9話 「魔導書の正体(前編)」
本日更新の2話目です。
フレデリカは王宮魔術師になり、王宮で過ごすようになった。
王族の護衛たる近衛兵の教養を身につけるというのが名目だが、実際は新人が暗殺や襲撃で殺されないように警戒しての保護であった。
フレデリカは新しい環境に不満を抱くこともなく、順調にカリキュラムをこなしていった。
一ヶ月後に心の休息にと、実家の屋敷に帰宅することをゆるされた。
久しぶりの家庭の温もりに気分が和らいだ。と、彼女は休日を満喫していた。
が、深夜未明にフレデリカの部屋に暗殺者が襲撃した。
彼女は殺意を感じ、撃退した。だが、侵入をした犯人は父親だった。
自分の娘を殺し、自らが賞賛の的となるため、暗殺を謀ったのだ。
物心ついてから、生活の全てを魔術が占めていた。同年代の子供と遊ぶことも知らずに周囲の期待に応えるために血反吐も吐いて、時には自らの魔力暴発で死にかけながらもひたすら、ひたすら自身を高めてきた。
(なぜ、父様は私を殺そうとした……?
なぜ? なんで? どうして?
わからない? わからない? わかりたくないっっ!!)
「うわああぁぁぁあっっっ!!!」
(こんなことなら、こんなことになるなら魔術師になんて、なりたくなかった)
膨大な魔力が暴発し、屋敷が吹っ飛んだ。そして、母親と幼少時より世話になっていた使用人達も全員死んだ。
彼女も重症を負ったが膨大な魔力保有量による耐性が命を救った。
事件後、彼女は自身の所業に涙を流し、自らを呪いつづけた。幸せや喜びを感じることを拒絶し、心を凍らせ、他種族との諍いがあるたびに王宮魔術師としての地位を利用し、ひたすら最前線で戦い、殺戮した。いつ、死んでもいいと思っていた。
戦闘を重ねる毎に魔力や扱える魔術は強力になり、人を殺す術は長けていき、諍い程度の争いでは死ぬことが叶わない存在となる。
フレデリカは自身が魔術師としてしか、生きることしか出来ないと理解していた。なら、魔術師の悲願を叶えようとその後も研鑽を続け、王宮魔術師副団長の地位に命じられる。
精神は時の経過のおかげか、エルフ国を打倒するための戦力育成である魔術学院の講師として、教鞭をふるえる程度には回復した。未だに自責の念は消えないが。
また、新たな芽吹きとして、国に登録されていない魔術師を保護する役目で国内巡回しているところで真白に出会った。
フレデリカは甘い鼻息を鳴らして、真白の体温が感じられるこの瞬間に至福を感じていた。
「はぁ……ぅあ、んッ……。うふっ……。あなた、凄いのねっっ。……もっとぉ……」
女としての初めての歓喜になおも貪欲に快楽を楽しもうと甘えた声でねだり、続きをしようとしたが
突然の横槍である「エアブラスト」に吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
「……はぁ……はぁ……。た……助かった?」
フレデリカの魔術が解けたことで自由になった真白は目の前にいる魔術を放ったであろう知らない美少女に呆然となる。
「この痴女! 私のマスターに好き勝手してるんじゃないわよ」
美少女の特徴は均整のとれた相貌、艶めいた銀髪、すらりとした身体つきにあわない豊満な胸。悪魔的な美しさだった。
だが、契約のおかげか感覚でわかる。彼女が魔導書だったということを。
「マスター、痴女の消毒を致します」
真白の修羅場は幕を開け、長い夜はまだ終わらない。
使用可能魔術は更新時のみ、記載致します。