君は……クマ?
私達の目の前に現れたのは茶色いふわふわの毛を持ったクマさんだった。ルイスは逆立った毛をさらに立てた。私は目を見開いて驚き、固まってしまった。
「あれ……? 小さな子達が獣化していたから……僕も獣化したんだけど……大きすぎて驚かせたかな?」
見かけによらず、ゆったりとした話し方でクマは近くに寄って来た。そんな彼から距離を取るようにシルルが一歩後ろに下がると、彼は目に見えて落ち込んだ。
「やっぱり……僕は大きいから怖いよね……」
落ち込んだ彼のつぶらな瞳は悲しげだ。それに、獣化と言った彼はもしかして、獣人なのかもしれない。
「ジン!」
そんな彼にサキは勢いよく抱きついた。
「久しぶり。身体はもう、大丈夫?」
「サキ〜。大丈夫だよ。心配させて、ごめんね」
彼の毛に埋まる先を見て、私も彼の毛に触れてみたいと思ってしまった。それが視線に出ていたのか、クマさんがこちらを見た。
「リーダーが言っていた獣人の子供達だね」
「そうだよ! 小さなコダヌキがニーナちゃんで、小ガラスがルイルイ!」
「ルイス!」
ルイルイと呼ばれたルイスが勢いよく反応して叫んだ。
「二人とも可愛いね」
大きな手で手を振ってくれたので、私も同じように小さな手で振り返した。
「ジン! 貴方だけずるいわ!」
サキとジンの会話に入ったアイミー。騒がしい三人である。そんな彼らの様子を見守っていたヴィルグだが、騒がしすぎたのか、三人の元に近づき、頭を順番に叩いていった。
「「「リーダー」」」
そんな三人の声がはもった。仲がいいみたいだ。
「自己紹介をするって言っているのに、何故、お前らはそんなに騒がしいんだよ」
「「「仲がいいから?」」」
「…………そうだな。仲がいいだけなんだよな」
ヴィルグは深いため息を吐いた後にこちらを振り返った。
「騒がしくて悪いな」
その言葉に私は首を横に振ったが、シルルとルイスは頷いていた。
「ははっ。正直だな。しかし、チビが一番大人だとは……」
ヴィルグは近づくと、私の頭を撫でた。
わわっ! こんなに上機嫌なヴィルグを初めてみた。もしかしたら、これが素なのかもしれない。
「さて……こっちのワンピース野郎がアイミー」
「ワンピース野郎って言わないで! 可愛い物に目がない、身体はイケメン! 心は乙女! アイミーよ! よろしくね」
キランッと効果音が出るようなポーズをしたアイミーに私は音が鳴らない拍手を送った。
「僕はジンだよ。見ての通り、クマの獣人なんだ」
つぶらな瞳に大きな身体。だけど、ゆったりと穏やかな声は聞いていて心地が良い。そのため、彼に向かって手を振ると、彼も両手で振り返してくれた。
「じゃあ、次は俺だね」
「お前の事は知っているだろうが」
サキも続けて自己紹介をしようとするのをヴィルグが止めた。
「全員は一気に紹介できないからな。追々、紹介しよう。それよりも、部屋の案内だ」
そう言うと、私達がこれから暮らす部屋を案内された。こじんまりとした部屋だが、綺麗に掃除されていて清潔感があった。だが、ここに来るまでの間、視線がすごかった。シルルが綺麗すぎるのもある。そのため、「エルフだ……」「初めて見た」「綺麗……」などの声が耳に届いていた。
「落ち着いたらでいいが、チビどもを一度、診させてもらってもいいか?」
部屋の扉から顔を出したヴィルグの言葉にシルルは頷いた。
「ええ……。よろしくお願いするわ」
そして、その言葉通り、私達は船の中にある医務室に連れてこられたのだが……。
誰もいなかった。いや、いた形跡はあるのだが、机の物がひっくり返っている。まるで、慌てて部屋を出たように感じる。
「アカツキ」
ヴィルグが名前を呼んでも誰も出てこない。そのため、彼は私達の方に振り返った。
「すまないが……チビ共だけにしてくれないか?」
「断るわ」
即答したシルルに彼は苦笑した。
「奴は女性が苦手なんだ。あんたがいると出てこない」
「…………私はまだ、この船の人を信じていないわ。二人を預けて何かあったらと思うと……」
「はあーー。だよな……。わかった。少し、待ってろ」
そう言うと、私達を残してヴィルグが部屋を出た。そして、すぐにサキを連れて戻って来た。
「部屋の中にサキを置いておく。勿論、俺もだ。で、あんたは扉の前で待ってろ。話し相手としてアイミーを置いておく」
すると、扉の側から二人が顔を出した。
クマさんは? その言葉をルイスが訳した。
「クマは? クマはいないのか? って……ニーナが」
その言葉を聞いたサキが「ええ⁈ 俺じゃ駄目?」って喚いた。そのため、彼を大人しくさせるために私は彼に抱っこされた。
「ニーナちゃんは俺がいいよね? ね?」
「嫌そうだぞ」
「そんな事ないもんね。ルイルイも俺の肩に乗りなよ」
だが、その言葉を無視してルイスはテーブルに身体を乗せた。
「……絶対に二人に変な事はしないで」
シルルは最後まで念押ししから、部屋を出た。
「アカツキ。いいから、出てこい」
その一声で天井から人が降りて来た。目の前に現れたのは薄い色素の髪に白衣を纏った糸目の男性だった。
「はあ……怖かったわ……」
その呟きと共に鼻に香ったのは変な香りだった。そのため、小さな手で鼻を押さえた。
「アカツキ」
「あっ……リーダーとサキやん。お待たせしましたわー。で、目の前の獣人の子供達ですよね?」
そして、近づいて来た彼から香る匂いから離れたくて、サキの腕から逃れ、ルイスの側に駆け寄った。
「ええ……嘘やん。僕、嫌われてるん? あっ、糸目? 糸目やから、あかんの?」
アカツキは伸ばした手を彷徨わせて、項垂れた。そんな彼の様子にサキは笑い、ヴィルグはまた、頭を抱えていた。
この船は個性的な人しか、乗っていないのだろうか? そんな疑問が浮かんでしまった。




