22 わからないことばかりです
「そろそろ魔法がとけるよ」
ラヴィルさんがそう言うと場の雰囲気が一気に引き締まった。
私もみんなのただ事では無い様子に何が起こってもいいよう覚悟する。
と、私の視界に右肩を抑えるラヴィルさんが見えた。
·····右肩。
よく見てみればいつも涼し気なラヴィルさんのこめかみにじんわりと汗が滲んでいた。
私はしばらく思案した後、ラヴィルさんに近づいた。
「ラヴィルさん、あの·····、右肩痛むんですか?」
「え?」
声をかけるとラヴィルさんは目を瞠った。
「あ、いや、ちょっと痛むだけだから」
やっぱり。
気まずそうに目をそらすラヴィルさんに私はジト目を向ける。
ラヴィルさんが押さえていたところは以前深夜に見た、茨のある場所だ。
「どうせラヴィルさん、あの時に会ったのは私だって分かってるんでしょう?」
明確に言わなくてもラヴィルには伝わったらしく数秒してからコクリと頷いた。
いつからバレてたんだろう、と考えているとラヴィルさんが一層右肩を押さえる力を強める。
「·····大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫」
明らかに大丈夫そうじゃないのに。そんなはっきり言われると何も言えない。
ぐぬぬ、と不満顔でラヴィルさんを見ているとふと、ラヴィルさんの黒髪に目がいく。
「·····ラヴィルさんも、パイネマですよね。それもかなり力の強い」
初めてあった時にはパイネマの知識がなかった為にラヴィルさんの黒髪に日本人として親しみを感じただけだったけど、今こうしてみてみるとパイネマを忌み嫌っているはずのあのクソ王がパイネマを臣下として置いてるのはかなり違和感がある。
私の質問にラヴィルさんは「そうだね」と短く答えたっきり何も喋らなかった。
詮索されたくないこと、だったかな。·····呪いのこともあるし。
空気読めてなかったな、と一人反省しているとラヴィルさんが「後でゆっくり話そう」と声をかけてくれた。
それに「はい」と答えた瞬間、ラヴィルさんが鋭い声で「そろそろ魔法がとける」と声を上げた。
それが合図だったかのように、どこからともなくパリンっと音がした。きっと、魔法が解けたのだと思う。
「由奈、今から何があってもグレンの傍から離れないで。」
隣でラヴィルさんの声がした。私はそれに頷く。
と、遠くの方で大量の足音が聞こえた。
「·····来ますよ」
グレンさんが呟くと同時に建物の影から大量の兵士達が私達の所へとやってきた。
私の顔を見た後、兵士は三人の顔をしっかりと見た。
「見つけたぞ!反逆者だ!!」
こんなに早く居場所がわかるものなの?!
私は魔法が解けた瞬間に現れた兵士達を驚愕しながらみる。
しかも、私の顔を見ただけじゃない。兵士は確かにアリスちゃんや、ラヴィルさんやグレンさんの顔を見たはずなのに動揺することなく「反逆者」と言った。
もう何が起こっているのか分からない。
混乱する私をグレンさんが背で庇うようにして私の前に立った。
「捕らえよ!!!」
隊長らしき兵士の声が聞こえ、兵士が一斉に怒声とともに動き出した。
え、え、何どういうこと?!なんでアリスちゃん達まで捕えられるの?!
てか、この状況どうするの?!
パニックて動けない私の前にグレンさんとラヴィルさんが立った。
そして隣にはいつの間にか泣きやみ、涙を拭ったアリスちゃんが。
「アリス、ちゃん?」
「私、由奈さんが居なくなってから何かあったんじゃないかって心配でずっと泣いてたんです。
·····でも、グレンさんに怒られちゃいました。泣いてるだけじゃ何も変わらないって。だから、私頑張って力を捻り出しました。もう、弱いだけの私じゃないです。私は由奈さんや、皆が幸せになれるようにこの力を使います。」
力、とは恐らく聖女の力の事だろうけどそれがわかっていてもアリスちゃんの言葉の意味が私にはわからなかった。
もちろん、アリスちゃんが私の身を案じていてくれたこと、私のことを信じていてくれたこと、とっても頑張ったことは分かった。
でも、これから何が起きるのか、私にはますます予想が出来なくなってしまった。
「アリスちゃん、無茶しないで。本当に危なくなったら私のことなんて放って逃げて。お願いだから。」
私はもう誰かが傷つくのを見たくない―――。
私の言葉にアリスちゃんは何も言わずに微笑んだ。
そんな話をしているうちに兵士達とグレンさん、ラヴィルさんが既に戦いを始めていた。ラヴィルさんは魔法で、グレンさんは剣でそれぞれ戦っており、兵士達の持っている剣は真剣だ。
そして、その真剣で躊躇うことなくラヴィルさんとグレンさんに襲いかかっている。
本当に、グレンさんとラヴィルさんは罪人として追われてるんだ·····。でも、一体どうして?
