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第3話

「実を言うとなあ、極秘ルートで土の国から色々仕入れたんだが、全っ然、売れる気がしなくてよお。助かったぜ、ほんとに」

「売れなさそうなやつを仕入れないでよ」

「いや、こっちも付き合いってのがあるんだよ。今、向こうは大変だからさ」

「大変って何が?」


 ヌガー屋の前にあるテラスにつくと、すぐに恰幅のいいおばちゃんがキンキンに冷えたタオルを出してくれた。

 ちなみにこの人は、始めて私がこの町に来たとき、ハビエルの頭をポンポン叩いていたおばちゃんだ。

 ヌガー屋だったとは。ヌガーばかり食べてるとこんなふうになるのだろうか。いやいや、まさかね。


「ご注文は?」


 冷えた氷水を出されると、私とハビエルは一気にそれを飲み干した。

 リュミエール王国って光の国だからなのか、一年中常夏の島のように暑い。

 どこのお店に行っても、まず出されるのは冷えたタオルと冷えたお水。いいところのお店になると、ルピカと呼ばれるなんか粒粒のはいったジュースを出してくれる。

 でも、あれはちょっと匂いがきつくて私はあまり好きじゃない。

 なんか、きっつい香水みたいな甘ったるい匂いで、飲んでいいのか、これ? 飲んでいいのか、これ? っていう次元の匂いなんだよな。


「ヌガー二つ。大盛りでな」

「あいよ」


 おばちゃんがピッチャーで空になったコップに水をつぎたし、向こうへ行ったところで、ハビエルが私の肩を抱き、ぐっと引き寄せた。

 顔が近い。なんか、汗臭いし、鉄臭い。

 ハビエルは口の横に手をあて、周りに声が漏れないように、ひっそりと話し始めた。


「実を言うとよ。今、木の国のソルと緑の国のナチュールがドンパチやってんのは知ってるか?」

「えっ! ソルとナチュールがせんそっ……むぐっ、むっ!!」

「声がでけーよ、馬鹿っ!」


 叫ぶ私の口を大きな手のひらが覆う。鉄臭いっ! 獣臭いっ! 臭いっ!


「まあ、国の上層部しか知らねえ話だし。まだ一部地域ってところだからな。ま、その関係で使えなくなった武器が流れ込んでるってわけだ」

「ぷはっ! くっさ!」

「臭くて悪かったな」

「ヌガー二つ、おまちどう」


 白い湯気がゆらゆらとたったヌガーがテーブルに置かれる。

 うーん、このなんとも言えない、やさしい甘い香り。臭さが抜けていくようだ。


「何、これみよがしに清々しい顔してんだ?」

「ハビエルもヌガーになればいいのに」

「気色悪い事言うな。 誰がこんなドロドロになるか」


 ハビエルの言葉を無視して、ヌガーのあまーい香りを少しも逃すまいと鼻から思い切り湯気を吸い込む。


「ゲホッ、ゲホッゲホッ」

「何やってんだ、お前」


 湯気を吸い過ぎて、なんかむせた。苦しい……。

 しばらくして、ハビエルがスプーンを持ってから、私もそれにならってスプーンを手に持つ。

 隣に座るハビエルがはぁと一つ盛大にため息をついた。


「お前は礼儀があるのかないのか」

「何が?」


 ハビエルがまだヌガーに手をつけないので、私もスプーンを持つ手を止める。


「いや、なんでもない」


 ふっと笑みを浮かべ、スプーンにのせたヌガーを冷ましもせずそのまま口の中へ入れるハビエル。

 私だったら熱くて絶対に全部噴き出すね。朝によくある生放送番組の食レポ女子アナウンサーのごとくさ。

 私はスプーンにのったヌガーにフーフーと息を吹きかけ、少し冷ましてから、あーんと一口頬張った。

 うん、うまいっ!


