7 国が腐っていました
そして謁見を終え、部屋から出た瞬間に私達は有無を言わさぬ勢いでラヴィルさんの魔法で別棟に飛ばされた。
・・・移動魔法って結構浮遊感あるんだね。
普通に酔いました、うぷ。
と、別棟に着いた瞬間に私が若干、青い顔をしていることに気づかないグレンさんが私の肩を強く掴んで前後に激しくゆさぶった。
「あなたは何を考えていらっしゃるんですか?!!あんな危険な発言までして!!!」
「あ、ちょ、グレンさん、それ、はきそ・・・うっぷ」
「そんなこと言ってる場合ですか!自分が何をしたかわかってるんですか?!」
わかってる、分かってる。あれだよね、あの薄汚い豚発言に怒ってるんだよね。お前の命あともう少しで無くなってたんだぞ、って伝えたいんだよね。分かってる、今は口には出せないけど分かってるから。だから揺らすのをやめ・・・
「何がこの子は初心なので、ですか!!あんな言い方して貴方の方に目が向くのをわかった上であんなこと言ったんでしょう?!私がどれだけ驚き、肝を冷やしたことか!」
ガクガクと私の首が揺れる。
いやそっちぃ?!いやいや、多分驚き度に関しては多分今の私の方が上じゃないかな?!なんでそっちなのかなぁ?!なんで命が危ないとか投獄とかの話よりも私の貞操の話なの?!
普通、薄汚い豚発言の方がアウトだよね?いや、自分で言うのもおかしいけど!っていうか、今思い出しても自分の口の悪さにびっくりしてるけど!
元々、酔ってたのと予想外の連続で私、今なら口から泡吹けそう。
「その顔、分かってませんね?!見てるこっちの心臓が縮みましたよ!」
その顔って今の泡吹きそうな顔のことですか?
っていうか、ほんと、冗談抜きでそろそろ・・・、は、はきそ"う・・・。
「グレン、死んじゃうよ」
眠たげな声が聞こえてグレンさんがピタッ、と揺さぶりをやめた。
声をかけたのはラヴィルさんだ。あなたが神か。
やった、視界が揺れてない。息ができる!
これで少し気持ち悪さがおさまった。
ふぅ、と息をついた私を見てグレンさん、あわあわしだす。
その様子が少し面白くてしばらく何も言わずに私を心配して顔を赤くしたり青くしたり白くしたりするグレンさんを眺めていると隣から「え」と声が聞こえてきた。
「由奈さん!そんな意味であれ言ってたんですか?!!」
「へ?」
隣を見ればなにやらぷんすこしているアリスちゃん。そんな姿も可愛いけどなんで私怒られてるの?
「え、あ、いや、別にその場しのぎのために言っただけで・・・」
「なんで私のためなんかにそんなこと言っちゃうんですか?!!」
「いや、アリスちゃんはなんかじゃないって!」
「今はそんなこといいんです!!それよりも!本当に自分を犠牲にして私に目を向けさせないようにしてくれたんですか?!」
「え、いや〜、まぁ、」
いまいち煮え切らない答えを返す私にアリスちゃんは「どうなんですか?」と迫力満点に聞いてきた。目力すごい。
「・・・少しそういう気持ちもありました」
その迫力に負けて本当に小さく小さく私が返事をすると「なんで!」とアリスちゃんが私の肩を掴む。ひっ、嫌な予感・・・!
案の定、次の瞬間私はアリスちゃんに肩をぐわんぐわんと揺さぶられる。
「なんでそんなことするんですかぁぁ!!!そんなこと勝手にしないでください!!!その気持ちは嬉しいけど私は由奈さんと二人無事にこの世界で生きたいんです!由奈さんを身代わりにしてこの世界で生きていくつもりなんてさらさらないんですよ?!」
うん、うん。アリスちゃんがそんなふうに思ってくれてるなんて知らなくて私的には泣いちゃいそうだけどさ・・・、やっぱ、あの、いま、酔ってるから・・・、乗り物酔い状態だから・・・、揺さぶられると・・・うぷっ、やばい・・・!
「・・・だから、死んじゃうから。」
静かにラヴィルさんが私の肩からさり気なくアリスちゃんの手を離す。本当に、神ですか!!
