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既視感

「う……」


 次に目が覚めると……俺は見知らぬ草原のど真ん中に、茫然と立っていた。


「ここは……?」


 空気、そして空、大地を見て、なんとなく懐かしさを覚える。

 だが、こんな場所は知らない。

 少なくとも初めての場所で、突然こんな所にいる。

 状況的に見て、まだ信じられないし、確信はない。

 これがゲームだったとして、少なくとも『中藤洋』はここまでリアルに描写するゲームを知らない。

 パソコンだった訳だし、創作物に登場するダイヴ型VRとか、まだまだ小説の世界の話だ。


「さっきの事は、本当の事……だったんだな」


 どうやら俺は、異世界へと……本当に来てしまったのかもしれない。


 もう一度、景色を眺める。

 やはり知らない場所だ。


 だが、俺はこの場所を知っている気がする。

 見た事も来た事も無い場所なのに、知っている。

 デジャヴと言うのだろうか。何かが俺に正しいと囁いている。

 状況的に見て、誰かが俺に成り代わったのは事実なんだと思う。

 その誰か……この世界に元々いた、本当の俺かもしれない誰かが俺に成り代わっている。


 ……気持ちが悪い。

 例え様も無い薄気味悪さが肌を伝って全身に行き渡る。

 本来なら見知らぬ所にいる事に不安を感じるはずなのに、感じていない。

 そう……確信めいたものを感じる。


 俺はそんな確信を胸に一歩踏み出したのだった。



 ぼんやりとした確信の無い知識で辺りを分析する。

 地名とか出そうで出て来ない気色の悪い感覚だったが、今現在俺がいる草原から少し進んだ所にちょっと大きめの村がある……はず。

 そんな気がする。

 俺自身、若干の気持ち悪さのある既視感からの憶測でしか無い。

 そしてこの草原には魔物が生息しているはず……。


 魔物……ゲームや小説なんかの類では腐るほど見た事があるし、ゲームでは数え切れない程倒した事のある、人とも動物とも異なる敵、モンスターの総称。

 この世界だといろんな分類分けされ、動物もカテゴライズされる生き物……じゃなかったっけ?


「気持ち悪いな」


 俺自身の覚えのない記憶に思わず呟く。

 これが全て痛い妄想で、事実は全くの見当違いだったらどうする?

 そちらの方が良い様な気もするけど……。


 どちらにしてもだ。

 下手に遭遇したら今の俺では対抗手段が少ない。

 少なくとも魔物に見つからない様に行動しなくちゃな。


「出発前にせめて木刀でも良いから持っておけばよかったな」


 何か武器になる物は無いかと思って周囲を眺める。


「お?」


 ここでご都合主義の如く、冒険者の亡骸とかがあって、業物の剣とか良い物が見つかれば良かったんだけど、そう言った事は無い。

 見つかったのは何処にでも転がっている石だ。


 何個か拾って、靴下を脱いで詰める。

 ブラックジャックって言うんだっけ? これ。

 何も無いよりも多少はマシの道具に……なれば良いんだけど。


 後は上着を脱いで袋代わりにして少し拾っておく。

 魔物に距離を取られた際に取り出して投げる。

 接近するよりはマシに扱えるはずだ。


 と言う訳で、拾った石を武器として目的の村へ向かって進む。


 街道に出れば魔物と遭遇する確率が減ると思うが……何が起こるかわからないから注意深く進む。

 なんて警戒しながら進んでいると、茂みが揺れた。

 急いで屈んで茂みを凝視していると……。

 ゴロゴロと転がった車のタイヤくらいの大きさをした芋虫みたいな魔物、ダブグレイロードキャタピラが二匹出てくる。


 ダブグレイロードキャタピラー。


 視界に魔物名が出ている!?

 なんだ? オンラインゲームみたいに魔物の上に名前が出るのか?

 いや、違う……魔物名が出るよりも先に俺はこの魔物がダブグレイロードキャタピラーだと認識していた。


「ギイィ……」


 キョロキョロとダブグレイロードキャタピラーは辺りを見渡している。

 この魔物は自らが転がって動きまわる性質を持っていて、振動に敏感だ。

 俺が歩いている足音を察知して近づいて来たと見て良い。


 なんでそんな知識まであるのかわからないけれど、ゲーム的に言うのなら強さはLv5程度。

 一般人でも勝てない魔物じゃないが、少なくとも素手で戦うには、Lv1の一般人では難しいだろう。


 Lv……何気無く出た言葉だが、この世界はLvという概念があるのか?