「まあ、今日はお前にオレっちの店を手伝ってもらうのと、それから……会わせたい奴がいるんだ」

「会わせたいヤツ? 俺に?」


 誰だろう? 全然見当もつかない。まさか、結婚相手でもこしらえてきたのではないだろうか。

 私……こうみえて、美少年だし。へへ。


「かわいい女の子じゃねーから、安心しろ」

「……」


 別に期待してたわけじゃありませんよ。ていうか、女の子紹介されても、実際の私は女なのだから、結婚とか絶対に無理だし。

 でも、同年代の女の子とまだこの世界で話したことないから、ちょっと話したいなとは思ってたんだけどな……。

 町ですれ違う同年代の男の子たちはなんか私に冷たいし。あれ? 私図書館から抜け出したのに、同年代の友達が一人もいない……。


「何泣きそうな顔してんだよ。お前、顔はいいんだから、そこらへん歩けば声の一つや二つかけられるだろう」

「かけられても、なんて言っていいか分からないんだよっ!」


 たしかに歩いていると、同年代の女の子から声をかけられることは2、3度あった。けど、なんか向こうはモジモジしてて、何を言ってるかわからないし、何か話せば顔を真っ赤にして逃げちゃうし。逃げられたショックで、その後、何度か他の女の子から声をかけられたけど、何を言っていいかわからなくなっちゃったんだよな。


「ヘタレだなあ、お前。お前みたいなやつがヘタレで、俺は本当にうれしいね」

「うるさい、黙れ。この悪臭筋肉! ガチムチ野郎!」

「ガチ……? 鞭?」


 ガチムチという言葉がわからないのか、ハビエルは私の暴言に首をひねっている。

 教えてやるつもりはさらさらない。というか、教えられない。この世にそういう趣向を持った人がいなかった場合、私は即刻変人扱いだ。いても変人扱いだ。


「そう気を落とすなよ。そういう浮ついたヤツじゃないエルだからこそ、あいつに会ってほしいんだ」

「どういう子なの?」

「見れば分かるさ。オレっちに似てイケメンだぞ?」

「ふーん」


 気のない返事をしたが、それはある意味認めたくない事実だった。

 正直、ハビエルはかっこいいと思う。気を抜いたら好きになってしまいそうだ。

 それは、恋愛として……ではなく、人間としてなのではあるが、たまーにさっきみたいにいきなり急接近されるとちょっとだけドキっとはする。

 いや、でも今の自分は男なのだ。少年なのだ。だから、ない。絶対にない。ハビエルに惚れるなんて、絶対にない。


「あ、何だその目は。あ、あそこに空飛ぶヌガーが」

「え? 何それ、えっ? どこ? どこにいんの? って、ヌガーが空飛ぶわけないじゃ……」


 ハビエルの指差した方には何もなかった。ていうか、空飛ぶヌガーって何? って冷静になった時にはもう時すでにおそし。

 私の前にあるお椀の中のヌガーはなくなっていた。

 前言撤回だ。人間として好きとか思ってたけど、こいつ嫌な大人だ! めちゃくちゃ嫌な大人だ!!

 と、精神的には私のほうが大人な子どもが、大人のハビエルにめちゃくちゃ大人げない悲鳴をあげた。


「あぁぁぁぁぁっ!」

「目上の人間を敬えよー。じゃねーと、こうなる」

「敬語使わなくてもいいって、いったじゃん!」

「敬語と態度で敬うのとは別だ。お前はそこらへんがちゃんと分別できてねえ、おこちゃまなんだよ」

「この……パワハラ野郎ーーー!」

「ぱ、ぱわ? 原?」


 その後、ギャースカギャースカ騒いだ結果、ハビエルのヌガーを何口かもらい、なんとか気が収まった。

 自分でも大人げはないと自覚しているつもりなんだけど、子どもになってしまったせいか、精神の方もつられて、子どもっぽくなっている気がする。

 気をつけなくてはいけないと思うんだけど、なぜかハビエルを前にすると、歯止めがきかないというか。


「よし、腹ごしらえも出来た事だし、食った分はちゃんと仕事してもらうからな!」

「え!? ヌガー1杯だけ?」

「何? 足りないってのか?」

「……500ゼニー」

「おーおー、がめついやつだな。それにかわいいな。500ゼニーでいいのか?」

「むぅっ!」


 ガシガシと私の頭をターバンの上から手荒に撫でるハビエル。ずれる! 黒い髪がはみ出る、やめろ!

