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絶望遊戯~ゲーム世界に絶望難易度アビリティをつけて転移した話~  作者: 長月透子
第三章 キャルカルの町

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第十三話

 潜伏場所を見つけてから二日。冬真たちは、遠くから盗賊たちの監視を続けていた。彼らは見張りを立てずに、三人がめいめいに街道の脇に潜んでいる。その代わりに、街道の見晴らしはよく、後続がいるかは容易に確認できる地形だ。


「来たぞ。おそらく動く」


 街道を、二人組が歩いてくる。背後に人の影はない。

 冬真は、黙って弓をつがえた。ギリギリと、弓を引き絞る音が耳元で響く。横でも、プレッタが矢をつがえている。


 木々の合間から、茂みに潜んだ盗賊の横顔が覗く。冬真が狙うのは、道のこちら側にいる敵だ。狙いにくい、道の向こう側の敵をプレッタが担当する。逃がさないために、敏捷の高い敵から優先して狙う。


 冬真は、改めて、この自動行動システムに感謝した。これがなかったら、手が震えて照準をつけることもままならなかったかもしれない。


「撃て」


 簡潔な命令に、右手が反射的に矢を放つ。風切り音が二つ、森の空気を震わせる。


 冬真は結果を待つことなく、次の矢をつがえる。狙いをつける。冬真が狙った相手は、胴体に矢が突き立って、呆然としている。プレッタの狙った相手も同じ。最後の一人は慌てた様子で周りを見回している。一瞬のタメのあとに、冬真は矢を放つ。ほとんど同時に、プレッタからも矢が放たれる気配がした。


 矢を再びつがえて、照準をつける。最初に射られた二人はうずくまり、最後の一人は地面に倒れていた。

 冬真は、機械的に矢を放った。二度。三度。相手が地面に倒れ伏すまでだ。手負いでも、油断するな。不用意に近づけば、反撃を受ける。弓で倒せるならば、確実に倒せ。全てプレッタの教えだ。


「いいぞ」


 満足そうなプレッタの声で、冬真はようやく弓を下ろした。

 プレッタも立ち上がっている。剣を抜いて、盗賊たちの元へと足早に近づいていく。冬真も短剣を引き抜いた。


 盗賊が狙っていたはずの相手は、既に街道の先に背中が見えるだけとなっている。突然悲鳴が上がって、街道の先に矢が突き立った男が転がり出てきたのだ。逃げ帰るのは人間としては当然の反応である。しかし、横で戦闘が行われていても、平常運転でルーチンをこなしていたゲームのNPCとは、挙動が全く異なる。


 三人のうち二人は、既にこと切れていた。残る一人も、三本の矢を胴体に受けて、ただ冬真たちが近づくのを見ていた。腹部からは大量の血が流れ、その眼からは、急速に光が失われようとしている。


「止めを刺してやれ」


 プレッタの言葉に、冬真は肩を揺らした。殺さなくても、時間の問題だ。あと一分も持たないだろう。


「教えたはずだ。止めを刺せるタイミングがあるなら、一瞬も躊躇するな」


 冬真は、唇を噛んだ。握りしめた短剣に、ぐっと力を込める。


 そうだ。人間もモンスターも変わらない。たとえば、ここに、最上位の回復魔法を持った存在が乱入してきて、敵を回復したら。そして逃がしたら。恨みを持った敵に、冬真たちは狙われ続けることになる。


