25 革命が起こりました
「契約通り殺そうと、人間が感知できないよう視覚、聴覚、触覚を麻痺させ、一時的に言語を奪ったのに·····。やっぱり由奈には気づかれちゃったネ」
男が冷たい声で私に話しかける。
「·····他の人は無事なんですか」
「ウン。時も止めてるからこの間にあの少年が死ぬことは無いし、他の人間も動けないと思うよ。この世界で動けるのは僕と、由奈だけ。」
とりあえず皆の無事がわかったことに安堵する。
それでも、心のもやは晴れない。
「殺すんですか、王を。」
「殺すヨ。それが契約。それが世界の理。この人間は生かしておくにはあまりに罪を重ねすぎた。代償は、でかイ。」
感情のこもらない声で話す悪魔の話に私は何も反論できない。
王は、人の人生を軽く扱いすぎた。
そのことは多くを知らない私にもはっきりとわかる事だった。
何も言わない私に悪魔は問いかける。
「逆に由奈は何が気に入らない?人間を傷つけ、自分を害そうとした人間をなぜ庇おうとするダ?」
私はその言葉を反芻する。そして考えた。私が王をどうしたいのか。
「·····私は王を、そのクソ野郎を庇う気なんてないです。でも、その王を殺してしまったらラヴィルさんや第一王子は誰にその想いを伝えればいいんですか?その王は自分のした事にもっと向き合うべきです。きっと、それはこの王にとっては死ぬことよりも辛い。」
私の言葉に悪魔が驚く気配がした。
「ホウ。なるほどね。面白い考え方をするんだネ。ふーん。由奈の願いはこの王を殺さないことカイ?」
「·····出来れば殺さないで元の世界に戻して欲しいです」
悪魔は数秒沈黙した後、言った。
「まぁここから先は僕と、この人間の話だ。由奈の願いを叶えるかどうかはもう少し考えてから決めるよ。
それじゃあさようなら、超越者に最も近く、心優しい人間。」
突然の別れの言葉に戸惑う私に男は言うことだけ言うと沈黙した。
最後、薄れゆく意識の中で何も見えない状態のはずなのに、なぜか飄々とした男がこちらに手を振っているのが見えた―――気がした。
◇◆◇
「·····ん」
身体の硬直が解け、少しずつ視界に光が戻ってきた。
まだ強ばる身体を無理矢理動かして周りを見渡せば兵士もグレンさんもアリスちゃんも第一王子も、第二王子も皆何が起こったのかわからないという顔をしていた。
きっと、悪魔のやるべきことが終わったのだろう。
私は王様がいたところを見る。
王様はそこに居た。
だが、その姿は先程まで喚き散らしていたのが幻だったかのように震え、小さく縮みこんでいる。
そんな姿を見ながら私は悪魔とのやりとりを思い出す。
悪魔の気まぐれか、なんなのか。どうやら悪魔は私の願いを叶えてくれたようだ
兵士達はそんな王の様子に、混乱する。
「へ、陛下?!」
「どうされたのですか?!!」
叫び、混乱する兵士達は周りを見渡す。
が、そこにかつての王はいない。いるのは反逆者とされる私達と情けなく震える一人の男だけだ。
そしてここにいる人達の中で王がどうなったのかを分かっているのは私だけ。
なにかに怯えるように震え上がる王を見て私は悟った。
王はあの悪魔に何かされたのだろう、と。自らの所業によって。
それでも、やつは私たちの手で裁く。
それが今まであの王がしてきたことへの正しい末路だと思うから。
そんな王の姿を見ていた私は「お、おい!」という声によって意識を戻す。
すると、誰もがみな驚愕の顔で私を見ていた。
なぜ私を見ているのだろう、としばらく考えた後、視界に黒い髪が映った。
なぜみんなが私をあんなにマジマジとみているのか、分かった。
私の色素が元に戻っている。恐らく、瞳の色も黒く戻っているだろう。
今の私は黒目黒髪だ。
「·····なんで?」
思わず呟いてしまったその言葉は弱々しく震えていた。
この魔法はラヴィルさんにかけてもらったものだ。
その魔法が解けている、ということは·····。
私はドキドキと嫌にうるさい心臓を抑えながらラヴィルさんを見る。
と、そこには相変わらずアリスちゃんに治療されているラヴィルさんがいた。
良かった、息してる·····。
血が止まりつつあるラヴィルさんは胸を上下させ、しっかりと息をしていた。
良かった、と私が安堵の息をつくと今度は兵士が騒ぎ始めた。
「なぜ、黒目黒髪の人間がここに?!」
「あいつは聖女候補だったんじゃないのか?!」
「あいつが陛下になにかしたんだ!」
戸惑い、恐怖し、激怒する声が、目線が全て私に向かっている。
