24 悪魔な超越者と私
突然世界が真っ暗になり、何も見えなくなる。
そして光の奪われた世界で突然声が聞こえた。
「ぶっぶー。残念、そっちを選んじゃったカー。」
この場にそぐわない明るくおちゃらけた男性の声だった。
何が起こっているのかわからないまま、暗闇の中で目を凝らすものの全く何も見えない。
「うん、残念残念。じゃあ君には死んでもらおうかナ」
と、突然その男性は物騒なことを言い出す。
·····え、そもそもこれ誰が誰に喋ってるの?
声の出処もわからなければ、誰に喋りかけているのかもわからない。
「あ、あの!」
あまり穏やかではない話の内容に私は思わず、その誰かに向かって話しかけていた。
「·····え?」
声の主は私が話しかけると戸惑ったような空気になる。
「君、なんで喋れるノ?」
「え?な、なんでって」
男性のよくわからない問いに答えられずにいると、「あ、君はもしかして由奈か!」と何故かその謎の人物に名前を呼ばれた。
「なんで私の名前を?」
「僕が超越者だからダヨ」
「ちょうえつしゃ?」
謎の男性の言葉を繰り返すと男性は「そう」と弾んだ声で答えた。
「人間はよく僕のことを悪魔と呼ぶネ」
悪魔·····?
なにやらオカルトチックな話になってきたぞ。
「僕は時も空間も超越できる。だから、君のことを知ってるんだよ。君はこことは違う世界から召喚された高松 由奈さんデショ?」
「はい」
私が素直に頷くと自称悪魔の「ダヨネ、だよね。」と言う嬉しそうな声が聞こえてくる。
「·····あの、貴方が悪魔だと言われる存在だということはわかりました。それで質問なんですけど」
「ナニ?」
「この状況はどういう状況ですか?」
「むむ」
私の言葉に自称悪魔は言い淀む。
「ウーン、説明が難しいんだけどね、まあひとつ言えるのは今この状況になってるのはこの国の王様のせいってことかな。」
「·····は?」
「この国の王様と僕は契約を交わした。その契約に則って今この状況になってるんだよ。」
「じゃあさっきの死んでもらおうかなっていうのは·····」
「うん、この愚かで無様な王様のことだよ」
心底楽しそうに男が言うのを聞いて、私はこの人は確かに悪魔なのだと感じた。
人の命を狩ることに、なんの抵抗も感じない。むしろ、その行為を楽しんでいる。
私は暖かさも寒さも何も感じないこの空間で背中を汗がつたるのが分かった。
「その契約って何ですか?」
「んん〜、本当は部外者に話しちゃいけないんだけどね、由奈は超越者に最も近い存在だから特別に教えてあげるヨ」
男の言葉に引っ掛かりを覚えるものの私はそのありがたい申し出に素直に話を聞くことにした。
「僕は数年前、この王様に呼び出されたんだ。まあ、もっとも正確に言えば僕を呼び出したのは王様ではなく、王様に仕えていた魔法使いだけどネ。
王様は1人の少年を指さして僕に言った。『この小僧に呪いをかけろ』と。」
いきなり物騒な話だな、と聞いていた私はん?と首を捻る。
呪いをかけろって、もしかして·····。
「由奈の予想通り、その少年がラヴィルだよ。呪いの内容はラヴィルから感情を無くすこと、そして魔法の使用を制限することダッタ。」
淡々と述べられたその内容に私は息を呑む。
感情を無くすことと、魔法の使用の制限·····?
じゃあ、ラヴィルさんはずっと何年も何も感じずに本当に人形のように王に仕えてたってこと·····?
想像以上の現状に無意識に歯を食いしばっていた。
「由奈達みたいな黒の色素をもつ人間は膨大な魔力を持っている。特にその最たる例が黒目黒髪。このことは由奈も知ってるヨネ?」
「はい、知り合いの方から聞きました」
「ウン。でもこの国には完璧な黒目黒髪はいなかった。だからあの王様は黒目黒髪にもっとも近い場所にいたラヴィルをこの城に縛り、自分の傀儡として、道具として使うことに決めた。ラヴィルの魔力は幼い頃から桁外れに大きかったからね。感情を無くせば自分の好きなようにその魔力を使えると考えたんだロウ。」
なんて、なんてクズなんだろう。
そのせいでラヴィルさんは何年も苦しみ続けてたんだ·····。
「·····じゃあもしかしてあの夜、ラヴィルさんが苦しんでいたのって」
私の言葉に男が頷いた気配がした。
「その通リ。ラヴィルは本当は王様に許可なく魔法を使うことは出来ないんだ。許可なく勝手に魔法を使えばラヴィルの身体は呪いによって痛みで身を焼くような苦しみに包まれる。でもあの日、ラヴィルは何を思ったか君の為に魔法を使った。
そのせいであの日の夜、ラヴィルは苦しんでいた。ラヴィル自身魔法を使えばどうなるか分かっていたのにネ。」
私は男の言葉に絶句するしかなかった。
なんでラヴィルさんが魔法を使ってくれたのかわからない。でも、あんなにラヴィルさんが苦しんでいたのは私のせいだということに驚きが隠せなかった。
「ああ、話を戻そう。僕はそう望まれたから、言われた通りに呪いをかけた。」
「·····呪いをかけることに抵抗はなかったんですか」
「ないヨ。僕は人間のように感情によって行動することはないんダ。代償さえ払ってくれるのならなんでもやる。僕はそう言う存在だヨ。」
その言葉を聞いて私はやっぱり、この人は人ではないんだなと改めて、本能がそれを実感していた。
「けれども、人を呪うには代償が必要だからネ。僕は王様に呪いをかける代わりに何をくれるか聞いた。そうしたら王様は僕を召喚した魔術師を指さして「代償はこいつの命だ」といった。だから僕はその魔術師の命と引き換えにラヴィルに呪いをかけた。」
グッ、と握った拳のせいで爪が手のひらにくい込む。
そうでもしていないと今すぐ「なんてことを!」と叫びちらしてしまいそうだった。
「そうして、ラヴィルは感情をなくしタ。でも、それからしばらく経って僕はまたこの世界に呼ばれた。どうしたのかと思ったら、王様が僕にラヴィルを自分の意のままに操るすべはないのか、と聞いてきたからまた代償を払ってくれるのなら教えると僕は答えたんダ。
そうしたら王様はまた自分に仕える人間ヲ僕に差し出そうとしてきたから、それはつまらないと思って僕は王様にゲームを仕掛けることにしたんダ。」
「·····ゲーム?」
「ソウ。僕は王様に「今回は代償を払わなくてもいい。その代わり、もし貴方の心すべてが黒く染まることがあったら命を貰いに行く」と言った。そしたら王様はどうやら僕の言葉を戯れだと思ったみたいでね。代償が要らないことに気を良くして了承してくれたよ。」
思わず顔が強ばるのを感じる。
だって、だって、さっきの王様の様子は·····。
「ソウダネ、由奈の考えている通りだヨ。王様の心はさっき真っ黒に染まった。僕はキチンと選択肢を残したのに、バッドエンドを選んだのは本人ダヨ。」
私の心の声を読んで、そう答えた男の声は楽しくて仕方がないとでも言うように弾んでいた。