尊敬の眼差しでラヴィルさんを見ていると当然体がぽわんと温かくなった。それと同時に吐き気も消える。
なんでだろう?とラヴィルを見るとラヴィルさんはいつもの眠そうな声で一言。
「なんか、顔色悪かったから回復魔法かけておいた」
ラ、ラヴィルさぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!
あ"ぃしてる"!!
◇◆◇
・・・さてさて、なんだかんだで私もやっと落ち着いてきたし。お見苦しい所をお見せしました。
そろそろ本題に入りましょうか。
「して、グレンさん。」
「な、なんでしょうか?」
「あのイカれた王族たちは何なんでしょうか?」
にっこりと笑って質問するとグレンさんは引きつった笑いを浮かべて「い、イカれた・・・」と呟く。
「ええ。イカれてるでしょう。よりによってあの汚い変態じじいが国王で、王子もニコニコしてるあの腹に一物抱えてそうな人とぶすっとしたいかにも感情的なあの二人。失礼だとは思いますけど敢えて言わせて頂くと・・・、この国よく崩壊しませんでしたね。」
私が喋る度にグレンさんはぐさっ、ぐさっ、と音が聞こえてきそうなくらいに仰け反り、ショックを受けたままの状態で固まっている。ちょっと面白い。
固まるグレンさんを楽しく眺めていると少しずつ回復してきたグレンさんが「ぐっ」と謎の声を出した。
「み、耳が痛いです。」
ということは当然、グレンさんも、恐らくラヴィルさんもこの国の危うさを理解してるってことだよね。
・・・まぁ、あの王だったら否が応でも理解するわなぁ。
遠い目をしてグレンさんを見ているとグレンさんは心做しか青ざめたままで説明を続ける。
「・・・実は、魔物が増加し世界がこうなる前は城の中でも第一王子、えーと、由奈様が腹に一物抱えてそうと言っていた方に王位継承させるように説得していたのですが」
「魔物増加でそれどころではなくなってしまった、と?」
「はい。その通りです。」
グレンさんは困ったような疲れたような顔で微かに笑った。
「そうだったんですね。」
私はそんなグレンさんを気の毒に思いながら話を聞いていたのだけれども・・・。
ちらりと横を見る。
アリスちゃんが喋らないのはわかる。っていうか、顔に『話について行けません』って書いてある。
でも・・・、ラヴィルさんが喋らないのはちょっとおかしくないかな、と思うんですよねぇ。
っていうのも、ラヴィルさんはきっとこの事情を全部知ってるはず。そしていくら無気力な人だからといってここで黙ってるような人ではない。あまり喋らない人だけど今までのことを考えればちょいちょい話に入ってくるはずなんだけど・・・。
もう一度横目でラヴィルさんを見る。
ん〜。やっぱり今日、なんかおかしい気がするんだよなぁ。おかしいっていってもまだあってから2日しか経ってないけど・・・。何となく勘っていうのかなぁ。なんかおかしい気がする。
考えても埒が明かないので私はグレンさんに小声で尋ねることにした。
「あの、今日のラヴィルさん少しおかしくないですか・・・?」
「・・・やっぱり分かりますか?」
グレンさんは少し驚いたように私を見て同じく小声で返してくれた。
「ええ、なんだかぼんやり、というか、虚ろ?な感じがします。」
「・・・そうなんですよ。何故だかラヴィル様は王とお会いするとあのような様子になるんです。さっきまで大丈夫だったので今日は大丈夫だったのか、と安心していたんですがやはり、王の話になるとダメみたいですね。」
グレンさんは心の底から心配しているようで今も困ったような顔つきでラヴィルさんを見ている。
・・・王と何かあるのかな。
その考えでいくと昨日の夜みたラヴィルさんの右肩に彫られてる模様も関係しているかもしれない。
2人で頭を悩ませていると隣でアリスちゃんが「どうかしたんですか?」と聞いてきた。
「ううん、なんでもないよ。それよりもアリスちゃん、あの王様に何言われても無視しなね。あとなにか危ない目に遭いそうだったら思いっきり叫びなさい。いいね?」
