32 そんな時だからこそです
「·····嫌いになんて、なるわけないですよ。私知ってますもん。ラヴィルさんが私の為に無理に魔法使ってくれたこと。それにこんなに優しくて温かい人のことどうやって嫌いになればいいんですか。」
ラヴィルさんは私の言葉に俯いていた頭を上げた。その顔には驚きの表情が浮かんでいる。
「え、あれ?僕、由奈に勝手に魔法使うと身体が痛むこと言ったっけ?」
「あ·····」
あ、この話悪魔から聞いただけでまだ本人からは聞いてないんだった!
ラヴィルさんの言葉にそれを思い出した私は「い、言ってましたよ」と誤魔化す。
まさか、実はあの時超越者とかいうよくわかんないやつと話したのである程度状況は理解してるんですよ、なんて頭のおかしくなったと思われるようなこと、言えるわけがない。
そんなこと言ったら絶対第一王子らへんに盛大にバカにされる!
そんな私の心中を知らないラヴィルさんは首を傾げたまま「そう、だっけ?」と呟く。
「は、はい。まぁ、その、だから、絶対嫌いにならないのでそんな、恐れることなんてないんですよ?大丈夫です、私自分で言うのもあれですけど一度懐に入れたらめっちゃ仲良くなりますから」
「·····そっか。」
何やら微妙な間が空いた後にラヴィルさんはそうぽつりと呟く。
「じゃあ、僕も望んでいいの?」
「え?なにをですか?」
「どうしても手に入れたいんだ。」
·····ん?微妙に話が噛み合ってない気がする。
まぁ、とりあえずラヴィルさんが何かを欲しているということは分かったので私は「欲しいのなら望んでいいと思います」と答える。
「·····いいの?僕なんかでも、望んで」
「はい、もちろん、いいに決まってます!」
もう一度力強く頷いて答えるとラヴィルさんは何やら意味深な笑みを浮かべて私を見た。何故か目にギラギラとした光が宿っている。
「·····それじゃあ由奈、覚悟しててね?」
「うん?あ、はい。」
何を覚悟するんだろう?とは思うもののラヴィルさんの機嫌が戻ったことに浮かれてつい何もわからないくせに頷いてしまった。
と、後ろで作業していたジョズさんがこちらに移動してきた。
「·····由奈、頑張れ」
突然ぽん、と慰められるように肩に手を置かれる。
えっと·····、何を?
ちんぷんかんぷんな状況に首をひねっていると、ジョズさんがラヴィルさんに「俺は安全圏ですんで、その目やめてくれません?」と苦笑いしてるのが見えた。
どういうことだろうか?
ともあれ、なにやらラヴィルさんも元気が出たようだし、ジョズさんとラヴィルさんも仲良くしてるし、よかった、良かった!
私は未だに何かを話しているジョズさんとラヴィルさんから視線を逸らすと、パタンと肉の入った炊飯器の蓋を閉じ、スイッチを入れる。
音楽が流れて角煮の調理が始まった。
「はい、じゃあ私たちの作業はこれで終わりですね。あとは待つだけです」
後ろにいるジョズさんとラヴィルさんに告げるとジョズさんは目を丸くした。
「え、これだけ?」
「はい。お肉焼いて、調味料いれるだけで出来ます」
自分が発明した訳でもないのにドヤ顔で炊飯器をびしっ、と指さすとジョズさんは「すげぇな」と呟く。
「由奈の世界ってやっぱ発達してたんだな」
「あ、でも発達してる代わりに魔法は使えませんでした」
「へ?魔法ねぇの?!」
「はい、魔法という概念はありましたけど」
「え、じゃあ元の世界では由奈は魔法使えるの隠してたのか?」
「いいえ、私そもそも魔法使えませんよ」
「·····はぁぁ?!」
さっきの比じゃないくらいに目をまんまるくさせたジョズさんは仰け反り、私を見る。
「そ、そんな色素しておいて魔法使えねぇの?!え?マジで?!聖女候補でもあったのに?!」
私が頷くとジョズさんは「不思議なやつだな」と私の頭を撫でる。私は猫か。
「でも、由奈もかなり大きな魔力を持ってるから多分僕なんかより全然強くなれるよ」
「へ?」
ぐしゃぐしゃとジョズさんに頭を撫でられているとラヴィルさんがそんなことを言いながらさりげなくジョズさんの手首を掴んだ。
