39 キャパオーバーです
遅刻しました、すみません!
新国王への皆の期待が冷めきらない中、私達はその場を出て元いた部屋へと戻った。
部屋に戻ると立派な騎士の服に身を包んだジョズさんが私達を迎え入れた。
「ちょっと、ジョズさん!なんで言ってくれなかったんですか!!」
「いや〜、言うも何も俺も昨日の夜、言われたことだからな。正直今も夢でも見てるんじゃねぇかと思ってるよ」
ジョズさんの照れくさそうな笑みに私は「そうなんですか?!」と問いかけた。
「ああ。昨日、急に言われたんだよ。ですよね、陛下」
「やだなぁ。急になんて言ってないじゃないか。しっかり、プリンを配ってる最中に「騎士に来て欲しいな」って言ったよ」
「いや、そんな軽い口調で言われてもご冗談かと思いますって·····」
頬を引き攣らせてロナン様を見るジョズさんを見て少し気の毒になってきた。うん、ロナン様はそういう人だ。
「ジョズさん、大出世ですね!」
「ん?まあ、身元不明の不審者から一気に革命軍の一人となった由奈さんに比べれば全然ですよォ〜」
明らかにからかう口調で私の頭をポンポンと撫でるジョズさんの手を振り払って「馬鹿にしないでください!」と叫ぶとジョズさんは全く悪く思ってなさそうに「悪い」と謝った。
「·····まあ、真面目な話、俺は腹割って話したいヤツとまだ話せてないからな。喜ぶのはそれからってとこかな。」
そう言うジョズさんは少し哀愁の見える表情をしていた。
「それって、元幹部のあの眼鏡の方ですか?」
ジョズさんは小さく頷いた。
眼鏡の元幹部というのは私がジョズさんと初めて出会った時や、ステネさんの家で居候している時に来たあのジョズさんといがみ合っていた人のことだ。
あの人は元幹部ではあるものの、何度も国王の行いを咎めていたことや、悪事には一切関わっていないことから降格処分だけで済んだ。
何やら訳ありな雰囲気はしていたけど、なんだかんだ言って元々はジョズさんとあの人仲良かったんじゃないかなぁ。·····全くの憶測だけど。
「まあ、色々あってな。あいつも俺も少しずつ変わっちまったが、それでも根っこのとこはあいつは昔とは何も変わってない。だから、まぁ、話くらいは聞いてやろうかなと思ってな。」
ぷいっと気恥しそうにそっぽを向いたジョズさんは小学生が照れ隠しをしてるようでなんだか少し微笑ましい。
「仲直りできるといいですね」
「べ、別に仲直りしたい訳じゃないが、まぁ、喋ってやらんことも無い」
·····あんた、どこのツンデレですか。
レアなツンデレジョズさんを生温かい目で見守っていると、ラヴィルさんから「由奈」と声をかけられた。
「なんですか?」
「あの、色彩の魔法かけなくていいの?」
「え?」
「·····いや、黒目黒髪ってやっぱり目立つから式典の時はともかく普段はかけてた方がいいのかなって。」
珍しく少し口ごもるラヴィルさんに私は笑いかける。
「いえ、もう、いいです。色彩を隠すことはしません。元々、この顔にはこの色彩が一番しっくりきますし、なにより、もうパイネマの差別は無くなりましたから。」
少しだけ驚いたように目を見開いたラヴィルさんを見て私は彼の手を持ってブンブンと振った。
「心配してくれてありがとうございます。でも、ほら、この色彩ラヴィルさんとお揃いでしょう?だから、そういう意味でも気に入ってます」
ご機嫌で言ったのだけれどもくふふ、と少し気持ち悪い悪い方になってしまった。
笑い方まで不審者っぽい私って·····。
ちょっと自分に自信がなくなっているとラヴィルさんが何も言わないことに気づいた。
え?·····なんで何も言わないんですか?
私が恐る恐るラヴィルさんを見ると、ラヴィルさんは何故か顔の半分を手で覆っていた。
そこから覗く顔は何故か今までの比じゃないくらいに真っ赤に染まっていた。
「え?」
初めて見たラヴィルさんの本気の照れ顔に私まで顔が赤くなってくる。
·····え、え、え。なんで、え?なんでこの人こんなに顔真っ赤なの?!
「こっち、見ないで」
「い、嫌ですよ!ラヴィルさんのそんな表情珍しいですし!」
「ほんと、もう·····、なんなの由奈は。」
「え、なんかすみません」
突然のいちゃもんに私は理由もわからないままとりあえず謝る。
ラヴィルさん、私と言う存在に対してのいちゃもんはやめてください。
「もう、ほんと·····、何も考えてないくせに·····」
「あ、はい、すみません」
続く暴言にもう一度謝ってみる。
え、泣くぞ?私、絹ごし豆腐メンタルだから、泣くぞ?
「本当だよね〜。由奈、頭空っぽで何も考えてないくせにさらっと人の懐に入り込むから·····。詐欺師に向いてるんじゃないかな?」
今の失礼なセリフ誰だと思う?
まあ、分かるよね。
こんなこと言う人、この場に一人しかいないよね。
「ロナン様、それ貶してるんですか?それとも馬鹿にしてるんですか?」
「ええ〜、どう聞いても褒めてるでしょう。まったく、褒め言葉は素直に受け取りなよ。」
·····あなたの褒め言葉は屈折しすぎて素直に受け取れないんですよ!!
と言いたいのを我慢した私はとても偉いと思う。
反対意見は受け付けません。
「ラヴィルだって、いままでその色彩で何度も心無い誹謗中傷にあったんだよ」
ロナン様がシナン様の元へと戻るすれ違いざま、そう小声で私に教えてくれた。
ラヴィルさんの苦労や痛み全てを知ることなんて到底出来ないけど、それでも私の言葉が少しでもラヴィルさんの救いになっていたのなら、それは本望だ。
「ラヴィルさん、私まだ色んなことが分かってないし、これから一杯勉強しないといけないこともあると思います。·····だから、私がしっかりと自分で判断できるようになるその時まで待っててくれますか?」
私はラヴィルさんに問いかけた。
身体の痛みを抑えてまで私を助けてくれた心優しいこの人に。
今まで自らの感情を犠牲にしてきたこの人に。
「もちろん。僕はいつまででも待つよ。」
「ありがとう、ございます」
優しく微笑むラヴィルさんに私はどうしようもなく泣きそうになった。
この人に幸せになって欲しいと、心からそう願った。
と、不意に身体が何かに包み込まれる。
「僕の幸せは由奈と一緒にいられることだよ」
耳元で囁かれた言葉に今度は私が目を見開く番だった
「へ?!!な、なんで、私の心の·····?!」
まさか、心を読める魔法でも使えるんですか?!
ラヴィルさんにいきなりぎゅうぎゅうと力強く抱きしめられ、そんなことを言われた私はパニックになった。
「いや、そんな魔法ないけど、何故か今、すごく強い想いが伝わってきた。運命の相手だからかな」
小っ恥ずかしいことを淡々とした口調でぎゅうぎゅうと抱きしめられながら言われた私はついにキャパオーバーを起こした。
プシュ〜と音を上げそうな勢いで真っ赤になった私は、そのままラヴィルさんの腕の中で意識を手放した。




