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お出かけ

 見渡す限り、人、人、人だ。ファンジーゲームの画面を見ているようだ。改めて見ると、本当に異世界なのだと実感する。


「前を見ないと、こけるわよ」


 上から声が降ってくる。シルルがよそ見をしながら歩いている私を心配して声をかけてきたのだ。それに、頷いて返すが、やっぱり色んなところに目がいってしまう。


「ねえ……」


 彼女の手を引っ張って、目についたモノを聞こうとした。


「どうしたの?」


 彼女が足を止めてくれたが、首を横に振った。そして、小さな声で「何でもない」と呟いた。シルルは買い物で忙しいのにあれこれと聞いたら、次からは連れてきてくれないかもしれないと不安になったのだ。


「…………」


 だが、彼女は顔を俯かせた私の手を引いて、近くの店に寄った。そして、何かを買うと私の小さな手にそれを持たせた。


「ニーナ。気になる事があったら、遠慮なく言っても大丈夫よ。欲しいものでも何でも……買えない物もあるけど」


 手に待たされたのは動物の形の飴だった。


「……ありがとう」


 口に入れると甘い味が広がった。そして、チラッと彼女を見て、先ほど見つけたものについて尋ねた。


「あの石って何?」


「石?」


「赤いのと青っぽい石」


 そして、それが置かれている場所を指差した。すると、すぐに何かわかった彼女は私の視線に合わせてしゃがみ込むと、手を繋いでいない方の手で近くに落ちてあった石を拾ってそれをギュッと強く握り締めた。すると、小さな光が手の中から溢れた。


「えっ?」


 舐めていた飴を思わず落としそうになった。


「あれは、魔法石よ」


 そういうと、彼女は手をゆっくりと開いたすると、手のひらの上には水色の小さな丸い石があった。


「石に魔力を込めると魔法石ができるの」


「…………」


 私はそれを目を見開いてジッと見つめてしまった。


「すっ、すごい……」


 やっと出た言葉がそれだった。すると、今度は彼女が軽く目を見開いた。そして、その魔法石を私の着ている服のポケットに入れた。


「あげる」


「あっ、ありがとう!」


 ポケットに入れたのは私の手が塞がっていたからだろう。それにしても魔法石……すごく興味深い。

 もう一度、飴を口に入れた。


「行きましょう」


 その後は、家に必要な食材を買うために様々な店を回った。見た事がない食材や果物が多くあり、目移りが酷かった。だが、シルルは呆れる事なく説明してくれる。それを見た店の店員も私に向かって優しく笑うと、試食をさせてくれた。美味しい物もあったが、酸っぱい物や辛い物もあった。


 楽しい買い物だった。それが顔に出ていたのか、上から声が降ってきた。


「楽しかったようね」


 その言葉に大きく頷くと、小さな笑い声が聞こえてきた。上に視線を向けると、普段表示が乏しいシルルが嬉しそうに笑っていたのだ。私は目を見開いてしまった。だけど、彼女が視線を下に向けた瞬間に慌てて顔を逸らした。


「どうしたの? お腹空いた?」


 その言葉に首を何度も縦に振った。すると、シルルは私の手を引いて食堂に入っていった。その中は冒険者のような人や街の住民など様々な人がお酒を飲んだり、大きなお肉にかぶり付いたりしている。まるで、漫画の世界に飛ばん込んだような店に目を瞬かせた。


「大きな……剣だ」


 私の視線は冒険者のような人たちに釘付けだった。すると、その視線に気づいた彼らは私達に近づいてきた。


「どうしたー? ちびっ子はこの剣が気になるのかー?」


 立てかけてあった大きな剣を持ち、私に視線を合わせるようにしゃがみ込んで話す青年に驚いてシルルの後ろに隠れた。すると、彼の仲間らしき女性と大柄な男性がその青年に向かって声をかけた。


「こらっ! 怖がらせるんじゃないわよ!」


 チラッとシルル越しから彼女を見ると、肩まである髪をサイドに編み込み、小さな顔に大きな瞳、それに出る所はしっかりと出ている綺麗な人だった。


 そして、彼女もしゃがみ込むと「ごめんねー」と申し訳なさそうに謝ってきた。それに、私が首を横に振り、小さく「大丈夫」と答えると、彼女は涙目になった。


「やさしー。それに、声も可愛いー」


「わかる! 小さくて可愛い!」


 青年と女性は顔を見合わせて、私に向かって「可愛い、可愛い」と連呼する。恥ずかしくて、シルルの服を強く握った。


「「ヒッ!」」


 すると、近くから冷たい空気が流れてきた。その根源を見ると、シルルだった。女性と青年は驚いて後ろに一歩下がると、大柄な男性が二人の頭を鷲掴みにした。


「二人が騒がしくしてすまない。ランクが上がってテンションが上がっているんだ」


「「ラルフ!!」」


 女性と青年は大柄な男の名前を叫んだ。私はシルル越しからラルフと呼ばれた男を見ると、彼も二人同様にしゃがみ込んだ。そして、その体格に見合わずにポケットから飴を取り出した。


「小さなお嬢さん。驚かせてすまない」


 声も優しく、私は差し出されたそれをゆっくりと受け取り、小さな声でつぶやいた。


「ありがとう……」


「どういたしまして」


 すると、ラルフはその顔を優しく緩めた。体格が良くて怖かったが、彼は怖くないのかもしれない。


「貴方もうちの二人がすまない」


 謝罪したラルフにシルルは首を横に振った。


「ニーナが怖がってないから大丈夫よ。だけど、急に近づくのは……ねっ?」


 その言葉に三人は急いで首を縦に振った。そして、青年と彼女は名残惜しそうに私達に手を振りながら別れた。

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