シャーロット・シャリアール、豚肉と白菜の煮物を食べる。
11月25日
『ダイジロウの作った物食べてみたいな』
異世界から最近は週五ペースで遊びに来ているシャーロット・シャリアールは、感情がのっていない声でそう切り出した。
僕の作った物って言っても、なあ。
自炊はそれなりにしているが、あくまで自分の白米補給に使えればいい程度のおかずしか作れない。味道楽の暗黒騎士様に食べさせられるような質は保証が……。
まあ、たまにはハズレの日があってもいいかと思い、レッツクッキングすることに。
どうせ、夕飯を今から作るところだったのだ。
使うのは、底の厚い広めのフライパン。
玉子焼きを作る時くらいに薄くサラダ油を敷いて、豚肉の細切れ肉をさっと火を通す。
焦げ目はいらない。少し火が通って、肉の脂が染み出たら一度皿に移す。
さて、肉脂と香りが残ったフライパンに、バターをほんの少し垂らして、ザク切りの白菜を炒める。
まずは茎側の硬い部分をかき混ぜて、柔らかさを覚えて来た頃に、葉側もいれてしんなりさせる。
この後煮るので、焦げ目はいらない。
葉菜が豚肉の油を吸いきったところで、お肉をフライパンの中に帰して、食べやすいサイズに切った油揚げとさくらえびを散らす。
野菜の水分もたっぷり出て、既にスープが溜っている状態。
調味料は醤油のみ。
豚肉の肉で味は仕上がっている。
すっかりぐつぐつ煮れば、豚肉と白菜の煮物の完成である。
僕が、自分の祖母から教えてもらって、なんとか覚えている料理の一つ。
冷めた飯にも、炊きたての飯にも合う、この世の洗練という概念の形の一つである。
『シャーロット、まさかこんなに立て続けに来るとは思わなかったから、こんなものしかないよ』
『御馳走じゃん』
『あと、玉ねぎの卵とじも作っておいたから、それで我慢してくれ』
『え、何ダイジロウ、料理めっちゃできるじゃん、今までなんで黙ってたの? 料理なんてろくにできない僕ちゃんのフリは一体なんだったの?!』
ひどい言い方だなあ。
まあいいや。
二人分の食事を並べて、並んで座る。
四足動物の形をしたクッションを放り出して、シャーロットが食卓につく。
せっかく僕の腰の保護に買ったクッションは、シャーロットの暇つぶし用のおもちゃになってしまった。
こいつも、この部屋に大分いついてしまったな。
畳の上で正坐するのも苦じゃなくなってしまったようだ。
僕は苦なので胡坐で失礼する。
二人して手を合わせて、食事開始。
シャーロットは美味しそうに飯を食う。
いいよな。自分が作ったものを喜んで食ってくれるって、なんとも心が満ちるものよな。
僕も食べる。
食べながら、訊いてみる。
『なんかあったのか?』
『なんで?』
『こういう、いつもと違うことを言いだす時は、大抵面倒ごとを抱えている時だから。もう、わかってきた』
『何年の付き合いだって奴?』
『そういう奴』
『困ったなあ』
『困るか。漬物食うか? たくあんならあるけど』
『食べる』
冷蔵庫からたくあんを取り出す。最近はカット済の漬物なんてものも売られていて、便利な世の中になったものだと感心する限り。
小皿に盛りつけて食卓に運ぶ。
しかしシャーロットめ、次に来る時は僕の誕生日を祝ってくれるとのことだったが、しっかりもてなさせられてるじゃねーか。
たくあんをぽりぽり食うシャーロットを見て、本当箸を使うの僕よりうまいな、とちょっとジェラシー。
『ダイジロウはさ、世直しの旅をする勇者様のパーティに暗黒騎士がいたら、変だと思う?』
『……ラゴラディバリウスに、勇者なんてカテゴリあったっけ?』
『できたんだよ。ほら、四か月くらい前に、異種族連合軍がムーンスレイブ王国に攻め込んできた話、覚えてるでしょ?』
『覚えてないよ。そもそも僕何があったのか君から説明受けてないし』
『あ……、そう言えば言ってなかったね』
『そうよ。……でも、そうか。その関係で、世界各地を巡る任務に着く御仁がいるわけね』
『聖騎士フレイムロード卿が、戦後、世界各地に野放しになった魔獣兵器の解体の為に、旅に出ることになって仲間を募ってる』
『あー、見た目も中身も騎士ってたあの人か。暗黒騎士にオファー来たの?』
『世界を旅して世情に詳しく、泥仕合をこそもっとも得意とする暗黒騎士の力が欲しいって』
『本当、言葉を飾らん人よな。……で、何か問題なわけ? 別に変ではないけれど』
『でも、聖騎士だよ? 王国一の剣士の横に、闇を操り人の心を惑わす暗黒騎士がいたら、あんまりいいイメージ持たれないんじゃないかな』
『ムーンスレイブ文明圏じゃ、闇は光と同じく聖なるものだろ?』
『序列はあるさ。光あっての闇』
『じゃあいいじゃん。聖騎士あっての、暗黒騎士ってことで』
『そうなんだけれどさあ』
『それでも怖いよな、戦いの旅なんて』
『……』
『……』
『怖くないよ。いや、怖いけれど、騎士になったんだから、受け入れるしかない。でもね』
『うん』
『独身で、清廉潔白。皆の憧れのフレイムロード卿の横に、不倫で子ども作っちゃった、小鬼を肩に乗せた暗黒騎士なんていたら、イメージ悪いんじゃないかって』
『オファー来たのお前じゃなくてシャーリー夫人の方かよ?!』
思わず米粒が飛んでしまった。
『……まあ、あの世界で君の母ちゃん程、世情に詳しくて泥仕合に強い人なんていないしな』
『いいのかな』
『あの人程、信義に厚い人もいない。悪くない人選だと思うよ』
『そっか! ダイジロウがそう言うんなら間違いないね。ママに世界を救ってもらおう!』
えー、そんな国の重大事を僕の意見で決めていいのかなあ。
するとシャーロットは
『本当は私が行こうかと思ったけれど、やっぱ止めとく。私の出番は卿やママが返り討ちになった時だもんね』
そっかい。
『ねえ、ダイジロウ。もし、もしだよ? ママがやられて、私が旅に出なくちゃいけなくなった時なんだけれど……』
……。
『その、一緒に、昔みたいに……いや、やっぱなんでもない。私の世界は、私が守るよ』
そういう言い方、卑怯だよなあ。
もし、彼女がいざとなった時に、僕に助けを求めてきたら、僕はなんと答えるのだろうか。
考えても答えが出ないので、僕はこう言うしかない。
『シャーロット、おかわりいるか?』
バカみたいな笑顔で、茶碗を差しだしてきた金髪碧眼の美少女に、バカみたいに山盛りにしてご飯を渡してやった。
その時は、その時決めよう。
今はまだ、このくだらない時間を楽しんで。