 近づいて、腕を振り上げて、下ろす。手の先に、鈍い感触が伝わった。そして、痙攣の感触と、それが消えていく気配。男の眼からは、光が完全に消えている。


 ぐらりと、地面が揺れる心地がした。冬真は目を瞑って、必死に耐える。胃の中がひっくり返る。


「無理をせずに、吐いてしまえばいい」


 冬真は首を振った。殺した。悪人であっても、冬真は、人を殺した。正義のためではなく、――自分が地球に帰る、その目的のためだ。


「ちくしょう……」


 泣き言が唇から漏れる。帰りたい。帰りたい。帰りたい。もういやだ。なんでこんなことを。俺はどうして。


 意識して、息を大きく吸って、吐く。こんなところでうずくまっていても何も変わらない。今は、先に進まなければ。


「落ち着いたか?」

「はい、すみません」

「君は、本当に平和な場所からやってきたのだな」


 上から、プレッタの感心するような声が降ってくる。


「そうですね。……戦うことなんて、なかったので」

「しかし、慣れなければ。前線はもっと荒廃しているぞ」


 容赦のない現実が、冬真を打ち据える。


「では、首を取りたまえ」


 続けて降ってきた言葉に、冬真は身体を揺らした。がばりとプレッタを見上げる。冷徹な視線が、冬真を貫いた。


「何を驚いている?首を持って行かなければ、報酬を得ることはできないぞ」


 逃げ場はなかった。冬真は、この世界で、生き延びなければならないのだから。


* * * *


 キャルカルの町長の家は、周りに建っている家よりも、一回り大きかった。

 庭先に置かれた三つの生首を、年若い少年が震えながら検めている。先日、盗賊から逃げ延びた生存者だ。小さな、しかし確かな、間違いないです、という声とともに彼が頷く。町長が満面の笑顔になって冬真たちを振り返った。


「ご苦労だった」


 懐から取り出して渡された革袋の中身を確認して、プレッタは頷く。


「確かに」

「おかげで町人たちを危険にさらさずに済んだ。それにしても、二人で討伐したのかね?」

「はい」


 町長の眼には、感嘆が浮かんでいる。


「君たちのような傭兵に町に留まってもらえるのはありがたいね」


 プレッタが苦笑して首をふった。


「いえ。お申し出はありがたいのですが、近日中にアールバルに移動するつもりです。トーマを鍛えなければいけませんので」

「そうか。それは残念だな。気が変わったら言ってくれ」


 そうして話している最中のことだった。背後で息をのむ音がした。振り返ると、年配の――ベルラと年齢の変わらなさそうな老婆が、引きつった顔で立っている。視線は、生首に釘づけた。その顔色はみるみるうちに青ざめていく。やがて、きっと眉を釣りあげて、剣呑な眼差しで、少年と町長、そしてプレッタと冬真を順繰りに見やって――むしろ睨みつけたあと、踵を返して去っていく。


「……あれは?」

「ああ、この三人のうちの一人の母親だ」


 冬真は息を飲んだ。


「持病持ちの母親のために、アールバルに出稼ぎに出かけていったと聞いてたんだがな」


 町長が肩を竦める。


「我々で討伐していたら禍根を残しただろう。助かった」


 流れ者の傭兵ならば、恨みを買っても町長の痛みにはならない。自分勝手な論理だが、町長に後ろめたさなどは感じられない。


「恐れ入ります」


 町長の家を辞した後で、プレッタが冬真に視線をくれた。


「何か言いたそうだな?」

「……十分な報酬をもらえたんですか?」


 女傭兵は、笑って冬真の手のひらの上に革袋を乗せた。中には数枚の銀貨が入っている。シカや蛇、イノシシなどの危険生物の革や肉の買い取り価格を考えれば、町人に恨まれることを差し引いても、リスクに見合った報酬に思える。


「意外そうだな?」

「……もう少し、安値で買いたたかれるのかと思っていました」


 革袋を女傭兵に返しながら、冬真は頷く。


「この小さな町にとって、傭兵を雇えるかは死活問題だ。特に今は、戦える人間が少ない。金払いをケチって恨まれでもしたら、それはそのまま町のリスクになる」

「五年前に、徴兵があったと聞きましたが」

「そうだ。大規模なスタンピードがあった。今はそれをなんとか凌いで、小康状態と言ったところだな。だが、またいつ起こるか分からない」


 そこで、プレッタが悪戯っぽく笑った。


「だから、トーマはさっさと強くなって、魔王を倒してくれ」

「努力します」

「とりあえず、明日にはアールバルに移動するぞ。先ほどの女性がバカなことをしでかさないうちにな」


 冬真は頷いた。歩きながら、なにげなくステータス画面を出して確認する。もはやこれは決まりきった習慣みたいなものだ。一日の終わりに、自分が前に進んでいるという、成果を確認するための。

 そして、冬真は足を止めた。


「どうした?」


 不審げなプレッタの声がする。しかし、冬真は灰色の画面に釘付けだった。


 表示されている、レベルアップの文字。


 世界が、揺れた。強烈な悪寒が背中を駆けあがる。冬真はレベル14になったばかりだ。こんなすぐに、レベルが上がるはずがない。なのに、なぜ、上がった?――人を、殺したから?まさか、ゲームシステムは人を殺すことを、推奨している?


 冬真は口元を抑える。身体が震える。気持ちが悪い。


「冬真?」


 脳裏には、悲しみと怒りに燃えた、強い眼差し。人の命を奪った感覚と、首を切り離す手応え。そして目の前には、レベルアップの文字が躍っている。


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