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9 王子は怖いです

「まぁ、由奈達が元いた世界に戻りたがらなかったのは予想外だったけど」

少し拗ねたように私の言葉に「別に怒ってないよ」と答えた第一王子は少しだけ面白そうにそう言った。

「あ〜・・・。まぁ、私の場合はとくに執着するものもなかったですしちょっと色々あって精神疲れちゃって」

「え?」

ヘラヘラとなんでもなさげに言ってみたけど第一王子は怪訝な顔をして私を見た。さらりと第一王子の金髪が揺れる。

私は表情筋が疲れてきたので少し口角を下げる。

「・・・そう。君も色々大変だったんだね」

「ええ。それはもう。」

地獄のような日々でしたよ、と口に出して自分の声が思いのほか冷たくなったことに少しだけ驚いた。

「まぁ、もう結構前のことですけどね!そんなことより魔物退治が終わったら私も第一王子に協力しますから。それまであのくそ豚野郎をなんとかする方法を考えましょう!」

「もう考えてるよ。計画もあとは実行するだけ。楽しみにしててね」

しばらく思案するように黙っていた第1王子だったけど私が握りこぶしを作ると第1王子はニッコリとお綺麗に笑う。

ニッコリと笑った顔には、かなり黒いオーラがあってやっぱり少しだけまだこの人怖いかも、なんて思った。



「・・・そうだ、これは由奈にも知っていて欲しいことなんだけど」

ある程度この国の話をしてもらってそろそろお暇しようかなんて思っていると第一王子がそう前置きをして話し始めた。

「君達を召喚したのはさっき一緒にいたラヴィルだってことは分かってるよね?」

「はい」

私が素直に頷くと第一王子は少しだけ悲しそうに笑った。

「ラヴィルはこの城に縛られてる、あの王の一番の被害者なんだ。」

「・・・え?」

「彼の身体は大きな力に常に蝕まれている。」

その言葉に私はあの夜見た茨の刺青のようなものを思い出した。おどろおどろしく光るあれを。

「い、ばら・・・?」

私のつぶやきに第一王子は青い大きな目をさらに見開く。

「なんで、それを?」

「た、たまたまラヴィルさんに夜遭遇してその時酷く苦しそうにしていたので、気になって見てみたら、身体に・・・」

順序だてて喋れずにすごくたどたどしく喋る私の話にも第一王子は茶々をいれずに話を聞いてくれる。

「そう。由奈はあれを見たのか。・・・見てわかるでしょ?」

「あれがおぞましいものだと」と続けた第一王子は強ばった顔で私を見た。

「この国で魔法の実力だけでいえば一番優秀なのがラヴィルだ。そのラヴィルにもあれは解けない。あれは・・・、忌々しい『呪い』だよ。」

元いた世界でリアルに感じることなんてなかった『呪い』という言葉に私の心はざわめいた。

『呪い』って・・・、そんなの空想の世界でしか、ないんじゃないの。・・・それが、あんなぽやぽやしている人にかかってる?

どう考えても理解出来なくて、頭が混乱する。そして、実感する。

ここが私の常識が通用しない異世界だということを。


「・・・その『呪い』って、どういうもの、なんですか・・・」

情けなく震える声で第一王子問いかける。

私の問いに第一王子は少し眉を下げた。

「・・・主なものは呪縛かな。ラヴィルはこの城から離れられないし、王にも逆らえない。しかもラヴィルがまだ幼い頃にかけられたものみたいで、解き方は誰も知らない。恐らくその呪いをかけた者はもう殺されてるよ。あいつらに。」

あいつらというのはきっと王や幹部連中のことだろう。

・・・あれが『呪い』。

脳裏に絡みつくように彫られた茨の模様が浮かんだ。

「未だに呪いの解除法は分からない。王に気づかれないよう色々探っては見てるんだけどね。なかなか難しい。それに関する文献は全て王側にあるから僕達は下手に手を出せないんだ。でも、見つけられなければラヴィルのことは救えない・・・。」

そう言って黙ってしまった第一王子に何も言えなくて私も黙る。

部屋に沈黙が降りる。


もう色々思うことはあるし頭が追いつかないことも幾つかある。だけど、とりあえずあのクソ豚野郎はとりあえず社会的に〇す。

改めて誓った私は顔を上げて第一王子をみる。

「私に出来ることがあれば言ってください。」

私が聖女でないことは確定してるけど、一般人にも何か出来ることがあるはず。

「ありがとう」

そう言って笑った第一王子の笑顔は仮面のようなあの笑みではなくて・・・。

あまりに第一王子が無邪気に笑うから――。





私の目はその輝きで潰れた。

ぷぎゃあ、王子オーラすぎょい。



◇◆◇


それからいくつか雑談をして私達は外に出た。

外に出た途端、またあの仮面のような笑みに戻った第一王子はあまりに美しいそのお顔で私に「君も共犯だからね」と笑いかけた。正直寒気しかしなかった。王子、恐ろしい子・・・。

