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絶望遊戯~ゲーム世界に絶望難易度アビリティをつけて転移した話~  作者: 長月透子
第二章 アヴダール村

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第九話

「あんた、ずいぶんと解体してるみたいなのに、ちっともうまくならないんだねぇ」


 呆れた顔で言うのは、カウンターの上のオオカミの毛皮を検分したベルラである。


「もっと大きな毛皮はないのかい?ずいぶん傷もついてるし」


 冬真は肩を竦めた。文句はこんなシステムを採用したルキア様に言ってほしい。このゲームでは、スキルは自然習得はしない。NPCに習わなければいけないのだ。成功判定は、スキルレベルと基礎ステータスのみで行われ、蓄積した経験によるバフなどはないのである。


「ま、いいだろ」


 ベルラはそう言って、毛皮をしまい込んだ。部屋代を差し引いた、わずかばかりの銅貨を出してくれる。


「そろそろオオカミの毛皮も、買い取れなくなるよ」


 冬真は頷いた。これまでに数十枚のオオカミの毛皮を引き取ってもらった。小さな村では、もう在庫は十分だろう。ゲームでも、無限の金策を禁止するためか、一定期間内の物資の買い取り量や買い取り総額には制限があった。


 毛皮が売れなくなったら、肉の取れないオオカミの死骸は捨てるだけになるだろう。その代わり、ウサギ肉を供給することで部屋を貸し続けてくれることになっている。


「じゃあ、これで」

「ああ待ちなさい、これ」


 そう言って、ベルラがカウンターの下から革の靴を取り出して、カウンターの上に置いた。冬真は首を傾げる。


「クリエさんがあんたにって。肉のお礼だそうだよ」


 クリエは、隣に住んでいるお婆さんだ。十歳にもならない孫と一緒に、いつも畑仕事をしている。

 冬真が持ち込んだ肉を、ベルラは時々近所にお裾分けしているらしい。そのおかげで、最近の村人の視線はかなり友好的だ。


「ありがとう。助かるよ」


 最近は死ぬこともないのだから、履いても即ロストするということはない。単に、これまで用意しなかったのは、冬真の器用では、成功するまで試行するのが無駄だと思ったからだ。


「無理はしないようにって伝言だよ。息子を思い出すのかねぇ」


 ベルラが、目を細めて言う。平和な日本からやってきた冬真は、なんと答えればよいのか分からなかった。だから、曖昧に頷いて、そこを去った。


* * * *


 断末魔の声が夜の静寂に響き渡る。続いてカラリと、木槍が地面に転がる音。


「……ステータス」


 灰色の画面には、レベルアップの文字。冬真は息を吐いて身体の力を抜いた。やっと、レベル7。四十匹近くのはぐれオオカミの死骸を積み上げた上に勝ち取った成果である。ちなみに、この間に片手では足りない数の木槍がダメになって、作り直す羽目になった。


 どのステータスを上げるかは、もう決めていた。筋力に4。これで、筋力7、体力8、敏捷10、器用3、魔力1だ。試しに落とし穴の底からオオカミの死体を引き上げてみれば、段違いに楽である。


 当初の予定では、はぐれオオカミ狩りの効率化のために、筋力と器用に2ずつ振るつもりだった。それを変更して腕力の比重を上げたのは、慎重さよりも速度を取るためだ。レベル8に上がるのを待たずに、次の群れオオカミを狩る。そのためのステータス振りだ。


 群れオオカミは、一体のリーダーと二体の取り巻きからなる。レベルは6と5だ。こいつらが数字通りの経験値しかくれないならば、群れで出現する分難易度がずっと高くなるので、いわゆる、「まずい」敵となりそうなものだが、ゲームでは、群れで出現する敵には、特別な経験値ボーナスがつく。


 はぐれオオカミと並行して群れオオカミを倒すことができれば、想定よりも早くレベルを上げられる。ベルラによれば、村の中ではまだ傭兵を雇う話は全く出ていないらしいが、出来る限り早くレベルを上げるに越したことはないのである。


 筋力は、スリングショットを遠くに届かせるためと、運よくオオカミの眼に槍が命中したときに、脳天に槍を押し込むための力だ。やれるかは分からないが、やってみるしかない。


* * * *


 冬真は、息を大きく吸って、吐いた。


 初期リスポーン地点の側近く、草原と森の境界。そこに、直径2mの落とし穴が、万全のカモフラージュをされた状態で五つ並んでいた。直径1mでは飛び越えてしまう可能性があるので、2mに拡張した。ちなみに、3mまでいくと底で助走距離が取れるようになるため、脱出できるようになってしまう。


 冬真は、もう一度、息を大きく吸って、吐いた。石をセットしたスリングを、ぐっと握りしめる。石を撃ちだす目標地点は、群れオオカミのスポーン地点だ。当たっても当たらなくてもいい。挑発するだけで十分だ。


 胸が早鐘を撃つ。緊張する必要はない。この落とし穴を越えてくることはまずないはずだ。


 冬真は、右手でスリングをぶん回して十分な遠心力を与えてから、石を投げた。スリングを捨てて、槍を手に取って身構える。


 少しして、ガサガサ、と茂みが擦れる音がする。そのまましばらく待っても、何も起きない。


 冬真は詰めていた息を吐いて、槍を足元に戻して、スリングを拾い上げた。再び石をセットする。器用が低いので、狙ったゾーンに石が飛ぶとは限らない。


 そうして、五、六回ほどもそれを繰り返しただろうか。着弾の音に続いて、咆哮が上がった。


* * * *


 スリングショットの命中率には大いに問題があるし、槍もなかなか命中しないしで、群れを一つ倒すだけで一日仕事だった。リーダーを倒しきる前に冬真の体力が尽き、村で休んでから戻ってきたときには落とし穴から逃げた後だったこともある。


