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シャーロット・シャリアール、うどん食べれず。


 12月21日


 風邪を引いたらしい。

 咳をしたら体中に響くし、寒いはずなのに布団を被ると暑くて仕方がない。

 三日前に、病院で薬をもらって、大量の飲み物と食べやすそうな物を買い漁って帰宅してからは、彼是48時間くらい床から動いていない気がする。

 これがグルメ小説なら風邪を引いた時でも簡単に作れるおいしい料理特集でもあるのだろうが、もちろんそんなものはない。ひたすらうどんとかりんごとかジャムパン食べてた。

 主食はスポーツドリンクみたいな生活をただひたすらに続け、体力の回復を図る。とりあえず水分だけは切らさないようにと、だ。


 療養中に、一度呼び鈴がなったことがある。

『こんばんは! 寒いわ、早く開けて』

 ラゴラディバリウス言語を使う友人なんて一人しかいない。異世界から来たシャーロットだろう。

 なんとか這いずって玄関まで行く。到着するまでに『いるのはわかってるのよ』『寒い!開けて! 風邪を引いてしまうわ』『ざむいよぅ……』とかホラー映画みたいな声を出し続けるのに頭痛をしながら、玄関まで到着。

『シャーロット……。俺今風邪引いてるんだ』

『騙そうたってそうは……本当に辛いのね』

 ドア越しでも、闇の流れか何かでわかるということだろうか。

『そんな辛そうな声してたらわかるよ。ねえ、大丈夫? 必要なものは揃ってるの? 看病してくれる女性なんていないんでしょ?』

 ドア越しだが、本気で心配しているのがわかる声だった。

『いいよ、必要なものは買ってる。うつしてしまうのが一番辛い。今日は、帰れ』

『わかった』

 ……そして、沈黙。

 どうやら本当に帰ったようだ。

 ここで押し問答するのが何よりも体に悪いと思ったんだろうな。あいつ、そういう思い切りは本当にいいし、多分俺のことを信頼してくれているのだろう。

 いい奴だと、思う。

 お言葉に甘えて、また布団の中へと這入って行った。


 それからまた20時間程して、つい先ほど目を覚ますと、汗は引いてるし、重力が半減したかのように体が軽かった。

 やった。治った。

 とりあえずこれでもう一晩寝たら普通の生活ができる気がする。

 ああ、普通に呼吸ができて、腹が空いて食欲が湧くってことがこんなに恵まれたことだったんだなとしみじみ。

 冷蔵庫を開けても、中にこれと言った食材がなく、冷凍庫の方に冷凍うどんが5個セット1パック残っているだけだった。

 でも、この色々と乾いた体にはただただごちそうに見える。

 早速湯を沸かす。

 この手の冷凍うどんはお湯が沸騰したらビニルを剥がして適当につっこんでおけば勝手に解凍されてちょうどいい固さになるのだ。ほんとうに、すごいものを作ったひとがいたもんだ。

 麺を入れる前にちょっとお湯をもらって市販の粉末うどん出汁を梳かす。

 それだけ、完全な素うどんだがシンプルイズベストという言葉はここにある。

 お湯が沸いてさっとうどんを溶かして、さらに盛りつける。よっしゃ。食うぞ!

 と構えたところで呼び鈴が鳴った。


『よう、シャーロット。昨日は済まなかったな』

『そんなことはいいよ。体は大丈夫? 前にあなたがムーンスレイブで風邪を引いた時に、たまごワイン作ったの覚えてる? あれ、作ってみたんだ。体温まるかなと思って。あんまり長く居ても迷惑だから、さっさと帰るね』

『心配してくれてありがとうな。うどん食べるか?』

『病人のごはん食べるほど私も食い意地はってないよ。じゃあ私行くね』

 ドアも開けずに帰ろうとする。

 なんだかんだで、こいつも毎回遊びに来て飯をたかることを、迷惑かけてるって思ってるのかもしれないな。だから、こういう時迷惑にならないようにさっさと帰ろうと……。

 顔くらい見せるか。

 半纏を着て、マスクをして、ドアのカギを開けた。


 湯気の立つ、鍋を両手で持った、漆黒の鎧を着た小柄な暗黒騎士がそこにいた。


『……』

『ほ、ほら。この鎧、あらゆる病魔をはねのける力があるからさ、これ着てくれば、ダイジロウも病気をうつす心配しなくていいと思って……』

『シャーロット、ありがとうな』

 シャーロットお手製のたまごワインとやらを受け取る。

 こんな風に心配してくれる友達がいてくれるということは、なんとも贅沢なことだよな、としみじみ思い。

『あ、それ作ったのはママだけれど』

 そうかい。

 隣の学生さんに見つかる前に還らせた。


 シャーロット、うどん食べれず。

 

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