 いまいち思い出せない。

 だが、頼れるものは何も無い。


 そして俺こと中藤洋は普通の人間だ。

 個人的には何か特別な力に覚醒して欲しい。

 魔法とか異能力とか……Lvとやらがあるのならスキルとか必殺技とか固有の能力があれば……異世界に来たからと言って創作物みたいに使える様になったりはしないみたいだ。


 精々この謎の既視感が俺の能力という事になるのか?

 なんとも頼りない。攻撃性はないし、派手さもない。

 だが、今はこの知識を信じてみよう。


 走って逃げるにはダブグレイロードキャタピラーの速度から難しい。

 コイツ等は転がって来るから動きが早いんだ。

 硬い殻とかを持っている訳ではなく、背中は緩いゴムタイヤみたいな感じ。

 腹部はもっと柔らかい。

 見た所……生存競争で生き残ろうと弱そうな生き物を探しているって所だろうか?

 葉っぱでも食ってろよ、とは思うが活発な個体って所だろう。


 ダブグレイロードキャタピラーは芋虫故に変態し、蛹となった後、蝶へと変化するんだ。

 蝶の方は敵意さえ見せなければ襲ってくる事は無いが、それなりに強い。

 ……まあ、現状だと倒した方が生存確率は高い……か。


 この魔物に仲間意識は無いので連携なんてして来ないから、上手く行けば……。


「よし」


 俺は立ち上がり、ダブグレイロードキャタピラーの側面に石を持って思い切り投げつけた。

 投擲に自信は無いけど、そこまで距離がある訳じゃない。

 投げた石は狙いより僅かに逸れたが、ダブグレイロードキャタピラーに命中した。


「ギ!?」


 奇襲を受けてダブグレイロードキャタピラーは僅かによろめく。


「ギィイイイ!」


 もう一匹のダブグレイロードキャタピラーが丸まってこっちに突撃してきた。


「おっと!」


 危ない!

 横にステップして突進を避けた。

 するとダブグレイロードキャタピラーは大きく距離を取ってからUターンをしてこっちに戻ってくる。


「こっちだこっちだ」


 ドスドスと足踏みをして俺が何処に居るのかを振動で確認させる。

 なんてやっている内に奇襲でよろめいたダブグレイロードキャタピラーが俺に向かって丸まって突撃してくる。


「かかったな」


 サッと横っ跳びをして突進を避ける。

 その直後!

 ガツっと良い音が響き渡る。


「「ギガ――」」


 二匹のダブグレイロードキャタピラーがそれぞれ正面衝突をして吹っ飛ぶ。

 片方はそこまで速度が出ていなかったから、もう片方によりもダメージが大きいな。

 もう片方も、自分と同等の固さの物に思い切りぶつかってしまったので、腹を上に向けてもがいている。


 まあ、所詮は芋虫か。

 知能は見た目と同じく、無いに等しい。

 壁を背にすれば同様の事が出来る、対処法さえ分かってしまえば倒すのは容易い魔物だ。

 腹を見せたこの隙を逃す気は無い。


「おらぁ!」


 俺は逃さず、ブラックジャックを弱点の腹部へと向けて叩きつける。


「ギ――!」


 ビチャっと緑色の汁が散るが、今は気にしている場合じゃない。

 何度か殴打した結果、ダブグレイロードキャタピラーは絶命して動かなくなる。


「もう一匹!」


 とばかりに悶絶している二匹目のダブグレイロードキャタピラーに同様に攻撃を施して仕留めた。


「ふう……」


 驚くほど冷静に戦えた。

 野村相手にボコボコにされていたのに不思議な感覚だ。

 対処法が頭に入っていたからだとも言えるけどさ。


「さて……」


 仕留めたダブグレイロードキャタピラーの死体を見る。

 解体する道具は無いし……何か有用な素材になる物は無い。

 魔物の死体を持ち運ぶのが面倒なのだ。

 村があるとなんとなく思えるが、確信も無い。

 食用にならない訳じゃないけど、今はまだ腹は減っていない。

 確か背中が馬車の車輪に使われていた気がするから売れない訳じゃないけど、どっちにしても今の俺の手には余る。


 石しか持っていないのが痛いな。

 石器武器とかに出来れば良いんだけど、あくまで普通の石を刃物へ加工するのは難しい。

 このまま放置していると他の魔物が匂いを嗅ぎつけかねない。

 危ないけど、持っていくか……。


 俺はそう結論付けた後、ダブグレイロードキャタピラーをタイヤの様に丸まらせ、草で縛って車輪にしてから転がし、魔物に出会わない様に祈りながら街道と村を探してその場を去ったのだった。


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気になる点  という訳で、拾った石を武器として目的の村へ向かって進む。 →という  片方はそこまで速度が出ていなかったから、もう片方によりもダメージが大きいな。 →もう片方よりも
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