3 ふぁんたじーの世界だと自覚しました
その後、私達が生活するために部屋に案内されたんだけどその部屋っていうのが豪華すぎて私とアリスちゃんは二人揃って目を丸くした。
「いやいやいやいや。おかしいおかしい」
馬鹿みたいに同じ言葉を繰り返す私。こんな映画のセットでしか見たことない部屋でくつろげるとお思いで?しかも絶対一つ一つの家具高い!
・・・うわぁ、私ったら感想がアホ。
「私、もっと質素な部屋でいいです」
金髪のウィッグを被ったまま首を振っていると、グレンさんがにっこり笑った。うお、美しい・・・。
「いえ、聖女様達にそのような扱いはできません。」
だから私、100%聖女じゃないんですってばぁぁぁぁ!!!
そんな事言われると聖女の可能性ゼロな私としてはさらにこの部屋居づらいんですけど・・・。
若干青ざめる私の隣でアリスちゃんがプルプルと震えていた。
あ、アリスちゃんも青ざめてる。
それからアリスちゃんは尋常じゃないくらい青ざめたまま、「むむむむむむむむむりゅですっ!!」と盛大に噛みながらグレンさんに向き直った。
アリスちゃんがパニックになりすぎておかしくなってるのが可愛すぎて私は思わずまた鼻を抑える。やばいやばい。流血パーリーナイトだわ。
「アリスちゃん、落ち着いて」
まぁ、私もさっきそんな感じだったけどね。人が自分より慌ててるの見るとなんか冷静になれるよね。
「だ、だって、私なんかにこんな部屋・・・。第一、ものを壊してしまわないか気がきじゃありません・・・」
アリスちゃんは私の言葉にぐずっ、と鼻をすすりながら答える。
いや、ほんとそれな。
こんなゴテゴテした部屋で落ち着ける訳が無いよね。
・・・はぁ、ちょっと帰りたくなってきたかも。私は根っからの庶民派なんだよ。冬は部屋でコタツに入ってみかんとか食べてるような人種なんだぞ。コノヤロウ。
まぁ、なんてことずっとグチグチ思ってる訳にもいかないので私は仕方なくアリスちゃんから視線を逸らし、グレンさんに向き直る。
「・・・ちなみにここ以外の部屋は」
「現在ご用意できる部屋はこちらだけとなっております。申し訳ありません。」
食い気味で言われました。・・・分かってはいたけど。
うーん。どうしようかな。
グレンさん、絶対に確信犯なんだよな。
この部屋監視つくだろうし、ていうかそもそもこんな高い部屋を用意したのだって私達をこの国に縛り付けるためって言うのもあるだろうし・・・。グレンさん、見た目通りやり手だな。
あ、ちなみにあの美青年はすっごい眠そうにしながらさっきからふらふらと私達についてきてる。
そんなに眠いんならもう戻ってもいいんじゃないかな。さっきからいてもいなくても変わらない、みたいな扱いになってるし・・・。
なんて美形をみて現実逃避しながら私は考える。
うーん。どうしたものか。
さすがに私もこんな部屋で過ごしたいと思わないしなぁ・・・。
グルグルと頭の中を回転させる。
「グレンさん、私正直この部屋以外がいいんですけど。」
「・・・どこかお気に召しませんでしたか?」
困ったように眉を下げて微笑んでくる。
これも絶対自分の顔の魅力わかってやってるよね・・・!!
でもちょっと胸が痛む、くそっ!
まぁ、でもここが勝負どころ!
「いえ、お気に召すとか召さないとか以前に私落ち着く部屋で過ごしたいんです。体裁とか気にしなきゃ行けないというのは分かっているんですけど表向きはこの部屋を使ってることにしてほかの部屋を利用したりって出来ますかね?」
「・・・そう、ですね」
私の言葉にグレンさんは顔をくもらせる。
「ある程度こちらの事情を理解して頂けているようなのでご無礼を承知で申し上げさせて頂くと実は後々、事情を知っている貴族の方々に聖女様達をご紹介する時、色々と面倒なことになってしまうのです。私達にとっても聖女様達にとっても。」
あ、なるほど・・・。つまり貴族の中でも私たちのことを利用しようとしてる奴がいるってことか。で、そいつらにどれほど聖女が手厚く保護されてるのか見せつけないといけないと。
うわ〜、それはすこぶる面倒くさい。
苦々しく喋るのグレンさんを見て私は納得した。
でもそうなると簡単な問題じゃなくなるな。
隣でどうしたらいいかわからないのかキョロキョロとしてるアリスちゃんを視界の隅におきながら私はウンウンと唸る。
と、その時眠そうな声が聞こえた。
「僕の魔法つかう?」
「・・・へ?」
声の主を見るとそれはさっきまで眠そうにしていた美青年。
「僕の魔法を使えば、前の世界で君達が住んでいた空間を限りなく近く再現できるよ。で、貴族の奴らが来るんだったら魔法を解除して元のこの、ゴテゴテした空間に戻せばいい。ね、グレン?」
美青年は私とアリスちゃんが置き去りにされている間にグレンさんに問いかける。おーい、また私を置いていかないで〜。私、魔法云々まだ理解出来てないよ〜?
