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スーツを着た王子

お気に入り登録ありがとうございます^^

調子に乗って海斗先輩がいつも暴走していますが

温かい目で見守って頂けると幸いです。


9/6一文追加修正しています。全体の内容に変わりはありません。

9/6誤字修正しました。ご報告ありがとうございます。


私は座敷の中から覗き見ると、廊下に立っている亮暢の姿を確認した。


亮暢は恐らくトイレに入ったフリをして、どう会話を繋げようか必死で考えて来たに違いない。魔質が体の中で右往左往している…ように診える。


「そうか~じゃあ暫く大人しくなったと思ったら、再婚していたのか。なんにせよ良かったんじゃない?あのままじゃ俺に執着したままババアになっちゃってたもんな~」


本当にムカつく言い方するなっ!亮暢はそう半笑いっぽい口調で言いながら座敷に戻って来た。


「元奥さんも幸せになってたら、それはそれでいいじゃない~?篠崎君も可愛い奥さんと結婚してるしいい事じゃない!」


と、援護射撃をしてくれた女性がそう言うと、亮暢は大きくわざとらしく溜め息をついた。


「だけどなんだかな~この間も息子から海外旅行に行くとか連絡来てさ、俺はあいつらの海外旅行の為に慰謝料払ってたのかって、泣きたくなるよ」


と、亮暢のこの一言で場の雰囲気がガラッと変わった。


「慰謝料渡してたの?」


「あっちが浮気してたって前言ってなかった?」


私は血の気が引いた。今なんて言った?由佳ママが浮気?思わず立ち上がりかけてまた海斗先輩に制された。海斗先輩は消音魔法を使った。


「麻里香が言っていたじゃないか、アレは病だと…。人を貶めて自分が可哀そうな俺…と皆から注目を浴びなければ気が済まない病だと。それに…気が付かないか?亮暢の周りの人達の魔質が少し変わってきた」


「あっちが浮気してたら、篠崎君が慰謝料払うっておかしくない?」


別の女性の声がした。結構厳しめの声のトーンだ。


「あれ?俺アイツが浮気したとか言ったっけ?俺ら円満離婚なのにさ~あいつが弁護士立てて凄まじかったんだぜ?結局マンションも売ったし、優樹菜にも苦しい思いさせてさ…。あ、優樹菜からメッセージだ」


亮暢はそう言って言葉を切ったが、亮暢の周りの人達から疑念や疑い…と言った感じの魔質が感じられる。


「悪いな、優樹菜が実家から帰って来るって言ってるから帰るわ」


と、言って亮暢は皆から頑張れよ~とか言われて帰って行った。


私達も帰ろうか…と腰を浮かしかけると海斗先輩が指をさして亮暢達の居る座敷を見ている。


「まだ残るんですか?」


「残ったほうが面白そうだ」


何それ?


仕方なく海斗先輩と一緒に隣の座敷の様子に耳を澄ます。


すると先ほど厳しめな言い方をした女性が


「なんか慌てて帰ったね」


とまた厳しい感じの声でボソッと呟いた。すると先ほど援護射撃してくれた女性が座敷の中全体に聞こえるくらいの声で言った。


「さっきの高校の同級の子、まだメッセージの返事くれてるのよ。他のママ友に聞いてくれたみたい。え~と、園の運動会に彩香ちゃんの所は家族全員で見に来ていたよ。再婚相手と思われる旦那、めっちゃ渋くてカッコイイってママ友の中で噂になった。上の娘さんがおはぎを作って来てて『宜しければ~』と差し出されてびっくりしたって。因みにおはぎ美味しかったって!え~と、子供達全員めっちゃ可愛いかったし、篠崎君の言っていた元奥さんの雰囲気と全然違うよ…だってさ」


「旦那渋くてカッコイイんだ~」


「家族仲も良さそうだね。とても篠崎に執着してそうには思えないけど」


うわ~分かった!運動会でおはぎを渡したの、大樹君のママ家族だ!めっちゃ喜んでくれたの覚えてる。その時幾つ?とママさんに聞かれて、中学三年と答え、高校決まった?と更に聞かれて私立推薦を希望していると答えた…。その時に確か…。


