33 みんなでいただきます
しばらくするとテロテロテロテロリ〜という音がキッチンに響き渡った。
「由奈さん!由奈さん!!できましたか?!」
じゅるり、と口元にヨダレを垂らすアリスちゃんに苦笑しながら私は炊飯器の蓋を開ける。
パカッと音をさせながら開いた炊飯器の中から大量の湯気が出てきて、いい香りが漂った。
「うわ、いい匂い」
思わず呟きながら炊飯器の中からトングを使って肉を取り出す。
持っただけで分かる。
柔らかい!!!!
「さて!出来ました!!食べましょうか!」
アリスちゃんとグレンさんにみんなに声をかけて欲しいと頼んだ私はその間にお肉をきる。
うお·····、包丁いらないくらいやわいぞ!!
美味しそう·····。
アリスちゃんのようにたれてきそうになったヨダレを飲み込んで、私は器に盛り付けた。
·····うん、いい感じ。
ふふ、早く食べたいなぁ。
一人でルンルンしていると、アリスちゃんとグレンさんが他の人を連れて戻ってきた。
「いい香りだな·····」
部屋に入って第一声、第二王子が呟いた。
「上手に出来たと思うので、はやく皆さんで食べましょー」
声をかけるとみんなが私の方を向く。
「プリンは多分、角煮を食べ終わる頃には固まってると思いますから、先に角煮から」
「わー、本当に美味しそうです·····!」
「もう、お腹ぺこぺこだよ」
アリスちゃんと第一王子がそんなことを言いながら席につく。
「·····いや、マジでコレあの不審物から出来たのか?凄いな。」
「まったくだ」
「手順も簡単だったし、凄いわね·····」
ジョズさんと第二王子は炊飯器をまだ若干疑っていたようで、お皿に盛られている角煮を見て目を丸くした。
ステネさんも興味深そうに炊飯器を見ている。
そんな三人の隣でラヴィルさんがくんくんと香りをかぐ。
「今日も炊飯器だけなんだよね?」
「あ、はい!最初にジョズさんにお肉を焼いてもらったこと以外は全部炊飯器任せですよ」
「やっぱり、由奈の世界の技術は興味深いね」
「そ、そうですかね?」
「うん」
嬉しそうに、どこか楽しそうに微笑んだラヴィルさんはそう言うと私の隣の席についた。
席に全員がついたことを確認した私は「じゃあ食べましょうか」と声をかけた。
「いただきます」
「「「いただきます」」」
私が手を合わせると、アリスちゃん、グレンさん、ラヴィルさんも一緒に手を合わせてくれた。
そんな私達の様子を不思議そうに第一王子達が見ているのを見てアリスちゃんが今の行為の意味をみんなに説明している。
その顔は少し自慢げに見えて可愛かった。
「ん、美味しいね·····。」
最初に一口、角煮を口に入れた第一王子が顔をほころばせたのが見えた。
「それは、良かったです」
「ほんとに、これ、すごく美味しい!!お肉ってこんなにホロホロになるんですね!」
第一王子に笑いかけるとアリスちゃんが口いっぱいに角煮をほおばって笑う。うん、可愛いけどそのお口どうにかしようね。
「その嬢ちゃんの言う通りだ。あんなブロック肉がこんなに柔らかくなるもんなんだな!」
男らしく角煮をバクバクと食べながらジョズさんが弾んだ声で私に笑いかける。
「本当に、美味しいわ。今度また違う料理も食べてみたいわねぇ」
ステネさんもその隣でにこりと笑って角煮をお上品に食べる。
「お口にあったようで良かったです!」
ふたりの反応に少し嬉しくなりながら私も角煮を頬張る。
うん。美味しいい·····!
