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4 異世界チートを目指します

「じゃあ目つぶって」

私は言われた通り目をつぶる。

と、不意に私のおでこにコツン、と何かが当たる感覚がした。

ん?・・・何だこの感覚。


少し目をつぶったまま考えていると今度はさらりとした何かが頬を掠った。

・・・・・・あれ、これって。もしかして、もしかしなくても・・・。


ちらりと一瞬だけ目を開けるとそこにはド迫力美青年の麗しい御尊顔が。

私、コンマの速さで目をつぶりました。


・・・なにあれ、なに、あれ?

やっぱりあんな近くで見ても毛穴なかった。違うそうじゃない。なんであんな近くに、いやでも肌のキメ細かかったなぁ。いや、だから違って、でもあんなバッサバサの睫毛羨ましい・・・。なんで私、あんな神のような人とおでこ合わせになってるの?ん?大丈夫か?私生きてるか?

・・・だめだ。今の私の脳みそは使い物にならない。


私は今の状況を理解するのを諦めてとりあえず炊飯器のことだけを考えることに専念した。

てか、もうキャパオーバーします。失神してもいいですか?


はぁ、ダメダメ!しっかりしないと。目の前の美青年は私のために(いや、多分自分のためだと思うけど)炊飯器をだそうと頑張ってくれてるんだから。


炊飯器炊飯器炊飯器炊飯器炊飯器炊飯器炊飯器炊飯器炊飯器炊飯器炊飯器炊飯器炊飯器炊飯器炊飯器炊飯器炊飯器


・・・あれ、やばい、炊飯器ってなんだっけ?ていうか、おっふ、また頬に髪が、髪がァァ!


若干脳内でゲシュタルト崩壊を起こしながらもたまに頬に当たる髪の毛とおでこにある微かな温かさで私はさらにパニックに陥る。

・・・あ、私今日らへんに心臓とまるかも。


私がシンプルに悟りだしたその瞬間、おでこから温かさが消えて私はほっとするやらなんやらでさらにパニックに陥る。

そんな私を気にせずに美青年は私の目をじっと見て一言、

「多分、大丈夫」と短く呟いた。そして私とおでこを合わせたせいでぐしゃぐしゃになった前髪もそのままに美青年は私達から少し距離を取った。


・・・はぁ、ドキドキした。心臓に悪すぎるでしょ。

この世界の人ってみんな距離感おかしいのかな。それともあの人がおかしいだけ?


そんなことを思いながら美青年を見ているとしばらく眉を顰めた後、何も無い空間で何かを掴むように手をさまよわせ、そして突然綺麗な声で歌い始めた。

それは鼻歌のようでちゃんとした歌ではなかったけれど、とても美しい綺麗な声だった。

心なしか美青年の口角も少し上がっている。


その空間だけが舞台のように、何かの映画を見ているように綺麗な出来すぎた空気につつまれていた。


「綺麗・・・」

思わず呟くと隣でグレンさんが「あれがあの人の魔法です」と説明してくれた。

「す、すごい・・・」

アリスちゃんも後ろでうっとりとしている。

それはどれくらいの時間だったのか、少なくとも私にとってはとっても短く感じられた時間が過ぎて美青年の周りが光り始める。

「お、わぁ・・・」

はじめて見る景色にビックリしながら美青年を見ていると少しずつその光が形を成して美青年の手に着地した。

光の中からでてきたそれは・・・、


「炊飯器」

「うん、できたよ。『すいはんき』」

美しい景色から生まれたそれは見慣れためたりっくぼでぃの炊飯器だった。わぉ、カオス。

「あ、ありがとうございます。わざわざすみません」

ぺこりと頭を下げて炊飯器を受け取ろうとするのに美青年は炊飯器を手から離さない。

「え、ちょ、あれ?っなんで、力つよっ!」

儚げな美青年からは想像もできない力で炊飯器を持っているようで私が引っ張ろうが押そうがビクともせずに炊飯器をずっともっている。

・・・なに、なんで離してくれないの?私の事嫌いなの?!!!嫌いなのか?!

荒ぶる私の心など一切気にしてないであろう美青年はボソリと呟いた。

「これ、どうやって使うの?」と。



◇◆◇


さてさて〜、由奈の〜、3分クッキング!!!