「まだ続きあるよ…ええ?上の娘さん私立のシュアリリス学園の推薦を受けるってあそこって中学模試の上位ランクの人しか推薦取れないとこだよ?!めっちゃ頭いいんだ!」


私は思わず立ち上がって海斗先輩にサムズアップをした。海斗先輩は何とも言えない苦いお茶を飲んだみたいな顔をしていた。


「シュアリリス学園か!すごいね、あそこの制服可愛いよな。ってさ、こうなると篠崎の話はホントかな~?」


ここで一人のおじさんが制服に反応した。やっぱり制服フェチっているんだね。


「俄かに怪しくなってきたね」


「私は話を盛ってると思うな、篠崎君の言うように篠崎君に構っている時間なさそうだもの。だって娘さんの受験もだし、子供さん他にもいるんでしょ?とてもとても、別れた旦那になんか構っている暇無いもの!」


「だよね、女って別れたらそこでスパーンと切るもんね。元旦那は他人だよ」


女性からの援護射撃が次々あがる。押し黙っているのはおじさん達だ。


「ほらな?面白くなっただろ?多分女性のほうがこういう嘘には敏感なんだよ。他人の不幸を笑いには変えるけど、不幸自慢には辛辣だ」


確かに海斗先輩の言った通りだった。


暫く、篠崎 亮暢の嘘か本当かの話で盛り上がっていた隣の座敷は二次会に移るらしく、帰って行った。


私と海斗先輩も食事を終えて帰ろうとしたけど、どちらが支払うかで会計の際に揉めた。しかし海斗先輩がピラーンと紙幣最高額のブツを差し出して来たので…私は権力に負けた。財力に負けた。諦めて奢って頂くことにした。


「ご馳走になります」


「嫁の空腹を満たすのは旦那の仕事だからな!」


相変わらずの意味不明だ。私は海斗先輩と暫く歩いた。帰りにもう一度亮暢の家を見ていこうということになったからだ。


「なんだか虚しくなりました」


「ん?」


「元とは言え父親だった人ですので、それなりに幸せでそこそこな人生を歩んで欲しいとは思ってはいたのですが、あんな虚言を並べ立てて…しかもどうして今頃翔真に接触してきたのかが、謎です」


「先ほどの亮暢の話の中に若干のヒントはあった気がしたけどな」


私はそう言う海斗先輩の顔を見上げた。ヒントなんてあった?


「人は嘘の中に真実を紛れ込ませると信じやすいし…嘘をつく方も方便をつきやすい、と俺は思う。亮暢の話は9割は嘘だが、息子と連絡を取っている、旅行に行く、慰謝料を払っている。これは真実だ。真実は微かにちりばめられているからこそ、嘘が輝くのだな」


私は胡乱な目で元旦那、元国王陛下を見た。


「何だその目は?」


「まさか、色々な嘘をついて国民を騙したりしてきてませんよね?」


「何だ、ティナは知らんのか?」


「何がですか?」


「俺は国民に向けて大概な嘘をついてきたぞ、王妃を失って悲しい。王の責務は楽しくない。本当は国なんかどうでもいい。ティナに会いたい。全部隠し通して生きてきた。大ウソつきだ」


うわ…重っ…。国と天秤にかけられて私への重い愛が勝ってたの?モッテガタード市民に申し訳ないわ。こんな変質者の施政の元で生活していたなんて…。まさか変な法律を作ったりしてないよね?


妻を24時間監視する為に仕事休んでも良いとか


ストーカー行為で使ったお金は経費として落とせるとか


妻に先立たれた場合、死体を永久保存する魔法を使うことを許可するとか


ゾッとした。シャレにならん。本当に作ってそうだ。


私は変質者から距離を取りながら亮暢の家に向かった。


亮暢の家の明かりは消えていた。まだ家に帰ってないようだ。


「部屋の明かり、消えてますね」


「家に誰もいないな。やはり嫁が帰って来たという話も嘘か…」


「嘘をついてばかりですね」


「もう嘘をつくことが常態化しているのだろう」


元パパの現実を見なければよかった、聞かなければよかった…と一瞬思ったが、私達の知らない所で嘘をつかれ、悪しざまに語られていると知った以上…篠崎家を守る為にはやはり長女の私が立ち上がらなければならない!


