第1話
色々と手直しをしました。手直しをしてから投稿するはずだったのですが、後の祭りです。今お祭り騒ぎです。とりあえず、サブタイトルなどはいつか、とてもかっこいいのを決めて直したいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。
自分が転生者だと気づいたのは、6人の老人たちに囲まれ、いっせいに光魔法の攻撃を受けた瞬間だった。
当時私はまだ2歳にも満たない幼児だった。にも係わらず、大人であっても死にいたる程の攻撃を一身に受けたのである。
だが、私は死ななかった。それは私がこの世の全ての呪いをこの身で請け負ったからである。
私が死ねば、また誰かがこの呪いを受け継ぐことになる。そうやって世界は均衡を保ってきた。
呪いを一身に受けた者がこの世界に現れても、それは仕方のないこと。
もし、呪いを溜め込んだものを殺してしまえば、その呪いが世界に散らばり、世界を破滅させるラグナロクが起こるとも恐れられていた。
なのに、なんでそのリスクを犯してまで私を消そうとしているのか。
それは、私がこの国、リュミエール王国を治める王。
光の地に住む神にもっとも近いとされ、神々の加護を一身に受けている、レナルド = オブライエンの娘だからである。
気づけばもうあれから1年。私は3歳になっていた。
私の名はエルゼ・オブライエン。
だけれど、その名は国でもごく一部の上層部の人間しか知らない。
この国では私はないものとして扱われているのだ。
父のかけた魔法によって、その姿は魔眼を持つ者にしか見えないようになっている。
今、私がいるのは、国立魔法図書館。城下町から少し離れたそこが私の家であり、檻であり、監獄でもあった。
私はこの中から外へは一切出られない。魔眼を持つもの以外には干渉することもできない。
けれど、望めば図書館の中の本はいくらでも読めた。
他人に干渉する行為――本を持って誰かに投げつけたり、椅子をひいて驚かせたりすることをしようとすれば、たちまち私の手から物体はすり抜けていく。
まるで自分がお化けになったような気分だ。
この世界での私という存在は忌み嫌われるもの。この世界の均衡を保つもの。
だが、もう一つ私には大事な役割があった。それは……
「やっぱ、悪役だからかね。どんどん目が釣りあがってる気がする」
黄金に輝く無駄に豪華な装飾が施されたトイレの鏡で自分をうつせば、そこに居るのは黒髪碧眼のかわいらしい子どもだった。
髪をおかっぱに短く切っているせいか、男にも見えるし、にへらっと笑えば女の子にも見える。
幼少期のエルゼがこんなにもかわいいなんて、知らなかった。
ゲームのスタートは高等部入学時だし、悪役の過去シナリオましてやスチルなんて用意したところで需要はないからなかったし。
そう、ここは私が前世でプレイした乙女ゲームの世界なのである。
そして、私はこの世界ではヒロインをいじめていじめていじめて、最後には自分がこの世界からいなくなるという極悪非道な悪役様だったりする。
転生直後は魔法? 何それおいしいの? なんて思ってたけど、赤ん坊の柔軟な頭になったせいか、意外と早くこの世界に適応してしまった。
おいしすぎて、今では魔法のない生活なんてありえなくなってきている。
電気やガスがないから、全てそこは魔法という力でなりたっているのだ。掃除も洗濯もなんだって魔法。便利便利。
ただ一つどうしても、受け入れられないことがあった。
「国外追放ENDになったら、私どこへ行くんだろう……」
ゲームはヒロイン視点だから、悪役のその後なんて描かれていない。今だから思うのだが、なぜ悪役のその後がないのだろう。
これじゃあ、対処方法が全然たてられないじゃないか。
追放後がわからない以上、私にできることは追放されて廃人になっても、生きていける方法ぐらいなものだ。
ただここで一つ問題がある。なんと私、エルゼは魔法が使えないのである。この世界では魔法がなければ何も出来ない。
料理を作るのだって、火はすべて魔法から生み出している。水を『飲み水』に生成するのも魔法。
食物を育てる栄養も魔法。移動する手段だって魔法なのだ。
なんか、歯がゆい気持ちである。前世では魔法なんてなく、昔は洗濯だって人の手でやっていたのだ。
