14 この世界の価値観
「お前のその色彩・・・。間違いない。なんでこんな所にパイネマが?」
「あ、いや、ぱ、ぱいねま?ってなんですか?」
「・・・は?!お前、その色彩なのにこの言葉を知らないのか?」
「え、はい」
私が頷くと門番の人はくわっ、と目を見開く。
「お前、さてはよそから来たな?この国で、いや、ここら周辺の国でこの言葉を知らないなんて・・・。それになんだ、その丸っこい気味の悪い物体は?」
門番の人の目線が私の手元に落ちる。
私の手元にあるのは今まで逃避行(?)を共にしてきた炊飯器だ。
「あ、これは、そのぉー」
言い淀む私を見て門番の人は「ほぉ」と目を細める。
「さてはワケありか。どうりで見たことない顔だと思った。俺、お前みたいな人と1度あったら忘れるはずねぇもん。この門を通らずにこの城に入っただろ?」
どうやら、私はこの人に、なにか事情があって城に忍び込んだと思われてるらしい。そんな怪しい人物とこんな気さくに話してていいんですか、門番さんよ。
まぁ、あながち間違ってはいないんだけどね。ただ、忍び込んだんじゃなくて召喚されたっていう・・・。
ただ、それを馬鹿正直に話す気はないので「まぁ、そんなところです。」とこたえておいた。
「いやぁ、どんな事情かは知らないがお嬢ちゃん悪いやつじゃなさそうだしなぁ。さっきはお前とかいって悪かったな。」
「あ、いえ、それは全然大丈夫です。私も自分でちょっと怪しいなって思ってましたし」
私の言葉に門番の人は一瞬キョトン、としてから豪快に笑った。
「そうか、お嬢ちゃん面白いなぁ!まだ小さいのに大変だったろ?」
「え、あ、いや」
目の前にいる門番の人は多分、私と同じくらいの年かちょっと年上か。・・・これはまた勘違いされてますねぇ。
「いや、実は私」
24歳なんです、と続けようとする前に唐突に門番の人にぐいっ、と腕を引っ張られた。
「え、どうしたん・・・」
「しっ、ちょっとお嬢ちゃん俺の体に隠れててくれ。」
「わ、わかりました」
何が何だかわからないまま門番の人に言われた通り縮こまって体の影に隠れる。門番の人の体はやっぱり門番と言うだけあってかなりがっしりとしていた。
こんな触ってわかるマッチョさん、前の世界でも体験したこと無かったっす!
なんてくだらないことを考えていると、ぎゅっと門番さんが私の頭を抱きしめた。
「お前は相変わらず・・・―――だな。」
「余計なお世話だ。信念をまげたお前に言われたくない」
「ふっ、そんな―――も――――。」
知らない男性の声がした後、門番さんの少し低い声が聞こえる。それはさっきの明るい声ではなくて、相手の人とあまり良い雰囲気ではないのがわかった。姿も声もよく見えないし聞こえないけど門番さんが少し体を強ばらせたのがわかった。
「そもそも・・・、ってなんだその女は」
とぎれとぎれにしか聞えなかった知らない男性の人の声がその時初めて明瞭に聞こえた。が、門番さんがさらに私を強く抱き締めたせいでまたくぐもった声しか聞えなくなってしまった。でも、門番さんから私を護ろうとしてくれている雰囲気を感じて私は大人しく縮こまったまま身体を動かさない。
「お前には関係ない。ほら、幹部様は忙しいんだろうが。さっさとどっかいきやがれ。」
投げ捨てるように門番さんが言うと相手の人は何か一言二言喋って遠ざかって行った。
それからしばらくすると頭上から大きなため息が聞こえた。
「いきなり、悪かったな。あいつは俺の同期で今はこの城のお偉いさんなんだが、パイネマへの差別が特にすごくてな。お嬢ちゃんのことを見たら何されるかわかったもんじゃねぇから咄嗟に隠しちまった。」
「いえ、ありがとうございました。・・・あの、ところでパイネマって一体・・・?」
私の問いかけに門番さんは困ったように眉を下げた。
「その話はあんまり外でしない方がいいな。いいか、お嬢ちゃん。今から俺が言う通りのところに行ってくれ。そこにいる人にジョズに言われてきた、って伝えればそこに居させてくれるはずだから外に出ずにそこで待っててくれるか?」
「・・・え。わ、分かりました。」
「あ〜、でも道中危ねぇな・・・。どうすっかな。せめて髪の色だけでも隠せれば・・・。」
ガシガシと頭をかきながら私のことを考えてくれているのであろう門番さんの言葉に私は「それなら大丈夫です」と答えた。
「これを被ればごまかせると思うので。」
「へ?」