「わ、わかりました。・・・私、あの人少し苦手です。」
「私もよ。私は少しどころじゃなくて大嫌いだけど。まぁ、とにかくなにかされそうになったら叫べば私達のうちの誰かしらが必ず助けるから。・・・私じゃ役に立たないだろうけど、それでも!」
「あ、ありがとうございます!由奈さんもですよ!」
「へ?」
「あの人、由奈さんのこと、変な目で見てました。あの目は危ないです・・・。」
・・・うん。アリスちゃんもその目で見られてたけどね。むしろアリスちゃんメインで見られてたけどね。とは思うけど、まあ気遣いは嬉しいので私は神妙な顔を作って頷いた。
「さて、この先どうします?」
グレンさんの方に振り返ると「そうですね」と顎に手を添えて考えるグレンさん。
「・・・とりあえず、なんとか1ヶ月はしのげるとは思いますけど。問題は第一王子と第二王子ですね。」
「王子の方?」
「はい。陛下は恐らく由奈様が少し時間を下さいと言ってくださったおかげで多少の期間は直接的に何かをすることは無いと思います。が、あの御二方は少し難しいですね。・・・これはアリス様にも把握していただきたいのですが」
グレンさんの言葉に隣でポカーンとしていたアリスちゃんは表情を引きしめた。その様子を見てグレンさんは少し微笑んでまた話始めた。
「第二王子は由奈様がぶすっとしていると仰っていた方です。あの方は由奈様の陛下への暴言を聞いていらっしゃったようですし、陛下から正しいことを教えてこられなかったため、陛下を信用してらっしゃいます。由奈様は特にこの先少し突っかかられる可能性があります。更にあの方は元々この召喚にはあまり気が向いてらっしゃらなかったようですし・・・。」
・・・まじですかぁ。結構私、睨まれるじゃないですか。
しかも、絶対聖女じゃないし・・・。
聖女じゃないってバレて真っ先に私を城から追い出すとしたらあの人かなぁ。
なんてことをぼんやり考えてるうちにグレンさんは第一王子の説明に移る。
「さて、次は第一王子なのですが・・・、私的には第一王子は一番警戒された方がいいかと。」
「第一王子を・・・」
隣でアリスちゃんがボソリと呟く。必死に話を聞いてる姿が可愛すぎてずっと見ていたいけど私はなんとか目線を戻す。
「はい。あの方は本当に何を考えてらっしゃるのか分かりません。味方だろうとなんだろうと自分の邪魔になるものや、要らないものは容赦なく斬り捨てる方です。非常に頭脳も明晰でいらっしゃる上、魔法も使えます。」
・・・うわぁ。あのいけ好かないやつチートかよ。
やっぱり私、あの人苦手だわ。
「先程言った王位継承の話も恐らくあの方がその気になればあっという間に終わる話なのですが、あの方はまだ王の座にはつきたくないようで・・・、あまり乗り気ではありません。」
うわぁ、めんどくさい事になったなぁ。
なんて今更ながらにそんなことを考えていたその時だった。
「そんなに改めて詳しく説明されると照れちゃうなぁ。」
後ろからここで聞こえるはずのない声が聞こえてきた。
「で、殿下・・・」
「こんにちは、グレン。楽しそうな話してるね、僕も仲間に入れてよ。」
そういった第一王子は相変わらず仮面のような笑顔でこちらを見ていた。
◇◆◇
「やだなぁ、みんな固まっちゃって。いいよ、いいよ、さっきみたいに話してよ。僕も仲間に入るから。」
こいつ、サイコパスなのかな。
若干、放心した頭でそんなことを考えているとニコニコ王子と目が合った。
「う〜ん、やっぱり君面白そう。僕、君と話したいなぁ。ユナだったっけ?僕と少しゆっくり話そうよ。」
・・・は?
突然の名指しに固まる私を第一王子は仮面のような笑みを崩さずに見る。
うぇ、はっ?!え?!!!ちょ、超嫌なんですけど?!!
何とかして断ろうと私が口を開くのと同時に第一王子が「いいよね?」と有無を言わさぬオーラを乗っけて聞いてきた。
・・・これ、私詰んでるよね。
当然チキンな私がそれに抗えるはずもなく。私に残された選択肢は「はい」一択だった。




