23 そして貴方は
その笑みはこんな状況だと言うのに何故だかとても穏やかなものだった。
その笑みに私は嫌な予感がした。それは形容しがたい、もやもやとしたものであり、自分自身でもよくわからなかった。
「ラヴィル、さん?」
思わず存在を確かめるように呼びかけると、ラヴィルさんは私から目を逸らし、国王の方へと向き直った。
「どうした!早く奴らを捕まえよ、ラヴィル!!」
私の方からはラヴィルさんが今どんな表情をしているのか分からない。
しばらく、動きもせず返事もしなかったラヴィルさんは手をかざした。
するとその手から魔法で造形された短剣が出てきた。
その短剣は氷で出来ているものだった。
そんな様子を何も出来ずに見ている私の中でむくむくと嫌な予感は膨れ上がる。
何故だろう、なんで、こんなに私はソワソワするのだろう。
嫌な予感は私の中で膨らみ続ける。
すると、ラヴィルさんに国王が笑いかけたのが見えた。
「そうだ、そなたはそうやって大人しく我の言うことを聞いておけばいいのだ。さぁ、その短剣で奴らを」
満足気に国王がラヴィルさんに命令するもラヴィルさんは動かない。
「おい、ラヴィル、早くせぬか」
国王の声にイラつきが混じり始めた時だった。
ラヴィルさんは自らが造った美しい短剣を首にあてた。
「陛下、もう終わりにしましょう」
ラヴィルさんの静かな声が聞こえた。
そして、ラヴィルさんは自身の首をその短剣で切った。
それはまるで映画のような景色で。
目の前で何が起こったのか、分からなくて。
ただ、ただ目の前で鮮やかに散る赤を呆然と見ていた。
「ラ、ヴィルさん·····?」
なんとか張り付く喉で掠れた声を出す。
返事はない。
「お、おい!!?だれか、救護班を呼べ!こやつにはまだ利用価値があるのだ、死なせてたまるか!」
国王が叫ぶ。
数人の兵士が慌ててどこかへかけていくのが見えた。
「やだ!やだよっ!なんで?!ラヴィルさん!!」
駆け寄ろうとした瞬間、アリスちゃんが私の腕を抑えた。
「離して!ラヴィルさんが、ラヴィルさんがっ!!」
みっともなく叫ぶと、アリスちゃんは意思の強い綺麗な翠色の瞳を私に向けた。
「大丈夫、大丈夫です。私が、ラヴィルさんを救います」
芯のしっかりとした瞳に見つめられ、私は少し落ち着きを取り戻すことが出来た。
「で、でもどうやって?」
「私の、力を使います」
「聖女の、力?」
私の問いにアリスちゃんは頷いた。
グレンさんが首から大量の血液を流しているラヴィルさんを背負ってこちらに来た。
「·····この人のことを、よろしくお願いします」
そう言うと、グレンさんは再び兵士へと立ち向かう。
その様子を止められることも出来ずに見ていると、私の後ろでアリスちゃんが力を使い始めた。
キィィンと音がして、アリスちゃんの手に少しずつ翠色の優しい光が集まり始めた。
これが、聖女の力。
何も出来ない自分を歯痒く感じながらも私はその光景に魅入られる。
「絶対に、治します」
アリスちゃんが治療を続けながら私に目を合わせ、言った。
「うん」
私もアリスちゃんを信じて頷いた。
と、後ろで呻き声がした。
慌てて後ろを振り向けば、グレンさんが肩口から血を流していた。
「グレンさん!」
痛みに歪むグレンさんは私に「大丈夫ですから」と安心させるように声をかける。
でも、でもこんな状況、明らかに不利だ。
数十人はいるであろう兵士達に対してグレンさん一人で立ち向かうなんて、そんなことは·····。
絶望しかけた、その時だった。
「ごめん!遅れた!!!」
聞き覚えのある、声がした。
振り向くとそこに居たのは武装した第一王子と、·····第二王子だった。
「·····え?」
呆気に取られる私に第一王子は笑いかけた。
「やあ、由奈久しぶりだね。由奈、勝つことを諦めてはいけないよ。第一その顔は由奈らしくない。」
その言葉に私はハッとする。
そうだ。元はと言えばこの戦い自体私のせいで始まったことなのだ。私が諦めてどうする。
私が絶望してどうする。
俯きかけていた顔をぐっとあげて私は第一王子に笑いかけた。
「負けないです。私たちは絶対に」
「·····うん、いい表情。」
第一王子はそう言ってグレンさんの元へ加勢する。
「身内の不始末は身内で片付ける。·····済まなかったな」
そんな後ろ姿を見送っていると誰かに声をかけられた。
振り向くと、そこに居たのは第二王子だった。
「え、あ、あの·····?」
「詳しい話は後でだ。この戦に、勝ったあと話す。」
覚悟を決めた顔で私にしっかりと目を合わせた第二王子は前にあった時のように不貞腐れたような雰囲気は一切なく、勇ましかった。
「はい」
私がその言葉に頷くと第二王子も戦いへと向かう。
何が起きているのかさっぱり分からなかった。
目の前では真剣が交わり、血が吹き出す。普通のOLの私からしてみれば震えるくらい怖い。
でも、今はただ、ただ、絶対に勝つという想いが私を突き動かしていた。
「クソっ!何故だ?!!おい!!シナン!!!お前はなぜそちらにいるのだ!!なぜ憎んでいるはずの兄と手を組んでいるっ?!」
息をきらせ、喚き散らす国王を第一王子と第二王子はやけに凪いだ目で見る。
「父上、もう終わらせましょう。この国は、俺達は罪を重ねすぎてしまった。」
「何を言ってるのだ、シナン!さては、お前か?!お前がシナンになにか吹き込んだのだろう?!」
国王は第一王子を見据え、そう叫ぶ。
「私は貴方のように洗脳まがいなことをしたことなど1度もない。私は私の思う理想を聞いてもらっただけです。そして、シナンは貴方よりもずっと、民のことを思ってくれていた、ただそれだけの事ですよ。この腐った国はこのままではやがて民を不幸にする。だから、私達はこの国を変えるために―――革命を起こす。」
『革命』
その言葉に国王は血走った目を見開き怒鳴り散らした。
「ふざけるな!!!何を戯けたことを!お前ら風情が何を出来るというのだ!!お前らごときがワシに意見すると?!革命だと?!ほざけ!!無力なお前らに何が出来る!!」
余裕そうな言葉とは裏腹に国王は顔を真っ赤にさせ、額に血管を浮かび上がらせる。
「もっと兵を!!増兵だ!!!こやつらをなんとしても叩き潰せ!殺しても構わん!!」
その言葉に第一王子と第二王子の登場に戸惑っていた兵士達は再び動き出す。
「もう、あなたの好きなようにはさせませんよ」
そう言った第一王子は言葉通りに敵を薙ぎ倒していく。
その光景はとても美しく、気高く、まさにこの国を背負って立つのに相応しい姿だった。
「くそっ!!くそ!!!ふざけるな!わしはこんな所で終わるような人間ではないのだ!お前らごときに手こずらされるわしではない!!殺せ!あやつらを殺せ!!!」
国王の叫び声が聞こえた瞬間、視界が真っ暗になった。