 ちなみに、この世界の通貨はゼニーと呼ばれている。日本円にして1ゼニー1円といったところで、500ゼニーというのは500円。

 小学生のお小遣い程度の金額だ。ヌガーでもいいのだけれど、やっぱりお金も欲しいお年頃なのである。

 いつかは世界一強い魔法使いになって稼ぐ予定だけど、やっぱり軍資金はあるに越したことはない。いずれ来る、国外追放に備えて。

 塵も積もればなんとやらだ。


「まあ、お前の頑張り次第ってところだな。よっしゃ、行くか!」

「うん! ごちそうさまでしたっ!」


 ヌガー屋のおばさんに頭を下げ、私はハビエルの後を追い武器屋へと向かった。




△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼




 この世界は6つの王国から成り立っている。

 南に緑の国「ナチュール王国」、北に水の王国「パルメート王国」。西には土の国「ソル王国」、東に火の国「フランメン王国」。

 その4つの国の中心に光の国「リュミエール王国」が存在する。

 そして、最後にもう一つ、100年ほど前まで鎖国状態で未開の地であった、海を挟んだ極東にある闇の国「オプスキュリテ王国」。


 かつて世界は生まれた国によって髪の色がそれぞれの違っていた。

 ナチュール王国の民は緑色の髪を有し、パルメート王国は水色。ソル王国は白、フランメン王国は赤、そしてリュミエール王国は黄色、オプスキュリテ王国は紫。


 だが、今では混血も進み多種多様な髪色となっている。

 ありきたりな茶色もいれば、奇抜なピンクもいる。実に鮮やかな髪の色を持つ人種が増えた。

 だが、王族だけは他国との混血を避け、伝統ある髪の色、純血を守ってきていた。


 だから、最初その幼い男子を見て私は気づいてしまったのだ。

 何にも汚されたことでないであろう、その見事な白髪を前にして。

 この子は……、王族の人間だ、と。しかも、土の王国「ソル王国」の。


 吸い込まれてしまいそうな程、透き通った緑色の瞳。白髪は短く丁寧に切りそろえられている。幼いながらも、背筋は伸び、あごが程よくひかれた立ち姿は堂々たるものだ。

 ハビエル同様に麻でできたゆったりとした白のシャツにズボンが褐色の肌によくあっている。

 粗末なつくりではあるが、この男の子が着るとそんな服もちょっとしゃれた服に見えなくもない。


 ため息が口の端から洩れるを止められなかった。

 なんで、こんなところに王族の子どもがいるんですか、ハビエルさん。


「かわいいだろ、コイツ! 何もしゃべらないんだ。オレっちが菓子をやるっていうのに、そっぽ向くんだぜ、かわいいだろお゛お゛お゛お゛」

「ハビエル! 駄目よ。相手にされないからって、無理やりお菓子食べさせようとしないの!」


 ハビエルのお嫁さんアーシアさんが慌てて、ハビエルをその子どもから引き離す。

 ちなみに、このやたら美人で、胸がでかくて、ゆったりとしたワンピースの上からでも、ナイスボディーだとうかがい知れる、女性はハビエルの新妻である。

 一体、どうやってハビエルはこの上玉を落としたのだろう。

 この王族の子どもが誰なのかというのより、そっちの方が気になる。


「ったく、ボンボンだからって、図にのりやがって」

「預かるって決めたからには、ちゃんと仲良くしなきゃダメでしょ?」


 苛立ちを隠せずに、むっとした表情をするハビエルをアーシアさんがたしなめる。

 預かるって、王族からだよね。

 アーシアさんは茶色い髪をした普通の混血だし、王族とは縁もゆかりもなさそうなんだけど……。

 ハビエルも白に近いけど少し黄ばんでる。まさかね? え? まさかなのかな? いや、こんなヤツが王族に近しい人間とかだったら、国が破滅しちゃうって。

 訝しんでいる私に気付いたのか、ハビエルは苦笑いを浮かべ、その男の子をガシっとつかむと片手で軽々と抱き上げた。