はい!皆さんこんにちは!高松 由奈です!あんまり私の名前出てこないからお前そんな名前だったけ?みたいな事思ってる人いそうだよね。うん、シンプルに泣くぞ?


ということで。

予想外の美青年の言葉に私が驚いていると後ろからグレンさんとアリスちゃんも興味津々でみていたので、お礼も兼ねてお城のキッチンをかりてさっそく炊飯器を使っていきたいと思います。


「本当はこれはお米という穀物を炊くためにあるんです。だから炊飯器も 飯を炊く器 とかきます。でも今回は炊飯器には本来の使い方以外の便利な使い方もあるのでそれを使います。」

「お米、ですか」

グレンさんがキラキラとした目で私に問い掛ける。可愛い。

「はい。稲というものになっていて、殻を剥くと白い穀物が出てきます。そこに色々な処理を加えてこの機械で炊くとふっくらもちもちのどんなオカズにもあう最強の炭水化物になります」

「たんすいかぶつ・・・」

うん。可愛い。グレンさん、可愛い。

「あ、炭水化物というのは元いた世界の言葉で体に必要な栄養の名前のひとつです。」

「へぇ・・・!貴方様のいた世界はかなり文明が発達していたのですね」

グレンさんの言葉に私は少し誇らしくなりながら「はい」と答えると同じくキラキラと目を輝かせるアリスちゃんが私に尊敬の眼差しをむける。

「すごいです、由奈さん!!私なんて道端にあった雑草食べてましたよ!」

・・・元気に教えてくれるのはいいけどアリスちゃん。それ、多分ダメなやつや。


まぁ、アリスちゃんはその事についてはあんまり気にしてないみたいだし、今は触れないでいよう。後でしっかり聞き出すけどね。


「ねぇ、早くやってよ。」

マイペースな少し眠そうな声に私は「はい」と苦笑しながら返事をした。



まず、今日作るのはチョコケーキ(もどき)です!

で、前の世界でよく作ったレシピを元に材料を用意してもらったんだけど、1番欲しかったホットケーキミックスがやっぱりこの世界にはなかったみたい。

まぁ、あったらあったでビックリなんだけどね。

ということで、仕方ないから私はオリジナルのホットケーキミックスを作る。

卵、砂糖、バニラエッセンス、片栗粉、牛乳、ベーキングパウダー、小麦粉を混ぜて、最後に・・・。

予め作っておいた私作、オリジナルのマヨネーズを入れて混ぜる。この世界、マヨネーズもなかったからね。


実はマヨネーズを入れるとふっくらするんですよね、ふふ。隠し味っと。

マヨネーズを混ぜていると周りのみんなが少し引いた目で私を見ていることに気づいた。え、何?