「まぁ、貴方が力を貸してくれるというのならそれにあやからない理由はないのですが・・・。珍しいですね、あなたが自分から魔法を使うなんて。」
「・・・うん。よく分からないけど今、城の中の空気が澄んでて気分がいいんだ。」
お日様でひなたぼっこする猫のようにのんびりとほわ〜んと喋る美青年はそう言うと少しだけはにかんだ。
・・・そのはにかみの破壊力といったら。鼻血を出さなかった私を誰か褒めてください。っていうか誰か私に理性をお分けください。私のなけなしの理性だとこのままではアリスちゃんや目の前の猫っぽい美青年やら、グレンさんやらその他の美男美女やらにhshsしてしまいそうなんです。
切実に、ぷりーず、りせい。
「・・・それでは聖女様、お二人は念の為お部屋の外で待機して頂いてもよろしいですか?」
「あ、はい」
私はグレンさんの言葉に大人しく従って部屋から離れた。
アリスちゃんもよく分かってはいないものの私の後ろにつく。
「じゃあ、ちょっと待っててね〜」
いまいち気の抜ける雰囲気のまま部屋に入った美青年は内側から部屋の鍵をかけた。
・・・。・・・・・・。・・・・・・・・・。
沈 黙
「えーと、今はなにをしてるんですか?」
あまりの沈黙の長さに耐えきれなくなった私はグレンさんに問い掛ける。誰も何も喋らないとか・・・、そんな気まずさに私は耐えられないっ!!
「今は恐らく魔法陣を描いてる頃だと思います。」
「まほうじん」
「ええ。あの人は王宮専属魔術師なので。」
「まじゅつし」
「・・・聖女様?」
・・・はっ!あまりのめくるめく、ふぁんたじーな世界に取り込まれてしまった・・・。なんだ、この世界。どうせなら厨二病患ってる人を召喚してあげてよ・・・。
いや、違う。今はそんなこと考えてる暇じゃなかったわ。グレンさんが普通に心配してる。その麗しいお顔に「なんでこいつ返事しないんだ?」って書いてある。
「あ、いえ、私の世界では魔法は現実になかったので少しびっくりしてしまいました。」
「そ、そうですか」
グレンさん、優しいから深くは聞かないでくれた。若干ひかれてる気がしなくもなくも・・・。いや、きっと気の所為。そう思い込まないと心が折れる。
「だ、大丈夫ですかね」
なんの音も聞こえない部屋の扉を見つめながら私がボソリとつぶやくとグレンさんは「ええ」と頷いた。
「あの人はああ見えてこの国で実力だけで言うとずば抜けてナンバーワンですから。多分これくらいの魔法だったら直ぐに出来ると思います。」
そ、そんな凄い人に部屋改造してもらってんだ・・・。
さっき、いてもいなくても変わらないとか言っちゃってごめんなさぁい!すごく助かりました!!
それからずっと心の中であの美青年に拝みながら待っていると不意に扉が開いた。
「準備、できたんだけど部屋のイメージ聞くの忘れてた。」
中からでてきた美青年はあっけらかんとそしてやはり少し眠そうに私とアリスちゃんを見た。
「あ、えっとどうすれば・・・?」
私のイメージは元いた世界とおなじ一人暮らしの部屋を希望なんだけどどうやってイメージを伝えればいいんだろ?
「うんとね、ちょっとこっちに来て。」
私の問いかけに美青年は私を手招きした。
・・・近づけば近づくほど毛穴のなさと肌のキメの細さに気絶したくなるんですけど。この人の隣に並ぶとか無理ゲーすぎる。
若干失礼なことを考えながら美青年の前に立つと美青年は私の手を片方握った。
ふぁぁぁぁっ!!!!!もうやばい!!!なになに?!!そのお白い傷一つないお美しい手で私の手をぉ?!ぐふっぉ、変な声出るのとまんねぇぇぇ!!!