心の中で疑問がふつふつと湧き上がる。
第一王子は?あの人は今の状況を知ってるの?
心の中の問いを今の状況で誰にぶつけられる訳もなく、私は結局何も出来ずにその光景を見守ることしか出来ない。
呆然と立っていると急に兵士達がざわめき始めた。
すると、兵士達は突然、戦いを辞めある方向に向き直る。
ラヴィルさんとグレンさんも構えの姿勢はとったままではあるものの戦いを辞め兵士達と同じ方向を見た。
そして、その方向から見えてきた人物はクソ豚もとい、国王だった。
「·····そなたら、覚悟は出来ているのだろうなぁ」
ニタリと私達を嘲笑うような表情をうかべた国王は傲慢な態度でそう言った。
国王の登場に静まり返る場で国王は再び口を開いた。
「アリス、お前は聖女としてわしと共に生きる運命なのだ。戻っておいで」
気持ちの悪い猫なで声に思わず鳥肌が立つ。
慌てて、アリスちゃんを見ると私の予想とは違い、アリスちゃんは強い眼差しで国王を睨みつけていた。
「言ったでしょう。私はあなたの言いなりになどなりません。
その上、由奈さんを反逆者として捕らえようとするなんて·····。私はあなたを絶対に許しません。」
以前、震えながら隣で顔を真っ青にしていた少女はこの短期間でかなり勇ましくなったようだ。私は今の状況も忘れ、思わずアリスちゃんを抱きしめたくなった。
「·····ふん。まぁ、いい。どうせお前達を処分してアリスを閉じ込めればいい話だ。聖女の力を我らが逃すはずもなかろう。」
そう言った国王は私を見つけるとニタリとまたあの嫌な笑みを浮かべた。
「由奈、お前も愚かだなぁ。色彩を変えれば我らを欺けるとでも思ったか。そなたが助けてくれ、と我に許しを乞うのなら考えてやらんことも無いのだぞ」
その下衆な視線に、態度に、昔の記憶が蘇り吐き気がする。
でも、アリスちゃんが頑張ったのに私が頑張らずにどうする!
私は自分を奮い立たせて目の前のくそ国王と目を合わせた。
「行くわけないでしょ、あんたの所なんて。」
きっぱりと言い切ると私の言葉に国王はひくり、と口元を引き攣らせた。
「お前は必ず今の自分の言動を後悔することになる。必ずだ!」
国王は目を血走らせながら私を睨みつける。
「ラヴィル!そなたも戯れはいい加減にしろ!そなたは我からは逃げられぬ運命。さぁ、戻ってこい。そしてこいつらを拘束しろ。」
頭に血が上ったのであろう国王は感情のままにラヴィルさんにそう叫んだ。その瞬間、ラヴィルさんが苦しそうに呻く。
押さえているのはやはり、右肩だ。
きっと、これがラヴィルさんにかけられた呪い·····。
思わず絶句していると国王は尚も口を開いた。
「痛いだろう、身が焼けるような感覚だろう。辛いか、解放されたいか?今ならまだ半殺しで済ましてやる。さあ、我のところへ戻ってこい。おぬしに拒否権はないのだ。」
汚く、醜い笑みを浮かべた国王の吐く言葉一つ一つに力が宿っているように国王が何かを言う度にラヴィルさんは痛みに呻き声を上げる。先程よりも呻き声は大きくなっている。
「ラ、ラヴィルさんっ!」
思わず駆け寄ろうとするも、「来ないでください!」とグレンさんの大きな声によって遮られる。
そんな私たちをよそに国王は尚もラヴィルさんに語り続ける。
「ラヴィル、そなたに感情など必要ない。そなたは我の思いの通りに動く、傀儡なのだ。さあ、反逆者共を捕らえよ。ラヴィル」
国王の言葉に虚ろな目をしたラヴィルさんは一歩また一歩と足を踏み出した。
「ラヴィルさんっ!ラヴィルさん!やだっ!」
まるで本当に感情のない傀儡のようにふらふらと国王の元へと向かい始めたラヴィルさんに私は必死でよびかける。
だが、歩みは止まらない。
「やだっ!やだよっ!ラヴィルさん!!」
ゆらり、ゆらりと止まらない。
止まってよ!お願い!呪いなんかに負けないで·····!!
「ラヴィルさんっ!!」
ありったけの力を込めてラヴィルさんを呼ぶとラヴィルさんはピタリ、と足を止めた。
そして虚ろな目をしたまま俯いていた頭をあげ、国王を見たあと、こちらに振り向いて、
そしてラヴィルさんは、笑った。
また毎日投稿できたらと思います。
恐らく20時投稿になると思いますので引き続き、よろしくお願い致します!