「は、排除しなければ。」
「そ、そうだこの国の害になる!!」
収集がつかないほど、騒ぎ出す兵士たち。
恐らく、王があんな状態になっていることで混乱しているというのもあるのだろう。
『静かに』
そんな兵士たちに私はそう言った。
その言葉はやけに力を持って口から出ていく。
「もう、こんなことは終わりにしましょう」
私が喋ったことにより、兵士達は一気に静まり返った。第一王子や第二王子、グレンさんも何も言わずに私を見ている。
視界の端でこの状況でも一心不乱にラヴィルさんを治癒しているアリスちゃんの姿が見えた。
「王は、誰でもない王自身の所業によりその身を滅ぼしました。だから、もうこんなことはやめましょう。」
場は誰一人喋ることなく静まり返っている。
「·····貴方達は、パイネマを排除しようとしますが、パイネマが貴方達に何をしましたか。私たちは本当に処刑されなければいけないようなことをしましたか。」
誰も何も言わないこの空間で私だけが話し続ける。
「確かにパイネマは多くの魔力を持っているかもしれない。私だって、今は分からないけど力を持っているのかもしれない。でも、私達パイネマはあなた達に何もしていない。」
人間は自分と違うものを忌み嫌い、避けようとする。
傷つけ、孤立させることで安心する。
それは人間の本能なのかもしれない。
でも、そのせいでラヴィルさんは何年も苦しみ続けた。
過去の黒目黒髪のパイネマだってそうして亡くなった。
それでも―――。
「パイネマを崇めろ、なんてことは言ってないんです。ただ、パイネマだって一人の人間だってことを貴方方は忘れている。この国は、大事なことを忘れている。」
人間が人間を排除しようとすることになんの意味があるのだろうか。
パチパチと不意に拍手する音が聞こえた。
音の方を見ればそこにいるのはニッコリと底の見えない笑みを浮かべている第一王子だ。
「素晴らしい演説だね。実に甘ったるくぬるい。でも、嫌いじゃないよ」
第一王子の言葉に私の目は半目になる。
·····貶すのか褒めるのかはっきりしてくれませんかね。
私の視線に気づいた第一王子は爽やかな笑みを浮かべて私を見た。
「やだなぁ、褒めてるんだよ。由奈の言ったことは確かに綺麗事と言われることだ。でもそれが出来てる人は少ない。」
最後の一言は珍しく真顔でしっかりと私に目を合わせて言った。
「俺も、そう思う。俺達は、物事の本質を見ていなかった。本当にすまなかった。」
第一王子の隣にいた第二王子が頭を下げる。
「い、いえ。私はこの世界に来たばかりなので他のパイネマの方に比べたら全然この国のことについて知りません。」
慌てて第二王子に駆け寄り、そう話すと突然肩に重みがかかる。
頬にサラリと当たる髪の感覚にもしかして、と振り向けばそこに居たのは自分の足でしっかりと立つラヴィルさんだった。
「ラヴィルさん·····!回復されたんですね!!」
ラヴィルさんに確かめるように聞けば何故か彼は私を後ろから抱きしめて淡く笑った。
「うん。心配かけてごめん。もう、全部、全部終わったよ。」
実感の籠った言葉に私は「はい」と頷いた。
遅れて、アリスちゃんとグレンさんも笑いながら駆け寄ってきた。
「アリスちゃん!本当に、本当にありがとう·····!」
「いえ!お力になれてよかったです、本当に。」
見ればアリスちゃんの瞳は潤んでいた。
グレンさんも安堵したように柔らかく笑っている。
すると、どよめく兵士達の方へ第一王子が向き直った。
「これは、革命です。私と第二王子によって革命は成功しました。それでも、僕らについていけないという人はこの城から出ていってください。尚、ここにいる人物の誰か一人にでも危害を加えようというのなら、その時は全勢力を以って制圧します。」
鋭い目つきの第一王子に睨まれ、兵士達はこくこくと頷いた。
そんな兵士達の様子を見て第一王子は満足そうに頷くと震える王の元までゆっくりと歩いてゆき、そして実の父の腕を手錠で繋いだ。
これからこの国はどうなるのか、一体今何が起こったのか。
私はその説明をされる為、ひとつの部屋に通された。
すみません、今回の話は少しわかりにくいことになっているかもしれません。ですが、これからの話でなるべく今のこの状況がどういう状況なのか分かるよう書いていきたいと思っています。
また、次回は悪魔と王の会話となりますので視点が違います。
そして、誤字報告ありがとうございますorz
今回もお読みいただきありがとうございました!