 男の子はジタバタと暴れているが、ハビエルの手から逃れられないことは一目瞭然だ。ハビエルに勝つにはあと10年早いな、うん。


「まあ、見ての通り、こいつはソル王国のもんだ。ていうか、オレっちもこんな髪の毛だが、昔は真っ白けっけだったわけよ」

「嘘つけ」

「バレだか。だけど、まあオレっちだって、純血に限りなく違いんだ。混血1号ってやつなんだぜ」


 昔なら純血がそこらへんにホイホイいたらしいから、1号なんてそこらへんにウヨウヨいたかもしれないけど、最近じゃ純血なんて王族にしか存在しないはず……。

 混血1号。

 王族がどこかに愛人でもつくって、そこで生まれた子。いやいや、そんなわけ……。


「おぉ、おぉ、考えてる考えてる。エルは頭がよさそうだからなあ、すぐ分かるだろう?」

「分かるから困ってるんだよ!」

「まあ、そんなわけだ。そういう経緯もあってな、ちょっと預かってんだ」


 近所の家から猫を預かってきたという感じで、さらっと言ってるけど、実際はそうじゃないに決まっている。

 はい、じゃあ一週間預かってね、うんわかった、とかなわけないだろう。絶対に。


「事情はよくわかんないけど、これ以上聞くとなんか変に首突っ込みそうだからやめとく」

「ははっ! やっぱエルは頭がいいな! 好きだぞ? そういう頭でっかち!」

「うるさい、黙れ。脳筋!」


 バシバシと背中を叩くハビエルを振り払い、ハビエルの腕に抱かれた男の子を見やる。

 私なんて眼中にないのだろう、視線を横に固定しムスっとしている。

 なんて……なんて、可愛げのねえガキなんでしょうかね、コイツは……っ!

 とりあえず、名前と歳ぐらいはきいておくか……年上として、毅然とした態度を見せなくちゃね。


「君、名前はなんていうんですか?」

「……」

「えーと、じゃあ年はいくつですか?」

「……」

「おい、てめえ、ぶたれるのと殴られるのどっちがいいですか!?」

「待て、エル!」

「エル君、落ち着いて!!」


 今度はハビエルが男の子をかばい、アーシアが私を取り押さえた。ハビエルが天井に近い位置に男の子を上げている。

 上から見下ろす、蔑んだ視線。わかっている。相手は子どもだ。そう、相手は子どもなんだ。でも……。


「胸糞悪いんですけど……、」


 こっちがした手に出てるからっていい気になりやがって、王族だかなんだか知らないけど、質問にはちゃんと答えるという人間としての基礎中の基礎をコイツに教えてやらなければ。

 腕がなるぜ。


「コイツはワンっていうんだ。歳は数えで5つになる。そういきり立たねーで、ちゃんと年上らしい態度をだな……」

「はなせ、じじぃ。はなせじじぃ。くさいくさい。じじぃ、くさい」


 ハビエルの腕に抱えられたワンは抑揚のない口調でハビエルの黄ばんだ白髪を引っ張り、雑言を吐いた。

 ははは。なんて、正直な子どもだろう。やっぱり、臭いよね、ハビエルって。

 見ればプルプルとハビエルの体が震えていた。

 あ、これは危ない。非常に危ない。ハビエルが本気を出したら、正直この家ごとふっとぶ。


「はいはい、ワンちゃん。お姉ちゃんがだっこしようね。ほら、ハビエル! ぼけっとしてないで店番やってよ。これ、売れなかったら今月のおこづかいナシよ」

「おい、アーシア。ワンを寄越せ。こいつには目上の人間に対する敬意とやらを教えてやんねーとだな……」


 ハビエルの言葉に激しく同意するが、ワンの命の方が大事だ。

 とりあえず、ハビエルの腕をひっぱり、ワンに手を振った。


「じゃあね、ワン。また今度遊ぼう。じっくりとね……」

「僕は……ワンじゃない」


 初めて私の言葉に反応したワン。でも、その言葉は聞き捨てならない言葉だった。

 ワンじゃない? 変な名前だと思ってたけど、どういうことだろう。

 

