういう話を友達にしていた訳なのだが…。ホントド屑だわ~。


「兎に角、俺も篠崎家のサポートをしますので」


海斗先輩がそう言って微笑むと真史お父さんはゆっくりと頭を下げた。


「ありがとう、栃澤君。麻里香を宜しく頼む」


「いや~もちろんです!末永く宜しく致しますので!」


「ちょちょーーっ!何言っているんですか?!なんでまたそんな言い方するのお父さん!海斗先輩もいい加減にして下さい!」


取り敢えず篠崎家+海斗先輩の方針は固まった。


「亮暢のヒロインごっこには付き合わない」


これに尽きる。多分これからもちょいちょい絡んでくるんだろう…でも無視だ。これが一番だ。


後日


ばあちゃまに少し聞いたのだが、実は亮暢から去年、連絡が来ていたそうだ。


「なんて切り出して連絡してきたの?」


「皆、元気か?こっちはなんとかやれているよ。俺にも子供が居るんだ。こっちにも会いに来てあげてくれ…だってさ。何だかね~書き方の問題なんだろうけど、私が意地悪して会いに行ってないみたいじゃない?」


「それでばあちゃまは何て答えたの?」


「ええ?そりゃ答えは簡単さ。会いに行こうにもお前の家の住所を知らんわ…て送ってやったさ」


致命的なミスだね、亮暢。


「で…今住んでいる住所を送って来たんだけど、結構遠くてね~。日曜日はフラダンス教室があるし、土曜日は陶芸教室だし、平日は亮暢は仕事で留守でしょう?なんで初対面の息子の嫁にだけ会いに行かなきゃならないのよ。お前達から来い…て送ったら、返事ないのよね~。あの子根性無いわ…」


うん、そうか。亮暢はこの圧に参って近づけないのかもね。これをサラリとかわして寄り添えなきゃ篠崎家の嫁と息子になれないのかも…。


そう言えば亮暢はなんであんなに、おかしな性格になったのかなぁ…。やっぱり真史お父さんと自分を比べちゃったのかな…亮暢単体ではそつがないし、見た目も結構良いんだよね。ところが真史お父さんが横に立つと、途端に霞むっていうか魔質で言うと輝き負けしているのよね。


真史お父さんの方が上質で力強い魔質だ。ばあちゃまに似ている。あ~なんとなく影の薄さで言ったらじいちゃまに似ているのか、亮暢は。


何だか色々としょっぱくて切ないなぁ…。


さてメンヘラの元パパに構っている暇はない。連休が明けると夏休みの前に中間試験がやってくる。


Sクラス在住の身としては成績を落とすわけにはいかない。放課後は弟達のお世話があるから、授業が私の大事な試験勉強の時間だ。それにちょっとズルい気もするけど、真史お父さんは某国立大卒、由佳ママは某外国語大卒…家に家庭教師が2人いる状態なのだ。


最終的には家のカテキョにお願いして勉強を見てもらおう。


さて今日は日直だったので、教室の戸締りと移動教室の鍵開けは私がしなければいけない。休み時間の合間に移動教室の鍵を借りに行った時に、旭谷先輩と邑岡先輩が学年主任の先生と職員室にいる所に遭遇した。


「しかしなぁ…そんなものいるのかな…」


「事実見た…と複数人の生徒が証言しています」


「夜の巡回を強化して頂けませんか?」


先生にそう説明している旭谷先輩の声を聞いて首を傾げた。


巡回?何かあったのかな…。


学年主任の飯尾先生は一礼して職員室に入って来た私を見て、


「お、そう言えばこんな騒ぎがあったら真っ先に動き出す、栃澤がいないな?」


と思い出したかのように旭谷先輩に聞いていた。何だか私を見て栃澤 海斗を思いだしていませんか?


「あ~海斗は今、写真集の編集に忙しいみたいで…」


邑岡先輩がチラッと私の方をみた。


写真集?普段なら気にはならない単語だが、変態の写真集…と聞いただけでひたすらに嫌な予感がする。


ま、まさか?!真史お父さんが心配していた幼い弟や妹のひ、ひ、卑猥な写真を…?!


