16 居候先が決まりました
「何者だと言われましても・・・」
どう答えるのが正しいのか迷う私にジョズさんは「それもだ」と指摘する。
「その言葉遣い、平民にしては品が良すぎる。実際、初めてお嬢ちゃんと話した時、俺はお嬢ちゃんをどこぞの貴族だと思ってた。」
口篭る私にジョズさんは「それに」と重ねる。
「ウィッグの価値さえ知らない、それどころかこの世界の常識はほぼゼロ、だが身につけている服や言葉遣いは貴族並み。今話している限りじゃ頭も優秀。更には俺が貸した袋に入ってる見たこともない謎の物体。そして、その黒目黒髪、・・・一体、お嬢ちゃんはどこから来た何者なんだ?」
ぐっ、と言葉に詰まる私にジョズさんはふっと表情を和らげて笑った。
「別に責めてるわけじゃない。ただ、お嬢ちゃんを匿うにはやっぱりお嬢ちゃんの事情を知ってた方が都合がいいって話だ。話したくなきゃ話さなくて大丈夫だよ。まぁ、俺が個人的に気になったって言うのもあるんだがな。」
想像していたよりも優しい言葉をかけてもらい驚くと共にジョズさんの言った匿う、という言葉に私は首を傾げる。
「あの、匿うって一体誰から・・・?」
「お嬢ちゃん、こうやって話してると本当に世間知らずの貴族の娘に聞こえるんだが頭は優秀なんだよなぁ・・・。」
はぁ、とため息をつくジョズさんに私は「色々すみません」と頭を下げる。
「いや、別にいいんだけどな。うーんと、誰から匿うのかだっけか?まぁ、色んなやつからだな。お嬢ちゃんの色彩で頼れる人がいないのは致命的だ。幸いウィッグがあるみたいだがそれもバレたらやばいことになる。それに・・・」
ジョズさんはそう言うと少し体を乗り出して私の首元にあった黒髪を持ち上げる。
そこはちょうど第二王子が触れたあたりの位置だ。いきなりどうしたんだろう?とジョズさんの行動の意味を考えているとジョズさんは「やっぱり」と呟いた。
「この痕。お嬢ちゃん誰かに魔法をかけられただろ。これは恐らく・・・、結界系か?俺は魔法にはあかるくねぇが、この魔法、かなり強いな。」
「あ、痕・・・?!」
なんの事を言われているのか分からない私は、ジョズさんに触れられたあたりを触る。が、ただ自分の肌の感触があるだけで特段、変わったところはない。
そんな私の様子を見たステネさんが手鏡を持ってきてくれた。
「どうぞ、これなら見えるかしら」
「あ、すみません。ありがとうございます」
私は頭を下げて有難くその手鏡を受け取る。
恐る恐る自分の髪を上げて首元を手鏡で見る。と、そこにあったのは小さな魔法陣のような痕だった。その痕は一瞬、光を発し、すぐにおさまった。
「え?あ、本当だ・・・」
そう呟いてようやく、あの時、第二王子が何故私の首筋に手をあてたのかがわかった。だから、あの時少しチリっとしたんだ・・・。この痕は恐らくその時についたものだろう。
ジョズさんはこれを結界系の魔法と言っていたから恐らくこれのせいでお城に入れなくなったのだと思う。
「えっと、この痕隠した方がいいですよね?」
「う〜ん、そうだな。この手の魔法は何かやらかしたやつにかけることが多いからな。偏見の目で見られない為にも隠せるなら隠した方がいい。」
「そう、ですか・・・」
私はしばらく痕がある場所をさわりながら考える。
私、これからどうしよう。魔法がかかっている以上城に入ることさえ困難だろうしそれに、パイネマとかいうなんともやりずらい立ち位置みたいだし・・・。計画立てないうちにこんなことになっちゃって、今頃アリスちゃん心細くなってるかも・・・。
ぐるぐると色々なことを考えているうちにだんだん思考が悪い方へと向かっていく。私の悪い癖だ。
「で、お嬢ちゃんは俺達にどんな事情を持ってるか話せることはあるか?」
と、そんな問いかける声で私は我に返った。
そうだ・・・、こんな見ず知らずの人間を拾って匿ってくれるって言ってくれている人達に私ったら何も説明できてない。
さぁ、と頭から血が引いていくのを感じる。
私は慌ててジョズさんに「いえ、なるべく話せることは話します」と返す。
・・・でも、どうやって説明しよう。
「そうか、ありがとう。嫌な質問とか答えたくない質問が出たら答えなくてもいいからな?」
「はい」
ジョズさんの優しい言葉に私は鼻の奥がツンとする。
急に優しくされると、ダメなんだよなぁ・・・。
ステネさんも私をこの家に優しく受け入れてくれた。
こんなに怪しい人間にこんなに優しくしてくれる人なかなかいないと思う。
そんなことをしみじみと思いながら私はジョズさんの質問を待つ。
ジョズさんはしばらく思案するように「うーん」と唸り、そしてイタズラ小僧のようにニタッと笑った。
「じゃあ、お嬢ちゃんの名前を教えてくれるか?」
数秒の間、私の思考が停止する。
え、名前?そんな初期的なこと?
