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8 王子様とお話しました

「じゃあ、君達はもう下がっていいよ」

・・・帰りたい。


わたくし、ただいま半ば強制的に第一王子様とやらとお話するために応接間に通されました。

部屋に入って護衛と侍女さんがいたからとりあえず二人きりじゃないのか、なんて安心したのがいけなかったのかな。第一王子は私が息をつくのと同時に全員を部屋から退室させるという暴挙にでた。ほら、侍女さん達困惑してるよ。

もう、帰りたいよぉ。


「さぁ。じゃあ何から話そうかな」

第一王子は侍女の方々が部屋を出ていくのを確認してから相変わらずニコニコと仮面のような笑みを私に向けてきた。

・・・目が笑ってないって。完全に草食動物をいたぶる肉食獣のそれですよ。

「う〜ん、とりあえず先程の失礼を謝罪するよ。うちの2人が大変失礼なことをした。すまなかった。」

第一王子はそう言って軽く頭を下げた。

突然の謝罪に私は拍子抜けしながらもだんだんと状況を正しく理解する。

これ、一見軽そうに見える謝罪だけど第一王子が頭を下げるってダメなんじゃない?これ、結構大変なことなんじゃないか?


・・・だめだ。私、政治なんかとは無縁の一般ピープルだったからこういう時どうすればいいのかわかんない。

っていうか、うちの2人って国王と第二王子のことだよね。うん、それだけ分かっておけば何とかなるかな。ダメかな・・・。もうわかんないや。

とりあえず混乱する頭の中でとりあえず返事は返さなければという考えに至り、私は首を横に振る。

「あ、いえ私こそ失礼な態度だったかと・・・。なので謝罪はいいです。」

すると、私の言葉に第一王子は頭を上げ、またニコリと笑う。

「いや、あれは紛れもなく国の恥晒しだよ。君があんな暴言を吐きたくなる気持ちも分かる。」

・・・やっぱりそこつっこみますか。


部屋に入る前に言われた投獄という文字がまた頭の中に過った。

私は逃げ出したい体を抑えて笑う。背中に冷や汗がつたうのが分かった。

「その事については本当に申し訳ないと思っています。ですが、私の隣にいた少女は無関係ですので罰するのなら私だけをお願いします。」

「うん、自己犠牲もなかなか美しいとは思うけどさ、その事について触れる気は無いよ。というか、むしろ個人的には君のことを結構気に入ってるんだ。」

「は、はぁ」

思ったよりも気さくに受け止められてしまった私の謝罪はなんとも間抜けなものになった。

正直こいつの狙いが何かわからない以上ヘタに喋る訳にも行かない。

とりあえず曖昧に頷いて相手の反応を待っていると第一王子はそんな私の考えを見抜くようにクスクスとお上品に笑う。

「そんなに警戒しないでよ。なにもとって食おうなんて思ってないさ。」

とは言われましても・・・。じゃあなんでタイマン(1対1)で話さないと行けないのでしょう。

なんて言えないので私はまた曖昧に微笑む。

「ふふ、そうは言っても安心できないか。まぁお茶でもどうぞ」

私は進められた通り目の前においてあったティーカップを口元に持ってくる。あ、いい香り・・・。

危ないものが入ってないか一応警戒したけど、お茶をいれてる時もその後も何も不審な動きはなかったし、なによりもさっき第1王子もこのお茶飲んでたからこのお茶は安全だといえる。