じゅわっ、とお肉に染み込んだタレが口の中いっぱいに広がると、ブロック状のお肉がホロホロと崩れてゆく。
ふああ·····。これ、お酒とも合うかもなぁ、今度提案してみよう。
そんなことを考えながら私は角煮を飲み込むと、席からたった。
「どうしたの?」
隣に座るラヴィルさんが私を不思議そうに見る。
「ラヴィルさんに切っていただいた食パンを使おうと思って」
ラヴィルさんが驚いたように目を丸くしたのを見て私はいたずらっぽく笑った。
キッチンから食パンとマヨネーズを取ってくると、私は机の上にそのふたつを置いた。
そんな私を不思議そうにみんなが見る。
「これをちょっとアレンジしようと思います」
私の言葉にアリスちゃんの目がキラキラと輝き出した。
「うわぁ!まだなにかアレンジがあるんですか?!」
「うん。まぁ、アレンジとは言ってもちょっと変えるだけだけどね」
アリスちゃんにそう返しながら私はパンの上にマヨネーズを薄く塗る。そして、その上に角煮をのせる。
「これで、ちょっとだけトーストにいれます。」
この世界にもトーストはあるのでそれに私はパンを入れる。
そして、なんとこのトースト便利なことに元の世界のトーストよりも何倍も早く焼き上がるのです。仕組みは魔法だからよくわかんないけど。
トーストにパンを入れて20秒後、「チン!」という音が聞こえた。やっぱり焼きあがり、はやい!有能ですね!
トーストからパンを出すと、パンの香ばしい匂いと角煮の匂いが混ざりあった香りが漂う。
「うわぁ、美味しそう·····」
·····アリスちゃん、ヨダレ垂れてるよ。
キラキラとした目でパンを見るアリスちゃんにそれを指摘しようかしまいか迷いながら私は取り敢えずパンを切り分けてみんなに配った。足りない分はもう1回パンを焼く。
「多分、マヨネーズがあることでさっきよりまろやかになると思います。あと、角煮って案外パンとの相性いいんですよ」
私の言葉に第一王子や第二王子、それにジョズさんとステネさんは見たことの無いマヨネーズというソースを不思議そうだったり、興味深そうにみていて、グレンさんとアリスちゃんは「へー」と感心していた。ラヴィルさんは無言でじっとパンを見てる。
「どうかしましたか?」
「·····食べていい?」
私の問いにラヴィルさんは短くそう返した。
どうやら、早く食べたいらしい。
「どうぞ、どうぞ!召し上がってください。」
私の言葉にみんながそれぞれ1口パンを齧る。
「美味しい·····」
ラヴィルさんが隣で思わず、と言ったふうに呟いたのを聞いて私はにこりと笑いかける。
「そりゃあ、ラヴィルさんが切ってくれた食パンにアリスちゃんとグレンさんで作ってくれたマヨネーズに、みんなで手分けして作った角煮ですから。美味しくないわけないです!」
「そうだね」
ラヴィルさんははにかむように笑う。
その瞬間、私の心がビッグバンを起こした。
·····あ〜、可愛すぎて禿げそうってこういう感情か。今わかった。
同僚が推しキャラにそんなことを言ってるのを聞いて「禿げるの?」なんて思っていたけど今ならわかる。うん、禿げそう。
それからは主に第二王子とジョズさん、それにアリスちゃんがすごい勢いで角煮を食べ進めたお陰でお皿はあっという間に空になった。
「あ〜、美味かった」
ジョズさんは満足気にニカッと笑うとお腹をさする。
「とても、美味しかった。ぜひまた作ってくれ」
続けて第二王子が照れくさそうにそういった。
お粗末さまでした、と二人に笑いかけるとアリスちゃんが鼻息を荒くしながら「次はプリンですよねっ?」と私に問いかけてきた。
「そうだよ」
あまりのアリスちゃんの勢いに若干押され気味になりながら答えるとアリスちゃんが「私、冷蔵庫からプリン持ってきますね!」と言うので、グレンさんと2人で取りに行ってもらうことにした。
甘いものは別腹って言うし、実際私もそう思うけど·····。
すごい音をさせながら冷蔵庫へと向かったアリスちゃんを見ながら私は思った。
アリスちゃん、あの細い体のどこにあんなに入るんだろう、と。




