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【閑話】超越者

三人称です

由奈に手を振った悪魔は上機嫌のままくるっと振り返る。


·····まさか、僕の力を超えてくるとはね。

悪魔は鼻歌を歌いながらそんなことを考える。

本来、この空間は現実であって現実では無い場所。

人間がそう易々と感知できるものではない。

現にほかの人間は今、意識を飛ばしている。


が、由奈はそれを無意識のうちにやってのけた。

さすがに自由になったのは聴覚だけだったみたいだけど、それでも上出来だ。

黒目黒髪とはいえ、なかなかぶっ飛んだ存在だね。

·····うん。面白いよ、あの人間。


悪魔はなおも上機嫌で口角を上げたまま、鼻歌を歌い続ける。


さてと。そろそろ本題にはいろうか。

悪魔は鼻歌をやめ、指をパチンと鳴らした。


と、指を鳴らした瞬間、そこに現れたのは丸々と太った体に、憎悪で一杯の表情を浮かべる国王だった。

もう一度パチンと指を鳴らせば、奪われていた国王の聴覚、視覚、触覚が戻ってくる。


突然意識の戻った国王は何が起こったのか分からないようで周囲をキョロキョロと見渡している。

そんな国王に悪魔は笑いかけた。

国王は突然現れた目の前の男を怪訝そうに見た後、ふんぞり返った。

「そなたが誰か知らんが、この状況はなんだ、ここはどこなのだ!我を誰だと心得ておる。頭が高いぞ。こんなことしてどうなるか分かっているんだろうな!」

偉そうな国王の言葉にも悪魔は読めない笑みを浮かべたままだ。

「·····そなた聞いているのか!」

傲慢で愚かな国王は悪魔に怒鳴るが、悪魔は何も言わない。

「お前、どうなるか覚えていろよ。我に働いたその無礼、必ず罰してやろうぞ」

「貴方は何も分かっていない」


顔を真っ赤にさせて怒る国王に、笑いをこらえきれなくなった悪魔は初めて王に声をかけた。

その声に先程由奈と話した時の明るさはない。

「なんだと·····?」

「僕のこと、覚えていないんですか?契約通り、貴方の命を奪いに来たのに。」

ふふ、と笑うと国王は数秒呆気に取られたような顔をした後、顔を引き攣らせた。

「そ、そなた、あの時の·····」

「ああ、思い出して貰えましたか。私が呪いをかけた時、あなたは確かに了承しました。」

温度のない声で流暢に喋る悪魔に国王は真っ青な顔でふるふると頭を横に振る。

「違う、違うんだ、あれは、あれは本気じゃないっ!」

「本気か本気じゃないかなんて僕には関係ないんですよ。僕と貴方が契約を交わした以上、僕は契約通りあなたの命を奪う。」

「ひぃぃ」と後ずさり目にうっすらと涙をうかべる国王はここに来てやっと自分の置かれた状況を正しく理解したらしい。

「·····つもりだったんですけどね」

脂汗をダラダラと流す国王に近づきながら悪魔は再びニコリと笑った。

「どうやら貴方は死にたくないようですね」

悪魔の言葉に国王は縋るような目で彼を見た。

そしてこくこくと激しく縦に首を振る。

「な、なんでもするっ!!命を奪わないというのならなんでもするっ!なんならわし以外の者の命をくれてやろう!!」

その姿は一国を背負う者にしては余りに醜く、無様な姿だった。

それを見て悪魔はより一層くすくすと楽しそうに笑う。

そして、彼は国王に冷たい目を向けた。

「そんなに生きたいのなら、生かしてあげますよ。」


その言葉に王は目を輝かせ、悪魔を見た。

そんな視線を無視して悪魔は国王の髪を掴みあげ、無理矢理顔を上げさせる。


「そのかわり、自ら死にたいと願うほどの地獄を見せてあげるよ」


悪魔の掴みどころのない表情から少しずつ笑みが消えてゆく。

感情の抜け落ちた顔はまさに悪魔と呼ぶにふさわしく、国王はそんな悪魔に慄いた。

再び逃げようと後ずさる国王に悪魔はゆっくりと近づく。


·····愚かな人間だ。どこに逃げようとこの空間にいる以上逃げ場などないのに。


「ひ、ひぃ!!く、来るな!!来るなぁッ!!わ、わしに何をするつもりだぁぁっ!頼むっ!なんでもするからたすけてくれぇぇ!」

泣き叫び、鼻水を垂らす国王は悪魔に命乞いするものの、悪魔は何も言わずにこつり、こつりと国王に近づく。


「ねぇ、君は今までどれだけの命を奪った?どれだけの不幸をまき散らした?その責任は誰がとるんだい?」

「ひ、ひぃっ!!くるな!くるなぁぁ!!」

「お前はこれから自らの命が尽きるまで、自らの行ったことをその身に受けるがいい。」


悪魔は喘ぎ泣く国王の額に手をかざし、そしてうっすらと笑った。


「死んだ方がマシだと思うほどの苦痛を味わうがいい。

·····ああ、言っておくけど自殺は出来ないよ?だって、君が『生きたい』と望んだんだから。

ふふ、本当に愚かな生き物だ。生きのびたって君の周りには敵しかいないのに」



少しずつ、国王の魂に恐怖、憎悪、嫌悪を刻み込んでゆく。

今まで国王がした所業の分、その恨みつらみの感情は増幅し、国王を苦しめる。

「·····まさに、自業自得だな」

吐き捨てるように放ったその言葉に温度はない。

ニタリと笑ったその顔はまさに悪魔と呼ぶにふさわしい顔だった。



かざした手を元に戻す頃には、もう元の国王の姿は影も形もなくなっていた。

「許してくれ·····。·····ゆ、許してくださいっ。許してください。嫌だ、嫌だ嫌だ。くるなぁ、くるなぁ·····」

恐らく自分が命を奪ってきた者の幻影に苦しめられているのであろう国王は気が狂ったように同じことを繰り返す。

「それがお前の罪だ。生涯苦しみ続けろ」



ブツブツと似たような言葉を繰り返す国王に悪魔は興味を失ったようで、国王を一瞥すると、もう二度とそちらを見ることは無かった。

悪魔はパチンと一度指を鳴らす。



そこに、もう国王はいなかった。








超越者は気まぐれに人間の世界に関与する。


あまりに長い年月を生きる超越者は退屈を持て余し、その退屈を紛らわす為だけにそうして人間で遊ぶのだ。



超越者は笑う。

人間の愚かさを。


超越者は楽しむ。

たまに起こる人間達の変化を。


超越者は喜ぶ。

長い退屈が凌げるような面白い人間達がいることを。


そして願う。

同じ強すぎる力を持つ者として。超越者に最も近いあの人間に幸せが訪れることを。

もちろん、あの少年にも。







超越者は笑う。


変わりゆく人の世に気まぐれに手を貸しながら。




超越者は決して優しさで王様を殺さなかったんじゃないよっていうお話です

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