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探検しよう②

 私とルイスは船内を歩き回った。子供の身体だと、どれも大きく見えて面白い。


「ニーナ! 次はあっちを見に行こう!」


 誘った時はそこまで乗り気ではなかったルイスが今では表情を明るくし、私の手を引っ張って歩いている。それも、軽く早足でだ。


「もっと、ゆっくり歩いて……よ……?」


「どうした?」


「ううん……何でもない」


 しかし、これだけ船内の中を歩き回っているのにすれ違う人が少ない。初めに見た時はもっと人がいた気がしたのだが……。その理由は私が気づけないだけだった。何故なら、船内に乗っている人達は私達に怖がられないように隠れていたからだ。


「小さい……」

「俺の顔で怖がらせたら……」

「可哀想だよな……」


 彼らは物陰からそっと見守るように私達を見ていたのだ。そんな彼らの気遣いに気づかないのは仕方がない。振り返るたびに彼らは息を顰め、気配を消していたのだから。


「この部屋を見てみるか?」


 船内の奥にある部屋だ。そっと、ルイスが扉の取っ手を回した。鍵はかかっていなかったため、ギィっと音をたてて扉を開けた。


「暗いな……」


「明かりとかないのかな?」


「ないな……」


「どうする?」


 私の言葉にルイスは一瞬だけ考えた後に私の手を引いて中に入った。


「もしかしたら、中にお宝があるかもしれないだろ?」


「…………うん」


 私はあまり乗り気になれなかったが、ルイスが楽しそうなので、後に続いた。

 だが、すぐに頭に何か当たった。


「いたっ!」


 ルイスも同じように当たったようで繋いでいない方の手で額に触れた。そのため、目を凝らして何があるのか確認した。


「ルッ、ルイス……今すぐに部屋から出よう」


 私は目の前にある物に息を呑んだ。そして、すぐに彼の手を引いて部屋の外へと促そうとした。


「どうしたんだよ?」


「ルッ、ルイス! わっ、私達がぶつかったの……骨だよ! それも、動物のようなもの!」


 そう、私達が当たったのは骨だったのだ。よく見ると、この部屋は骨がたくさん置いてある。


「はっ、はやく、部屋から出ようよ」


「わっ、わかった」


 だが、私が振り返った瞬間にまたぶつかった。しかし、先ほどのような硬さのものではない。寧ろ、人間だ。この部屋を訪れる人……そう考えた瞬間に私は顔を青ざめた。


「おい、おい、おい……何で、この部屋にガキがいんだよ」


 その声色は不機嫌だが、女性の声だった。


「しかも、二人も……チッ。ガキはすぐに泣くから嫌いなんだよ」


 私は無意識にルイスの手を強く握っていた。


「ニーナ」


 彼は立ち位置を変え、私を後ろに隠すように立った。

 そんな私達に視線を向けた彼女の手にはランプがあり、その明かりにより、表情が見えた。不機嫌を隠そうとしない顔の額には皺が寄っている。だが、綺麗な顔だ。


「おい、ガキども」


「……何だよ?」


 ルイスが警戒しながら、彼女を睨んだ。だが、そんな視線など物ともしない彼女はジッと私達を見据えた。


「いい女の条件って何だと思う?」


 突然の問いに戸惑いを隠せない私達は顔を見合わせた。


「坊主は何だと思う?」


「…………優しい」


 ルイスは考え込んで小さく呟いた。だが、それを聞いた彼女は鼻で笑った。その事に彼は「はっ?」と顔を軽く顰めたが、彼女は無視した。


「次、少女はどうだ? いい女はどんな女だと思う?」


「…………気遣いができる?」


「ちげえ。まあ、ガキだしな。わからないのも仕方がない」


 彼女は鼻で笑うと、目線を合わせるようにしゃがみこんだ。


「お前は自分がいい女だと言いたいのかよ」


 目の前の彼女を睨むように言い放ったルイス。私はその言葉で彼女が怒るのではないかと焦り、彼の背中のシャツを強く掴んだ。


「ルッ、ルイス⁈」


 だが、私の心配など意味がなかった。彼女はニッと口角を上にあげたからだ。


「当たり前だろ? いい女の条件は自分の意思をしっかりと持っている事だからな。つまりはこの私だ!」


「「…………」」


 私とルイスは顔を見合わせた。そして、彼女をチラッとだけ見た後にそのまま横を通り過ぎようとしたが、腕を彼女に掴まれた。


「おい、待て。どこに行くんだ? 私を無視するつもりか?」


「……変な奴と危ない奴には近づくなって言われているからな」


 ルイスが私を掴んでいる彼女の手を叩いた。


「……離せ」


 だが、彼女は離さない。それどころか、にっこりと笑った。


「おいおい……いいのか、お前ら……この部屋は私の仕事場だぞ? その意味がわかるか?」


 その言葉にまたしても、私とルイスは顔を見合わせた。


「酒臭い奴の言うことは聞かない」


 ルイスの言う通りだ。彼女からはお酒の匂いがする。


「うぐっ……今はそんなことは良いだろうよ。そっ、それよりも、この部屋の骨を見て何も思わないのかよ?」


「「…………」」


「私は動物を標本にするのは得意だぞ。特に……鳥とタヌキだな」


 彼女は私達を見る目を鋭くした。その視線に心臓が早くなる。


「そうだな……まずは、小さな鳥の坊主からだな」


 だっ、だめ……だめなのに、声が出ない。わっ、私が探検になんて誘わなければ良かった。


「さあ……どうしてやろうかな……」


 私の腕から手を離した彼女はルイスに手を伸ばそうとした。


「だっ、だめ!!」


 私はその手に力一杯、噛みついた。


「いてぇ!」


 彼女が噛まれた手に意識を向けているうちに部屋から出ようと身体の向きを変えたが、彼女の動きの方が早かった。私の頭を鷲掴んだのだ。


「よくもやってくれたな……コダヌキ……」


「うっ……」


「あん?」


「うわあああああん!!」


 私は彼女の鋭い視線と怒っているとわかる低い声に驚き、泣いてしまった。そして、それと同時に身体が獣化したのだ。


「ニーナ!!」


 そんな私を急いでルイスが抱き上げた。そして、彼女を睨みつけた。だが、その彼女は先程の勢いは失っていた。それどころか、顔を真っ青に青ざめていたのだ。

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