あ、え?言って、なかったけ?
記憶を遡って確認するも確かにステネさんとジョズさんからは自己紹介されたが私自身はしてないことに気づく。
え、ありえないっ!!私ったら助けてもらったのに名前も名乗ってないなんて、失礼にも程があるでしょ?!!
道理でジョズさんがずっと私のことをお嬢ちゃんと呼んでいたわけだ。
「こんなに良くして頂いているのに名前も名乗らず申し訳ありませんでした。私は高松 由奈と申します。名は由奈の方です。」
「ユナ・・・か。珍しい名前だな。」
「そう、ですね。こちらの世界ではあまりない名前かもしれないです。」
「こちらの世界・・・?」
「あ、いえ・・・、なんでもないです。あ、それと・・・」
「それと?」
ジョズさんが重大な勘違いをしているので訂正しておくことにする。最早テンプレになりつつある。
「私、成人済みの24歳なんです」
「・・・・・・は?」
「・・・あら」
ジョズさんだけではなく、ステネさんまでもが呆気に取られた顔で私を見る。
そして、しばらくの沈黙の後ジョズさんの絶叫が響いた。
「俺と同い年かよっ?!!!!!!」
◇◆◇
「ほぉ・・・。で、詳しい事情は言えないが、この魔法をかけたのはこの国の殿下でユナが城にいたところを不審者だと思われ、追い出されたと。」
「ええ、まぁ・・・」
ここまでの経緯をジョズさんとステネさんに話し終わる頃にはすっかりお日様も上がり、お昼近くになっていた。
ただ、やっぱり魔物云々については実際私が簡単に洩らしていいものでは無いので聖女召喚についてはオブラートに包んで誤魔化した。
「それに、炊飯器も持っていたので尚更不審者だと誤解されてしまいまして・・・。」
「炊飯器ってあの機械のことか?まぁ、あんなの持ってうろつかれたら確かに殿下も警戒するわな。実際、俺も警戒したし。」
ジョズさんの言葉に私は項垂れる。
いやぁ・・・、だって朝起きて城ぶらぶらしてるだけであんな展開になると思わなかったんですよぉぉ。
「しかし、あの陛下の子供だって言うのにそれ以上なにかされなかったのか?」
「へ?」
ジョズさんがわたしを心配げにみる。
「ほら、さっきも話しただろ?政府はパイネマに恐怖心と蔑みを持ってるんだよ。その思想の先頭切ってんのが陛下だぜ?第一王子はともかく、第二王子は陛下に順従だろ?」
「あ、そう言われてみれば確かに・・・。少し睨まれたくらいでこの魔法以外は何もされませんでしたね・・・。」
私の言葉にジョズさんは数秒考え込んだ後に「もしかしたら」と呟く。
「第二王子の中で、陛下という存在が揺らいでる・・・、っていう可能性もあるな。」
「それって、あの王の考えに違和感を持ち始めたってことですか?」
「ああ。もしかしたらそうなのかもしれない。まだ断言は出来ないけどな。」
ジョズさんは苦笑いするように、少し複雑そうな顔をして笑った。
でも、もしそれが本当だったら・・・。ロナン様のしてる事って全然無駄じゃないよね?第二王子も少しずつロナン様の考えを受け入れる準備をしてるのかも・・・。そうだったら、いいな。
そんなことを思いながら少しぼーっ、としているとジョズさんから「で?」というなんとも返事に困るお言葉が来た。
「・・・えーと、『で?』とは?」
「これからの身の振り方。ユナ、見た目と違って案外しっかりしてるから考えてんだろ?」
・・・サラッとディスられた気がするんだけど。私ってサラッとディスられやすい体質ですか?いや、それどんな体質。
まぁ、確かに考えてはいますけどね!
「一応は何処かに隠れて政府の出方を伺いたいと思います。」
「せ、政府?」
私の考えを話すとジョズさんは戸惑いを隠せないように目を白黒させる。その様子はちょっと、面白い。
「実は私、それなりに重要人物だったりするんです。」
ニタリと笑ってジョズさんに「ふふふふふ」と笑ってみる。気分はおとぎ話に出てくる魔女よ!!おーほっほっほっほ!!
「・・・まぁ、それがホントかどうかは知らないが隠れるんならここが最適だぞ。」
サラッとジョズさんに私渾身の演技を流されて悲しい・・・。
ん?でも今聞き捨てならない言葉が聞こえた気が?
「ここが最適って・・・、ここってここのことですか?!」
私は妖精がいそうな花に囲まれたこの空間を指さしてジョズさんに聞く。
「そうだが?」
「いやいやいや!!!ダメですよ?!結構まじで私、政府に探されてるかもしれないんですよ?!しかもこんなガチなパイネマだし、第一、ステネさんに迷惑がかかります!!ステネさんもガツンと言ってやってくださいっ!」
私はステネさんの方を振り返りながら叫ぶ。
「そうねぇ」
そう言ってから数秒後、ステネさんは言った。
「別にそれでいいんじゃないかしら」と。
す、ステネさぁぁぁぁん!
お読みいただきありがとうございました