「ま、負けませんよ!たとえ嘘をつこうとも私達、篠崎家の団結を崩すことは出来ませんから!」


とか、叫んでいたら、亮暢のアパートの住人の方が帰って来たみたい。車の駐車場の入口に立っていた私達は急いで移動した。


「取り敢えずもう帰りましょうか?私達これでも一応高校生ですしね」


「そうだな、うん?待て」


アパートの駐車場に入って来た車から、住人と思しき人が降りて来た。一瞬、彩香?と声をかけたくなるほど魔質が似ていた女の子が降り立った。年の頃は幼稚園か小学生くらいだ。


「実家に戻っていた旧姓、多部 優樹菜と娘の夏鈴(かりん)だ」


この子がっ…。すると車の運転席から小柄な女の人が出て来た。


この人が優樹菜さん…。複雑な思いで親子を見詰める。


優樹菜さんはアパートの自分の部屋を見上げると大きく溜め息をついた。亮暢が帰って来ていないからだろうか?


夏鈴ちゃんはこちらを見ている?少し首を傾げながらも歩き出した母親の後を付いて行った。


私達は何となく無言でそのまま飛んで帰り、そして私の家の前まで海斗先輩はついてきてくれた。ん?勝手についてきた…とも言う。


「篠崎 亮暢はもうしばらく俺も監視しておく。あの手のタイプは表立ってこちらに何かを仕掛けてくる危険性は少ないが、翔真やもしかして悠真にも接触しようとするなら、子供達が色んな意味で混乱する。未然に防げるように対処しよう」


海斗先輩はすごいな。こんな異世界にやって来てもブレずにご自分の出来ることを全うされようとしている。自然と元国王陛下に頭を下げた。


「ご迷惑をおかけしますが、宜しくお願い致します」


頭を下げた私の後頭部に海斗先輩の手が乗せられた。優しくて力強い魔力が私の中に流れて来る。


「あ~その、礼は…麻里香だけしか返せないものがいいな~うん!」


私しか返せないもの?ちょっと嫌な予感がしてきた…。


海斗先輩は一歩近づいて来た。益々嫌な予感がする。


「次のデートは水族館がいい!」


「……」


良かった…。只のデートの約束だった。下着をよこせ、とかここでキスしろ、とか言われると思っていた。え?私の想像の方が変態だって?…そうかもしれないね。


「水族館ですか…」


「今日篠崎家で、そこに出かけていたんだろう?俺も行きたかった!」


あらま?それならそうと早く言ってよね。今日あんなド屑の妄言を聞いて耳が腐りそうな思いもしなくて済んだのに。


まあいいか。下着を強奪されるよりは水族館のほうが遥かにマシだし。


「いいですよ~今度は水族館で、ご所望の電車にも乗れますしね」


海斗先輩はご機嫌で帰って行った。ふぅ……あれ?そう言えばまた次のデート約束しちゃった。


「只今~。て、今はいないか」


今日は、ばあちゃま達と夕食を食べて来るらしい。私はもうお腹いっぱいなのでお風呂に入って眠ってしまおう。


お風呂に湯を張っていると、お父さん達の魔力が近づいて来るのが分かる。ああ…帰って来たな~。


玄関前が騒がしくなってきたので、玄関ドアを開けた。


「ねえね~たらいま!」


和真が開けた途端走り込んで来た。


「こーんなおおきなお魚がこーんな水にいっぱいいたよ!」


彩香が後から入って来て私の足にしがみついた。


「人多くて疲れたよ~。はい、お土産」


悠真が渡してくれたのはイルカのぬいぐるみだ!中々可愛らしい。


「わあっ可愛い。悠真ありがとう」


ちびっ子達に押されるようにして家の中に入る。玄関ドアの向こうから由佳ママの声がして


「麻里香~彩香のお風呂入れてあげて。お兄ちゃんは悠真をお願い」


結構な袋を抱えている翔真が「へーい。」と答えている。


「和真は俺と入るか?」


「はーい!」


最後に現れた真史お父さんがそう言うと和真が元気よく手を挙げている。


うちのお父さん、今日もカッコイイ。そうだ、改めて見ると亮暢だって素材は悪くないのだ。生活の何かかそれとも長きに渡るメンヘラ生活のせいで顔に負担?がかかっているのか…。


やめよ…あんなド屑の悲劇野郎のこと考えてたら気分悪くなるわ。


「ねえね~コレコレ!これお風呂に入れたい!」


彩香が何か袋を翔真からひったくると私の所に持って来た。何々?