 それでも、レベル6から7までは、はぐれオオカミだけで二週間以上かかったにも関わらず、群れオオカミを併用したレベル7から8までは十日で済んだ。


 割り振るステータスは、筋力2、器用2だ。筋力9、体力8、敏捷10、器用5、魔力1。少しずつ、フィジカルが標準ステータスに近づいている。


 魔力を10まで上げればスタミナ回復魔法、20まで上げればヒールと簡単な攻撃魔法を覚えることができるが、魔力を追加で上げなければ、一日に使用できる回数が少なすぎて使いものにならない。


 今は魔力を上げる余裕などはないから、ともかく怪我をしないように立ち回るしかない。


 このレベルアップで、はぐれオオカミでは経験値が入らなくなるが、群れオオカミ討伐の速度が上がるなら、むしろレベルアップの速度は上がることになる。


* * * *


 いつも通り、群れオオカミの狩りに出かけようとした朝のことだった。冬真は、村を出るところで後ろから声をかけられた。


「よう」

「おはようございます、ルグナーさん」


 この老人と行き合うのは初めてではない。ただ、いつもはお互い会釈して通り過ぎるだけで、親しく話したことはない。


「ああ、おはよう。お前も毎日、頑張るなあ。初めてここに来た時にはひょろひょろで、狩りなんかできそうもなかったのに」

「今でも苦戦してますけどね」

「ベルラの婆さんから聞いてるよ。解体がヘタクソなんだって?」


 身も蓋もない評価だが、事実である。


「ベルラさんもひどいなあ」


 冬真が頭をかいて恥じ入ると、ルグナーが笑い声を上げた。


「ふん、自己流でやるからだ。どうだ、ひとつ、わしが解体を教えてやろうか?」


 冬真は目を輝かせた。思わず身体を乗り出す。


「いいんですか!?」


 ゲームには、こんな展開はなかった。解体も、傭兵から学ぶのだ。


「言っとくが、お前のためじゃないぞ。獲物は余すところなく利用するのが狩人の心得、獲物に対する礼儀だからだ!しっかり学べよ。……ま、村のみんなもお前の肉は喜んでるしな。解体で無駄になる肉が減ればみんな幸せになる。そうだろう?」


 ばちりと片目をつぶった老人のウィンクに、冬真は、力強く頷いた。


「はい、しっかり学ばせていただきます!」


* * * *


 そして、冬真の目の前には、今、腹を切り裂かれたオオカミが転がっている。地球では想像もしなかった――ただし、ここではもはや見慣れたグロい光景だ。


「いいか?ここをよく見るんだ。この筋はここに繋がっているから、ここで切ると……」


 年老いた手が、小気味よく動いて、皮と肉の境目を的確に断って行く。


「わかったか?ほうれ、やってみろ」


 促されて、冬真は石包丁を手に持った。先ほどの光景を思い出しながら、逆サイドの筋に刃を当てる。


「そこ、ずれてる。そうじゃない、こうだ。……お前、本当に不器用なやつだなぁ」


 呆れたように言う狩人の老人に、冬真は素直に頭を下げる。無償で朝から冬真にスキルを教えてくれているのである。こんなにありがたいことはない。

 何度も実演と演習を繰り返して、老人が頷いたのは、もう陽も暮れかかるころだった。


「やれやれ、びっくりするくらい不器用な奴だったわ」


 ルグナーがくたびれた声で、肩を揉んでいる。冬真は勢いよく頭を下げた。何なら肩でも揉みたい気分だ。こっそり表示したステータス画面のアビリティ欄には、解体の文字が出現している。本当にありがたい。


「ありがとうございました!」

「ふん、この毛皮はもらっていくぞ?」

「はい、どうぞ!」


 どうせ、捨てることになる毛皮だ、まったく惜しくない。それに、手本として解体したのはルグナーだ。


「ま、気が向いたらまた教えてやる。がんばんな」

「はい!」


 解体は、これから先も使い続けるスキルである。肉の取得率もさることながら、かかる時間が減るのが大きいのだ。オオカミは既に解体せずに捨てているが、獰猛ウサギは、ベルラとの取引や、食糧の補充で狩り続ける必要がある。


* * * *


 数日に一度の肉の納品日。雑貨屋のカウンターに載せた肉を、老婆が検分して満足そうに頷いた。


「うん、いいね。いつも助かるよ」

「こっちこそ」


 ベルラは、いつものように肉を葉っぱにくるんで、床下にしまい込む。


「ところでベルラさん、聞きたいんだけど」


 冬真は、改まった口調で切り出した。ベルラが首を傾げる。


「傭兵を呼ぶって話はまだ出ていないの?」


 ベルラが眉を寄せた。


「またその話かい?そんな話、出てもいないよ」


 おかしい。レベルは、既に11だ。あと1上がれば、群れオオカミのリーダーでは経験が入らなくなってしまう。


 ステータスは、筋力12、体力10、敏捷10、器用12、魔力1。少しだけ力が強くて器用な一般人ということになるだろうか。未だに雇う話も出ていないのなら、冬真のレベルは上がり切ってしまう。


 ……そもそも、傭兵は本当に来るのだろうか?


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