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19 事態が動き出しました

「そんなことより、今の状況パイネマにとっちゃかなりやばい状況だな」

ジョズさんは顔を青くさせる私を横目にそんなことを言った。

「あの頭空っぽ野郎のことだ。ここぞとばかりにパイネマにいちゃもんつけて排除しようとするに違いない。」

「そうねぇ・・・。取り敢えず保護する範囲をもう少し広げないとかしらね。それに由奈ちゃん。あなたは本当に気をつけないと危ないわ。」

「・・・私がパイネマで聖女候補だからですか。」

「ええ。もし本物の聖女候補がパイネマだと知られたらどんな扱いをされるかわからない。いい?由奈ちゃん。元々パイネマって言うのは大なり小なりの違いはあっても力を有するものなの。それなのに聖女候補として呼ばれた由奈ちゃんがパイネマってことは・・・、あなたは殲滅する力を持っている可能性が高い。この意味、由奈ちゃんなら分かるわね?」

私はステネさんの言葉に頷いた。

「・・・過去の政府のように私もこの国全体に爪はじきにされる可能性がある、ってことですよね」

「そうだ。だから由奈、俺らから離れるなよ」

これ以上この2人に心配かけないようにしないと。

そう思いながら私は先程とは打って変わって真面目なトーンになったジョズさんの言葉に頷いた。



が、その約束をそう遠くない未来に破ってしまうことになることをこの時の私は知る由もなかった。




◇◆◇


事態が大きく動きだしたのはそれから一週間後のことだった。

その日、いつもより遅く帰宅したジョズさんに私が「今日は遅かったんですね」と声をかけるとジョズさんはえらく疲れた顔で「まずいことになった」と言った。

「ど、どうかされたんですか?」

「・・・もう1人の聖女候補の方が今日、聖女としての力を解放したらしい。」

もう1人の聖女候補と言われて、私は一瞬フリーズした。

・・・ということはアリスちゃんが聖女で間違いない、ってことだよね。

私は混乱する頭を必死に使う。

アリスちゃんが聖女の力を解放した。・・・その場合って私の扱いはどうするんだ?聖女ってそんな何人もいるものじゃないよね。

結局結論が出せなかった私は素直にジョズさんに聞くことにした。

「あの、私の扱いって今どうなってるんですか・・・?」

「その事なんだが、・・・くそっ!もっと俺が手を回せれば・・・!!」

今まで見たことの無いような切羽詰まった表情のジョズさんに私は驚く。

と、奥からステネさんが出てきた。

「ジョズ、落ち着きなさい。何があったのか順序だてて冷静に話しなさい。」

ステネさんの威厳ある声のトーンにジョズさんはハッ、とした顔をしてから深呼吸をした。

「・・・もう1人の聖女候補の方が聖女だと分かったからか、城は途端に行方不明になった聖女候補への見方を変えてきた。」

「・・・どういうこと?」

ステネさんの問いにジョズさんは私をちらっと見てから話し出す。

「今城では、もう1人の聖女候補、つまり由奈を聖女候補にも関わらず無責任に無断で城を抜け出した逃走者として反逆罪で捕える、という案が出ている。」

「え?!」

「そんな馬鹿らしい話、あっていいわけが無いでしょう?」

ステネさんが珍しく声を荒らげるとジョズさんはきつい眼差しでこちらに振り返った。

「俺だってそう思ったさ!!だが、この国の幹部にそんなもの通じると思うか?!あいつらは白いものでも黒くしちまう奴らだぞ?!」

自分の感情を吐き出すように叫んだジョズさんの言葉に私もステネさんさえも何も言えず、ジョズさんを見る。

と、そんな私たちの様子に気づいたジョズさんが小さく「・・・すまん。」と謝った。

「・・・いえ。むしろ私の方こそ何も出来ずに申し訳ありません・・・。」

「・・・由奈は何も悪くないだろ。っつーか、無責任に逃げたとかお前らが言うかって感じなよな。由奈達の事情も聞かずに召喚して聖女だ、なんだと祭り上げたのはそっちだろって。」

「おそらく、それも私に対する見方を変えた理由に入っていると思います。」

「・・・由奈ちゃん、それはどういうこと?」

ステネさんの問いかけに私は「あくまでも仮説なんですが」と前置きをしてから話した。

「私とアリスちゃん、もう1人の聖女候補はこの国の国民には秘密裏に召喚されました。この国の幹部以外は基本的にそのことについては知らないはずです。恐らく、どちらかが聖女だと分かったあともそのことは公表しないつもりだったと思います。聖女をほかの世界から半ば無理やり召喚した、なんてことが分かったら国のやり方に批判が殺到するはずですから。それなのに私は逃げ出してしまった。短い期間ではありますが、私は無断で逃げ出すにはそれなりに情報を持ちすぎました。聖女がもう1人の聖女候補だとわかった以上国はもう私に用はないはずです。」

「・・・つまり、由奈は国にとって都合の悪い存在。だからいっその事消しちまった方が楽ってことか。」

「かもしれません。」

あくまでもこの考えはあまりこの世界に詳しくない私による仮説だから所々違うところはあるかもしれないけど、あの腐った国の構造を見た感じ大方そんなものだろう。

「・・・ジョズ、明日あなたと一緒に城に行くわ。」

・・・・・・。

・・・・・・・・・。


「「はい?!!」」

ジョズさんと私は全く同じタイミングで素っ頓狂な声をあげた。

「え、なに?!ばあちゃん、城行くの?!なんで?!」

「・・・私、城の権力者にちょっと知り合いがいるのよ。あのじじい、そろそろちょっとお灸を据えなきゃ。」

ふふふふふ、と不気味に威圧的に笑うステネさんはすこぶる怖かった。・・・怒らせちゃいけない人を怒らせてしまった感、凄いな。ていうか、ステネさん何者ですか。


そんなことを考えていると頭にふとある考えがよぎる。

ん?ちょっと待てよ。今、城に聖女候補はアリスちゃんしかいない。そしてそんな中でアリスちゃんが聖女だと分かった。

・・・あれ?今、アリスちゃんをあのクソ王様から護ってくれる人って、いるの?

私は1人顔を青くさせる。

・・・大丈夫よね、きっと第一王子が守ってくれるはず。

・・・大丈夫、だよね?・・・無事でいて、アリスちゃん。



私は自分の手を握りしめて願った。



次の日、宣言通り城に向かったジョズさんとステネさんを見送って私は扉に鍵をかけた。

誰が来ても、扉を開けない。

外に出ない。

ということを約束して私は今日ここで1人留守番をすることになった。

送り出した後、部屋に戻って飲みかけのお茶に口をつけた。

その時だった。



コンコン


静かな部屋にノック音が響いた。

どくり、と心臓が嫌な音を立てる。


・・・誰だろう。

部屋の中で物音を立てないように神経を研ぎ澄ませながら私は扉の前から人が去るのを待つ。

数分じっと、動かずに待った。

もう、いいかな・・・?


静かにゆっくりと動きだした瞬間、背後で小さな破裂音が聞こえた。

「・・・え?」


驚きながら後ろを振り向いた瞬間、口を塞がれた。

「ん?!んんーー!!」

混乱しながらもなんとか逃げ出さないと、と相手に拳を向けるとその拳はパシッ、と何者かの手によって掴まれる。

「・・・静かにして、由奈。」

と、パニックになる頭の中で聞き覚えのある声が聞こえた。

そっと突然現れた侵入者を見るとそこに居たのは見覚えのある黒髪だった。


こんな状況でも眠たげにしているその人は言った。


「由奈、逃げるよ」と。

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