「おおっ!バスボム…何の魚が飛び出すかはお楽しみに…いいね~。ん?これは、お風呂に浮かべて動くシロイルカさんだね!これまた可愛いね」


ま~た真史お父さん彩香にねだられておもちゃ買っちゃったな?


そう思いながら睨んでいると真史お父さんは目を逸らしながら、「疲れた疲れた~ビール飲んじゃお!」と台所に逃げて行った。


「真くん、先にお風呂に入って来て~和真がお眠だと思うから」


「おお、そうだな。ビール冷えてる?」


夫婦の会話を聞きながら何だか泣きそうだな…。亮暢、悪いけどさ。真史お父さんと由佳ママは幸せなんだよ。あんたがどんなに意地悪言ってても私達幸せなんだよ。ざまあみろ…。


「お父さん~縞ホッケ焼きと枝豆あるよ。」


台所を覗きながら声をかけると、真史お父さんと由佳ママは同じタイミングで私の顔を顧みた。


「お?ホッケ?!いいな!どうした?買ってきたのか?」


というお父さんに海斗先輩と居酒屋さんに行ってきたことを告げた。ホッケと枝豆は残ったものをしっかり包んで(魔法)持って帰って来たことを伝えた。


「お酒飲んでないよね?いいな~俺も行きたかったな」


あれま?こちらの方も行きたかったのですか?


「海斗先輩喜んでたよ。今度お父さんも皆も行こうよ。遅くならなければ大丈夫だし」


お父さんは和真と手を繋いで上機嫌でお風呂場に向かって行った。


うちの幸せを壊してなるものかっ!


私は拳をギュっと握り締めた。


次の日


お父さんは海外からのお仕事の話があるとかで、連休返上で仕事に出かけた。翔真はサッカーの練習だ。


私は翔真にもし亮暢から連絡があったら一人で会わないように、必ず私かお父さんもしくは由佳ママに連絡するように、と何度も念押しした。


そして残りの家族は由佳ママと一緒に銀行に来ております。


例のメンヘラ元夫から慰謝料の送金が行われているのか確認する為に、暫く放置していた通帳の記帳をするためだ。


由佳ママがATMに並んで機械に通帳を差し込むと、すぐに派手な警告音?が流れている。


「やだ~長い事記帳してなかったから…」


と、ママが言っていると銀行の係のお姉さんが走って来て由佳ママを窓口まで誘導してくれていた。


少し待っていると、通帳を受け取った由佳ママがフラフラした足取りでこちらに戻って来た。


由佳ママ顔色悪いよ?


「麻里香…どうしよう。これ見て…」


由佳ママが通帳を見せてきたので帳面を覗き込んだ。んん?振込日を確認する。


「な、何これ?まともな振込は最初の半年だけしかないじゃない?!しかもこの金額?三か月前の三千円ってなに?」


由佳ママは真っ青になってブルブル震えている。


「どうしよう、真くんと弁護士の東條さんに連絡…」


ママはそう言ってお父さんにメッセージを送っている。それから弁護士の東條先生に連絡を入れていた。


東條先生は裁判所に言っており連絡つかず、取り敢えず私達は銀行を後にした。


「慰謝料入れてくれてなかったね。何で言ってくれなかったのかな?」


由佳ママがポツンと呟いた。


私は由佳ママに正直に答えた。


「私、慰謝料が払えない、つまりお金が無いなら無理に欲しいとは思わないよ。翔真と悠真の大学行くお金は私がちゃんと働いて稼ぐからさ。あんなの当てにすることないよ」


「麻里香…子供がそんな心配するものじゃないわ…でも、気持ちだけもらっとく…ありがとう。」


由佳ママはまた泣いていた。悲劇野郎の亮暢めっ!


