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絶望遊戯~ゲーム世界に絶望難易度アビリティをつけて転移した話~  作者: 長月透子
第四章 アールバルの街

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第二十一話

 罠を使った狩りを始めてから十日にして、レベルは2上がった。


 レベル21へは、最初のボア狩りで上がった。それまでの経験値の蓄積があったからだとしても、そこからレベル22までは、8日しかかからなかった。


 現在の冬真はレベル22だ。上がったステータスは、魔力に全振りである。現在は、筋力14、体力14、敏捷14、器用30、魔力11。もっとも簡単な魔法である、リフレッシュを使えるようになった。これは、スタミナを一定時間、少しずつ回復する魔法だ。一日に使用できる回数はまだまだ少ないが、ボアを運搬する時にかけるようにしている。


 当初は、プレッタにかける負荷を取り除くために、筋力と体力に振るつもりだった。ソリを使うとはいえ、奥地から大型魔獣を運ぶのは容易ではない。しかし、その方針にストップをかけたのはプレッタ自身である。


 危険地帯に落とし穴を掘る以上は、片方は警戒担当だ。二人とも穴掘りに夢中になって魔獣の接近を許したら致命的だ。弓術は既に冬真の方が上なのだから、警戒は冬真がするべきと言ってプレッタは譲らなかった。冬真の経験値効率のために発生した作業なので、心苦しい限りだ。


「それで、君が次に強くなるときには、どの能力を伸ばすつもりだ?」


 女傭兵は、落とし穴を掘りながら、冬真に尋ねた。


「筋力と体力です。ボアを運ぶのを楽にするべきでしょう」

「ふむ。……他にはどんな選択肢があるのだ?」

「器用、敏捷、魔力です」


 冬真は包み隠さずに答えた。プレッタならばどのような判断をするのかが知りたかった。

 プレッタが目を見開く。


「魔力?君は魔力を伸ばすことができるのか?」

「はい」

「何とまあ。……君は本当に魔王を倒して元の場所に戻るつもりか?」


 冬真は目を瞬かせた。質問の意図が分からない。


「何か問題が?」

「魔力は生まれついてのもので、後からはそうそう伸びないと言われている。高い魔力は、貴族の専売特許だ。君の能力が知られれば、王女とだって結婚できるかもしれないぞ」


 冬真は思い切り顔をしかめた。


「よしてください」


 王女と結婚できる?このクソみたいな世界で、それのどこがご褒美になるのか分からない。よしんば幸福な一生を送れたとしてもだ。老衰で地球に戻れる保証などない。死んだ瞬間、レベル1の地獄からやり直しになったら、文字通り天国から地獄である。

 プレッタが呆れた顔になる。


「君は本当に変わっている奴だな」

「誉め言葉だと思うことにします。しかし、結婚なんてできるんですね」


 不思議である。何が不思議って、冬真は下着を脱げないのだ。排泄と同じく、そんな欲求は不思議と全く感じたことがない。この世界で性交などできないのではないだろうか?


「君の国にはなかったのか?」

「ありましたよ」

「では、何が不思議なのだ?」


 冬真は返答をためらった。女性にしていい話なのか?


「……子供はどうやって作るのかと思いまして」


 ものすごく言いにくい。顔に血が集まっていく。プレッタが呆れた顔になる。


「そんなことも知らないのか?」


 冬真は唇を引き結んだ。それくらい知っている。保健体育の授業で習った。もちろん実践したことはない。


「ルキア様に祈りを捧げるのに決まっているだろう」

「は?」


 冬真は呆然とした。


「君は魔物の生態とかおかしなことには詳しいのに、社会常識は赤子のようだな」


 プレッタが首を振る。


「夫婦がルキア様に祈りを捧げるんだ。祈りを聞き届けてくださると、使徒様がやってきて子供を授けてくださる」


 何だ、そのファンタジーは。冬真は脱力した。


「コウノトリ式かよ」

「コウノトリ?使徒様はそのような名前ではないぞ」

「いいです、何でも」


 冬真は頷いた。そこは重要なポイントではない。

 なるほど、ゲームはR18ではなかった。この世界もバカバカしいくらい健全だ。心配するんじゃなかった。世界が荒廃しているのに、性犯罪や性産業を見かけたことがない。察するべきだった。


