6話「魔術師フレデリカ(前編)」
あっという間に広がってしまった火災は突如現れた人間に鎮火された。余波で勿論、俺はびしょ濡れだ。
水流魔術の発生源であると思われる1人の女性が空から舞い降りて来た。女性を中心に風系の魔術が展開しているのはなんとなく分かる。
「森に火をつけるとは何事か! 事と次第によっては犯罪者として捕らえさせてもらう」
やばい、魔術師!? 探索術式に引っ掛からなかったんだけど、どういうことだ?
予想外の事態だ。魔導書に助けを求めるべく、視線を向けると今までは浮いていたのに突然俺の左手に飛んできた。
『マスター、落ち着いて下さいませ。
只今、術式の念話で話しかけています。彼女は警戒はしていますが殺意はないと思われます。攻撃されていませんので。
万が一の為、防御の結界術式を発動していますのでなんとか穏便にこの場を上手く切り抜けて下さい。
あと、私が魔導書である事は絶対に伝えないで下さい』
殺意はないって、敵意で身体がピリピリするんですけど。転移魔術で逃げ出したい。使えないが。
長い沈黙は相手の心証を悪くするだろう。俺が魔術師である事を伝えるしかないか。犯罪者になりたくない。
「名は真白だ。火災はわざとではない、事故だ。俺は水魔術で消そうとした。周囲に迷惑をかけるつもりはないし、この被害で問題がある場合は捕まるのは嫌なので他にやれる事があれば、する。
消火には感謝する。ありがとう」
「ほう、お前も魔術師か……。この近くにいる事は分かっていたんだがな。早速、出会えるとは運が良い。
続いて問う。お前のこんな場所で何をしているんだ?」
『おい、魔導書! 居場所探知されてるみたいなんですけど? 結界術式はどうなったんだよ?』
『マスター、もう念話術式が使えるんですね。喜ばしいことです。私は常に認識阻害の結界術式を展開していたので、もしかしたら別の魔術師が近くにいるかもしれません? 警戒が必要ですね』
最悪だ。状況がどんどん悪化していく。ああ……メイド喫茶で癒されたい。
「黙っていては分からん。さっさと答えろ。
ん? 手に持っているのは魔術書か? なら、学生ということになるが?」
女性は自ら、勝手に推測しては疑問符を浮かべていた。おかげで敵意は薄まったみたいだが。
よし、チャンスだ。ここは異世界の常套句で乗り切るぜ。
「すいません、記憶喪失になってしまったようで現在地が何処かは分かりません。生きる為に食料確保している時に先程の事故が起きまして、あなたに出会いました」
俺が説明を終えると女性は驚愕に眼を見開いていた。
「ピグシズ現象ですって!? 以前、文献に記載されていたけど、実際に会うのは初めてよ。貴重ね……。欲しいわ。
申し遅れたわね。私の名はフレデリカ=リアスター。
人間国シャオリンの王宮魔術師よ。
火が広がりかけた件は解決策があったようだし、罪には問わないわ。それよりもマシロ。あなたと少し、話がしたいわ」
先程までと口調が全然違うんだがこちらが素だろうか?
フレデリカさんはなんか、俺に興味心身のご様子だ。間違いなく、記憶喪失と伝えたせいだろうな。ピクシズ現象か……。覚えておこう。俺も色々聞きたいことがあるしな。
『魔導書、あの人を小屋に連れて行ってもいいかな?』
『条件がありますが大丈夫ですよ。
1つ目は小屋周辺に結界術式が展開している件について、聞かれた場合は分からないと伝えて下さい。
2つ目は私を肌身離さず持っていること、会話は念話で行うことを守って下さいませ』
『了解。あんたの条件は守るよ』
「フレデリカさんで宜しいですか? もうすぐ、暗くなりと思いますので近くにある小屋でお話はいかがですか?」
「私の呼び方は好きにしていいわ。さんでも、ちゃんでも、様でも構わないわ。場所を移動するのもいいわよ。話が出来るならどこでも行くわ」
好きに呼べと言うわりにはなんか、呼び捨てさせる気がないようなに感じるのは俺だけか?
帰り道は魔導書に念話で道を確認しながら帰ろうとした。だが、あることに気付いた。魔導書で片手がふさがっているので戦果の小動物を全部持てない、と。フレデリカさんが運ぶのを手伝ってくれたので解決したが。これはご馳走しなければならないだろうな。まあ、5匹も食えないので問題はないんだが。
こうして、2人と1冊の魔導書で小屋に戻ることになった。
『真白の使用可能魔術』
・魔力弾→魔弾(無属性)、火弾、水弾、風弾
・追尾弾
・連射弾
・強化魔力弾→疾風弾
・探索
・念話
全話にサブタイトル追加しました。