洗濯機や洗剤というものが生み出されたけど、最終的には人の手で洗濯物を干したり、たたんだりしていた。
この世界では呪文を唱えれば、あら不思議、汚れていたものが一瞬で綺麗に。
どこの通販番組の売り文句だと言いたい。けれど、これが現実なのだ。
魔法。魔法が使えるようになりたい。この世界の全ての人間は魔法が使える。
だが、一人だけ例外がいる。それが私だ。この世界の呪いをこの一身に受けている私には魔法が使えない。
ただし、その私にはいかなる魔法も効かない。物理的攻撃も魔法を使える人間からでは私を死に至らしめることはできないのだ。
魔法を使えない代わりに、魔法による攻撃、この世界からの全てから受ける攻撃にダメージを受けない。
チートのような、そうでないような。とても悲しいキャラクターに転生してしまったものである。
と、嘆き悲しむ日々であったが、興味本位で開いた魔道書に載っていた低級魔法を試してみたところ、なんとあっさりできてしまった。
人差し指の上に光を灯す魔法。夜は何も見えなくて、トイレに行くのがとても大変だったので、これが使えれば便利なのになと思っていたのだ。
それがいとも簡単に使えてしまうなんて。
「え、バグですか。これ」
3歳の誕生日を迎えた私へのささやかなプレゼント。いや、ささやかどころではない、ものすごいプレゼントだ。
もしかして、私って呪われてないんじゃなかろうかと思って、その光に手をふれてみた。
いくら低級魔法とはいえ、魔力を凝縮した魔法の元になる魔素に触れれば火傷を負う。
ゴクリと生唾をのみ、右の人差し指の上にともる光を左手でぎゅっとつかんだ。
「消えた……」
期待に胸を膨らませ、痛みを恐れず握った左の手のひらには傷一つついていなかった。
完全に魔力を打ち消している。自分の魔法をも打ち消してしまうのだ、この呪いは。
お父様にこの事を言ってみようかと思ったが、やめた。ゲーム上では私は魔法が使えないことになっている。
どういう展開になるか想像もつかない。いや、想像もしたくない。きっと、私の予想をはるかに超えた未来になることだろう。
私はそれからいくつもの専門書を読むのに明け暮れた。他の魔法も使ってみたかったし、何より魔法とはなんなのかが知りたかった。
そして導き出した一つの答え。
それは私の存在。
私という転生者という存在が大きく関係しているということ。
魔力は人の精神力でなりたっている。つまりは心。この世界でのエルゼの心は呪われてしまい、閉ざされている。だから、魔法が使えないのだ。
だけど、転生者である私の心は?
どうやら、呪われていないらしい。魔法が使えるのがその証拠だ。
そういえば、エルゼは攻略対象の隣国の王子ユーリ・フェーリンガーと出会うまでは言葉を発さなかったらしい。
実母に崖から突き落とされそうになったところを彼に助けられて以来、閉じた彼女の心は次第に開いてゆくのだが、黒く染まった心は彼に執着し、次第に彼を束縛したいと思うようになる。
だけれども彼、ユーリ・フェーリンガーはヒロインである私の双子の妹に恋心を抱いていて、エルゼは嫉妬で我を忘れ、妹のハンナを傷つけてしまう。
ということは、私が気づいていないだけで、この体の中には私以外の心、エルゼがいるのだろうか。
今は閉ざしている状態だから分からないけれども、遠くない未来、ユーリ・フェーリンガーと合間見えたとき、エルゼが眼を覚まし、そして私は……
頭をぶるぶると振り、強制的にそれ以上考えるのをストップさせた。
前世の記憶がよみがえって早1年、エルゼとして今後どう人生を歩んでいこうか必死に考えていたけれども、何も浮かばなかった。
魔法が使えるとわかっただけでも、色々とやりようがある。
エルゼを廃人、没落、死亡ENDで終わらせないように私がなんとかしなくては。
たとえ、今の私が消えてなくなったとしても、目覚めたエルゼが私のしたかったことをわかってくれるように。
ユーリ・フェーリンガーに出会うまで残り2年。5歳の誕生日に初めて外の世界に出られる。
その時まで、私はこの大きな箱の中で、世界で一番強い魔法使いになって、エルゼを呪いという名のBAD ENDから救ってみせる。