 ……やはり、元の世界には必ず戻る必要がある。経験がないままこの世界で修行僧のような一生を送るのはいやだ。たとえ欲求を感じないとしてもだ。

 しばらく、プレッタが土を掘り返す音だけが辺りに響く。


「それで、君が伸ばす能力だが。魔力を伸ばした方がいいのではないか?」

「……バレたら面倒なことになるのでは?」

「面倒なことになるのと死ぬのなら、当然前者を取るべきだ」


 それはそうだ。


「これから先、前線に行けば行くほど魔物の密度は上がる。攻撃の選択肢は多くあるべきだ。……それに、いざというときの治癒魔法があるのとないのとでは大違いだ」

「ですが」


 落とし穴から引き揚げるのには、どうしてもプレッタの助けがいる。曳いて帰るのだって、交互に曳かなければ冬真の体力がもたない。

 プレッタが首を振る。


「私が君に協力をするのは、君が魔王を倒すと言ったからだ。君は私の負荷を軽くすることではなく、魔王を倒すことでそれに応えるべきだ。違うか?」


 冬真は息を呑んだ。


「分かりました、魔力を伸ばします。……後から文句を言うのはナシですよ」

「あいにく、私は物覚えが悪くてな」


 プレッタが唇の端を吊り上げてにやりと笑った。


* * *


 一カ月余りをジャイアントボアの狩りに費やして、レベルは25に上がった。


 ステータスは、筋力14、体力14、敏捷14、器用32、魔力27だ。魔力は10上がるごとに新たな魔法を使えるようになる。魔力20で覚えるのは、ヒールと、火球だ。


 罠にはまったボアに対して火球を使ってみせると、プレッタは、「信じていなかったわけではないが、本当に使えるようになるとはな」と唸って首を振っていた。ヒールと火球は、貴族の基本技能みたいなものらしい。


 毎日素材を持ち込む二人に、レドムは完全に呆れ顔である。狩りをする方法を売ってくれたら高く買う、と言われたこともあるが、冬真は首を振った。それで誰かが失敗したら、レドムの信用が落ちる。さらには、冬真に対するレドムの信頼が損なわれる。


 レベル上げは順調だ。しかし、先に進めば、いずれ、プレッタとの別れが避けられないことも分かっていた。プレッタはレベルが上がらない。つまり、ステータスを上げられない。戦力外になる日が来る。


 この世界の人間に許された、自然な成長では、魔王を倒すほどになるのは難しい。そうでなければ、魔王はとっくに討伐されているはずだからだ。だから、プレッタのレベルが上がるようになる奇跡でも起きない限り、魔王討伐に同行することは彼女の死を意味する。


 そして、ここはおそらく、そんな奇跡が起きるような甘い世界ではない。

 ――冬真は、独りで、魔王と戦うことになる。


 次の街、ルーグルは、ゲームでは三人パーティーで活動していた場所だ。敵の平均レベルは20。冬真のレベルが23になれば、一般プレイヤーのステータス合計を追い越すことになるし、ゲームではスヴァイクとアリエルが加入して三人パーティーなので、そのレベルで移動しても十分な余裕があった。

