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シャーロット・シャリアール、やわらかハンバーグを食べる。


8月13日


 ひき肉と、同じくらいの量の玉ねぎのみじん切りをこねる。

 つなぎには、パン粉がなかったので冷凍していた食パンを解凍し、細かく潰す。潰したあと少量の牛乳でふやかせる。玉子はベタベタになるので今回は使わない。

 ようくこねて、冷蔵庫で寝かせる。(肉は冷やすと固まる)

 できあがった生地を、普段道理に焼きあげれば、ハンバーグの出来上がり。

 玉ねぎが多めだと甘みが強く、食パン故にバターの風味と、少しふんわりして歯ごたえを吸収してしまう不思議な食感の肉料理ができる。

 これが妙に食欲を誘い、ごはんをぱくぱく食べてしまうのだ。

 隣室の女子大生小室さんが料理をして人に食べてもらうのが趣味らしく、料理を作ってもらって食べるのが趣味なシャーロット・シャリアールとは同じ規格の歯車の如く、よく噛み合う。

 虚脱状態で、夕方からずっと寝込んでいる僕の枕元に現れて、『今日、コムロん家で晩御飯もらってきた。一緒に食べよう!』と報告してきた異世界人シャーロット・シャリアールの晩御飯の概要である。

 

 ハロー、マイネームイズ伊藤大二郎。

 大けがを負った異世界人に生命力を少し分けてあげたら、思いのほか吸い取られてぶっ倒れてしまい、救急搬送されました。

 点滴打って、しばらく病院のベットで寝ていると歩けるようになったため、自宅に帰ったのだが、いかんせん動ける状態でないため、有給を2日程消化して寝込んでいる。

 仕事の都合上、うちの職場にお盆休みがないため、かわりばんこに休みを取っているのだが、社長に無理を言って休みを入れさせてもらった。体調不良で仕事を休んでしまって、本当に申し訳ないことをした。

 それで、一日寝込んでいると、夕方、枕元に座ってタッパーに詰め込んだハンバーグつまみ食ってる金髪碧眼の美少女に覗きこまれていた。

 これ、新手の怪談だろ。

 シャーロットは『しなくてもいいことして体壊すなんて、もっと考えなくちゃ駄目だよ』と文句を言われた。思うところはあるが、その通りなので何も言えない。

 とにかく水分補給と腹に物を詰めるのだけは忘れず、ひたすら寝る。

 どうも肉体的なダメージというよりも、精神的な部分で受けた消耗がひどいらしく、専門家のシャーロット曰く『こればっかりは時間経過で回復させるしかない』んだそうだ。

 『ダイジロウは無駄に暗黒耐性あるから、あと2日くらいすれば復活する』との言。

 ……え、あと2日も仕事休むのはちょっとまずい……。

 で、相談した結果、「体が完全に調子取り戻すまで来ないように」と上司命令をいただき、しばらく寝て過ごすことに。そういうことはっきり言ってくれる上司がいる職場に出会えただけで僕は幸せな人生歩んでる。


『シャーロット。そのハンバーグって、小室さんから僕への差し入れとかじゃないの?』

『うん。二人分くらい用意してたから、一緒に食べなさいって』

『本当にそう言ってたの? 君、日本語わかんないだろ』

『コムロの周りの闇の流れがそう言っていた』

『……まあ、いいけれど。電子レンジ遣いなよ。ハンバーグは、温かい方がうまい。そのタッパーも、レンジ可のやつだから』

 シャーロットが持ってきた小室さん特製のお弁当とやらは重箱になっていて、おにぎりとかちょっとした煮物とか、色々入っていた。味噌汁も汁用弁当箱に入れてくれている。

 布団から這い出て、テーブルの前に座る。いたれりつくせり、神経が弱っている時に人の厚意がどうにも身に染み過ぎて困る。

 独り言。

『ここまでしてもらって、どうしたらいいんだろうな』

 すると、暖めたハンバーグを持ってきたシャーロットが対面に座り

『どうもこうも、ありがとうってはっきり言うしかないじゃん』

 そりゃそうだけれどさ。

 目の前の少女の顔を見やる。無邪気な顔で、笑っていた。

『ダイジロウってさ、独り言までラゴラディバリウス言語で言うようになっちゃったね』

 おっと。


 夕飯である。

 あんまり食欲ないからシャーロットに勝手に全部食ってくれと言ったら、嗜める口調で叱られた。

『駄目、私を不調の理由に使わないで』

 あー、実際言われるとこんな腹立つんだな。

『ダイジロウは楽しいことをいっぱいして自分を回復させなきゃ』

『飯食うのが、楽しいこと?』

『楽しくないの?』

 確かに、食事が楽しくないのは、いけないな。

 少しでもと思って食べ始める。

 するとこのハンバーグがめっちゃうまい。柔らかくて、甘みのある味。とても肉料理食ってるとは思えない優しさ。最終的にタッパーいっぱい平らげてしまった。

 僕は大魔王か。

 なんだか、体が大分軽くなってきた。

 喋るのもしんどくなくなってきた。

 せっかくだから、お茶を淹れる。シャーロットが自分が入れると主張したが、緑茶の淹れ方だけは、まだ地球人である僕の方に年季がある。

 食後に、ゆっくりお茶を呑むのがこんなに落ち着くなんて。年取ったのかな。


『シャーロット、馬刺しとハンバーグ、どっちのが好き?』

『ダイジロウ、そんな嫌がらせ言えるキャラだったっけ? うーん、うーん』

『悩むなよ(笑) そこは嘘でもハンバーグって言っとけばいいじゃないの』

『でもこんな美味しいハンバーグに適当な嘘で答えるのは失礼な気もするし、うーん』

 しきりに考え込み、両腕を組んで首を傾げている。

 肉体の怪我は完璧に治ってしまったらしく、いつものテンションの上下激しい女の子に戻っている。

『しかし、そんなあっという間に治るもんだな』

『治癒は暗黒魔法の奥義の一つだからね。でも、やり過ぎた』

『?』

『ムーンスレイブ王国に戻ったら、家族や仲間がいきなり全回復してるから、ドン引きしていた。またどこかで誰かの命を吸って来たんじゃないか? ってびびってた』

『しまった、そこを考えてなかった』

『仕方ないから、闇の魔神と交信して、大いなる力を与えられたってことにした』

『考えうる限り一番考えてない答え来たな。それ大丈夫なん?』

『ごめん、ダイジロウ向こうの世界で闇の魔神ってことになっちゃった』

 なんてこったい。まあ、向こうの世界に行く用事なんてないからいいんだけれど。

『私にとっては、それくらいの恩人ではあるけどね』

 そうかい。

『礼を言う。多分、自分が失態を見せたと思ってるから、礼なんて言われたくないと思うけれど、それでも言う。ありがとう』

 なんか恥ずかしくて、うまく応えられなかった。ちゃんと礼に応える言動ができるシャーロットは、本当立派だと思う。そう思うと余計に恥ずかしくなってきた。

『あっこまでしたんだから、ちゃんと夏祭り、連れてってよ』

 なんか気が重いなあ。

 

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