一口、飲む。・・・絶対これいいお茶だ。風味が全然違う。フルーティーな感じで美味しいし。

「美味しいです」

「それは良かった」

にっこりと笑い合う。

外からチュンチュンと鳥の鳴く音がした。





・・・いや、違う。そうじゃない。

これじゃあ相手のペース・・・っていうか最早相手のペースでさえないわ。何この時間。不可解すぎるでしょ。

「あの、何故私は呼ばれたのでしょうか?」

とりあえず原点に戻って質問してみる。

「うーん、特に理由はないんだよねぇ。しいていうな、君が1番面白そうだったから、かな。」

「お、面白そう、デスカ。」

「うん。この世界を1番客観的に見れるのは今のところ聖女候補の君達2人くらいだからね。だが、もう一人の少女は政にはあまり詳しくないみたいだったしね。」

まぁ、確かにアリスちゃんは政治には詳しくないでしょうね。元の世界の扱いを聞く限りには学校も最初の頃しか通わせてもらえてなかったらしいし。・・・本当に酷い。

「彼女には複雑な事情がありますから。まぁ、私も元の世界ではただの一般人でしたから役に立つかはわかりませんが。」

・・・言ってしまえば今も一般人なんだけどね。私、本当は黒髪黒目ですから。この召喚も何かの間違いだろうし。

今は言わないけど。

「それでも助かるよ。この国の幹部達は全くと言っていいほど使えないからね。」

「ソウナンデスカ」

「うん。あいつらは頭がとち狂ってる。今までは一番いい形におさめるためにチャンスを待ってたんだけど、もういっその事全てを無に戻してしまった方が早い気がする。」

少し低くなった声に驚いて顔を上げると第一王子は静かに笑っていた。

「君も少し話しただけでも分かっただろ?この国の異常さを。」

それには返事を返さず私は第一王子を見続ける。

「それだけじゃない。あいつは・・・、この国の王は、超えてはいけない一線を超えてしまった。」

少しずつ、少しずつ第一王子の声に温度が無くなって口角が下がった。

今、私の目の前にいるのはさっきの笑顔の仮面をつけた人ではなく感情の抜け落ちた綺麗な人形のような人だった。

私はこれが仮面を外したこの人の素なのだと悟る。

一旦、落ち着くために深呼吸をする。何事も冷静に物事を客観的に見ることが大切だって偉い人も言ってた・・・気がする。

「僕は、革命を起こして父を討つ。それだけは何年も前から僕の中で決まっていた決定事項だったんだ。」

あまり穏やかな話ではなくなってきて私は気を引き締める。

第一王子はまた仮面のような笑みを浮かべた。

「周りは僕に王位継承させたかったみたいだけど、それじゃあ生温いよ。あいつの周りにいる幹部達も処刑しないと何も変わらない。」

「・・・それなら第二王子はどうするんですか」

私の言葉に少しだけ第一王子は体を固くさせた。

「そうなんだよね」

そう言った第1王子はつくり笑いをしながらも少しだけ辛そうな顔をした。

「彼も被害者なんだよ。彼は正しい情報を教えてこられなかった。でもね、・・・僕の革命が成功しても結局は彼を救うことはできない。」

「・・・第二王子は王がしている事が正しいと思うように教育されてるとききました」

私の言葉に第一王子は困ったように笑った。

「あぁ、その通りだよ。でも僕は彼をどう扱っていいか分からない。恥ずかしい話、僕は人よりも心の変化に疎くてね。過去にも何度か彼の心を下手に荒らしてしまったみたいで・・・、次、下手をうったら、彼が壊れてしまいそうで怖いんだよ。革命を終わらせたらこの城に彼と同じ考えを持つ者は誰もいなくなるのに。」

私はここでやっと第一王子も私と同じ一人の人間だということを知った。

目の前で苦しそうに作り笑いを浮かべる第一王子は酷く痛々しくて、酷く優しい人だった。

さっきまで第一王子を怖いと思っていた自分はなんだったんだろうと首をかしげたくなるくらいに。

それと同時に烏滸がましいけれど、何だか過去の自分を見ているような気がした。


私は自分が座っていた席から立って第一王子の隣の席に移動した。

「じゃ、とりあえず泣いちゃいましょうか!」

「・・・・・・は?」

私のいきなりの提案に第一王子は『こいつ頭おかしいんじゃないか?』という感情を隠さずに私を見る。ていうかいままで作り笑い浮かべてたのにいきなり真顔にならないで。怖いっす。

あと、その顔はあまりに正直に感情を表しすぎだからね。私の方が泣いちゃうぞ?

「だから、泣いちゃいましょ」

「・・・は?」

勇気をだしてもう1回言ったのにまたもや第一王子から冷たいお返事を貰った。

王子、いくら私が意味わからない事言ってるからってその態度は酷い・・・。でも私はめげずに説明する。

「だからですね。辛い時は泣いちゃえばいいんですよ。そうすれば案外、いけるような気持ちになるんです。頭が晴れ晴れとして新しい考えも浮かびますよ。」

「いや、そんな事言われても」

「どーせ、自分で何とかしなきゃとか思って抱え込んでるんでしょうけど、それ実は抱え込んでる方が迷惑になるんですよ。あ、ちなみにソースは私です。第二王子が壊れるのが怖いっていってもですね、あの豚野郎の近くにいたら第二王子はどうせ壊れますよ。だったらいっそ、再生可能な壊れ方して自分たちでまた新しく歩んでいけばいいじゃないですか。」

言ってることは無茶苦茶で子供のような言い分だとわかってるけど、私は知ってる。その気持ちを。もどかしさを。私はそれを痛いほど知っている。そしてその気持ちを昇華させる方法は泣くのが一番だということを私は知っている。

第一、こんな状況の人に何もしてあげられないのはもう嫌だ。

「何言ってんの」

うつむき加減で私の横に座る第一王子がボソリと呟いた。

「馬鹿なんじゃ、ないの」

一瞬その言葉にビクリとしてしまったけれどそう呟いた声は湿っていて・・・。

私はそっと俯いたままの第一王子を抱きしめた。

やっぱりちゃんと温かい人間じゃん。

なんか、ちっちゃい子みたいだなぁ。近所にいたツンデレ少年もこんな感じだった。元気にしてるかなぁ。そんな事を思い出しながら私は背中をさする。

「大丈夫です。みんなであのにっくき豚野郎を引きずり下ろしましょうね。」

意気込みながらもなるべく静かに語りかけるように話しかける。

「だいたい、ああいう子は1回くらい人生挫折した方がいいんですよ」

「・・・うん」

少しだけ間が空いて少し笑い混じりの返事が返ってきた。

しばらく背中を撫でてると第一王子が顔を上げた。

「・・・なんか、本当になんとかなる気がしてきたんだけど、どうしてくれんの。」

「いや、知らんがな。」

思わず素で即答してしまうと第一王子は少し呆気に取られてから笑い出す。お?元気でたならおねーさんは嬉しいぞ。

「ふふ、本当は僕もあまりこの召喚には乗り気じゃなかったんだけどね。君と会えてよかったよ」

「え、召喚って第一王子がしたんじゃないんですか?」

「いや、召喚を提案したのは魔物のことが民にバレるのを恐れた幹部連中が王を丸め込んでしたんだ。さすがにほかの世界にまで迷惑をかけるようなやり方を僕はしないよ」

さらに続けて「心外だなぁ」と少し苦笑混じりに言われたので私は素直に「すみません」と謝った。





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