 しかし、今は冬真とプレッタの二人しかいない。十分な安全マージンを取って移動するべきだ。


 あと二カ月程度狩りをすれば、レベルは28。最低限、そこまで上げてから移動する心づもりだった。

 その冬真の計画を台無しにする出来事が起きたのは、ジャイアントボアの死骸をボルグに託して去ろうとしたときのことだった。


 小柄な人影が、冬真と街の門の間を遮った。

 冬真は、ぴくりと頬を震わせた。そっと剣の柄に手をかける。横のプレッタも同様の姿勢を取っている。


「あの!」


 決死の表情で話しかけてきたのは狩人の子供だった。嫌な予感しかしない。冬真は足早に子供を避けようとした。すると子供は冬真の進路を塞ぐように移動してくる。

 冬真は目を細めた。横に立っている顔役は、申し訳なさそうな顔はしているものの、止める気配はない。どうやら、顔役も承知のことらしい。

 仕方なく、冬真は足を止めた。


「俺を弟子にしてください!」


 冬真を見上げる狩人の子供の瞳は、期待にきらきらと輝いていた。


「断る」


 冬真は即断した。それ以外、言う必要を感じない。

 一瞬ひるんだ子供が、気を取り直したように付け足す。


「ざ、雑用でも、何でもします!」

「断る」


 冬真はもう一度繰り返した。子供がショックを受けたような顔で黙り込む。

 冬真は横の顔役に視線をやった。この子供に、いつまで冬真たちの進路を塞がせておくつもりだろう。

 苛立ちを感じ取ったのか、顔役が、誤魔化すような笑いを浮かべた。子どもの腕を掴んで、横に避けさせる。


「ほれ、気が済んだろ。旦那方の邪魔をすんじゃねえよ」


 冬真は黙って門に進んだ。プレッタも横を歩く。


「プレッタさん」

「何だ?」


 女傭兵の声には、面白がるような響きがある。


「明日、この街を発ちましょう。ルーグルに向かいます」

「いいのか?あの子供は、相当に立場を悪くするぞ」

「それは、彼の選択の結果です。……それに、このままでは、早晩、事故を起こしますよ。そうでしょう?」


 次の展開は予想がつく。自分が役に立つことを冬真たちに見せようと、何らかのアピールをしようとする。下手をすると冬真たちについてきて――死ぬ。

 そんなことはプレッタなら予想がついているはずだ。


「俺に、人を育てる余裕なんてないんですよ」


 プレッタが頷く。


「いいだろう。明日の朝、ここを発つ」


 荷下ろしの依頼や、デルゼーム執政官の汚職、麻薬の問題などを解決しないまま、冬真はアールバルを離れることになる。だが、当然のことだ。


 この世界の問題は、この世界の人間が解決すべきだ。ゲームイベントであるという前提が崩れた今、報酬も約束されていない面倒ごとに自ら頭を突っ込む必要性はどこにもない。 


 狩人の子供も同じだ。子供を育てるのは、この世界の人間が負うべき責任であって、冬真が負うべき理由はない。冬真は、いずれ地球に戻るのだから。


* * * *


 明日街を発つことになると告げたときのレドムの表情は見ものだった。最初は冗談だと思ったのか、笑いかけて、冬真たちがにこりともしないので、そのまま凍り付く。


「いや待ってくれ。一体何の問題があったっていうんだ?」


 両手を上げて、冬真たちに対して、冷静になるようにジェスチャーする。冬真たちは肉の継続納入を長く引き受けてきた。ギルドとしては安定収入だから、引き留めようとするのは当然である。


「魔王と戦いに行く」


 冬真は馬鹿正直に狩人の子供が原因だと言ったりはしなかった。そんなことをしたら、街の圧力が即時に狩人の子供に向かうことは明白だ。そして、お前の問題ごとを解決してやったんだから、お前はこの街の利益のために働き続けろ、という暗黙の貸し借りが発生してしまう。


 しかし、問題の本質は狩人の子供の要請ではない。冬真がいずれ必ず、この街を去るということだ。それは覆せない事実である。


「は?」


 レドムが呆然として瞬く。プレッタに視線を移して、プレッタが頷くと、信じがたい顔で、冬真に視線を戻す。


「そんな、お前だったら、わざわざそんなことをしなくても、ここに定住だってできるだろ……」


 冬真は首を振った。


「レドムさんには感謝してるよ。おかげで、すごく快適に過ごせた」


 そう言って、懐から銀貨を一枚取り出して、カウンターに置く。


「もう戻ることはないだろうけど……万が一戻ってきたら、暖かく迎えてほしいな」

「お前……!」


 死を覚悟した別れの言葉と餞別だと思ったのだろう。レドムの顔が悲痛に歪んだ。


「当たり前だろ!いつでも戻ってこい!」


 そう言いながら、銀貨を懐にしまい込む。


「それで、プレッタも行くんだな?」

「ああ。どこまでついて行けるかは分からないがな。行けるところまでは行くつもりだよ」

「そうか……。ま、組合には俺が頭を下げといてやるよ」

「ああ、そうだ、デルゼーム執政官にもお詫びのツケ届を頼めるかな?」


 冬真は懐から革袋を取り出して、カウンターに置いた。中には、銀貨が10枚入っている。このまま去ったら、デルゼームの八つ当たりを傭兵ギルドが受けそうで心配だったのだ。


 直接渡しに行くと言う選択肢はない。デルゼームにとっては金の卵を産むガチョウがいなくなるわけだから、妨害をしかけてくる可能性は十分にある。しかし、冬真たちが去った後なら、最後の上納金を見て腹の虫が少しは治まるだろう。


「お前なあ。最後の最後に面倒な爆弾を投げつけやがって」


 レドムが苦笑した。


「まあ、いいだろ。それくらいの仕事料はもらったからな。急ぎの用事ができたみたいで、挨拶ができなかったようだ、って言っておいてやる」


 そう言って、革袋を引き取る。


「助かるよ」


 これで、清算は終わりだ。長い時間をこの街で過ごした。感傷がないわけではない。しかし、冬真は立ち止まるわけにはいかないのだ。

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