31 お久しぶりの炊飯器です
ちょっと長いです。文章量まちまちですみません!
「ごめん、みっともないって分かってる·····。お願い、嫌いにならないで。」
ぎゅゅゅと抱きしめる力を増すラヴィルさんは何かを恐れているようにそう呟いた。
·····そう言えば、前にもこんなことがあったな。
私のぽんこつの頭はこんな状況にもかかわらずそんなことを考える。
その時もラヴィルさんはこうして怯えていた。なにかに縋るようにして、私の手を握っていた。
それは、呪いから解放された今も変わらない。
ラヴィルさんは、一体何にそんなに脅えているんだろう。
「ラヴィルさん·····」
私の呼び掛けにラヴィルさんはピクリと反応する。
周りの人は何も言わずに私たちの様子を見守っている。正直もんのすごく恥ずかしい。
だから私は端的に要件を伝えることにした
「あの、お腹すきません?」
私の質問にラヴィルさん以外のその場にいた全員が「はぁ?!」と絶叫したのが聞こえた。
·····あれ?もしかしなくても私の選択、おかしいですか?
◇◆◇
ということで、久しぶりの高松 由奈の簡単お手軽クッキング〜!
いえーい、ぱちぱち!
皆さんと一緒にお城のキッチンまで移動してきました!
え?なんであの空気からそうなるんだって?
いやー、私ももちろん話し合いたかったんだけどさ、ほら。腹が減っては戦ができぬっていうでしょ?
息抜きって意味でも少しここで休憩を入れた方がいいのかなって、咄嗟に考えました。はい。断じて問題の後回しではないです。
はい!じゃあ早速料理していきましょうか!
「今回作るのは豚の角煮です!」
そう言って私はお久しぶりの炊飯器に電源を入れる。
この炊飯器はステネさん宅からジョズさんが持ってきてくれた。ありがたい。
今の説明でお察しの通り今日も今日とて調理方法は炊飯器です。だって、これが楽なんだもん。
誰に言い訳するでもなく心の中でそんなことを考えているとグレンさんが首を傾げた。
「カクニとはなんですか?」
その言葉に私は「あ」と声を出した。
「こっちの世界にはない料理でしたか。えっと、ですね簡単に言うと豚肉の塊をホロホロになるまで煮込んだやつです。」
「なるほど。初めて聞きました」
興味津々といった表情で私をみるグレンさんはとても可愛らしい。
「ま、作り方はいつも通りこの炊飯器を使ってなんですけどね。」
「·····それは、料理に使うものだったのか」
驚愕の声を上げたのは第二王子だ。
·····ほかの世界の人から見るとそんなに炊飯器って変なものに見えますか?
思わず浮かんだ疑問はとりあえず今は頭の端に寄せておいて私は彼に頷くことで質問への答えを返す。
「そうです。これは私が元いた世界にあったもので、いろんな使い方があってすごく便利なんですよ」
「お、俺も知らなかったわ·····。それって危険物じゃねぇのな」
説明するとジョズさんまでもが興味深げに「へぇ〜」と炊飯器をぺたぺた触っている。
「今回は今までの料理より少し時間がかかりますのでご了承ください」
私の言葉にみんなはこくりと頷いてくれた。アリスちゃんは、口からヨダレ垂れてるけど·····。
私はこっそり、ちり紙でアリスちゃんのヨダレを拭き取りながら皆に説明をする。
「えっと、まずブロック肉にフォークで穴を開けていきます」
説明通りフォークを握って肉に穴を開けようと構えると、隣からジョズさんが私のフォークを奪い取った。
「あ。ちょっと、なにするんですか!」
「ブロック肉って意外と固いだろ。力仕事は俺がやる。」
そう言うとジョズさんは「とりあえず満遍なく穴開ければいいのか?」と聞いてきたので私が頷くと目の前の門番さんは心得たとばかりに穴を開け始めた。
·····やだ、イケメン。
思わずきゅん、としているとぐい、と袖を引かれた。
「由奈、僕も何かやる」
振り向くとそこに居たのはラヴィルさんで、えらく不機嫌な顔しながらそんなことを言ってきた。なぜ不機嫌なのかは分からないけど可愛い。
「えっと、じゃあそこに食パン1斤あるじゃないですか。あれを均等に薄切りにして貰えますか?そうして貰えるととても助かるんですけど·····」
「わかった」
やけに気合いの入った返事をするとラヴィルさんは言われたとおり、食パンを均等に切り始めた。
多分、ラヴィルさんの事だから魔法でスパパっと終わらせることも出来ちゃうんだろうけど、彼は魔法を使わずにゆっくり食パンを切っている。
なんだかその姿にものすごく胸が温かくなった。
「わ、私もなにか協力したいです!!」
「それなら俺も!」
「私にも何か出来ることありますか?」
「僕も手伝ってみようかな」
と、そんな二人を見ていたアリスちゃん達がお手伝い志願をしてきた。ステネさんはそんな様子を微笑ましげに見守っている。
お、おお。みんなやる気があるのはとても嬉しいんだけど·····、これ、最終的に仕上げるのは炊飯器だから作業少ないんですよねぇ·····。
とは思うものの、折角みんながここまでやる気になっているのを見て私は急遽、もう1品作ることにした。
作るのはデザートのプリン。あと、調味料でマヨネーズも作ってもらうことにした。
プリンは作り方さえ知っていれば、炊飯器料理と同様簡単に作れるものだから多分問題は無いと思う。まぁ、本格的な美味しいプリンを作ろうとしたらそれなりに大変なんだろうけど、あくまでもこれは家庭料理の一種としてだから、それほどのクオリティは求めない。
プリンは第一王子と第二王子に。
作り方を説明してるうちに、どうせなら大量に作って城の人に配ろうという話になったのでかなりの重労働になると思う。卵どれだけ使うんだろ?
