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20 そういえばこういう人でした

「由奈、逃げるよ」

そう言ったのはラヴィルさんだった。


··········。

え?


「え、ちょっ、ええええええええええ?!っもが?」

思わず叫んだ私の口をラヴィルさんはまた抑えた。

「しーっ。いい?今から僕の言うことをよく聞いて」

いつになく、真剣なラヴィルさんの口調に私はこくこくと頷いた。

「いまから、ここに城の者がやってくる。」

「?!」

声には出さず驚いた私にラヴィルさんは「だから」と話を続けた。

「ここから僕と一緒に逃げるよ」

「で、でも」

私はラヴィルさんの言葉に小声で抗議する。

「ステネさん、この家の持ち主の方々にここから出ないよう、言われてるんです。それに、訪問者が来てもここの扉を開けないようにすれば大丈夫なんじゃないんですか?」

ラヴィルさんは数秒、黙り込んだ後に首を横に振った。

「·····それは無理だよ、由奈。」

「ど、どうして?」

「今、城ではパイネマと聖女候補を捕まえることに力を入れてるんだ。」

その言葉に私は色々なことを思い出して、ん?と首をひねった。

「あ、あれ?ちょっと待ってください。そ、そもそもなんでラヴィルさん、私が由奈だって分かるんですか?私、今黒目黒髪ですよ?それに、私の居場所だって、なんで·····」

「ごめん、由奈。その説明はまた後で。今は一刻を争う。とりあえずそういう話はここから逃げてからだ。」

ラヴィルさんの言葉に私は頷くしかなかった。

それほどにラヴィルさんの雰囲気がいつもと違ったのだ。

「とりあえず、その色素だと目立っちゃうよね·····。由奈は魔法は使える?」

私は勢いよくブンブンと首を横に振る。そんなの使えるわけがない。

「そっか、じゃあ僕がかけるね。」

そう言うとラヴィルさんは私の頭の上に手をかざした。

そして何かをボソリと呟くと私を光の粒が包み込んだ。

「これで、今由奈は茶色の髪に水色の目になってる。」

「え·····。」

「じゃあ、逃げるよ」

うんとかすんとか私が返事をする前に身体が浮遊感に襲われる。

ラヴィルさんの魔法?転移魔法かな·····?

と思ったそれが、魔法によるものでは無いと気づいたのは数秒後だった。

あれ、これ魔法とかじゃなくて·····。


·····お姫様抱っこされてます?



その事実気づいた瞬間、私の頭から血が引いていく。

いやぁぁぁぁ!!まっ、まって、待って!今の私、過去最高体重だからー!!最近、ちょっとお腹プヨプヨしてきてるから!

だから、おろしてぇぇぇ!!!


と、大声で抗議したいのを必死に堪えてなるべく小さな声で「降ろしてください!」とラヴィルさんに頼むも、一向に下ろす気配はない。

「裏口ってある?」

ラヴィルさんの質問に私は仕方なく、お姫様抱っこされたままの状態で裏口の場所を教えた。

「·····よし、いくよ。」

家の外に出た瞬間、ラヴィルさんの周りを風が包み込んだ。

そして、そのままラヴィルさんは地面を蹴り、空を飛ん·····って、えええええええ?!!!空、とんでるぅぅぅぅ?!!!


目をひん剥く私には目もくれず、ラヴィルさんは空を跳ねるように移動する。

「ラ、ラヴィルさん、ラヴィルさん、ラヴィルさんん!!」

「なに?」

「なんかもう色々追いついてないことだらけなんですけど?!」

私の言葉にラヴィルさんは淡く笑った。

·····何故だろう、ラヴィルさんの雰囲気が少し違う気がする。気の所為、かな?


「これから城に戻ってグレン達と合流する」

ラヴィルさんは私をお姫様抱っこしたままそう言った。

「あ!私、今お城に入れないんです·····」

「第二王子に魔法をかけられたんでしょ。大丈夫、僕がその魔法を解除するから。」

「え、なんで知って·····」

私の問いかけに答えないままラヴィルさんは少しだけ速度を上げた。

「由奈、今はきっとわからないことばかりだと思うけど必ず後で説明するから。だから、今は僕についてきて」

·····ついてきて、っていうか強制的に抱えられてるんですけど。


とはさすがに言えないので私は神妙な顔を作って頷いた。

なんだか、酷く久しぶりに感じるこのやり取りに安心した。



そんなことを話してるうちに見覚えのある光景が見えた。

「降りるよ」

ラヴィルさんはそう言うと言葉通りゆっくりと下降し始めた。

当の私と言えば怖くて目を瞑っている。

トン、と音がして体に重力が一気にかかる感覚に襲われた。

と、そこでやっとラヴィルさんが私を地面へと下ろした。

いや、ほんと重かったですよね。すみません、すみません。と心の中で平謝りしているとラヴィルさんは私の首元に手を当てた。そこはちょうど第二王子に魔法をかけられた所だった。

「え、あの·····」

「動かないで」

低い少し掠れた声でいわれて私は思わず年甲斐もなく頬を赤くする。

そして、顔が迫ってきて·····って、待って待ってまって?!

近い近い!!毛穴がないっ!!いや、今それは重要じゃなかった。

「ちょ、ラヴィルさん?!」

きゅっ、と目を瞑った私は耳元でしたキィンという音に思わずすぐ目を開けた。

「これで、解けたよ。魔法」

「·····アリガトウゴザイマス」

そうだった、ラヴィルさんてこういう人だった。いや、別に何がとは言いませんけど!!期待なんて一欠片もなかったですけど!ここまで美形ならよりどりみどりでしょうけど!


何故かよくわからない複雑な気持ちに襲われたので私はそれ以上何かを喋ることはせずに城へ向かった。

のに、何故か後ろからついてきたラヴィルさんが私の手を握る。

「え」

「ん?」

「え、あの、」

「なに?」

「·····なんで、手を繋いでるんでしょうか。」

「んー、なんとなく、かな?」

·····由奈、心を無にするのよ。ラヴィルさんはこういう人。

久しぶりすぎて結構、距離感掴めてないけど多分こういうのをなんの意図もなくやる人なのよ。うん。

すっ、と菩薩のような顔をしているであろう私はそのまま心を無にして「ソウデスカ」と呟いた。



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