「旭谷先輩…写真集って何ですか?」


私は素早く走り寄ると、旭谷先輩の背中に声をかけた。


旭谷先輩はクルリと振り向くと、イケメンズのご尊顔に満面の笑みを浮かべていた。


「そんなのきまってるだろ~?嫁ちゃんの弾ける魅力いっぱいの水着写真集に決まっているじゃない!」


私は猛ダッシュで移動教室の鍵を開けると、そのまま2-Sの教室に駆け込んで窓際でノートパソコンを開いている栃澤 海斗の机の前に走り込んだ。


「おお?嫁なん…」


私はノートパソコンを取り上げて画面を見た。


先日の無人島旅行の時の『浜辺で遊ぶ少女』と『料理をする少女』…挙句に『花弁の浮かんだ風呂に入る女優(仮)』みたいないつの間に入手したのか、お風呂写真まで…被写体は勿論、私だ。その私の姿が画面いっぱいに溢れていた。


よりにもよって学校の教室で見る馬鹿がいるか!


「このパソコンは没収します!」


「な?!なんだと?横暴だぞ?嫁!」


「横暴も野望も無謀もありませんっ!これに関しては滅亡あるのみです!」


2-Sの教室内から拍手が起こる。


「試験明けにお返し致します。こんな下らないことをされるより旭谷先輩達がお困りのご様子でしたよ?そちらをお助けしては?」


「下らなくないぞっ!俺の嫁のベストショットは全て網羅しておかねばならないんだ!」


2-Sの教室内に静寂が訪れた。もういい加減周りは周知してはいるが、それでもドン引きはドン引きだ。


その時、玉田先輩が教室に入って来た。


「海斗、飯尾先生が呼んでいるよ」


「ほら?先輩、先生の呼び出しですよ?ささ、どうぞ」


海斗先輩は私を睨みながら「覚えてろよ!」と捨て台詞を吐いて教室を出て行った。


「まるで悪役の捨て台詞じゃないの…。変態のくせに」


私の呟きにまた拍手が起こった。今度は二年のお姉さま方からも拍手を頂けた。


「失礼致しました」


と頭を下げて1-Sの教室に戻った。菜々達が私の帰りを待っててくれた。


「あれ~そのノーパソどうしたの?」


「海斗先輩の私物。私の水着写真の編集作業していたから没収してきた」


「やだ~っ変態ここに極まれりだあ!」


やだ~と言いながら、顔をはおかしそうに笑っているよ?花音ちゃん。


「またまた栃澤先輩、大暴走だね。もはや名物行事だね」


その表現やめてよ、萌ちゃん。


皆で移動教室へ行く。そうそう花音ちゃんに無人島旅行の話をするとものすごく羨ましがっていた。


「もう絶対っ栃澤先輩と麻里香の攻防を目の前で見ていた方が楽しかったよ!爆笑につぐ爆笑に違いなかったよ!」


「笑いを提供するために生きてないからっ!断じてアレと同じレベルで争ってないから!」


そして移動教室の前に来ると、うちのクラスの子達が廊下にいっぱい立っていた。あれ?中に入らないの?


廊下にいた同じクラスの笠松 諒一君に声をかけた。


「笠松君、なんで皆廊下に出てるの?」


「ああ…それがさ、教室に火の玉が出たって…」


「火の玉?!」


「ええ?」


火の玉ってあれかい?墓場とかにふらふら~と現れて消えていく、ハロウィンでもお馴染みの…。


「ハロウィンのお化けより、私は生きた変態の方が恐ろしいね!」


私はそう言って教室の中にズカズカと入り、部屋の窓を開けた。菜々も一緒に入って来てくれている。


「流石、嫁ッ!カッコいい!」


「嫁に怖いものなし!」


茶化す笠松君とツレの吉田君を睨みつけてから教室をゆっくりと見回した。


その時、キラリ…教室の隅で何かが光った。魔力の残滓だ…。火の玉、成程…幽霊の正体見たり枯れ尾花…これだな。うん、火魔法の一種だろう。


「でも本当に見たんだよ?」


「ねえ?青い光がフワフワって…」


「でも何もないじゃん!」


見た…と言っている女の子二人はビクビクしながら教室に入って来た。


「でも最近、放課後に火の玉を見た…って先輩も言ってたよ?」


「私も三年のお兄さまに聞いたわ、早朝の教室でも火の玉が飛んでいたって…」


「怖~い」


クラスの皆がヒソヒソと話しているこれは、旭谷先輩達が先ほど飯尾先生と話していたことなのかな?


