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頭が痛くなる話

 ヴィルグは自室で資料を見ていた。これから立ち寄る国の確認だ。その国に寄る理由はルイスの羽が生え変わるまでの補助道具を作る材料の一つを手に入れるためだ。元ある材料では作れないのかと相談したが、動かす動力に使う材料が一部足りないらしい。そのため、航路やその国についての資料に軽く目を通していたが、その部屋の扉が勢いよく開いた。


「リッ、リーダー!!」


 慌てた様子の男は船員の一人だ。走ってきたのか、額に軽く汗をかいている。


「ミッ、ミクリがやらかしました!!」


 ミクリというのは、この船の船大工だ。そして、彼女の腕は女性でありながら、かなりの技術力を持っている。それは、特に義手や義足作りに優れているのだ。そのため、今回、ルイスの補助道具を作るのを彼女に頼んだ。だが、残念な事に彼女は性格がアレだったのだ。酒癖が悪く、大雑把なのだ。それに、口もかなり悪い。その彼女がやらかした。いつもの事なのに、何故かヴィルグは胸騒ぎがしたのだ。


「あいつが……何をしたんだ?」


 痛む頭を抑えながら、問いかけた。すると、船員の男は言いにくそうに言葉に出した。


「それが……獣人の子供を虐め……その……小さなコダヌキさんを泣かしました……」


 その話を聞いたヴィルグは頭がさらに痛くなった。獣人の子供……それが誰なのかすぐに検討がついている。しかし……コダヌキの方を泣かすとは……。ヴィルグは綺麗なエルフが冷気を纏って現れる姿をすぐに思い浮かべた。


「…………すぐに案内しろ」


「はい!」


 そして、ヴィルグ達はミクリの仕事部屋へと急いだ。


 一方、その頃のシルルは医務室でサキと話していた。


「魔力を込めたのは十中八九、奴隷商だね」


「……ええ」


「獣化した方が捕まえやすい上に……調教をしやすいからだろうね」


 その言葉にシルルはルイスに施された奴隷紋を思い出し、魔力の塊を砕きそうになった。だが、それに軽くヒビが入った所で割れることを恐れたアカツキがその場に飛び出して、魔力の塊を奪い取った事で割れずにすんだ。


「なっ、何をしとんねん! 割れるところやったやろ⁈」


 彼はカワウソ姿のまま彼らの前に現れて、その魔力の塊を奪い取った。


「僕の研究資料や!」


 だが、すぐにシルルの存在を思い出し、慌ててベッドの下へと戻って行った。勿論、魔力の塊を両手で持ってだ。


「アカツキー」


 そんな彼を無理やり引っ張り抜いたサキは彼をそのまま持ち上げた。そして、彼が両手で大事そうに持っている魔力の塊を指さして話し始めた。


「その塊の魔力の持ち主はきっと、奴隷商の元にいる魔術師だよ」


「はっ、はあ?」


 意味がわからないと顔を顰めた。そして、目の前にいるシルルを見て顔面蒼白になった。


「あれ? アカツキ、大丈夫?」


「……だっ、大丈夫なわけあるかい! はっ、はよ! 離せや!」


 だが、ジタバタと暴れるアカツキを物ともしないサキは話を続けた。


「俺さ……奴隷商人って、大嫌いなんだよね」


 顔はにっこりと笑っているのに、声は酷く冷たかった。そんな彼にアカツキは暴れるのをやめて言葉を返した。


「…………僕も……大嫌いや……あいつらは獣人を人と見ない……話せる獣ぐらいに考えとる奴らや……」


「うん、うん。アカツキなら、そういうよね。だからね……アカツキ」


 サキは笑みをさらに深くした。その事にアカツキは嫌な予感がした。


「この魔力の塊を使って、魔術師の魔力を無効にする薬って作れない?」


「無理や! そんな夢見たいな薬なんて、あるわけないやろ!!」


「……絶対に?」


「…………無理や」


「その間は何なの?」


「それよりも、僕の棚から薬を持っていったんはお前やろ! 船から無くなってんねん! リーダーは触ってない言うたんやから、お前しかおらへん!」


 大きな声で叫んだアカツキの目は吊り上がっていた。


「ああ……ごめんね。借りちゃった」


「借りちゃったって……あの薬、何に使ったん?」


「ああ……あれね……」


 アカツキの耳元で話そうとしたが、やめた。そして、ジッとこちらを見ているシルルを手招きした。


「シルル姉さんにも教えてあげるよ!」


 そこまで興味がなかった彼女だが、手招きする彼に行かない方が面倒くさいと考えた彼女は立ち上がった。だが、その事に慌て始めたのはアカツキだった。


「わっ、わわ! ちっ、近い!! 僕の身体を離せや!」


「でも、薬を何に使ったのか知りたくないの?」


「後で教えてくれたら、ええねん!」


 そんな二人のやり取りにシルルはため息を吐いた。


「……早く教えてくれないかしら? ニーナ達が待っているの……」


 その声は冷たく、その場の温度が一度下がった気がした。アカツキはピタッと動きを止めると、青かった顔がさらに青くなった。


「シルル姉さん、ごめんね。実はね……」


 そして、サキの話にシルルは見えないように口角を上にあげた。それは、アカツキもだった。

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