マヨネーズはアリスちゃん1人についてもらおうと思ったのだけれど、色々不安な要素があったのでグレンさんにもついてもらった。·····いや混ぜるだけなんだけど、ほら、アリスちゃんだから。
とはいえ、それだとグレンさんの仕事が少ないかと思ってプリンのカラメル作りも任せることにした。あれは、焦げ付くとめんどくさいからね。頑張れ、グレンさん。
指示を出しているあいだにジョズさんはどうやら穴を開け終わったようで私に「次は何をすればいい?」と質問してきた。
「あ、えっと、そのお肉をフライパンで焼いちゃってください。表面に焦げがつくくらいまで」
「え、煮込むのに焼くのか?」
「はい。そっちの方が美味しくなるんです」
「へぇ〜。やっぱりこういう話を聞いてると由奈は異世界から来たんだな、って実感するよ。」
へ?と首を傾げるとジョズさんは私の頭を撫でながら「俺たちの知らないことを知ってるだろ?」と少し大人びた笑顔を浮べる。
「·····まぁ、私だってこの世界のこと知らないことだらけでてんてこ舞いですけどね」
その言葉にジョズさんはくくっとイタズラっ子のような顔になる。
「確かにな。常識はない上、人の気持ちに鈍い」
「し、失礼な!この世界の常識がないのは認めますけど、私、人の気持ちに鈍くなんか」
「ほーら、お出ましだぞ」
私の言葉を途中でさえぎり、謎の言葉を呟いたジョズさんは最後にもう一度ぽんぽんと私の頭を撫でると肉を焼きに戻っていった。
なんだったんだ、今の?
「由奈」
と、きょとんとする私を後ろからラヴィルさんが呼んだ。
「あ、ラヴィルさん!食パン切れましたか?」
何故か少し切なげな顔をうかべるラヴィルさんに問いかけると無言で頷く。ラヴィルさんはそのまま何も言わない。
ラヴィルさんの様子はまだ少し不機嫌に見える。
そんな様子に私はなにか嫌われるようなことをしたかな、としばらく考えたあと、随分前に言われたことを思い出した。
「·····そう言えば、ラヴィルさん前に私の近くにいると怖いって言ったじゃないですか。」
ラヴィルさんは僅かに身じろぐ。
「あれは、どうしてですか?」
しばらく沈黙が続く。
先に口を開いたのはラヴィルさんだった。
「僕は、呪いで感情を抑え込まれていた。小さい頃からずっと。でも、何故か由奈にだけは、一番最初にあった頃からずっと心が揺さぶられるような感覚に襲われていて、それが僕にとってはすごく怖かった。」
初めて聞く話に私は真剣に耳を傾ける。
「でも、それと同時に初めてのことにとっても心がざわざわして、それがまた僕を不安にさせた。どうして、由奈にだけそんなことになるのか分からなかったし、僕に感情は無いはずなのに、楽しいとか、嬉しいっていう感情が少しわかったような気がして、頭がこんがらがりそうだった。
自分が変わることが怖かったんだ。」
俯くラヴィルさんの表情は読めない。
それでも、ラヴィルさんは話し続けた。
「由奈が、城からいなくなったって聞いてこの国の幹部達とかあの人―――国王様が、由奈は裏切り者だって言った時、すごく、すごく胸がざわざわして、初めて、自分の気持ちに興味を持った。初めて、心配するって感情をもった。でも、呪いはかなり強くて·····。その感情さえも呑み込まれそうになった。
でも、僕は感情を抑えたくなかった。そしてその時、初めて明確に呪いから解放されたいと願った。」
ラヴィルさんが呪いから解放されるきっかけの一端を少しでも自分が担ってると知って、私は驚くことしか出来なかった。
まさかそんな風に思ってくれてるなんて知らなかったし、思いもしなかった。
でも、私はその想いに対してなんと返せばいいのか分からない。
「由奈、お願い。嫌いにならないで、そんなことになったら、耐えられないんだ·····」
ラヴィルさんが最後に消え入りそうな声でそう呟いたのが聞こえた。
思わず漏れ出してしまったような、そんな声色。
その声を聞いて私は自分がどうしたいのかわかった。
この人が悲しむのは嫌だ。
私はラヴィルさんに歩み寄り、少し私の目線より上にあるラヴィルさんの目を見てしっかりとした口調で言った。
「なりませんよ。なるわけないじゃないですか、絶対に。」
と。