「おーい授業始めるぞ~」


物理の先生がやって来て、クラスの皆は教室に入って来たが授業中は教室中がソワソワしている感じだった。


放課後


教室の戸締り確認して日誌を書いていると、旭谷先輩と海斗先輩が教室にやって来た。男子の日直の曽根君は今は教材を返しに資料室行ってくれている。


「嫁…あの…」


「ノートパソコンは返しませんよ?」


「そうじゃないって、嫁ちゃんよ~。今日、移動教室で火の玉出たって?」


私は日誌を書いている手を止めて、旭谷先輩と海斗先輩の方をみた。両先輩は教室に入って来た。


「あわ…先輩…」


と、戻って来た曽根君がイケメンズの二人を見て慌てている。すまんね曽根君、驚かせてしまって。


曽根君が戸締りと日誌を職員室に返してくれるというのでお言葉に甘えてお願いした。


私はイケメンズに挟まれて歩かされる、某宇宙人のような動きで生徒会室に連行された。


「よ~っお先にお邪魔してるよ!」


あれ…菜々と萌ちゃん、花音ちゃんもいる。その他に邑岡先輩と玉田先輩、藤河先輩の残りのイケメンズと初対面の三年生と思しき、お兄様2人とお姉様が1人いらっしゃった。


「右から生徒会長と副会長と書記の先輩方」


と、隣に座った菜々が教えてくれた。なるほど…私は頭を下げた。


「悪いな~で、早速今日火の玉が出たとのことなのだが…どこの移動教室?」


一番右端の生徒会長と言われた先輩が校内の地図を広げたので、私達は一斉に指差した。


「この物理の教室です」


生徒会長が赤丸を入れている。よく見ると他にも赤丸の入っている箇所がある。


「今回で5件目か…」


「誰かが悪戯で仕掛けを作っているとは考えられませんか?」


玉田先輩が眼鏡をキラリと輝かせて生徒会長を見た。会長は腕を組んでう~んと天井を見た。


「悪戯にしても炎を建物内で使用しているのは火災の危険もあるし、無視出来ないな~」


炎…と聞いた瞬間に私は海斗先輩の顔を見た。私の視線に気が付いた海斗先輩は少し頷いてくれた。


「兎に角、中間試験の前に片付けておきたいな。先生には放課後は用務員の方と見回りをお願いしておいた。生徒の我々は日中から放課後までに見て回ることにしようか。え~と巡回メンバーは…」


「はい、俺と嫁が回る」


シーン…。


どうしたらいいんだろう?


真顔の元旦那は至って真剣な顔で生徒会長を見ていた。生徒会長は


「お、おう」


と返事をしてしまって、副会長に至っては


「じゃあ栃澤君と篠崎さんに一任するということで…」


と言って議題?を打ち切ろうとした。


「ちょ…ちょい待って下さいよ!何で私達だけなんですか?それは置いておいても、何故海斗先輩と2人にさせられるんですか?!ストーカーと2人っきりなんて前代未聞の事態ですよ?!」


「嫁は俺と運命共同体だから!当然一緒に…」


「そんな鼓笛隊とか親衛隊とか知りませんよ!放課後の校舎なんて、無人に近いじゃないですかっ!」


「わあ~今日も漫才のテンポがキレキレだね!」


「一段と返しが鋭いね」


花音ちゃんと萌ちゃんの言葉に、ハッとして椅子に座り直した。そうだ、アレと一緒に騒いでは同じ土俵に上がってしまうというものだ。


「そうか、じゃあ異議無しということで、栃澤と篠崎頼んだぞ」


なんで、そうなる生徒会長ぉぉ?!



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