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シルルとミクリ

 一方、その頃のシルル達はミクリの部屋へと向かっていた。


「シルル姉さんとミクリは初対面だね」


 楽しそうなサキの言葉にルイスは顔を顰めた。そんな彼らにシルルは何も言わず、ただ部屋に向かって歩いていた。そして、部屋の前に到着した時である。


「脳に酒が足りねーー!!」


 そんな言葉が部屋の外まで聞こえていた。その事にサキは苦笑して、冷ややかな表情のシルルと顰めた顔のままのルイスに視線を向けた。


「ほら? 彼女は……性格がアレだけど、腕は確かだから! ね? 信じて?」


 そんなサキの言葉虚しく、扉が勢いよく開いた。そして、現れたのは片手にペンチを持ったミクリだった。


「んん? サキ? それに……黒いガキと……」


 ミクリの視線がシルルに向かった。その瞬間に彼女は息を呑んだ。


「とんでもねえ美女が現れた!!」


 彼女は真っ直ぐにシルルの目の前まで来ると、上から下までを見て頷いた。


「ふむふむ……身体も鍛えられているな。まあ……私ほどではない……が!」


 突然の不躾な視線に気分を害したシルルは目の前に現れたミクリの頭を鷲掴みにした。


「シルル姉さん⁈」

「シルル! もっとやれ!」


 サキは驚いて叫び、ルイスは声援を送った。両者は異なる反応を示した。そして、頭を掴まれた彼女はというと、勿論、顔を顰めた。


「テメェ。急に人の頭掴むとかどうかしてんじゃねえの?」


 シルルは氷のような冷ややかな視線を浴びせたが、彼女はその視線を物ともせずに睨み返した。


「……視線が不愉快よ。それとも……この船では貴方の行いが普通なの?」


 シルルの絶対零度を思わせる声にサキは慌てた。


「シルル姉さん! 落ち着いて! ほら、この子……ミクリは船か機械か酒のことしか頭の中にはないから……軽いんだ。頭が」


「要するに馬鹿だから、許してくれって?」


 サキの言葉に冷ややかな声で言葉を付け足したルイスにミクリの視線は二人に向いた。


「ああん⁈ 誰が、馬鹿だって? このクソガキ!」


 だが、ルイスを睨んだ事によってさらに頭を掴む手に力を入れた。


「いてっ! いてててて! この馬鹿力が女! 顔がちょっと、いいからって! 良いか? 良い女の条件っていうのはだな……」


 涙目なミクリにもう一度、冷めた視線を向けた後に手を離したシルルは一言だけ放った。


「それで?」


 地を這うような低い声に笑っていない瞳で微笑んだ彼女にミクリは悲鳴をあげそうになった。


「…………っ⁈」


 そして、そのまま彼女は腰が抜けたようでその場で座り込んでしまった。


「うわぁ……」


 サキはシルルの様子に言葉を失うほど青ざめた。


「ねえ……それで? 良い女の条件は何? 不躾な視線を浴びせること?」


「へっ?」


「それとも……子供を怖がらせる事?」


 その言葉を聞いた瞬間にサキは小さなコダヌキを思い出した。獣化から中々戻らない少女はあの日から大きな声や他人の怒鳴り声を異様に怖がっていた。常にシルルかルイスにベッタリと側に引っ付いていた。


「ねえ……シルル姉さんってさ……もしかして……」


「ずっと、怒ってたんだよ」


 シルルは彼女の子供達に対する対応に怒っていた。確かに、勝手に仕事部屋に入ったのは、ニーナとルイスが悪い。だが、注意の方法をミクリは間違えた。


「そうみたいだね……」


 サキはミクリを哀れんだが、考えてみると、全ては彼女自身が起こした事だ。そのため、シルルの好きにさせる事にした。


「ミクリー! ごめんね! 俺は君に助け船を出せないかも」


「はっ? はあ⁈ この変な女をはっ、早く止めろよ!」


 だが、サキは彼女に笑みを返すだけだった。そして、シルルの説教が始まった。その間、ミクリは正座をさせられて、足が痺れるほど説教は続いた。その様子を見た船員達はシルルだけは怒らせないようにしようと心に決めた。

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