それから連絡のついた真史お父さんと弁護士の東條先生のおじさん二人は激おこだった。


二人でまた亮暢の所に乗り込んでやろうか…とか言ってたけど、相手はメンヘラだよ?また兄貴に苛められた!と変な喜びスイッチを入れて悲劇ごっこのネタにされるんじゃないかと私は気になるよ。


私はこのことを海斗先輩に伝えた。


『夜に会いに行く』


と簡潔なメッセージの返事が返ってきた。ふむ…。


本日は元気のない由佳ママに代わってお昼にカレーを作っておいた。今日は夕方からバイトなので、午後に勉強をしてからパン屋に向かうと、商店街の入り口に芸能人…っぽい生き物が立っているのに気が付いた。


近所のおばちゃん達の視線を一身に集めている。私は小走りで近づいた。


「悪目立ちしてますッ!いい加減にして下さい!」


「おうっ嫁!昨日ぶりだな」


なんでまた今日はスーツ着てるのよ!商店街ですよ、ここ! 


「夜に来るんじゃなかったんですか?」


「嫁が今日バイトに出かけるのを忘れていて、急いでこっちの用事を済ませた」


「いえ、私のバイト如きに海斗先輩が頑張る意味が分からないのですが…。しかも前から気になっていたのですが私、海斗先輩にバイトのスケジュール、お教えしましたっけ?」


海斗先輩は腰に手を当ててふんぞり返った。


「そんなものは簡単だな!パン屋のマダムは店のカレンダーに麻里香の出勤日はマリカと記入している」


店のカレンダー見たんだ。いつ見たんだ?とかのツッコミはしたくないけど言っちゃおう。


「建造物侵入罪です!」


「一々細かいなぁ…そんなのだからおばさんからおばさんみたいだ、って言われるんだぞ?」


「ひっ人が気にしていることを!もう知りません!」


猛ダッシュでパン屋に駆け込むと怒りを抑えつつ、バイトに精を出した。


夜…海斗先輩は商店街の入り口で待っていた。


「さっきは言い過ぎた」


「……」


「麻里香、大好きだ」


「……」


はあぁ…重っうざぁ…。ザイードに同情するわ。こんなうざい親父の子供に産んじゃってごめんね。


「もういいです。先輩、夕食まだでしょう?うち、今晩カレーですが食べますか?」


海斗先輩は魔質をビカーッと輝かせると私に抱きついてきた。こらっ!商店街の入り口だ!


今日は海斗先輩を玄関から我が家にご招待した。


由佳ママはスーツ姿の海斗先輩に悲鳴を上げていた。あれ?ママはスーツフェチなの?真史お父さんはちょっと警戒している?どうしたの?


海斗先輩が嬉しそうに彩香と悠真と一緒にカレーを食べている時に、真史お父さんは私を廊下に呼び出して聞いてきた。


「まさか、今日嫁に行くんじゃないだろうな?」


「はぁ?」


「だって栃澤君、スーツ着てるじゃないかっ?!そういう挨拶に来たんじゃないのか?!麻里香っまだ嫁に行くのは早いぞっ!」


「用事があってスーツ着てるだけだって!本人がそう言ってた!」


真史お父さんはよろめいて壁に手をついていた。


「なんだ脅かすなよ」


「一人で驚いてるのはお父さんでしょう?」


すると、サッカーの練習から帰って来てシャワーを浴びていた翔真が、廊下に走り込んできた。


「来た!」


「何が?」


真史お父さんと私の声が重なった。


「あ、亮暢パパからのメッセージ…」


私と真史お父さんが二人で翔真の携帯電話の画面を覗き込んだ。


『翔真、旅行はどうだった?写真は撮ってきたのか?今度見せて欲しいな?』


「ど、どういう意図があるんだろう?」


「写真か…まさか若い子達の水着写真をどこかに売ろうとか?」


真史お父さん…後ろで由佳ママがすごい咳払いしているから…発言には気を付けて。


ピローン…。


と話していると、メッセージの着信お知らせが入った。翔真が震える指で画面を操作している。


『今度いつ会える?悠真もつれて来るといいよ』


「出た!」


「やっぱり悠真も…狙っている?」


と私が呟くと、由佳ママが


「あの子達を攫うつもりなの?!」


と悲鳴を上げた。


「そういう変質的な意味ではないと思いますよ?つまりある程度自分の味方に引き入れて悲劇のヒロインとして輝く為の脇役にしようと思っているのでは…と考えています」


廊下に固まっている私達に向かって海斗先輩がそう声をかけてきた。


ちょっとちょっと~?いきなり篠崎家の内情に口を挟んできた感じになっちゃったけど、先輩的にはそれで大丈夫なの?



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