ヴィルグとニーナ②
足元をちょこちょこと側について歩くニーナにヴィルグは頬を緩めた。
「船での生活はどうだ?」
彼の問い掛けに私はどう答えるか悩んだ。慣れない事も多いが、興味深い事の方が多い。それを彼にどう伝えればいいのだろうか?
「……楽しいなら一回鳴いてくれ」
その言葉で上を見上げると、優しくこちらを見ていた。彼とは気まずいと考えていたが、今は穏やかな時間が流れている。その事に嬉しくなった。そのため、彼の耳にも届くように大きな声で鳴いた。
「そうか……それなら、良かった」
ヴィルグさんの手を振り払ってしまった事を謝りたくなった。あの時は大きな声と手に驚いてしまっただけなんだと。だけど、今の姿ではその言葉を彼に伝える事はできない。それが歯痒くなってしまった。
「どうした?」
急に立ち止まった私を不思議に思ったヴィルグは優しく問いかけてきた。それも、私と視線を合わせるためにしゃがみ込んでだ。
「大丈夫か? 船に酔ったか?」
彼はそう言って、私の頭に向かってぎこちなく手を伸ばしてきた。だが、触れる前に彼の動きは止まった。きっと、私を怖がらせてしまうと思ったのだろう。
彼は優しい人だ。その人の手を怖がるのは駄目だ。私は浮いている彼の手に自分の頭をぶつけた。
「えっ?」
そして、彼の足元に近づくと、そのまま身体をすり寄せた。
「ニーナ?」
私の行動にヴィルグは驚いて、言葉を失っていた。だが、わかるのは彼がその後、すぐに口角を上に上げた事だ。そして、そっと、私の頭を撫でた。
「この前は驚かせて悪かった。許してくれて……ありがとう」
それは、私の言葉だよ。そう彼に伝えたい。強くそう思った時だった。身体が変わる感覚がしたのだ。
「ヴィルグさん!!」
「ニーナ⁈ お前、人化……」
ヴィルグは私の変化に驚いていた。そんな彼の胸元に私は飛び込んだ。
「ごめんなさい。私も手を払いのけて、ごめんね……」
彼は驚きながらも飛び込んだ私を受け止めて、そのまま抱きしめた。
「別に大丈夫だ。ニーナが気にするな」
「ヴィルグさん」
ヴィルグと目を合わせた。すると、優しく微笑んでくれた。
「ニーナ。凄いな……自分一人で人化できたな」
彼の大きな手で私の頭をぐしゃぐしゃと撫でてくれた。それが嬉しくて、自然と笑顔になった。
そんな二人のやり取りをまたしても船員達は見ていた。
「リーダーだけ、羨ましい」
「俺達も仲良くなりたい……」
「お菓子あげようかな……」
彼らはヴィルグの事を羨ましそうに見ていた。そして、その日から船員達のポケットにはお菓子が入っているようになった。
ヴィルグと手を繋いで戻ると、ジンは驚いていたが、私達の様子を見て嬉しそうに笑った。
「ニーナちゃん。良かったね〜」
そして、ジンの大きなふわふわな手で頭を撫でてくれる。
「ふっ、ふわふわだ……」
私はその手の感触に頬を緩めた。
「じゃあ、今日はお祝いだね」
ジンの言葉に私は驚いた。ただ、一人で獣化から人化できただけだ。そのため、勢いよく首を横に振る。
「だっ、大丈夫だよ!」
だけど、そんな私にヴィルグは言った。
「別にお祝いと言っているが、ジンは皆んなで騒ぎたいだけだ」
「えへへへ……バレたか〜」
ゆっくりな話し方の彼は片目を瞑って、お茶目に笑った。
「だから、ニーナは気にせずにお祝いされときな」
ヴィルグはそう言って笑うと、私の頭をもう一度、撫でた。
そして、その日の夜はまた船の中で盛り上がった。だが、久しぶりに見かけたミクリは顔を青ざめたまま、シルルに向かってお酒を注いでいた。
「ルイス……何があったの?」
「……反省したんだろ?」
「そうなのかな……」
「だって、お前にも謝っていただろ?」
確かに、彼女はヴィルグの仕事部屋にいきなりやって来ると、勢いよく私に頭を下げた。
「この前は驚かせて、すまなかった!!」
その勢いに驚いた私はヴィルグの後ろに素早く隠れた。その様子に彼は嬉しそうにしていた事に私は気づかなかった。ただ、サキだけはそれに気づいて笑っていた。




