30 慌ただしいです
しばらく、ぽんぽんとあやすようにラヴィルさんが私の背中をリズム良く叩いていると、突然バンッと大きな音がした。
「由奈っ!」
そこに居たのは血相を変えて私の名を呼ぶジョズさんだった。
「ジョ、ジョズさん!!」
ジョズさんの後ろから遅れてステネさんまでが現れる。
私はラヴィルさんから身体を離し、扉の方へ向き直る。
「ステネさんも!」
驚く私にジョズさんは駆け寄ると私の肩を掴む。
周りの人は嵐のような勢いで部屋に入ってきたジョズさんを呆気に取られながら見ている。
「おい、大丈夫だったか!!」
「·····へ?」
「城で革命が起こったって聞いて·····!しかも由奈がこの城にいるって!」
「あ、はい!えっと、大丈夫です!」
取り敢えず自分の無事を伝えるとジョズさんは大きくため息をついた。
「そ、そうか·····」
はぁ、と脱力するジョズさんの後からステネさんが部屋に入ってきた。
「·····ジョズ。由奈ちゃんの無事ももちろん大切なことだけど、状況を理解するのも大切なことよ。」
いつも通り落ち着いたステネさんの声にジョズさんがハッと周りを見渡し、そして青ざめた。
「·····あ、れ?由奈、この方たちって·····」
「あ、えっと、紹介するね。殿下お二人と魔術師のラヴィルさんと私達の世話をしてくれたグレンさんと、聖女のアリスちゃん。」
「·····えっと、あれ、この方たちが革命軍、なの、か?」
「え?」
青ざめるジョズさんはひくりと口を引き攣らせる。
様子のおかしいジョズさんの手を握ってブンブン振ってみるもジョズさんの反応は薄い。
「ねえ、ジョズさん?大丈夫?あの、私は大丈夫だよ。色々あってジョズさんとステネさんに黙ってこんなことになっちゃったけど、大丈夫だよ。ジョズさん達こそ大丈夫だった?」
ジョズさんの顔を覗き込んできくと、ジョズさんはやっと私の顔を見た。
「あ、ああ。いや、本当に何がどうなってこうなってるのかはわからないが、取り敢えず俺達は大丈夫だった。」
「そっか」
「ああ」
取り敢えずジョズさんとステネさんの無事がわかったことに安心していると、突然ラヴィルさんに後ろから腕を引っ張られた。
「え、ちょっ、どうしたんですか?」
「·····誰?」
ラヴィルさんは私の質問には答えずにジョズさんを睨みつけている。
あ、そうだ。皆さんにも紹介しないと。
ラヴィルさんの言葉にまだジョズさん達の紹介ができていないことに気づいた私は皆に向き直った。
「遅れてすみません、紹介しますね。この方達は、私が行方不明になっているあいだ保護してくれた方です。」
私の紹介にジョズさんは「·····私はこの城に仕えている門番でございます。陛下方の前でこのような姿を見せてしまい、誠に申し訳ありませんでした。」と、最敬礼をする。
するとその隣でステネさんも頭を下げた。
「大変失礼致しました。私、ステネともうします。」
偉く畏まった2人の姿に私は今更ながらに、ここにいるメンバーの地位を思い出した。
「あ、えっと、ジョズさんもステネさんも身元もわからない私にとても親切にしてくださった方です。」
慌ててなんとか二人のフォローをしようとする私にくすくすと笑い声が聞こえてきた。
こんな嫌な笑い方するやつ、一人しかいない。
じろりと見ればそこには案の定、私の事を見て笑う第一王子がいた。
·····まじで後で覚えておけよ。
そんな私の気持ちを正しく受け取ったようで第一王子は「ごめんごめん、つい」と笑いながら謝ってくる。
こんなに誠意を感じない謝罪はじめてなんですけど。
ジトー、と第一王子を見ているとグレンさんが「どうか頭をおあげ下さい」と二人に話しかけた。
「この場は無礼講で結構ですから。」
その言葉にジョズさんとステネさんは顔をあげる。
そんな二人にグレンさんは微笑んだ。
「この度は私共の大切な仲間である由奈様を保護してくださり有難うございました。大変感謝しております。」
女神だ·····。ここに女神がいる。いや、グレンさん男だけれども。
慈悲深い笑みを浮かべるグレンさんの後ろからは後光まで見えてきそうだ。
·····あそこで未だに笑ってるどこかの誰かとは大違いだなぁ。
少しささくれだった心をグレンさんの笑みとナイス対応によって癒されていると、ラヴィルさんがまた私の腕を引いた。
「·····由奈、あの人と暮らしてたの?」
ラヴィルさんの目線はジョズさんとステネさんに向いている。
私は素直に頷いて答えた。
「そうです。魔法で城の中に戻れなくなって途方に暮れていた所を保護していただいて。」
本当に、あの時ジョズさんに助けて貰えなかったらどうなっていたか。
また、しみじみと思い返しているとラヴィルさんから不穏な空気が漂ってきた。
「あの、ラヴィルさん?」
「·····なんか、距離ちかくない?」
「え、なんのことですか?」
「·····あの男と由奈」
·····はい?
えっと?んん?どういうことだ?あの男ってジョズさんのことかな?えーっと、距離近いかな?多分、普通の距離感だと思うけど。
なんとも答えられずに曖昧に笑って首を傾げていると、ジョズさんがふぅ、と密かに息を吐いたのが聞こえた。
そんなジョズさんに私は眉を下げて笑う。
「あの、なんか、色々と申し訳ありません」
この短時間でえらく疲れた様子のジョズさんに思わずこっそりと謝るとジョズさんは、苦笑いしながら私の頭をぽんぽんと撫でた。
「いや、別に由奈が無事なんならいいんだ。·····まぁ、びっくりはしたけどな」
相変わらずお人好しなジョズさんに安心していると、またもや隣からずももももと不穏な空気が漂ってきた。
ん?と思いながらラヴィルさんの方を振り返ると、先程までの上機嫌が嘘のようにぶすっーとした顔のラヴィルさんがいた。
「え、ラ、ラヴィルさん?」
ラヴィルさんは何も言わずに私を後ろから抱きしめる。
「ラ、ラヴィルさーん·····」
思わず遠い目で呼びかけるものの、ラヴィルさんからはなんの反応もかえってこない。
もう、本当にこの状況意味わからないんですけどぉぉ。
困り果てていると、何故か目の前のジョズさんが青ざめていくのが見えた。
「え、ジョズさん?大丈夫ですか?」
心配になって呼びかけるもののジョズさんからも返事がない。
·····無視ですか?二人して無視ですか?
密かにショックを受けているとグレンさんが私たちの方を向いてため息をついたのが聞こえた。
「いい加減にしなさい、ラヴィル。」
子供を叱るような口調に私を抱きしめるラヴィルさんが身動ぎしたのがわかった。
なぜ、グレンさんがそんな咎めるようにラヴィルさんを呼ぶのか分からないままその様子を見守っていると、
「·····ラヴィル」
もう一度、グレンさんがラヴィルさんの名前を呼んだ。
数秒すると、ラヴィルさんは何も言わなかったものの、不穏な空気は消えた。
それと同時にジョズさんの顔色も徐々に戻ってくる。
·····え、今のなんだったの?
一人置いていかれている私をラヴィルさんはまたぎゅっと抱きしめた。




