食堂でのひと時
空いている席に二人で座ると、シルルがメニュー表を広げて何を食べるか聞いてきた。
「…………読めない」
まさかの異世界の文字が読めなかった。話す言葉がわかるため、文字も読めると勘違いしていた。だけど、シルルから渡された絵本や薬草の種類が書かれた図鑑などは読めた。そのため、首を傾げてしまった。
「この国の文字を知らないのも仕方がないわ」
国の文字によって、読めるやつと読めないものがあるのか……。
「絵本や図鑑は? 私、読めたよ」
「あれは……獣人の国で発行された本だからよ」
なるほど。私が今は獣人だから、獣人の国の物なら読めるのか……細かい。でも、どうせなら全部の国の文字が読めたら良かったのに。
「私が読むから好きな物を言って」
そして、シルルが読み上げたものから興味があるものをお願いした。
店はいい匂いで充満している。口から勝手に涎が出そうになった。
「お腹空いた……」
グーと小さくお腹の音がなった時、食事が届いた。
「……お待たせしました」
その声が聞こえて、勢いよく見ると、今の私よりも少しだけ年上だと思う前髪で目が隠れた黒髪の少年が食事を届けてくれた。
私は目を見開いて少年を見ると、目が合った。しかし、すぐに逸らされた。そして、食事をテーブルの上に置くとさっさとその場から離れていった。
「シルルさん」
「どうしたの?」
運ばれてきた食事を小皿に分けようとしていた彼女に問いかけた。
「あんなに小さな子供も働くの?」
その問いに彼女は手を止めて先ほどの少年に目を向けた。
「……そうね……働くのに年齢は関係ないわ。生きていくためには子供でも働くの……」
少年のことをジッと見つめた後にそんな言葉が出てきた。だけど、彼女の表情は変化しない。そのため、何を考えているかわからない。
「……私には……子供は遊べって……」
別に彼女を責めるわけではないが、どうしても彼女の口からそんな言葉が出てきたのが嫌だったのだ。だけど、言ってから後悔した。私はまた、一言余計なことを言ってしまったのではないのかと……。
「ごっ、ごめんなさい! 別にシルルさんを責めているわけじゃないの……ごめんなさい」
段々と声が小さくなる。周りの声や音が大きいので最後の言葉は音にかき消された。
「……私のこと……嫌わ……」
「大丈夫よ。そんな事で嫌いになるわけないわ」
小皿に料理を乗せながら、彼女は優しい声で話し始めた。
「ニーナ。どんな事でも言葉に出して。私、貴方の言葉が聞きたいわ……」
「シルルさん……」
「それに、私の言葉も悪かったわ。確かに、子供は遊んで色んなことを学んで言って欲しい……だけど……」
シルルはもう一度、少年に視線を向けた。同じように私も彼に視線を向ける。痩せ細った身体にあちこち料理を運びながら忙しなく動き回る彼の姿に小さく息を呑んだ。
「私にはどうする事もできないの」
彼女の言う通りだ。子供一人育てるだけでも大変なのに、全ての子供の自由を確保するために動くことなど難しい。頭ではわかっているのだ。
「そうだよね……」
私は彼から視線を逸らして、料理に手をつけた。
「んっ! 美味しい」
そして、話を変えるかのように料理を褒めた。すると、彼女も料理を食べ始めた。
「確かに……美味しいわね」
全てを食べ終える頃にはお腹いっぱいになり、眠気が襲ってきていた。
「そろそろ……お店を出ましょうか」
その言葉に頷いた時だった。大きな怒鳴り声が響いたのは。
「おいっ! クソガキ!」
その声に驚いて目が覚めた。思わず、シルルの服を掴むと彼女は私を抱き上げた。
「大丈夫よ」
そして、私の背中をポンポンと優しく叩いた。それにより、落ち着いた私は声がした方に視線を向けると、そこには先ほどの少年とその彼の腕を掴んだ顔を赤くして怒っているおじさんがいた。服装や剣を見て、彼は冒険者のようだ。