内心、大乱舞が起こってるのをバレないように咳払いしようとしたら我慢しきれなくて「ン"ン"」っていうニャンち〇うみたいな声が出た。やべ。
「えーと、自分の住みたい部屋をイメージして?」
静かでポヤーンとした声が聞こえてきて私は必死に意識を戻して元いた世界の部屋を思い浮かべる。
数秒の沈黙の後、美青年から「もういいよ」という声がかかった。
「だいたいの構造は分かったから。なるべく家具とかも同じにしとくね〜」
その言葉に素直に頭を下げてから私はアリスちゃんの方を向く。
「アリスちゃんも、イメージしてること伝えたら?」
私の言葉にアリスちゃんはその可愛らしい顔を少し強ばらせた。
「あ、私・・・。あの、元いた世界で住んでたところがあまり好きではなくてあの部屋に住むのはもう嫌なんですけど、でも私、逆にあそこ以外の部屋にあんまり入ったことがないので理想の部屋っていうのもなくて・・・。えっと、その場合ってどうすれば・・・」
言葉を失う私に気づかずにアリスちゃんは普通の部屋ってどんなものが置いてあるんですか?と私に問い掛ける。
・・・ていうかさ、さっきからアリスちゃんの話を聞く度にイライラが募るんだけど。一体前の世界でその「お義姉様」やら「お義母様」はどんな扱いをアリスちゃんにしてたんだ?
どうも私が想像するよりずっと吐き気のするような世界で過ごしていたようだ。
「アリスちゃん、アリスちゃんがもし良ければなんだけどさ一回私の部屋にくる?今作ってもらった部屋。」
「・・・え?」
「多分、アリスちゃんが元いた世界とは文化とか違うからアリスちゃんの『普通』は無理だと思うんだけど私の部屋、結構一般的な部屋だから・・・。どう、かな?」
驚いて固まるアリスちゃんに私は問いかける。
すると、しばらくしてから「ぜ、ぜひお願いしますっ!!」と元気のいい声が聞こえてきたので私は安心してほっと息をついた。
「・・・あ、そうだ。」
と、私の隣でその成り行きを見守ってた美青年が声を上げた。
「君の部屋をできるだけ再現したんだけど、君のイメージの中にあった『すいはんき』とか『でんしれんじ』とかは再現できてないよ」
「あ、そうなんですか?」
まぁ、この中世ヨーロッパ風のふぁんたじぃの世界でそんな文明機器あったらそれはそれでシュールだよね。
なんて思ってると美青年はさらに続ける。
「でも君がもうすこしイメージを詳しく伝えてくれれば作れると思うけど、・・・どうする?」
「え、うーん、そうですねぇ。」
正直、電子レンジは冷食とかコンビニのお弁当温めるためにあったから多分この世界じゃ使わないんだよね。
スマホも持ってても何が出来るかわかったもんじゃないし、この美青年に頼むんだからなるべく無駄なことはさせたくない。
うんうんと悩んだ末に私は「じゃあ炊飯器だけお願いできますか?」ときいた。まぁ、部屋の明かりもついてるし、電気については問題ないでしょ。
「あの、丸っこいやつだけでいいの?」
「はい。あれだけで大丈夫です!」
「わかった。じゃあさっきみたいに手だして」
私は言われた通り少しどぎまぎしながら美青年に手を出した。
「・・・う、ん?」
と、美青年は少し訝しげな声を出して首をかしげた。
・・・え、私なんか変なこと考えた?ちゃんと炊飯器をイメージしたよ?
少し不安になっていると美青年はパチリと目を開けた。
「あの丸っこいやつさ、『すいはんき』だっけ、見た目より構造が複雑なんだね」
「え、あ、はい」
「・・・ちょっと情報が足りないかも」
美青年の言葉に私はあ、と気づいた。
・・・確かに私は炊飯器のイメージは浮かべているものの炊飯器の中身なんて分からない。むむむ、やっぱり難しいか。
「あ、じゃあ大丈夫で「もうちょっと調べる」へ?」
断ろうとした私の耳に少しむきになったような美青年の声が割り込んだ。
「ちょっ、ラヴィル様?貴方、なんでそんなに張り切ってるんですか」
グレンさんの焦ったような戸惑うような声が聞こえる。
「だって、この丸っこいの気になる。」
「本当にいつもいつもあなたの好奇心は変なところで・・・」
呆れたように溜息をつくグレンさん。美しいですね。もしや、グレンさんは彫刻から生まれた精霊なのでは?
いや、そうじゃない。自分。
何度も本題からズレる自分のぽんこつ頭を叱咤して私はラヴィルさんに大事なことを伝える。
「あの、でも私その機械、使い方しか知らないんですけど」
と、ラヴィルさんはそのことをある程度把握していたようで軽く縦に頷いた。
「大丈夫。ちょっとさっきより強い魔法使えばなんとかなるから」
・・・美青年よ、君はさっきまであんなに眠そうにしてたのに炊飯器ひとつでそんなに人が変わるのだね。
眠そうな瞳の中に僅かに美青年のやる気を見た気がして私は頭の中に残念なイケメンという言葉がよぎった。
お読みいただきありがとうございました!