「・・・あ、あの。その少々気持ち悪いソース?のようなものはなんですか?」

グレンさんが勇気をだしてきいています!というようなトーンで私に質問してきたので私はみんなの反応に納得した。

あ、そっか。マヨネーズって確かに知らない人から見たらちょっと気持ち悪いかも。


私はそばにあったスプーンでマヨネーズを掬いとってそれぞれに差し出した。

「1口どうぞ?」


「わっ、ちょっと酸味があっておいしい・・・」

「ふ、不思議な味ですね・・・、でも嫌いじゃない」

「おいし」


驚きながらも可愛らしい笑顔をこちらに向けてくれるアリスちゃんに少しはにかんで味わうグレンさん。そしてこちらをガン見しながら小さく感想をもらした美青年。

「良かったです。これ、マヨネーズって言うんですけどたまに苦手な方がいるので。」

私はみんなが普通に喜んでいることに安心しながら混ぜる手は止めない。

「由奈さん、さっきからすごいです!!かっこいいです!」

そういうあなたは激カワです。アリスちゃん。


心の中で悶えながら私は辛うじて顔を照れ隠しで笑っている人程度にとどめることに成功した。

この世界みんな、尊すぎません?推しが沢山できるんですけど。


危ない思考と思うことなかれ。そう思ってしまうほどにこの世界の人は皆素敵なのだよ。


なんてことを喋ってるうちに、結構いい感じに混ざってきたので最初に湯煎で溶かしておいたチョコとバターを混ぜたものをいれてさらにまぜまぜ、ぐるぐる。

さらにココアパウダーとナッツを入れてまぜまぜ。

ココアパウダーはこの世界ではココアって名前じゃないらしいんだけどほぼ同じものだし名前覚えてないからココアで通しちゃいます。

さてと、結構いい感じになってきたね。


「あ、じゃあ炊飯器使います」

私が控えめに報告すると3人はおお〜、と目を輝かせる。可愛い。ほんと、シンプルにkawaii。


カチャ、と音をさせながら炊飯ジャーを開いて釜を取り出す。

そして釜の内側に少量のバターを塗ってあとは生地を流し込むだけ。

ズボラを地で行く私でも簡単に作れるから甘いものが食べたくなった時によく作ってた。

生地が入った釜を炊飯器の中に入れて普通炊きボタンを押す。静かな室内にテロテロテロテロリ〜となんとも平和な炊き出したことを報告する音楽が流れた。

「・・・えーと?あとは何を・・・」

不思議そうになんの作業もしなくなった私をグレンさんが見る。

「終わりです」

「え?」

「あとはこの炊飯器からもう1回音楽がなったら完成です」

「え、え?」

「こ、この機械すごいんですね!!すいごうきんでしたっけ?!凄いですね!」

目を白黒させるグレンさんの隣でアリスちゃんがヒーローでも見るような目で炊飯器を見てるけどアリスちゃんや、すいごうきんってなんぞや?

漢字に直そうとすると水郷金になるぞ?そんなごつい名前じゃあらへんよ。炊飯器や。


可愛らしい推しを眺めながら「アリスちゃん、炊飯器だよ」とできるだけ優しく指摘すると恥ずかしそうに「あ、」と俯く。あ〜、しんどい。SINDOI☆


自分の太ももをつねって刺激の強すぎる尊さを紛らわせていると美青年が「本当にあれだけなの?」と質問してきた。

そう言えばケーキを作る前からずっと楽しみにしててくれてたのに案外すぐ終わっちゃったし使い方地味だったからな・・・。

私は申し訳なくなって眉を下げる。

「はい。楽しみにして頂いてたのにあれだけですみません。でもとっても便利な機械なんですよ」

「・・・いや、楽しかったよ。僕の知らない知識をいっぱい聞かせてくれたし。」

「それなら良かったです」

ほわほわと受け答えをする美青年に微笑ましくなっていると私はある重大なことに気づく。

「あ!名前!部屋作ってもらって炊飯器まで出してもらったのにまだお名前聞いてませんでした!!」


そう!我が推しの1人の名前を未だに聞いていなかった!!!

こんなに良くしてもらったのに!グレンさんがちょくちょく呼んでた気がするけどそれどころじゃなくて全然意識してなかった。

「改めて、私の名前は高松 由奈。24歳です。」

ぺこりとお辞儀をするとグレンさんが「え」と声を漏らした。

気になってグレンさんの方を向けば真っ青な顔でこっちを見ている。・・・何?嫌な予感しか、しない。

「あ、貴方様は・・・、由奈様は24歳なのですか・・・?!」

「え、はい」

「て、てっきり私はアリス様の1歳ほど年上かと・・・」

「え"」


ちらりとアリスちゃんの方を見る。

「・・・アリスちゃん、今何歳?」

「え、あ、私は17です。」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

まぁ、童顔だって言うのはちょくちょく言われるから自覚はしてたし、若く見られる分には全然いいですよ、と流そうとしたけどグレンさんの青ざめ方が尋常じゃないので私はビックリしてさらに嫌な予感を覚える。これは、あれだ。残業を押し付けられるときの・・・、つまり、面倒事の話の雰囲気。

「ゆ、由奈様。ご結婚は・・・」

「してません」

「こ、恋人などは・・・」

「ここ2年くらい居ないです」

「・・・元いた世界ではどれくらいで皆さん、結婚してらっしゃいましたか・・・?」

その質問に嫌な予感がぶわっ、と倍増しながらも私は投げかけられた質問に震え声になりながらしっかり答える。

「だ、だいたい20代から30代です・・・」

「ゆ、由奈様・・・!」

「はい・・・」

「この世界の平均的な結婚の年齢は、20歳までです。・・・その、えー、つまりですね。」

グレンさん、だいたい結末は見えてる。刺すなら一思いに刺して!!


「この世界では行き遅れ、ということになります。特に女性は行き遅れると結婚できる確率は10パーセント以下です。」


高松 由奈、終了のお知らせです。

・・・え、本当に泣いてもいい?



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