さっきまではあんなに表情豊かで可愛かったのになぁ、と少しいじけていると王子に肩を掴まれて無言の圧をかけられた。私は王子とは対照的な引きっつた笑みで「キョウノコトハダレニモイイマセン」と片言でなんとか答えた。もう一度言う。王子、怖い。

「まぁ、僕が思ったより遥かに有意義な時間になったよ。ありがとう。」

怯える私に第一王子が少しだけ柔らかくなった笑顔を向けてくれた。

「こちらこそ、色々知りたかったことを知れました。ありがとうございました。」

私は王子に向かって深くお辞儀をした。

とりあえず、身のふり方を考えないとなぁ。

一息ついて私が部屋に戻ろうと思っていると後ろから王子が「あ」と何かを思い出したような声を出した。

「・・・どうしました?」

「いや、由奈は僕のこと手伝おうと張り切ってくれてるけど、由奈だって僕より年下なんだからそこまで肩に力入れずに過ごしていいからね。」

「・・・え"」


・・・・・・んーと。私の見立てだと第1王子、多分20歳くらいだよね。え、違うのかな。私が見立て間違えてるのかな。

「あの〜、私一応24歳です、よ?」

私の恐る恐るの言葉に王子はピキっと音がしそうなくらいに固まった。

あら、王子ったら見事に石化したわ。


そして、数秒の間が開き、静かだったゴージャスな廊下に王子の「はぁ?!」という珍しく荒らげた声が響いた。

「え、嘘だろ?!君、え、由奈が僕より年上?!」

「はい。今年で24になりました。」

「・・・君の元いた世界はみんな君みたいなひとばかりなのかい?」

「君みたいな、と言いますと?」

「まるで見た目が少女」

端的な言葉で言われ、私は「えーと」と吃る。

「私はその中でも幼く見える方だとは思いますけど、こっちの世界の人よりは・・・、若く見えるかもしれないですね。」

言葉にするとこっちの世界の人が老けている、と言ってるように聞こえるけど、実際はなんて言うか、こっちの世界の人の方が大人っぽいんだと思う。

まぁ、日本人は元々童顔に見られがちだしなぁ。


なんて、呑気に考えていると未だに衝撃から立ち直れていない王子が「どんな魔法だよ」と呟いたのが聞こえた。

王子、今のトーン。素で言ってましたよね。そんなビックリしましたか。

そんな王子が少しおかしくて笑っていると、いつの間にか通常装備の笑顔に戻った王子が黒いオーラをだだもれにしてこちらを見ていた。ひっ・・・!デ、デジャヴ・・・。


怯える私を見て満足したのか王子は黒いオーラを引っ込めて「やっぱり君は面白いね」と弾んだ声で私に「ね?」と同意を求めるように首を傾げる。・・・その質問には同意しかねます。というかしたくない。

微妙な恐怖を与え続けてくる王子をジト目で見ていると王子は私の少し後ろを見て「君もそう思うだろ?」と見えない誰かに喋りかける。

・・・えっと、どなたかいらっしゃるんですかね?

一瞬ゴースト的な何かが頭の中に浮かんで戦慄したけど後ろから聞こえてきた「バレていたんですね」という声に私は驚いた。

なんと柱の影から出てきたのはグレンさんだった。

「え、グレンさん?!なんでここに?」

「由奈のことが心配だったんでしょ。グレンって心配性だし」

私の質問に間髪入れずに王子が答えを返す。

「まぁ、僕と二人っきりなんて何されるかわかったもんじゃないしね」

その言葉に驚いて王子を見ると王子はいつもと変わらないあの仮面のような笑みを浮かべていた。

その顔を見た瞬間、なんだか上手く表現出来ないけどモヤッとしたものが心に浮かんで私は第1王子の背中をバンッと叩いた。

「・・・は?」

低い、それはそれはひくぅ〜い、地を這うような声が第1王子から発せられる。

「由奈、今のは何?」

「あ、や、その・・・、なんて言うか・・・」

「僕、一応第1王子だよ?不敬罪・・・、適用されるよ?」

視界の端に驚きの表情のまま固まっているグレンさんが見えた。・・・そうですよね、私も我に帰りました。なんで私はこんなことをしたんでしょうねぇ?!よりによって第1王子にぃぃぃ!

「・・・えへ?」

引きっつた笑みでその2文字だけをなんとか発する。

本当に、この世界に来てから私、失言多いし気緩んでない?!

「・・・はあ。ま、別にいいけどさ」

あまりの軽い調子に一瞬言っている意味がわかんなかった。

が、目の前の麗しの金髪少年がクスクス楽しそうに笑っているのを見てやっと理解した。なぜか知らないけど私、許してもらったらしい。・・・いやなんで?

不思議そうな顔をしている私に気づいたのか王子はまたクスクスと笑う。

「はぁ、笑った。久しぶりにこんなに笑ったよ。」

挙句の果てに王子は目尻に涙を浮かべながらそんなことを言ってきた。

「ふっ、そのマヌケ顔もなかなか面白いよ。またお茶しようね。じゃあ、ばいばい」

そう言ってヒラヒラと手を振った王子は私とグレンさんが惚けている間に私たちの目の前からいなくなっていた。


・・・あれ、私、今もしかしてさらっとディスられました?


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