「ねぇ、ジョズ?」
にこりと謎の迫力を持つ笑みをむけるラヴィルさん。
その笑みにジョズさんはまた顔を青くさせて「へいへい」といいながら私を撫でていた手を下ろした。
ん?なんだ、今のやり取り。
いや、て言うかそれよりも·····
「あの、私そんなに強い魔力持ってるんですか?」
「うん。由奈は紛れもない黒目黒髪のパイネマだからね。潜在能力は底知れないよ。今度、正しい魔力の使い方を教えるね」
ラヴィルさんのありがたい申し出に私は素直に頷く。
·····魔法かぁ。私はどんな魔法を使うんだろうか。
◇◆◇
そうしてしばらく話していると炊飯器から音楽が流れてきた。
「お、出来たのか?」
ジョズさんの言葉に私は蓋をあげながら「残念ながらまだです」と答える。
「いつもなら一回スイッチ押すだけで終わるんですけど、今回はお肉をホロホロにしたいのでもう一度スイッチをいれます。」
いらない煮汁を捨てて、私はもう一度スイッチを押す。
「あ、でももういい香り·····」
ラヴィルさんが猫のように香りをかぐ。
「楽しみにしててくださいね。」
ラヴィルさんに返事をしながら私は炊飯器が調理を開始したのを確認する。
よし、あとは音楽がなったら完成。
角煮はOKだけど、プリンはどうかな·····?
角煮ができるのを待つ間にプリン作り班の様子を見に行く。
まずは第一王子&第二王子ペア。
「どうですか〜?順調ですか?」
私が後ろから声をかけると第一王子が振り向いた。手にはカラメルの入ったプリンの器を持っている。
「うん。由奈からさっきお叱りを頂いちゃったからね。それはそれは真剣に混ぜて今、容器に移そうとしてるところだよ。」
ちょいちょい嫌味っぽいことを言ってくる王子に頬をひきつらせながらも私は「そりゃーよーござんした」と返す。
第二王子もそんな中々の性格をしてる兄の隣で真剣に器に移していた。こちらは第一王子とは違って目がガチだ。頼もしい限りです。
「器に移せたら、あとは冷やすだけなのであとちょっと、頑張ってください!」
最後にそう声をかけると二人からそれぞれ返事が返ってきたので私はその場を離れて、アリスちゃんとグレンさんの方へ向かう。
「カラメルとマヨネーズ作りお疲れ様です!」
二人に笑いかけると二人ともニッコリも笑い返してくれる。
「由奈さんこそお疲れ様です!なんか、さっきまでの光景が嘘のように和やかな時間ですよね·····」
椅子に座って休憩していたアリスちゃんがそんなことを呟いた。
客観的に言われると確かに滅茶苦茶カオス·····。
アリスちゃんの言葉に私は思わず笑ってしまう。
「確かにそうだね、今までの歴史の中でも多分、革命の後にプリン作りしてる人達なんていないだろうね」
「これからまだまだやらないといけないことは山積みですけど·····、でもいまはびっくりするほど穏やかな時間を過ごせてますね」
グレンさんの同意する言葉に私は微笑む。
「そういう時間って結構大事なことだと思います」
私の突然の言葉にグレンさんとアリスちゃんは不思議そうな表情を浮かべた。
「確かに、今私たちはプリンとか作ってる暇なんてないのかもしれません。
でも、そんな時だからこそ一回肩の力を抜かないと、私たちきっと総倒れしちゃうと思うんです。まあ、だから今は一仕事する前の気合いを入れるつもりだと思って、過ごしましょ!」
「ま、まさか由奈様·····、そんなことまで考えてあの提案を·····!」
何やら私の言葉に感激してくれている様子のグレンさんだけれども、私は一言伝えたい。
ごめん、グレンさん。さっきの提案は普通に私がお腹すいてただけです。はい、私がただのアホです。
·····今の言葉はみんなの雰囲気を見てそう思っただけでした。すみません·····。
と、素直に言うにはなかなか私のメンタルはそこまで強くなかった為、私は曖昧ににごして誤魔化した。
アリスちゃんとグレンさんのキラキラした尊敬の眼差しが痛い·····。心に突き刺さる。