キョトンとした顔の門番さんに私は金髪のウィッグを見せる。と、門番さんの顔が少し複雑そうにゆがめられた。
「お嬢ちゃん、この国ではそんなウィッグだとかはとんでもない高級品として取引されてるもんだ。お嬢ちゃんが何者なのかは今は聞かないがそれがウィッグだってバレないように気をつけるんだぞ?」
初めて聞いた話に私は驚きながら頷く。
「何から何まですみません。本当に、ご迷惑おかけします。申し訳ないです。」
悲しきかな日本人の性でペコペコと頭を下げると門番さんはまた少し複雑そうに顔をゆがめ、眉間に皺を寄せた。
「いいんだよ、俺が好きでやってることだし。っていうかお嬢ちゃん色々この短い時間で聞きたいことが増えた。後でしっかり聞かせてもらうからな。」
そういう門番さんの目に少し獰猛な光が宿った気がして私は若干、緊張しながら「はい」と返事を返した。
それから何個か気をつけることを確認され、私は今、やっとウィッグを被って門番さんに言われた通りの道を辿っている。
カラコンは付けることが出来ないから目の色がバレないよう下を向いて歩く。
下を向いていてもはじめて歩いたこの世界の町はとても賑わっていることが分かった。ちなみに今、炊飯器はジョズさんから借りたトートバッグのような鞄の中に入れてるため、重さは変わらないが目立ちはしていない。本当に何から何まで有難い・・・。
えーと・・・、この曲がり角を右に行ったらあとは真っ直ぐ・・・。
・・・あれ、かな?
教えられたとおりに裏道のような人通りの少ない道を歩いていると1軒の建物が見えた。近づくとその建物が花屋だということに気づく。
色とりどりの花に囲まれた建物の外観はパステルイエローが主で唯一、屋根だけが真っ赤な可愛いものだった。
・・・ここだよね?
少し不安になりながらも建物のドアを開ける。
「ご、ごめんくださーい。あの、ジョズさんに言われてきました。」
カランコロン、と鈴の音を鳴らしながらドアを開けると中にいたのはお上品な老婦人だった。
お店の中は外観と雰囲気が全く変わらず、優しい色をした花々で彩られていた。置いてある机や時計もアンティーク調なものばかりでまるで妖精の国にでも迷い込んだ感覚になっていると椅子に座っていた老婦人が持っていたティーカップを置いて私を見た。
「あら、初めまして。ジョズの紹介なのね?」
「は、はい。」
おっとりとした老婦人の言葉に頷くとニッコリと微笑んだ老婦人は立ち上がり、静かに、でも無駄のない動きで扉の鍵をかけた。
「貴女、パイネマね。どうしてここに?」
するっ、と自然にウィッグを外されて私の黒髪が顕となった。
私はそのことに驚きながらも老婦人の言葉にこたえる。
「そ、それが門番さん・・・、じゃなくてジョズさんに紹介されて自分の仕事が終わるまで此処で待っていて欲しい、と言われました」
私の言葉に老婦人はおっとりとした雰囲気はそのままではあるものの驚きを隠せない、とでも言うような顔をして私を見た。
え、なんか不味い事言った?
不安になる私を見て老婦人は「あら、ごめんなさいね。少し驚いてしまったの」と微笑んだ。
「ジョズが保護した後、関わりたがるのは珍しいから。そう、貴女かなりの事情持ちなのねぇ。」
おっとりとしたトーンで話されるとこっちまで落ち着いてきた。思えば、朝からずっとバタバタしっぱなしで、起きてから息を着いたのは今が初めてかもしれない。
「それじゃあいろんな話はジョズが帰ってきてからにして。とりあえず、お茶でもいかが?」
「あ、いただきます!」
「ふふ、じゃあそこに座っていてね。」
そう言うと老婦人はティーカップとティーポットを持ってきて私の前で紅茶をいれてくれた。
「わ、いい香り・・・」
私が思わず呟いた言葉に老婦人はにっこり笑う。
「これは精神安定の効果もあるのよ。どうぞ。」
勧められて、一口飲むと香りとともに甘酸っぱさが口いっぱいに広がる。
元いた世界じゃ紅茶なんてそんなに美味しいと思ったこと無かったけどこれは、すっごく美味しい!
思わず笑みが浮かぶほど美味しくて私は口角を上げたままで老婦人に「美味しいです!」と感想を言う。
「それは良かったわぁ。美味しそうに飲んでくれるから私も嬉しい。あ、クッキーもあるのよ。今もってくるわね。」
こうして急遽始まった小さな花屋さんでの小さなお茶会はジョズさんが帰ってくるまで続いた。
いきなり更新を止めて申し訳ありませんでした
otz
ストックができたらまた更新します。読んでくださった方ありがとうございます!