「っと、早く仕事しねーとなっ! ほら、行こうぜエル!」

「えっ? うん、ああ」


 店の奥へ消えていくアーシアとワン。

 何かひっかかるんだけど、何だかは分からない。すごく大事な事を忘れているような気がするんだけど。

 さっきまで怒り心頭だったハビエルが何やら慌てた様子で、私を店の庇の下へと連れて行く。


「じゃあ、今日も頼んだぜ!」


 バシッと背中を叩かれる。

 図書館に帰れば考える時間は腐るほどある。それより今は、この店の前に山盛りに放り出された中古の武器を売りさばく方が先のようだ。


「2時間だ」

「あ?」

「2時間で売り切ってやる」


 私はそう宣言すると、浮遊魔法で武器を空中に浮かべ、


「さーて、よってらっしゃい見てらっしゃい! 中古の武器でも切れ味抜群! いいやつは早いもの勝ちだぜ!」


 大通りを行き交う人々に声を張り上げた。

 空中浮遊の魔法がめずらしいのか、まずは子どもたちが寄ってくる。それと一緒にその親もついてくる。

 そしたら、こっちのもんだ。とびっきりの営業スマイルで。


「おうちに一つ、短剣なんていかがですか?」

「そうねえ、うちの旦那っていまいち魔法がねえ。なんかあった時の為に、一ついただこうかしら」

「まいどありー。ハビエル、こちらの婦人に短剣一つ!」

「おーおー、これじゃあ、2時間どころか1時間で売れるんじゃねーのか」


 ハビエルが短剣を手に取り、一人の婦人に手渡す。

 淡いベージュの麻のシャツに、少しくすんだエンジ色のスカート。

 そういえば、図書館に来るようなフリルのついた上質なワンピースに日傘を持った女性ってこの町にはあまりいないんだよなあ。

 あの人たちはこの町の住民ではないのだろうか。


 もう少しこの町に慣れたら、少し遠くまで行ってみよう。


「おい、エル。口が止まってるぞ」

「え? あ、ごめんごめん。そこのお兄さんっ! そろそろ新しい剣にしない? ほらほら、その剣刃こぼれしちゃってるじゃん。そろそろ変え時なんじゃないの?」

「そ、そうかあ? まあ、たしかに最近切れ味悪くなってきたような気がしてたが……。いや、でもまだ……」

「ちょっと、見せてみな」


 逡巡しているお兄さんと私の間にすかさずハビエルが割って入ってくる。お兄さんの剣をじぃっと見つめ、自分の顎を撫でる仕草をする。

 あ、武器商人っぽい。なんか、できる武器商人って感じ。いや、ハビエルは武器商人か。


「魔力の伝導率も悪くなってきてるみたいだな。そんなんじゃ大物にぶち当たった時、命がないぜ?」

「え? ほんと? じゃあ、一本いただくかな」


 胴に分厚い何かの皮で作られた装具をつけ、腰に長剣を下げているお兄さんが浮いている剣を視線を彷徨わせる。

 魔力の伝導率ってなんだろう。

 魔導書は結構読んでいるんだけど、魔力を帯びた武器は私が触ると粉々になっちゃうから、あまり武器関係の書物は読んでなかったりする。


「ねえ、魔力の伝導率ってなに?」


 それとなくハビエルに問うと、何言ってんだお前って顔をされた。


「あ? お前そんなことも知らねえで、武器屋になったのか?」

「武器屋になったおぼえはない」

「ったく、妙な事は知ってて、なんでこんな基礎をしらねーのかな、お前は」


 武器の本を読んでやる。帰ったら速攻で読んでやる。と私は固く胸に誓った。


「まあ、あれだ。魔物を切るっていうのはな、ふつうの剣じゃ無理なんだよ。魔力を帯びた剣じゃねーとな。その魔力は剣に永続的にあるものもあれば、自分の魔力を流すタイプのもある。けどな、永続的に魔力を持つ剣っつーのは、すんげー高いんだよ。真ん中にある宝石がなすんげー高いんだよ」

「じゃあ、ハビエルのとこにはないね」

「まあな……って、ちょっとムカつくんだか」


 顔をしかめたハビエルは無視して、私はおもむろに浮いている短剣を一つ手にした。


「あ、壊れない」


 てっきり私が触ると砂になるのかと思ったけど、ハビエルの言うとおり、この剣には魔法が帯びていないせいか、私の魔力を打ち消す呪いが作動することはなかった。

 だけど、なんとなく違和感がある。ぴりぴりっていう感触がある。

 なんだろう。けど、いくら考えてもそれがなんなのかは分からなかった。

 ハビエルにきけば何かしらヒントが出てくるのかもしれないけど……こいつにきくのは癪だ。なんとなく。


「よっし、じゃんじゃん売りさばくぞ! ほら、休んでないで仕事しろ!」

「わ、わかってるから、背中叩かないでよ! 痛いんだから!」


 その後、1時間ジャストですべての武器を売りさばき、私はアーシアの入れてくれたキンキンに冷えたお茶を飲むのであった。


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